「フィットする暮らし」を体現するのが本業。ベンチャー企業が全社員18時退社を実施する理由。_クラシコム代表青木耕平さんインタビュー

執筆者: 藤野荘子
原稿1_トップ画_re
原稿1_トップ画_re

「フィットする暮らし」を体現するのが本業。ベンチャー企業が全社員18時退社を実施する理由。_クラシコム代表青木耕平さんインタビュー

執筆者: 藤野荘子

 

私たちは何のために働くのか
より多くの人々が幸せになる社会とはどのようなものか

私、藤野荘子は企業経営者や研究者の方々にお話をお伺いし、
資本主義の中で幸せに働く方法やその可能性について、
ThinkAboutを通して発信しています。

連載の背景はこちら
“働く”について考える ~今の時代における労働の意義とは~

連載第3回は「北欧、暮らしの道具店」を運営する、株式会社クラシコム代表取締役の青木耕平さんのインタビューをお届けします。「全社員18時の定時退社」などの制度を通して、クラシコムが進みたい方向についてお話を伺いました。

青木 耕平
株式会社クラシコム代表取締役。1972年生まれ。サラリーマンとしての勤務や、共同創業者として経験を経て、2006年、クラシコムを創業。2007年より、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」の運営を開始。

フィットする暮らしを目指す

ーー本日はよろしくお願いします。クラシコムの「全社員18時の定時退社」という制度は、世間でよく話題になっています。この制度はどんな狙いで始めたのでしょうか?

制度を作った背景には、北欧企業のように短い時間で成果を出したいとか、子育てをする女性に安心して働いてほしいとか、いくつかの理由があります。中でも「自分たちの会社で大事にしている考え方を実践する」という意味合いが大きいですね。

僕たちは、企業理念というほどではないのですが、キャッチフレーズとして「フィットする暮らし、つくろう。」と掲げています。「フィットする暮らし」とは何か。端的に言えば、自分の物差しで生き方をデザインするということです。自分なりのライフスタイルを持つ人は他の人にも優しくできるもので、自分らしく暮らす人が増えて社会全体が寛容になったらいいよね、という考えがあります。

その理想を推進する一番の方法は、実践している姿を見せること。いくら綺麗事を言っても「そんなの無理でしょ」と思われがちなので、「できてますよ」という姿をみせる。それが一番影響力のある方法だと思います。だから、経営陣を含めた全従業員が「自分たちはフィットする暮らしができている」もしくは「フィットする暮らしに向かって進んでいる」姿を見せることは本業だと考えています。

本質的には、18時に帰ることよりも「仕事の時間に一定の制限を設けて、個人が使える時間の余地を持たせること」が重要です。18時に家に帰ったからといって、フィットする暮らしができるわけではありませんが、毎日23時まで働いていたら、暮らしの時間を作りようがない。それだけのことなんです。
ただ、会社としてできることは選択肢を確保することだけで、その先のライフスタイル自体を提案しようとは思っていません。「豊かな暮らし」「幸せな暮らし」ではなく、「フィットする暮らし」という言い方をしているのも、何が豊かで幸せかは言い切ることができないから。あくまで、自分らしい暮らしを選択するためのインフラを提供するという考えですね。

 

ーー18時以降の時間を自分のために使ってもらい、フィットする暮らしを体現すること自体が本業だという考えなんですね。もともと、北欧に行った時にライフスタイルに衝撃を受けたことが創業につながったと伺いましたが、何がそれほど衝撃だったのでしょうか?

一番衝撃的だったのは、国単位で自分が思い描いていたフィットする暮らしをしているように見えたことですよね。一般的には、みんながフィットする暮らしをできたらいいと思っても、世の中そんなに甘くないと言われてしまう雰囲気があるじゃないですか。僕も、北欧に行くまでは同じ様に思っていました。

ところが、北欧ではごく当たり前に、「それがあたりまえでしょ?」という感じでみんなが自分らしい暮らしを実現しているように見えたんです。もちろん目に映る個々人の事情を全て理解した上での結論じゃないのであくまでも僕の感覚値ですし、実際にはもちろん個々に難しい問題を抱えているんだと思うのですが、ただ明らかに日本では難しいと言われていたような、例えば働く時間の問題、子育てとキャリアの両立の問題などが普通のこととして解決されていたわけです。それまで無理だと言っていた人は、一体何を根拠にしていたのかと思いましたね。できるわけないと思っていたことに対して、「いやいや、できるじゃん」と気づかせてもらった。そういう衝撃です。

原稿1_文中①_re

 

働き方は一要素でしかない

 ーー全員が自分らしく暮らしていることを目の当たりにして、「できない」という価値観が真逆になったんですね。そもそも、自分らしいライフスタイルを選びたいという気持ちや、自分なりの働き方をしたいという意識は強かったのでしょうか?

意識していたわけではありませんが、サラリーマンの頃から残業した記憶がほとんどありません。毎日22時頃まで残業していた部署にマネージャーで入って、全員18時に帰れるようにしたり。

ただ、働き方を重要視していたわけではないんです。むしろ、あまり考えたことがない領域です。人は働くために生きてるわけではないので、働き方ってそこまで重要なものではないと思うんです。どちらかと言えば、「どう生きるか」というテーマが先にあって、働き方はその中の一要素でしかないと。

もちろん、働き方の選択肢が多いことは大切だと思います。幸せになるための1要素でしかなく、さらにいえば、個人的には、働き方と人の幸せは直接つながっていないのではないかと思っています。ブラック企業と一口にいっても、働き方だけでなく、業績が上がらないことや賃金が低いこと、やりがいがないことが原因かもしれません。幸せかどうかは色々なことの組み合わせで決まると思います。だから、残業が多いことが不幸だとも思いません。個人がその状況に納得できているかどうか、つまりその人の生き方に働き方がフィットしていればいいのだと思います。

 

原稿1_文中②_re

仕事は自分を豊かにするひとつのこと

 ーー働き方は幸せになるための一要素でしかないということですね。そもそも、「働く」ということ自体、人の暮らしにとってどんな意味があると思いますか?また、青木さんにとっての働く意味もお伺いできればと思います。 

仕事は生活資金を得る手段でもありますが、ある意味では「習い事」に近いような気もしています。技術の進歩で、人がしなければならない作業がどんどん減っていますよね。それでも仕事を続けるのは、茶道や華道のように、自分の人生を豊かで美しいものにするために一つの所作、生き方を学ぶ一つの機会なんじゃないかなと思うんです。

また、僕としては、働くことを通して世界に一石を投じられたらと思うんですよね。世界をどうこうしたいというほどの強い気持ちではないのですが、世の中の未来にAとBという別の道があったとき、できればBの道に進んでほしいという願望のような思いがあるんですよ。できたら自分の子どもが大きくなったときに、Bっぽい世の中になってくれるといいな、くらいの感覚です。僕の場合は、フィットする暮らしをする人を増やしたい。みんなができるようにはしてあげられないけど、自分の責任範囲で実績を見せて、「自分にもできるかも!」と思う人を増やしていきたい。

本当に極論を言えば、みんなで幸せになりたいじゃないですか。僕が一人で勝手に幸せになれるならそれでもいいんですけど、残念ながら僕はそこまで鈍感力がないんです。目の前にいる自分が関わっている人が不幸せそうで、自分だけ幸せになるのは難しい。だから、目の届く人は幸せになってほしいと思うんですよね。僕のために(笑)
会社の中だけでなくて、外にいるお客さんや取引先の人にも幸せになってもらわないと、僕が幸せになれないんですよね。そのためにどうしたらいいかをその都度判断して、結果的にみんなが幸せになればいいかなと思うんです。

あとは、僕の場合は、人とは違うやり方で追求したいという思いが強いのかもしれません。今の世の中って、ほとんどのことが成し遂げているじゃないですか。例えば、山であれば登頂されていない山はありません。普通にエベレストに登ったところで、そこまでの価値を感じられないんですよね。

そうすると、価値があるのは今までと違う方法で登ることだけ。例えば、単独無酸素で登るとか、75歳で登頂とか、難易度をあげてチャレンジすることです。そこに喜びを感じるんですよね。
なので、他の人が毎日15時間やっている仕事を5時間で終わらせる方が面白い。到達点は大体決まっていても、そこに行くまでにより難しい設定でやってみたい。それが、クラシコムで18時退社という時間的な制限をかけながら成長を目指すことにつながっているんです。

 

ーー最後に、青木さんにとっての“フィットする暮らし”を教えてください

結局、僕は全部自分で決めたいんです。どんなに恵まれていても、自分で決められないのが嫌。それだけですね。あとは本当にどうでもいいというか。自分で決めさせてくれってことだけですかね。起業したのも、自分でやったことに全部責任を持つため。それが僕には一番楽。心地いいとまではいかないですけど、自分で決めたかったので、それしかなかったという感じですね。

原稿1_文中③_re

以下藤野コメント

何から満足感を得られるかは当たり前ですが、人によって違います。友人・家族などの関係性を保持する社会関係的資源さえあれば充実感を得られる人、もう一歩踏み込んで他者からの評価である威信的資源があることで生活の充実感が得られる人。当たり前ですが、10人いれば、10通りの価値観があります。より多くの人が働き方を含め生活に納得しながら生きれる社会になって欲しいなと思いました。青木さん、ありがとうございました。

 

 

執筆者:藤野荘子
2016年にネットプロテクションズに入社。
発展途上国の開発について勉強するために立命館アジア太平洋大学に入学。
在学中に1年間バングラデシュのグラミン銀行グループでインターンシップを経験。
現地で「労働のあり方」に疑問を持ち、帰国後、労働社会学を中心に研究。
現在はビジネスとして利益を得ながら幸せに働くためにはどうすればいいか
自分の人生を通して実験中。
この執筆者の記事をもっと見る