「個の時代」における、イノベーションが生まれる組織づくりとは/ビオトープ佐宗邦威さんインタビュー

「個の時代」における、イノベーションが生まれる組織づくりとは/ビオトープ佐宗邦威さんインタビュー

 

テクノロジーの進化やSNSの台頭により、社会の変化のスピードは格段に早くなるなか、変化に適応し、これからの時代を生き抜くイノベーティブな会社に必要な要素とは。様々な企業に対して、デザイン思考の導入から組織変革までを支援するビオトープの代表、佐宗邦威さんにお話をうかがいました。

=====
佐宗 邦威
biotope 代表取締役社長
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニー(株)クリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」著者。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。
=====

社会で担う役割によって変わる、目指すべき組織

ーー本日は「組織」という切り口でお話を聞かせてください。様々な組織を創造的な組織デザインに関わる佐宗さんから見て、イノベーションを生むための組織を作ろうとした時、どんな課題に直面すると思いますか?

まず前提として、biotopeは、様々な企業を「創造的で外部のニーズに適応できる体質」に変えるため、「イノベーションプロジェクト」と「組織開発」を同時に行っています。どちらもやっているというのが、デザインコンサルティング業界の中でもユニークな部分だと思います。

プロジェクトを実践する上で、部署を超えた多くのステークホルダーを巻き込み統合された実行可能なアウトプットを創り出すことを目的としているので、どのプロジェクトでも、組織の問題に向き合うことが日常になっています。その視点から、イノベーションを生み出す組織について、どういう視点で見ているかについてお話しするのが良さそうですね。

組織について考える上で、個人的にはソニー時代に新規事業創出プログラム「Sony Seed Acceleration Program」を立ち上げたことが一つの原体験になっています。当時、社内に新規事業のネタを持っているエンジニアはたくさんいたのですが、組織の構造上、既存のビジネスモデルにはまらないアイデアはなかなかカタチにできませんでした。

一方で、会社の外を見れば「Kickstarter」など、新しいアイディアを個人でもカタチにできるサービスが台頭し、意思決定に時間をかけているうちに世の中に競合の製品が出てしまうような状況。実際、会社の会議で出る新製品は、すでに世界のどこかに存在するものがほとんどでした。

それなら、新しいものを生み出すことは、アイデアをカタチにするスピードの早い個人に任せよう。企業は、出来上がったものをうまく取り込み、企業が持つリソースを投下して、規模の拡大や質の向上を担う方が変化のスピードに対応できるのではないか。そう考えて、既存事業とは切り離して、思いを持つ個人が新規事業を生み出すためのプラットフォームを組織しました。

その経験から、生産設備や販売網などのインフラを持つような大企業では、新しいものが外から入ってくる余白を持つことや、新しいものを社外から呼び込んでいく仕組みが、イノベーションを生むために重要になるのではないかと考えています。

一方で、小さな組織は、所属する一人ひとりが持つ創造性が資源です。それがコンテンツであれ、サービスであれ、個人の創造性を極限まで高めていくことが、イノベーションにつながるわけです。

イノベーションを生む組織を作ると一口に言っても、インフラを持つ会社が、自由で柔軟性のある新規事業プラットフォームを作る場合もあれば、全く違う文脈で、個人が持つ潜在的な力を新しい価値に変えられるようにする場合もあると考えています。

DSC_0880_re3

ーー役割によって目指すべき組織は変わると。昨今、従来のピラミッド型ではない様々な組織のカタチが提唱されていますが、役割や規模によって適正な形があるということでしょうか。

組織のカタチについては、世界中で色々な実験がされていて、まだ解が出ていない段階ではないかと思います。

例えば、ザッポスやMediumが取り入れて有名になった「ホラクラシー経営」という新しい組織マネジメントの考え方。ホラクラシー経営では、情報をヒエラルキーのトップに統合して意思決定をするのではなく、「ホラクラシー憲法」と呼ばれる組織運営を民主的にまとめたルールブックを元にして、各個人がそれぞれ意思決定を行う、いわば分散型で自治を行っていくような仕組みです。世界中でホラクラシー経営に取り組んでいる企業がありますが、その中には大企業もあるということですので、大きな組織でも自律分散型の取り組みが始まっています。

また、そこまで抜本的に仕組みを変えなくとも、昨今ではデジタルトランスフォーメーションの波の中で組織全体にデザイン思考などの方法論を取り入れ、現場でプロトタイプを作りながら顧客と共創して新しいものを開発するような、よりアジャイルで柔軟な組織への変革が起こっています。IBMやGE、SAPで始まっていることが有名ですね。

元々、R&D部門では、新しいモノを生むために自由度を高めて権限を分散した柔軟な組織体制も多かったのですが、最近では、効率性を追求してヒエラルキー型で上意下達的な意思決定をしていた営業部署などにも、現場で作りながら判断する分散型の組織マネジメント手法が用いられています。

権限を分散するということは、情報量が増えるし、コントロールも効かなくなるので、「予測不可能なカオス」を受け入れる必要性が出てきます。一方で、大きな会社は秩序がないと成立しない一面もあります。柔軟なやり方を会社のど真ん中にした時に、どのような経営手法を採るのか。そのシステムの発明が、経営上の今後の大きな関心事項になるのかなと思っています。

一方、デザインやコンサルティングなどの知識産業の場合は、そもそも人が生むものが価値になるので、人の自由度を高めるようなマネジメント手法が有効になりますし、ヒエラルキーをより少なくして、個人の自由度を上げていくような組織設計や、会議運営などの方法論が必要になるでしょう。対話や、ファシリテーションなど、ソフト面がより重要になっていくでしょう。

私の場合、自分の会社のような小さな会社の組織デザインと、クライアントになる大企業の組織デザインは、上記のような前提を起き、分けて考えています。

img-01

個の価値を最大化させる社会

ーーではビオトープはどのような組織を目指しているのでしょうか。

ビオトープは、個人が集まり新たな価値を生み出す仕事をしている以上、個人の能力が最大限まで大きくなるやり方を考えたいなと思っています。一人ひとりのモチベーションを最大化して新しいものを生むことに挑戦したほうが合理的。自社に関して言えば、個人に依存する属人的な会社を作りたいと思っています。その究極的な姿は、いわゆる家族的な組織です。

人同士から新たなものが生まれるために、マネジメント側として気をつけていることは、

1.可視化する
2.対話する
3.創発する環境を作る

ということです。

中小企業ですが、業績や利益の構造も、社員全員に見えるような仕組みを取り始めました。また、コミュニケーションに時間をかけて、個人のモチベーションを最大限尊重するよう心がけています。一人ひとり何をしたいのか対話するため、社員のメンバーとは定期的に目的を持たずに話す時間を設けていますし、オフサイトミーティングや全体会議も頻繁に行います。

オフサイトミーティングでは、OSTと呼ばれるアジェンダを主催者が決めない方法論も試しています。いずれにしても、マネジメントができることは、自然に色々なものが生まれてくる環境づくりだという前提で、組織づくりを捉えています。

対話のプロセスに時間がかかりますし、現在途上でもあるので、うまくいっているのかもよくわかりませんが、一人ひとりの個性が新たなものを生み出せるような場を作りながら進めています。

ホラクラシーのように、権限を完全に分散させることは、今のところ考えていません。自律分散型の組織では、個々人が主体的に動いてもうまく回るように、共通のミッションが一番大切になります。それは、会社の規模やインパクトを拡大するというベクトルには向いていると思います。

一方、僕らはデザインとビジネスの間にいて、規模拡大よりも、新しい文化やスタイルを生み出すことに興味があります。新しい文化を作るのは、個人の内側にある強い個性です。個人の内側にあるものを引き出し合意形成をしていく家族型組織の方が、今のところユニークな文化作りには向いていると思います。

要するに、事業規模ではなく、質を追いかけたいんですよね。今のところ質には明確な指標はありませんが、「どれだけの企業の未来を作っているか」と「仲間が何人増えているか」を大切にしています。私たちの事業は、創発の場を作ることでクライアント企業の経営を前に進めること。それも、会社の中にいる人自身が場作りできるようにする支援なので、仕事の定義は難しい。そのため「この仕事をする人を何人作れたか」ということを、今のところは大事にしています。

そもそも、ビオトープを立ち上げた背景には「個人の内側にある個性を最大化させたい」という思いがあります。前職のソニーでは、内面から湧き出ているイメージをカタチにしている「狂信的なエンジニア」からしか、新しいものが生まれていないんですよね。また、人材開発と組織変革を行う会社で働いていた時に「個人の内発的なものを引き出してカタチにする価値」ってすごいなと思ったんです。

作り出すデザインの方法論と、引き出す組織開発の方法論を組み合わせれば、新たなものをもっとたくさん生み出せる人を作ることができるんじゃないかと思っています。

だから、自分の中にあるビジョンとか世界感をカタチにしていく人を増やしたいという思いが強いんですよね。内発的なものというよりも、「本当はこうありたい」という妄想をカタチにする人が増えていくといい。自分たちの仕事や、内発的なものをカタチにする方法論が価値として世界に浸透していくことを何よりも大事にしたいと考えています。

これからの時代の資源を最大化する

ーー質の高いユニークなものを生み出すために徹底的に属人化させるということですが、成果を生むプロセスを再現するのが難しくなるかと思います。プレッシャーや苦しさのようなものはないのでしょうか?

苦しさはありますが、制約がある方がクリエイティビティは発揮されるので、つらい感覚はありません。どらかといえば、今後ますます重要になる「人作りの環境のデザイン」という本質を、どうやって理解してもらうか、頭を捻らせているような感覚ですね。

DSC_0877_re

世界最大のコンサルティングファームであるマッキンゼーは、産業革命が起きて会社という枠組みが重要視される時代において、会社の成長エンジンとして「会計」という制度を作ったことが起源だと言われています。同じように、個人のクリエイティブワークが重要視される時代において、「人」という資源の価値を最大化する方法論を作っていると思えば、多少苦しくても頑張れます。

ネットワーク時代の到来によって、個人の内発性を重視する会社は増えていくと考えられます。小商いのように、スタイルを大事にしたい人や会社がきっと増えていく。その時代の中で、個の価値を最大化できる会社でありたいですね。

執筆者:THINK ABOUT 編集部
THINK ABOUTを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
この執筆者の記事をもっと見る