若者が希望を持てる社会へ。通信・定時制高校の子どもが社会と関係を築くための橋渡し

執筆者: 藤野荘子

若者が希望を持てる社会へ。通信・定時制高校の子どもが社会と関係を築くための橋渡し

執筆者: 藤野荘子

私たちは何のために働くのか
より多くの人々が幸せになる社会とはどのようなものか

私、藤野荘子は企業経営者や研究者の方々にお話をお伺いし、
資本主義の中で幸せに働く方法やその可能性について、
ThinkAboutを通して発信しています。

連載の背景はこちら
“働く”について考える 今の時代における労働の意義とは

連載第4回は通信・定時制高校などに通う困難な状況にある若者のために、次のアタリマエに挑戦する、認定NPO法人D×P(ディーピー)の今井紀明(いまいのりあき)さんに取材をしました。D×Pは、通信・定時制高校の中で、人とのつながりをつくるプログラムや、就労サービスを提供しています。学校外から機会を提供するだけでなく、学校内で授業を行ったり、一時的なカフェをつくったり、就職相談室をつくる等、先生方と協力しながら事業を展開しています。まだあまり知られていないであろう日本にある貧困の問題や、希望を持つ若者を増やすためにできることについてお伺いしました。

今井紀明(いまいのりあき)さん
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長
高校生の時にイラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。紛争地域だったイラクへ渡航した際、現地の武装勢力に人質として拘束される。帰国後、社会から大きなバッシングを受け対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。通信・定時制高校の高校生向けのプログラムを関西で展開する。

 

誰からも目を向けられない社会課題

 ーーまずは、今井さんの活動やお持ちの課題観を教えてください。

 僕たちは、通信・定時制高校に通う高校生向けの事業を展開しています。通信・定時制高校の問題は、世間の注目度は高くありません。しかし、公立の通信・定時制高校に通う人の多くは、生活保護家庭やひとり親家庭などの貧困家庭で育っています。さらに、学校に行けない、いじめられた、みんなと同じことができない、友達がいないなど、様々な課題を抱え、自分の将来に希望を持てない子どもが多くいます。

そんな子どもが、自分の未来に希望を持てる社会をつくる。それが、僕たちのミッションです。具体的には、事業を通して子どもに3つの機会を提供しています。

 

1つ目は「社会関係資本をつくる機会」です。困難な状況にある子どもは、大人を信頼できなかったり、人との関係を築くのが苦手なケースが往々にしてあります。そこで、まずは関係性をつくるため、社会人ボランティアと対話を行う授業を実施しています。

「クレッシェンド」と呼ばれる授業で、1ヶ月間、毎週同じ社会人と対話する時間を設けます。同じ人と話すことはポイントで、最初は心を開いてくれない高校生も、大人が過去の辛い経験を話したり、高校生が自分の好きなことや長所に気づいたりしていくうちに、本音で話せる関係が築けます。ある授業では、「僕と関わったらみんな不幸になる」と言っていた生徒が、最終回で「新しい家族を持って、明るい家庭を築きたい」という未来を語ったり。短期間ですが、それくらいの信頼関係をつくることができます。

また、週に1,2回ほど学内に食事提供を兼ねた「いごこちかふぇ」という居場所づくりも行っています。ここでは、授業の外で大人と話す機会をつくり、授業の時とは違う一面を見せ合えるようにしています。これらの取り組みを通して、何かあった時に「いつでも頼れる関係性」をつくってもらいたいと考えています。

文中①

2つ目は「成功体験をつくる機会」です。宿泊型のインターンやスタディツアーへの参加、アート展・写真展の開催など、高校生が挑戦する機会をつくります。

挑戦の機会を設けても、みんながすぐに積極的になるわけではありません。だけど、いろんなところに連れていったり、いろんな刺激を与えていると、次第に自分で動き出すんです。例えば、祭りのボランティアを自分で始めたりとか。そこからまた違うコミュニティに所属したり、どんどん心を開いていきます。生徒によってパターンは様々ですが、基本形は変わらないですね。

僕たちは「生徒が生きる場」を作りたいんです。高校卒業後、多くの生徒が就職を希望しますが、就職だけが全てじゃない。進学でも、起業でも、生徒が自分らしくこの社会で生きていけるような機会をつくることが大切だと思います。

 

3つ目は「働き、学び続ける機会」です。これは最近始めた事業で、「ライブエンジン」という高卒就職の総合支援サービスです。

これまで5年ほど通信・定時制高校に関わってきて、高卒生の就職の課題を目の当たりにしてきました。例えば、定時制高校の卒業年次の生徒の5-6割ほどが就職を希望しているのに対して、4割程度の人しか就職できていない現実があります。また、離職率が高く、高卒生の4割が3年以内に離職しています。離職理由の7割は「仕事が向いていない」から。マッチングがうまくいっていないのです。実際、1カ月以内に会社を辞める人も少なくありません。

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その背景には、1人1社しか入社試験を受けられない就職慣行*があります。学校で見ることができるハローワークの情報は会社名と場所と給与くらいですし、職場見学も一回しかできません。現行のシステムが全て悪いわけではないのですが、生徒は自分に合う会社を選べませんし、マッチングがうまくできていないため離職率が高くなってしまうのは当然です。

さらにいえば、高卒の就職支援に当てられる国の予算は少額のため、手厚いサポートを受けられません。例えば、1〜2ヶ月ほど学校に就職相談員を派遣するのみ…というケースもあります。生きづらさを抱えた10代が多い通信・定時制高校の生徒に対して、十分なサポートとは言えないと思います。

それぞれの生徒が、自分の興味や関心に合わせて会社を選べる環境を作る。それが僕たちの務めだと考えています。

*就職慣行・・・高校生が採用試験を受けられる企業は1人1社のみ。地域ごとに異なりますが、社数の制限が広がったとしても大概は2,3社までという慣行があります。また、学校に届いた求人票の募集人数を上回った希望がある場合は、学校での成績順で推薦枠が埋まることが通例です。

 

ーー「ライブエンジン」は高校生の就活支援に特化しているのですね。具体的には、どんな取り組みを行おうとしているのでしょうか。

大きく、4つのサポートを提供します。

1つ目は就職相談室「ライブラボ」。週1回程度、学校の中に就労相談室を設置して高校生の進路相談に応じます。就職に対して抱えている不安や、希望の仕事に就いて、気軽に話せる窓口になります。

2つ目は、仕事体験ツアー「ライブツアー」。僕たちが認定した企業への仕事体験ツアーや、インターンシップの場を高校生に紹介します。

3つ目は、紹介事業「高卒ライブ」。これはまだ始めていないものですが、高卒を積極的に採用して育成したいと考えている企業に、理念や価値観が合う高校生を紹介します。

最後は、「スキルエンジン」。ここでは仕事をする上で必要なスキルを育成します。起業志向の高校生など、スキルを獲得したいと考えている高校生のために、企業と連携して講座を開催したり、起業家と一緒に事業計画を作る機会などを提供しています。

ただ会社を紹介するだけでなく、これまでやってきた対話授業や学外でのインターンなども含めて、普段の学校生活の中からトータルでサポートすることを目指しています。

 

本当に支援するべきは誰か

ーー今井さんが通信・定時制高校に注目し始めたのは、社会人になる頃だと聞きました。それまでは国際問題に関心があって色々活動していたと聞きましたが、どのような心境の変化があったのでしょうか。

昔は、国際紛争に興味を持っていて、高校生の時から、議員を訪ねて回ったり、ベンチャー企業でインターンシップをしたり、イラクの子どもたちのための医療支援NGOをつくったりしていました。将来は、紛争解決人になりたいと思っていましたね。

ところが、国際紛争に興味を持って色々動く中で、2004年にイラクで人質事件に巻き込まれて。開放されて日本に帰国してからしばらくは、多くの人から批判されて対人恐怖症になり、外に出られない時期もありました。大学へ進学しても、何かをやろうという気にはなれず、人とほとんど喋らないし、空っぽでした。

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自信を回復するまでには、だいぶ時間がかかりました。それでも、友人や周りの方に助けてもらううちに、徐々に自分を取り戻せました。大学を卒業する頃には、何かやりたいという気持ちも湧いてきて。それで、ザンビアで農村開発に携わることにしたんです。

ザンビアでは英語教育と学校建設に関わったのですが、子どもと関わっていると、不思議と日本への課題意識が大きくなっていきました。なんていうんですかね、ザンビアとか開発途上国って困難な状況が多いように思われがちなんですが、実際に行ってみると、経済成長率も高く「これから自分たちで国を作っていこう」という活気や情熱に溢れていたんです。

一方で、日本って裕福だけど、若者が希望を持っていない。モノや情報で溢れているのに、幸せを感じられていない人も多い。豊かに見える先進国や日本の特徴的な問題だと感じました。それで、本当に支援すべきは日本で困っている若者ではないかと思ったんです。

 

日本に帰ってから、若者の可能性を引き出すようなことがしたいと思って色々調べているうちに、通信・定時制高校の抱える課題を知りました。困難な状況の子ほど孤立していることや、日本の中にも貧困があること。そういう状況にある子どもたちは、希望を持っていないし、誰からの支えもない。親もサポートしてくれないし、先生からもサポートしてもらえない。そのうえ友達からいじめられるみたいな、八方塞がりな状況。

でも、そういう困難が存在することを、世の中は知りません。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと、バッシングされた過去が重なりました。

また、ある通信制高校の先生は「自分たちは生徒のために一生懸命頑張ってるけど、もしかしたらニートを増やしているのかもしれない」と話していたんです。実際、ある学校では卒業時の進路未決定率が5割を超えていると聞きました。
通信・定時制高校に通う若者のために何かしたい。そこで、まずは社会から否定されて自信がない子どものために、対話プログラムの「クレッシェンド」を始めました。最初は仕事の合間にボランティアでやっていたのですが、次第に活動が広がり、2012年にはNPOを立ち上げ本格的に取り組むようになりました。

 

文中④

どんな状況でも楽しみたい

ーーこれまで様々な苦労があったのですね。それでも、新しいことにチャレンジする今井さんの原動力はどこにあるのでしょうか。

生きているうちに面白いことをやりたい、という気持ちは強いですね。仕事も同じです。人によって働く目的は違うと思いますが、個人的には、働く時間もちゃんと楽しめるようにすることを意識しています。無理せず、生活の一部として呼吸するように働いている感覚です。
どんな状況でも楽しむというのは、イラクの人質事件を通して一番印象に残ったことです。一緒に拘束された元レンジャーの郡山さんに「どんな状況でも楽しめ」と言われて。銃を突きつけられた極限状態で楽しむのは無理でしたが、今でもその言葉が心に残っています。
多分、人質になり命の危険を感じたからこそ、僕は生きることに対する渇望が大きいんだと思います。生きることへの執着心が強いですし、生きているうちに色々おもしろいことをやりたい。それが、僕が色々なことに挑戦する原動力だと思います。

 

 

以下、藤野コメント

今回の記事は、なかなか国や自治体も手が出せておらず、スポットが当たりづらい通信・定時制高校の「働く」に着目してお話をお伺いしました。私は大学時代に労働社会学を研究していましたが、その理由は「誰もが生きやすい社会を作るため」でした。最近こそ話題になっていますが、日本の貧困や社会的弱者に関する問題は、普通に生活している中ではまだまだ見えづらい問題だと思います。だからこそ、そこにフォーカスされているD×Pの活動を世の中に発信していこうと今回取材をお願いしました。今井さん、ありがとうございました。

文中⑤

 

執筆者:藤野荘子
2016年にネットプロテクションズに入社。
発展途上国の開発について勉強するために立命館アジア太平洋大学に入学。
在学中に1年間バングラデシュのグラミン銀行グループでインターンシップを経験。
現地で「労働のあり方」に疑問を持ち、帰国後、労働社会学を中心に研究。
現在はビジネスとして利益を得ながら幸せに働くためにはどうすればいいか
自分の人生を通して実験中。
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