JAXAの人工衛星「しきさい」のプロジェクトマネジャーに学ぶチームマネジメント

執筆者: 南澤悠佳
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JAXAの人工衛星「しきさい」のプロジェクトマネジャーに学ぶチームマネジメント

執筆者: 南澤悠佳

宇宙航空開発機構(JAXA)は9月14日、2017年度中に打ち上げ予定の気候変動観測衛星「しきさい」の機体を公開しました。しきさいは地球上のさまざまな波長の光を捉え、海面水温や植物、エアロゾル(塵や微粒子)などの変化を観測。これによって、地球温暖化の予測に役立つことが期待されています。

この一大プロジェクトを統括するのが、プロジェクトマネジャーの杢野(もくの)正明さんです。衛星は一度打ち上げたら、その後の修理ができないといわれています。一つのミスも許されないミッションを遂行するために、チームをどうマネジメントしているのか。JAXAのオフィスを訪問し、杢野さんにお聞きしました。

一つの目標に向けて20人弱が5年以上にわたって力を合わせる

――初めに、杢野さんの仕事内容を教えください。

いま私が担当しているのは、地球環境変動観測ミッション「GCOM(Global Change Observation Mission:ジーコム)」です。これは、宇宙から地球の環境変動を長期間にわたって観測することを目的とするもの。その一環が、人工衛星「しきさい」の開発・打ち上げです。

GCOM プロジェクトのメンバーはJAXA内だけで20人弱、協力企業など外部の関係者も含めると、100人以上とやりとりをしています。私の仕事の中心はさまざまな人とコミュニケーションし、人工衛星の打ち上げ成功に向けてかじ取りをすることです。

――今回のしきさいのように、人工衛星の1プロジェクトにはどのくらいの期間がかかるのでしょうか?

開発から打上げまで5年くらいかかります。一度プロジェクトが始まると、打ち上げまでは同じメンバーで臨みます。そして、打ち上げ後もデータ観測や追跡管制があるので、さらに10年近くはかかりますね。

プロジェクトによっては研究部門の人に兼務してもらって進める場合もありますが、GCOMプロジェクトの場合、ほとんどのメンバーが専任でプロジェクトの業務に集中します。もしメンバーに解決できない課題が出たら、別の研究部門の人にヘルプを出す。常に同じメンバーなので、人間関係はとても密になります。

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――プロジェクト期間が長く、ずっと同じメンバーとなると、人間関係に非常に気を配りそうですね。

そうなんです。人間関係に少しでも齟齬が生じると、作業全体に影響が生じてしまいますから。特に、何かありそうな場合は早めにそれを検知して芽を摘まないといけない。最初はちょっとしたズレだったものも、時間が経てば経つほど溝が大きくなり収拾がつかなくなってしまいます。幸いにも、これまでこのプロジェクトで大きな問題は起きていないのですが、常にそうした危機意識は持つようにしています。

――トラブルの芽はどのように察知されているのでしょう?

プロジェクトメンバーはみんな同じフロアにいて、それぞれが相手の顔の見える範囲にいます。そして、会議やちょっとした雑談など、いろんな話をします。すると時折、いつもどおり話を聞いていて「おや?」と思うことがある。理由は説明できないけど、口調や雰囲気に違和感を覚えるときがあるんです。そのように感じたときは、最近の仕事状況について一対一で話す場を設けるなど、早めのフォローを意識しています。

筑波宇宙センター大型振動試験室で実施された正弦波振動試験時のGCOM-Cの様子 写真提供=JAXA
筑波宇宙センター大型振動試験室で実施された正弦波振動試験時のGCOM-Cの様子 写真提供=JAXA

チームのモチベーション維持に欠かせないもの

――一つの目標に向けて、長期間チームのモチベーションを維持するための工夫はありますか?

当たり前なことですが、短期的な目標と長期的な目標を設けることです。

人工衛星の開発でいえば、複数のフェーズがあります。大まかにいうと、基本設計、詳細設計、維持設計(メンテナンス)、製造、試験、打ち上げです。フェーズで区切ると、5年間のうちそれぞれは1年~1年半。こうしたいわゆる“関門”を少しずつ乗り越えていかないことには、ゴールに到達しないんです。

また、一つひとつの関門を着実に乗り越えるには、3カ月ごとに達成すべきことを共有するなど、さらに細かく目標を設定します。週1でMTGをして、情報共有や進捗確認も頻繁に実施する。いきなり5年後に衛星を打ち上げるといっても、イメージが漠然としていますよね。短期目標がないと実感もわかないので、こうした目標設定は重要だと実感しています。

そして、それぞれの関門をクリアすると達成感もありますから、これがモチベーションを維持する秘訣ですね。それに一つのフェーズが終わったら、打ち上げもありますし(笑)。

あとはやはり、みんなの共通認識として、最低5年はかかるということを理解しているのも大きなポイントかもしれません。

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――プロジェクトを進めるうえで、杢野さんの悩みがあればお聞きしたいです。

こういう風にすれば良かったな……と、反省することは多くあります(苦笑)。たとえば、あるスタッフに仕事を任せたとします。彼・彼女が若くてまだ経験値があまりない場合、わからないことは周りの人に聞くことになるでしょう。そして、こういう風に進めればいいのかと覚える。覚えていくと、だんだんとそれが自信になりますよね。自信がつくのはもちろんいいことなのですが、聞かなくてもできると思い、それが行き過ぎてしまうとチームプレーから外れることがあります。これが、問題を大きくすることがあるんです。

私の役割は、それぞれのスタッフに方向性を指し示すこと。ところが、指し示し方がうまくなかったことに気づき、軌道修正をすることが多々あります。そういうときは、フォローにまわります。

でも、チェックしすぎてもうまくいかないんですよね。今度は頼りすぎるようになっちゃって。どこまで見て、どこから任せるか。どちらかといえば、私は任せるタイプなのですが、このさじ加減は難しいところです。人工衛星は一度打ち上げたら、その後の修理ができません。仕事に漏れがないようにするには、一人ひとりが当事者意識を持ち、万全の状態で臨まないといけないのです。

――チームプレーには調整ごとが多々発生し、面倒と感じられることもあります。その一方で、チームプレーだからこそのメリットをどのように考えていますか?

プロジェクトを進める上で、チームプレーはメリットが多いと感じています。個人だと、自分で考えて、検討して、決めて、行動して……と、いつもそうしないといけない。もちろん、ほかの人に聞くこともできると思いますが、基本的には孤独な作業ですよね。

チームだと、みんなである一つの目標に向かって進むので、お互いに頼れるし相談できる雰囲気がある。自分一人で問題を抱え込むリスクが減る点では、ストレスは少ないといえるのではないでしょうか。

GCOMでは一つの仕事に対して、必ず主担当と副担当をつけて、2人で見るようにしています。そうすると、何かあったときに相談しやすいんです。もちろん、これにはデメリットもあって、相手に任せてしまう甘えが生じる可能性もあります。あるいは、それぞれが主導権を握り過ぎてもうまくいかない。2人のバランス関係が重要です。そのバランスの取り方はケースバイケースなので一概にはいえませんが、こうした主と副の担当制を円滑に進めるには、2人が同じレベルの情報を持っていることがポイントです。どちらに状況を聞いても、どういった状態かがわかることは維持しています。

しきさいのCGイメージ 写真提供=JAXA
しきさいのCGイメージ 写真提供=JAXA

士気が下がっているスタッフとの関わり方

――杢野さんが思う理想のチームのありかたを教えてください。

私が必ず求める要素は2つあります。1つは「自分なりの専門性を1つでもいいからもっていること」、もう1つは「思考が前向きであること」です。人口衛星の開発や打ち上げには、電気や機械、熱、通信、制御など、多種多様な知識が必要です。複数の担当者が多角的な目でその時々の状況を捉えます。1人でも欠けたら、成り立たないんですよね。

それに、何か問題が起きた時は徹底的に原因を究明しないといけない。原因がわからないと、また同じことが起こる可能性がありますから。そういうときも専門性を持った複数人が見れば、さまざまな角度で検証できます。

また、プロジェクトには多くの人が関わるので、前向きな思考が必須です。問題にぶつかったときにそれを嘆くのではなく、どう乗り越えたらいいのかを考える姿勢は欠かせませんから。

この2つを兼ね備えていれば、緻密な人と大胆な人、おとなしい人と元気な人というように、複数のタイプがいることが望ましいと考えています。タイプが違っていても根本的な部分が共有されていればいい。むしろ均質化してしまう方が、発想に偏りなどが生じてうまくいかないのではと感じています。

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――とはいえ、時には前向きな姿勢を保てない人も出てくるのではないでしょうか?

そこはプロジェクトマネジャーがサポートしないといけない場面です。サポートの仕方には段階があります。「手取り足取り教える」「動作ができるようになったら見守りながら任せる」「見守りながら任せられるようになったら、重要なところだけチェックする」、というように。問題を抱えている人がいたら、基本に立ち返って手取り足取り教える形で関わり、フォローする。そうして、相手の気持ちを少しずつ底上げしていくしかありません。

――今後、杢野さんはどういったチーム運営をしていきたいと考えていますか?

時代の流れとして、働き方の多様化が求められていますよね。いまは1カ所で仕事をしていますけど、少子高齢化や家庭の事情などでそういうことができなくなり、常に集まって進めていくやりかたはできなくなっていくでしょう。そうしたとき、チームとしてどうミッションを遂行するか。これは今後のチームのありかたの課題だと感じています。

作業のIT化が進めば、今後は対面でのコミュニケーションが難しくなるでしょう。それでも、大きなプロジェクトの遂行にコミュニケーションは欠かせないし、そこに近道はないような気がしています。効率化は必須ですが、それと同時にコミュニケーションが大切な要素だという意識も必要です。目の前の忙しさによって、どうしてもコミュニケーションが後回しになることもあります。それに、私がいくらコミュニケーションの重要性を説いたとしても、時には一対一のMTGを設けても、相手も同じように認識してくれないと意味がありません。そう思ってもらえるような雰囲気をどう作るかは私の課題でもあります。

効率的に最大限の成果を得る。私もまだまだ試行錯誤しているところです。

<取材協力>

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杢野正明さん

1990年、宇宙開発事業団(JAXAの前身)入社。以降、人工衛星に関するプロジェクトに一貫して携わる。GCOMプロジェクトには2007年から参加。2012年、水循環変動観測衛星「しずく」の打ち上げ、「しきさい」の開発に従事、サブマネジャーを経て2013年からプロジェクトマネジャーに。

執筆者:南澤悠佳
有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。ママ向けや不動産、会計など、さまざまな企業のオウンドメディアを担当する。
Twitter ID:@haruharuka__
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