これからの社会における会社の役割の変化。「たたら場」的な組織が求められる時代。_クラシコム代表青木耕平さんインタビュー

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これからの社会における会社の役割の変化。「たたら場」的な組織が求められる時代。_クラシコム代表青木耕平さんインタビュー

 

世界で初めての株式会社が誕生したのは1600年のこと。
それから400年余り経ち、社会の変化に伴い、会社の役割や企業と従業員の関係性も変わることを求められています。

ThinkAboutでは、これからの時代にアタリマエとなる会社像を読者のみなさんと一緒に考えたいと考えています。

思考のタネとして、「全社員18時の定時退社」など先進的な取り組みをする「北欧、暮らしの道具店」を運営する、株式会社クラシコム代表取締役の青木耕平さんの考えを伺いました。青木さんが感じる社会の変化と、理想の会社像とは。また、クラシコムで実施する取り組みとは。思考のタネを元に、読者のみなさんもぜひ自分なりの理想を考えてみてください。

 

青木 耕平
株式会社クラシコム代表取締役。1972年生まれ。サラリーマンとしての勤務や、共同創業者として経験を経て、2006年、クラシコムを創業。2007年より、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」の運営を開始。

 

会社が公共の役割も担う

ーー以前、青木さんに「これからの時代、働くことは暮らしの一要素だ」と伺いましたが、一方で、会社という存在は個人にとってどんな意味を持つと思いますか?

日本の会社は、個人の受け皿のような存在になっていくのではないかと思います。昔から、日本企業は本来は公共機関がすべき仕事も担ってきました。例えば、社内運動会。運動会って地域のお祭りの代わりなので、会社でやるものではないですよね。他にも、社員寮や保養所を作ったり、社会保険を一部負担したり、本来は税金で行うようなものの一部を代替してきました。

それが悪いとは思いません。社会の機能の一部を、社会の中の「もう一つの社会」が担うのは必然のことです。国全体が同じ価値観を持っていれば、日本全体として一つのコミュニティや仕組みがあればよいのですが、価値観が多様化してくると、一つの仕組みの中だけで生きることは難しくなります。多様な価値を受け入れる受け皿が必要なんです。

他国では、宗教や民族・部族、地域のコミュニティが受け皿として機能していますが、日本では、宗教や地域コミュニティがあまり機能していません。会社以外に「社会の中の社会」がほとんどないのです。そのため、会社を選ぶことでもう一つの社会に所属できる仕組みは、日本には合っているのではないかと思います。その上で、同じような会社がたくさんあっても選択肢は増えないので、いろんな種類の会社が存在して、働く人が好みに合わせて選べるようになると、個人がより幸せになれるのではないかと思います。

 

ーー会社には公共的な機能を担う役割もあるということですが、青木さんの中で理想のイメージはあるのでしょうか? 

僕の中では、映画『もののけ姫』に出てくる「たたら場」がある種の理想形ですね。たたら場って、室町時代末期に、武士という名の野党からの略奪に耐えかねて里山に逃げた農民たちに、製鉄の技術力を教えて、技術力と経済力を持って自治を獲得する組織です。個人の幸福と、集団の経済的な利得が密接につながっているんですよね。鉄を打ったり橋を作って輸出して儲けると、そこにいる人が幸せになるという構造。それは、会社そのものだと思うんです。

また、たたら場にいる人は、男女関係なく、体に障害がある人もみんな何らかの価値を集団に提供しています。生活の場でもあり「みんなで厳しい世の中を生き残ろうよ」といった空気があって、独裁的な組織であるのにみんな幸せです。去るものは追わずに出て行く権利があるところも会社ぽいですよね。組織が決められるのは、入れるか入れないかだけという。

 

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当たり前のことを、普通にやるだけ

ーークラシコムのオフィスにも、キッチンスペースや託児スペースを準備されていますが、ある意味では生活の場を担いたい、ということなんでしょうか?

「何かをやりたい」という自発的なものではなく、今後いろんな状況が生まれた時に、応えられるようにしたいんですよね。これからいろんなことが起きていく中で、たたら場みたいなものを作らないと、人が生き残れない時代が来るかもしれない。その時に、力がなくて実現できない状況を避けたいってことだけです。本当に「何かをやりたい」とかではないんです。 

オフィスに託児スペースを設けているのも、世の中の「6歳の壁」をどう乗り越えるかみたいな話からきています。子どもが小学校に入学した後も、子育てがネックになって仕事を続けるのが難しくなってしまうことがあります。それをサポートする公共サービスがないなら、会社の中でやらざるを得ません。個人的に保育所をやりたいわけではありませんが、従業員のためにやらなければならないなら、やれる会社でいたいんですよね。

とはいっても、そんなに高尚な思いでやっているわけでもありません。クラシコムの社員は8割が女性なので、女性が働きやすい環境を作ることが経営とも直結します。女性の多くは、将来が見通せないとパフォーマンスを発揮できないと言われています。例えば、まだ結婚していない人でも「3年後に結婚して、さらに2年後に子どもができた時に、この職場では続けられない」と感じたら、今のモチベーションが落ちてしまうんです。モチベーションを最大化するために「結婚しても大丈夫だよ、子どもができても大丈夫だよ」って、今見える状態にしておかないといけないんです。

実際に、産休に入ったり戻ったりする社員がたくさんいます。常時社員の10%ぐらいが産休に入る状況ですし、これからもっと増えるかもしれません。子どもが生まれるって、生物として普通のこと。普通のことが起こっただけで働けないようになってしまったら、会社としても大きな損失です。「眠くなったから仕事できなくなった」みたいな話と同じですよね。事業が適切に続くために制度を作るのって、経営者としては当然のことだと思います。

 

店長佐藤さんのお席付近には、お絵かきが大好きな息子さんの絵が。
店長佐藤さんのお席付近には、お絵かきが大好きな息子さんの絵が。

 

社会はどんどん良くなっていると思う

ーー当たり前のことに取り組んでいるだけ、ということですね。今後、待機児童問題など、社会ではより多くの問題が出てくるかと思いますが、その中でクラシコムとして何かを提言していこうというお考えもあるのでしょうか?

国を変える方法があればやりますけど、僕にはそんな力はありません。できるのは、選挙で一票を投じるぐらい。だから、できる範囲でできることをやるだけです。

そもそも、社会って、世の中で言われるほど悪くなっているんでしょうか。僕は、社会はどんどん良くなっていると感じています。公共の人でも非営利の人でも営利の人でも、それぞれの人が、何となく「こういう社会になったらいいな」という気持ちを持っていて、みんなが良い選択をするから社会が良くなっているんだと思います。

競争環境で勝つことが幸せの絶対条件ではありません。治安は良くなっているし、個人への保障も手厚くなっている。この国のシステムはすごく素晴らしいと思うし、日本の中で成功している会社も本当に素晴らしい。社会やそれぞれの人が成熟して良い選択をするようになれば、社会全体の幸福度は確実に上がると思いますし、みんなが素晴らしいって思えばいいだけの問題だと感じています。

だから、他の人に何かをしてほしいとか、社会を変えたいと思うことはありません。他の人がやっていることも、全ての選択が正解だと思っていて、あとはどの選択肢を選ぶかってだけの話。何を選択するかは個人に委ねられています。

極端なことを言ってもいいわけですよね。その主張自体が違法じゃないなら。そういう色々な主張をする人がいて、それを選ぶ人がいるってこと。自分が良いと思うように選択権を行使すればいいだけ。会社や社会に対してどうこうしてほしいというよりは、いろんな選択肢を用意して、個人が自分の選択権を行使できるようになればいいかなと思います。

 

 

執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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