アタリマエを打破する組織づくりを考える/ソニーTS事業部門 斉藤 博さんインタビュー

Life Space UXが生んだポータブル超短焦点プロジェクター『LSPX-P1』
Life Space UXが生んだポータブル超短焦点プロジェクター『LSPX-P1』

アタリマエを打破する組織づくりを考える/ソニーTS事業部門 斉藤 博さんインタビュー

イノベーションを生み出す組織は、どのようにして作られるのでしょうか。

今回は新たな体験や商品を生み出すためにソニーで2013年に発足したTS事業部門 副部門長の斉藤博さんのインタビューをお届けします。今まで積み上げてきた自分たちのアタリマエを崩し、新しいモノを生み出す組織と人材に必要なものとは。ソニーの事例を元に考えたいと思います。

独立性が最大の強み

ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、TS事業部門とはどんな立ち位置の組織なのか教えていただけますか。

TS事業部門は、今までにない新しいモノや体験を生み出すことを目的として、2013年に設置された部署です(当時はTS事業準備室として発足)。現在は、“空間を変えることで、暮らしに新しい体験をつくりだす”というコンセプトのもと「Life Space UX(ライフスペースユーエックス)」シリーズの商品群を展開しています。電球とスピーカーが合わさった「LED電球スピーカー」、わずかなスペースでも壁やテーブルに映像を映せる「ポータブル超短焦点プロジェクター」、有機ガラス管の振動で音を出す「グラスサウンドスピーカー」などの商品を販売しています。

ー新しい製品を生み出すという点では、各部署内にある新商品開発チームや、新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program 通称:SAP)と重なる部分もあるかと思いますが、どのような違いがあるのでしょうか。

TS事業部門の最大の特長は、独立性の高さによる意思決定の早さにあると思います。もともと社長直下のプロジェクトとして発足したのもその点を担保する目的がありました。副部門長である私と社長の間に役員が一人しかいないので、とても早い意思決定ができます。

一般的には、企業の中で新しい商品を生み出すには様々な視点での議論や承認が必要になります。一生懸命企画を作っても、それらの段階で前に進まない事も多々あります。その点、この事業部では、やりたいことを「ダメ」と言われることがほとんどないのが特徴的だと思います。

担当役員とも意思疎通ができているので、実質部署内で意思決定できます。階層を意識することなくチャレンジできる環境は整っていますね。

また、各事業部の中での新製品開発は、それまでの製品の文脈を考えて新しいモノを生み出す必要があります。それに比べて、私たちの事業部では既存製品がそもそも存在しないのでその必要がない。今までにない製品を求められているので、当然と言えば当然です。

当社の新規事業創出プログラムのSAPもそのような点は似ていますが我々のチームの大きな違いは、同じメンバーでチャレンジを続けられることです。SAPの場合、アイディア毎にチームを構成するのでそのアイディアや事業案がうまくいかなければチームも解散です。一方で、我々は、事業部として同じメンバーで何度も挑戦することができます。長期的に動けるので、各製品を作る中で得た知見を次の製品づくりにいかせます。

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ミッションは新しいモノや体験を生み出すこと

ー意思決定の早さと、同じメンバーで何度もトライできるのが特徴なんですね。かなり独立した組織だと思いますが、どのような背景から立ち上がったのでしょうか。

TS事業準備室が作られた2013年当時、新しいことにもっと積極的にチャレンジするべきだという機運が社内で高まっていたんです。元々、「遊び心」はソニーの大きな特徴で、社員にも新製品や新しい体験を生み出したいという気持ちがありました。しかし、自由な発想で新たな製品を作る事は容易ではありません。その結果、新しいモノが生まれにくい状況だったのかもしれません。

周りの社員から「新しいことをやりたい」という声や、実際のアイディアを聞く機会もありました。その状況に対して、個人的には危機感と会社に対する情熱みたいな気持ちが入り混じっていました。

その状況を変えるために、社長の平井が中心となり作ったのがTS事業準備室です。面白いモノを出そうというソニーのマインドを体現する部署として立ち上がったわけです。

立ち上がった当初、「新しくて面白いモノを生み出すこと」以外は何も決まっていませんでした。それまでのソニーにない製品、つまり既存の製品カテゴリに入らない製品ならなんでもいい。社長からも、会う度に「とにかく新しい製品を出せ」とばかり言われました。逆に、売上の数字に関して何か言われた記憶は一切ありません。新製品を生み出し、ソニーの面白いモノを生み出すマインドに火をつけ、それをユーザーに提供する事が我々の使命だったのです。

ー短期的な売上や成果ではなく、とにかく新しいモノを生み出すという行動が求められた組織なのですね。ある種、これまでの事業とは全く違った働き方をすることになると思いますが、組織を担うメンバーに共通した素養はあるのでしょうか?

最初に集められたのは、私含めて数名のメンバーでした。商品企画をしていた私の他には、デザイナーやエンジニアなど異なるバックグラウンドの仲間たち。全員が新しいモノを生み出したいという熱意がありましたが、それぞれのメンバーが、新しいモノを生み出すための自分なりの考え方を持っていたので、共通点があったのかどうかは分かりません。あえて挙げるとすれば、全員が今までの物の見方を疑ったり常識を覆すことによって、新しい価値が生まれると考えるタイプだったことです。

初期のアイディアを出すフェイズにおいては、やはりそういうメンバーが必要だったのかもしれません。ただ、それだけでなく、新しいモノを生み出すために欠かせないのは「人を巻き込む力」だとも感じています。

新規事業の立ち上げは、企画、開発、販売の事業フェイズが既存事業とは異なるスピード感や進め方で進行していくので、いつどんな人が必要になるかが分かりません。必要になるか分からない人材を部署内で確保しておくことは難しい。そのため、事業フェイズ毎に、その時々で必要とされる力を持った人や組織を巻き込む必要があります。

また、どんな商品を作るか未知数のため、特定の専門領域の人間に偏るわけにはいけません。プロジェクトに合わせて部署外の人の力を借りるのです。特定の技術を持った人がひとり入るだけで、長い間悩んでいたことが一気に解決することもよくある話ですから、適切な時に人を惹きつけて巻き込む力が求められます。

そのために、個人的には、プロジェクトに関わってもらう可能性がある人とは定期的にコミュニケーションを取ることを心がけています。オフィシャルな社内制度を活用することに加えて、自力でアンオフィシャルなネットワークを作ることも大切です。常に、色んな方面にアンテナを張って人の動きや特性を把握し、事業フェイズに合わせて声掛けします。Life Space UXは、色んな人の技術や協力のおかげで、新しいモノを生み続けられるわけです。

ただ、誰でも来てほしいかというとそうでもなくて。やはり、新しいものを生み出す熱意があることは重要です。今の仕事に不満があって異動を希望する人は断ります。むしろ、何かを生み出したくて私が断っても何度も来る人や、自分でもその熱意を形にする努力をしているような人と一緒にチームを作りたいです。

グラスサウンドスピーカー『LSPX-S1』
Life Space UXが生んだグラスサウンドスピーカー『LSPX-S1』

その時できる最大のスピードで動く

ー個人の素養だけではなく、適切なタイミングで適切な人を巻き込める力もかなり大切なのですね。最後に、TS事業部門の今後の展望を教えてください。

まずひとつは、より多くのLife Space UX製品を生み出すことがあります。“空間を変える事で暮らしに新しい体験をつくりだす”というコンセプトから製品を出すということは、今後も続けていきます。

同時に、Life Space UXのコンセプトや概念に共感してくださる方も増やしていきたいです。

コンセプトに共感したファンやビジネスパートナーを作れたら、例えひとつの製品がうまくいかなくても、何度もトライすることができます。新しい製品を作るときにある程度のファンが見込めるので、ゼロから作るよりも、売れるかどうかの不確実性を減らすことができますから。

これからも、新しくて面白いモノを生み出していくことが、私たちに求められること。強みである意思決定の早さをもっと活かして、どんどん新製品を生み出したいです。これまでもメンバー全員が「スピード感を大切にしていこう」という意識を持ってプロジェクトを進めてきたことで、4年間に4つの新製品を生み出すことができました。この早さが私たちの強みだと思うので、思い切ってどんどんフルスイングしていきたいです。

ただし、このスピード感は、やりがいがある一方で、キツイ部分もあります。スタートとゴール地点だけ見たら、「早くていいですね」と思うかもしれませんが、実際はそれまでの道筋はぐちゃぐちゃです。新しいことをやっているので、やってみて初めて問題点が見えたり、ダメだったことが分かります。朝令暮改で、戻ることもたくさんあるので、全く前に進んでいないような感覚に陥ることばかり。トライアンドエラーを繰り返すので、中にいる人間は大変です。

普通は、製品が出るまでのプロセスは細かく決まっていますから、私も最初は慣れませんでした。それでも、やりながらこの進み方を学んできました。この苦しみを超えなければ、新しいモノは生まれません。先ほどお話したようにプロジェクトごとに新しいメンバーが加わる事が多いので、このやり方に慣れていない人もたくさんいます。プロジェクト開始時点しっかりと説明して、意識を統一することが重要ですね。

難しさはありますが、このやり方で多くの人を巻き込み、ソニーなりの新しいモノをどんどん生み出していきます。

 

斉藤 博
ソニー株式会社 事業開発プラットフォーム TS事業部門 副部門長
ソニー入社後デジタルカメラ事業やゲーム事業等多岐に渡る商品を手掛け、特にミラーレス一眼NEXシリーズやPlayStation® 4など、新規性の高い商品を立ち上げる。2013年に社長直下プロジェクトとして発足したTS事業準備室に社内起業家(イントラプレナー)として参画し、現在は組織を新たにしたTS事業部門の副部門長を務める。

 

執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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