管理する幻想。縛り・疑い・争いをなくし、その人らしい生き方・働き方を実現する「生きる職場」が照らす可能性とは/パプアニューギニア海産 武藤さんインタビュー

管理する幻想。縛り・疑い・争いをなくし、その人らしい生き方・働き方を実現する「生きる職場」が照らす可能性とは/パプアニューギニア海産 武藤さんインタビュー

大阪府中央卸売市場の中に、働き方が注目されているエビ工場があるのをご存知でしょうか。正社員2名、15名強のパート従業員が働くパプアニューギニア海産という会社です。

工場で実践していることのひとつが、フリースケジュール制度。パート従業員は、好きな日の好きな時間に出勤します。出勤も欠勤も連絡は不要。急用や子どもの学校の予定などに柔軟に合わせられます。

また、「嫌いな作業はやらなくてよい」という取り組みもあります。数ヶ月ごとに自分がやりたくない仕事を全員が申告。エビの加工にはさまざまな工程がありますが、そのうち好きな作業だけやれば良いのです。

詳細は、書籍『生きる職場』にまとめられています。

取り組み内容だけ聞くと、

「なんて自由な職場なんだろう」
「従業員を自由にしたら回るはずがない」
「自分の会社では不可能だ」

と思うかもしれません。

そんな声に対して、工場長の武藤 北斗(むとう ほくと)さんは次のように語ります。

「制度だけひとり歩きして誤解されることもありますが、私たちは『自由な働き方』を求めているのではなく、『働きやすい職場作り』を目指しています。結果として、僕たちの職場ではフリースケジュールに行き着いただけです。大切なのは、従業員の居心地や暮らしやすさ。だから、会社毎に制度や取り組みは違っていいと思います。」

ThinkAboutでは、そんな武藤さんの根底にある思いを伺いました。居心地の良い職場をつくるために大切な「争わない環境を作ること」とは。そのために意識していることとは。

武藤 北斗(むとう ほくと)さん
株式会社パプアニューギニア海産 工場長
1975年生まれ。大学卒業後、築地市場の荷受に就職しセリ人を目指す。2年半経験の後、父親が経営する株式会社パプアニューギニア海産に就職。営業として規模の拡大に従事する。2011年、東日本大震災で石巻にあった会社が津波により流され、大阪に移転。会社を再建するなかで、「好きな日に働ける」「嫌いな作業はやる必要はない」など新しい働き方を実践するようになる。

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死ぬまでにどう生きるか

――武藤さんは、元々は営業をしていて、工場にはほとんど関わっていなかったそうですね。しかも、当時は工場を厳しく管理して、従業員との関係はあまり良くなかったと。それが、工場長がやめることになり、ご自身が工場に入ることになって初めて従業員の働き方に目が向いたと伺いました。工場長がやめると聞いた時、まずは何を考えたのでしょうか。

最初は驚くばかりでしたね。「嘘でしょ!?」と。東日本大震災で工場が流されてしまった後、大阪でほぼゼロから一緒に立ち上げてきた彼がやめるなんて、私の頭の中に全くなかったんです。だから、本当に驚きました。

同時に、「困る」と思いましたね。控えめに言っても、私は従業員とうまくいってませんでしたから。好かれていないのは明らかで、嫌われてる自覚もありました。

以前は、嫌われてもいいと思ってたんですよね。私は会社を大きくするために必要なことをしている。いくら嫌われたって、会社が成長するからみんなを雇用できるんだ。上から目線ですが、そう思っていました。働きやすい職場ではなかったと思います。

だけど、東日本大震災が起きてから、そんな考えに違和感を持ち始めました。震災の影響でたくさんの方が亡くなり、私自身、生きることについて深く考えるようになり、「死ぬ」という意識がどんどん強くなりました。自分もいずれ死ぬ。だったら、死ぬまでの残りの人生をどう生きるのか。自分の中で、生きることと死ぬことがつながったんです。

どう生きるかを考えた時、従業員とうまくいかず、人が嫌い合っている組織の中で仕事を続けていくことに、矛盾や限界を感じました。仕事に限らず、人間関係って心に大きな影響があるじゃないですか。従業員とうまくいってなかったら、全然おもしろくありません。

そんな状況で、工場長がやめることになって。「ここで変わるしかない」と思ったんです。それまで「会社だから仕方ない」と押し込めていた気持ちが、震災や工場長がやめるという現実問題に直面して、抑えられなくなったんです。

お互いにとって働きやすい職場にして、従業員が居心地の良い場所にしよう。好かれなくとも、少なくとも嫌いという感情が起きないような状態にしよう。そう思いました。

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大切なのは居心地のよさ

――違和感が拭えなくなったということですね。「働きやすい職場」にすると考えて最初に導入したのが、フリースケジュールの原型だったと聞きました。

そうですね。最初に導入したのはフリースケジュールです。

ただ、自由を優先に考えたていたわけではありません。最初に考えたのは「居心地がよく働きやすい職場」ってなんだろうかということ。僕の中で、それは、一人ひとりが自分の生活を大事にしていきいきと働ける職場、いわば「生きる職場」ではないかと感じたんです。それで、自分の暮らしを大事にするためには、自由なスケジュールで働いてもらうことが先決だと考えました

とはいっても、元々、子どもが病気になったときなど、急用での当日欠勤は許可していました。制度を導入しても、事前に連絡するかどうかの差だけで、実態はほとんど変わらないと思ったんですよね。

世の中には、当日欠勤を絶対に許さない職場もありますよね。代役を自分で探す必要がある職場も多いと思います。

僕からすると、なんでわざわざ従業員同士の関係性が悪くなるようなことをするのか疑問です。出勤を自由にしたら、みんな好き勝手にやりはじめて職場が回らなくなるという懸念がありますが、時給で働いている方は自分の生活があるので、そこまでめちゃくちゃな状態にはならないものです。フリースケジュールはうまくいくだろうと、確信めいたものがありました。

出勤したメンバーは、今日の体調の◯☓と、帰宅時間をマグネットで示す。
出勤したメンバーは、今日の体調の◯☓と、帰宅時間をマグネットで示す。

徹底して争わない状態をつくる

――想定通りうまくいき、その後、制度の細かな部分を修正したり、他の施策もたくさん試してきたのですね。本の中で色々な試行錯誤が書かれていましたが、施策を始めるときもやめるときも、従業員同士の人間関係への配慮が大きいと感じました。やはり、その点は強く意識されているのでしょうか。

それぞれの人の動きが全体の人間関係にどう影響するかは、ものすごく繊細に見ています。よく言えば感度が高いし、悪く言えば気にしすぎ。「そこまで気にしなくていいのではないか?」と、従業員に言われるほどです。

だけど、そこは譲れません。人間関係は、気を緩めた瞬間ぐちゃぐちゃになると思っているんです。だから、お願いの仕方ひとつでも「その言い方したら相手が感じ悪く思うかもしれないよ」みたいなことは、よく指摘しています。細かすぎると思うかもしれませんが、その細かさこそが大切だと思っています。争わないためには、一定の線引きやルールは絶対に必要ですから。

ただ、難しいことは求めません。言い回しに気をつけるとか、嘘をつかないとか、人として当たり前のことをするだけ。私のやってることは、誰でも思いつくことで、目新しいことではないと思います。実際、発想がすごいとは誰からも言われません。でも、きちんと続けることが大切で。

僕自身が工場長として大切にしている細かなルールを例にすると、、パートさんには敬語しか使わないこと、「名字+さん」で呼ぶことは徹底しています。楽しい職場は目指していませんし、特定の従業員を「◯◯ちゃん」と呼んだりするのは、私からすれば、わざわざ争いを作ってるようなものだと思います。従業員同士の間に、心理的な差ができますから。

他にも、二人の人を同時に呼ぶ時は、必ず先に入社した人の名前を呼びます。私たちの会社は、働く時間を自由にしているので、作業面で言えば長い時間働いてる人の方が仕事ができます。だけど、好きな時間に来ていいと言ってる以上、長い時間働いてる人を評価するわけにはいきません。仕事ができる人、よく職場で会う人を先に呼んでしまいそうになるかもしれませんが、自分が後に呼ばれる側だったら絶対に気になります。そういう心の動きは強く意識しています。

あとは、自分を受け入れることも大事です。私はなんでも我慢できるわけでもないし、感情が顔に出るタイプの人間です。会社の制度だけ聞くと、「従業員思いですごく優しい人」というイメージを持たれがちですが、そんなことありません。独裁者のような性格です。怒鳴ったりはしないですけど、思い通りにならなくて毎日何かにイライラしています。仙人みたいになるのは、多分無理です。

ただ、そんな自分を受け入れた上で、やるべき振る舞いや行動を選んでいます。

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あとは、「自分たちはいつでも争いだす」ということを前提として、どうすれば争わないかを考えています。性善説ではなく、性悪説に近い。放っておけば、人は争いだすものです。

だけど、争いがない状態って心地いいので、一度争いがない状態になれば、人はその環境を守ろうとするんですよね。すると、昔は我慢できなかったことが我慢できたり、揉めそうになったら事前に相談したり、先手が打てるようになる。そこまでいくと、限りなく争わない状態が持続する姿が見えてきます。

その状態に持ってくることが大変ですが、メンバーを入れ替えなくても、仕組みと行動で変えることはできます。私たちの会社も、今いるメンバーの半分近くは過去の状態も知っています。でも、変わることができた。だから、たとえ状況がどんなに悪くても絶対に変われると、自信を持って言えます。

新しい仕組みを導入するときも、メンバー同士が争わないことがポイントだという意識は、日に日に強くなっています。もし、今ある制度が争いや揉め事を引き起こすなら、すぐにやめようと思います。

私たちの場合は、今の制度がうまくいっていますが、失敗した取り組みもたくさんありますし、従業員が違えば全く別の取り組みになったと思います。大事なのは、「フリースケジュール」「嫌いな仕事はしない」という個別の仕組みではなくて、その背景にある基本的な考え方や行動だと思います。

自分らしい職場がもたらす社会的価値

――従業員の居心地がいいことは、会社の業績にはどのような影響が現れているのでしょうか。

働き方を変えてから、業績も好調です。みんな自分らしく働けるから、仕事に集中できる。居心地がいいから退職率も減り、採用や研修のコストも下がる。長く働くから、仕事の効率も上がる。そんな好循環が生まれています。

さらに最近では、自分らしく働ける環境を世の中に増やすことが、現代社会の雇用課題を解決する可能性があるとも感じています。

例えば、障がい者の雇用。私たちのように、自分らしく生きられるようになると、周囲のことや他人のことが気になりにくくなります。すると、一般的に言われる障がいを持つ人と、そうでない人の差って一体何なんだろうと、疑問に思い始めました。昔から、障がい者という区別や「自分と違うものを排除していく」という考えに違和感があったので、次第に、障がいを持つ人と一緒に働いてみたいという気持ちが湧いてきました。

すると、偶然ですが、知的障がいを持った子どもが行く高校から、職業実習受け入れの依頼があって。先日、障がいを持つ生徒さんを2週間ほど受け入れてみたんです。

実際に障がいを持つ生徒さんを受け入れたり、学校を訪問したり、自分なりに勉強してみて、少し現実が見えてきた気がします。よく、障がいを持っている人って、他に秀でた才能があると注目されますが、すべての人がそうではないと思います。働いてもらった子どもたちは、他のパートさんより作業は遅かったし、教えるのも手間がかかった。

ただ、作業では特別に秀でているものは分かりませんでしたが、パートさんが嫌いな作業に印をつけている作業を彼が好きだったりと、カバーしあうことはできたのです。それを見て、「これが社会だよな」って思ったんです。それぞれが、足りない所を助け合っていくのが社会。障がいを持つ人と一緒に働くことで、そういう環境にちょっとずつ近づけるように感じました。それは、従業員一人ひとりが生きていく上でとっても重要なことの気がします。短期的な仕事の効率には現れないけど、障がいを持つ人たちと一緒に働く大きな意味があると感じたんですよね。

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また、障がい者雇用の他にも、働きたくない人の意識変化にも効果があると考えています。少し前から、商品のパッケージへのシール貼りを手伝ってくれたらエビ1パックと交換できるという取り組みを始めました。1ヶ月で何十人か来たのですが、その中に、30代で今まで一度も働いたことがない男性がいました。

すると、彼が「ここでなら働いてみたい」と言ってくれたんですよね。今まで1回も働いたことがない人が「ここでだったら働けそう。働きたい」という気持ちになるって、すごいことじゃないですか。

それで、他の人の採用と同じように、700文字の作文と履歴書を持ってきてもらい、面接をして、パートタイムで採用することになりました。働き始めて数週間ですが、続けられそうな兆しはあります。

これって、日本の雇用問題にとって、重要な意味があることだと思います。日本中で働き手不足で会社が潰れてしまうことが問題になっていますが、働き手はいるんです。ただ、彼のように何かしらの理由があって、今働いていなかったり、働いたことがないだけ。そういう人が、私たちの会社みたいなやり方だったら働けると思えるんだったら、価値のあることだと思います。

自分らしく働ける職場が世の中に増えれば、高齢者も障がい者も誰も関係なく、みんなで協力して働ける。人口ばかり増えてお互い差別する社会よりも、人数が少なくても、お互いに協力できる明るい未来が見えたような気がします。

それってすごい可能性があることだなって。今まで考えたことがなかったんですけど、そういう意味で、私たちのような会社や働き方が広がれば、もっといろんなことができると思うんです。

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変える力がある人にこそ届けたい

――元々は自分たちの職場を働きやすくすることで始めた取り組みが、想像もしていなかった未来を見せてくれているのですね。最後に、武藤さんが、自分らしく働ける職場づくりを通して実現したいことを教えてください。

本を書こうと思った理由でもありますが、より多くの会社が、自分らしく働ける「生きる職場」を実現できるように、きっかけを提供したいと考えています。

今の社会で普通に行われている「お互い管理して縛り合っている状態」って、マイナスの要素が大きいと思うんです。そんな状態だから、最終的に人同士が争う。さらに、会社の争いは、次第に地域や国の争いに広がっていくと感じています。

だから、まずは会社というレベルで、争いがない状態をつくりたい。利益を出さなきゃいけない会社というレベルで争わない状態が保てるのであれば、それ以外の社会でも成り立つと思うんです。

働き方を変えて仕事の効率が上がらなかったとしてもすぐに諦めないで、今と同じ成果が得られるんだったら、やった方がいいじゃないですか。さらに効率まで得られるなら、やらない手はないでしょっていう感覚です。それに、みんなが働きやすい状態を突き詰めていけば、効率は当たり前のようについてくると思います。

とはいえ、中間管理職やなど立場によっては、実行に移す権限がない場合もあります。だから、会社でいえば、実行に移せる経営者や管理者が、自分たちがいかに非効率的なことをしているのかを自覚すれば変わると思います。

私たちの話って、現場の人が働きやすくなるイメージが強いんですけど、実は管理してる人たちも自由になっていくんですよ。人を縛って管理する仕事ってつまんない。そこから一歩抜けた仕事ができれば、管理職の人たちの仕事ややりがいも変わって、生き方自体も変わる。そういう意味で、管理者の人たちも働きやすくなるやり方だと思います。

以前は、働いてる現場の人たちに訴えかけることが多かった。たぶん、だれも見向きもしてくれないから、共感してくれる人がいることで満足してたし、気持ちよくなってたと思います。

だけど、色々やってきて、障がいを持つ人のこととか、社会のこととかを考えるようになると、変えていかなきゃという気持ちも強くなってきた。そうなってくると、環境を変えられる管理職の人こそ、きちんと考えてほしいと思います。

一人ひとりそれぞれの思いを大事にしていければ、もっと生きやすくて暮らしやすい世の中になる。そういうことを伝えていきたいと思っています。

とはいえ、肩肘張っているわけでもありません。以前は会社を大きくするとか、何かを成し遂げたいという気持ちもありましたが、今は働くことが暮らしの一部のような感覚です。震災を経験してから、とにかく平凡な日々に幸せを感じるんです。

私のように自分の暮らしの幸せがあって、その一部として働けるような「生きる職場」が増えたらと思います。

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執筆者:THINK ABOUT 編集部
THINK ABOUTを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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