
「Teal型組織」という組織をご存じでしょうか?
Teal型組織とは、最近ヨーロッパを中心に世界中で実践され始めている、新しいタイプの組織です。従来のような人工的にピラミッド形に作り上げられた組織に対して、自然界をメタファーにした「組織の目的」を中心に自律分散型のゆるい構造を持つ新しいカタチの組織です。その組織の多くは、意思決定機構としての上司が存在せず、意思決定は必要なタイミングで各メンバーが行います。
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズでは、個人のWillを尊重し、メンバー1人ひとりが当事者として意思決定できる組織を目指しています。ネットプロテクションズが目指すべきは、Teal型組織なのか。権限を分散して、会社経営は成り立つのか。
そんな疑問を解消すべく、人事の秋山が、Teal型組織を実践・研究するビオトープの代表、佐宗邦威さんの元にうかがいました。
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佐宗 邦威
biotope 代表取締役社長
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニー(株)クリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』著者。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。
参考書籍
Reinventing Organization(邦題:ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現)
http://amzn.asia/6WFLyjG
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目的に合わせて自律的に生まれる組織
NP秋山
本日はよろしくお願いします。弊社でも組織の規模が大きくなり、今後どういった組織を目指していくのがよいか色々と試行錯誤しているところでしたので、Teal型組織がフィットし得るのかなども含めて、色々とお話しできればと思います。早速ですが、まずはTeal型組織とはどのような組織なのか教えてください。
佐宗さん
こちらこそよろしくお願いします。ご質問のTeal型組織とは、従来のようなヒエラルキー組織ではない、自律分散型を志向した「新しい組織ガバナンスのコンセプト」といえると思います。『Reinventing Organization(邦題:ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現)』という本で紹介されており、そこでは人類の歴史とともに組織の進化の過程がまとめられています。この本は、「未来の会社の姿を予言した本だ」と、後世の歴史で語られるかもしれない名著だと思います。
この本の思想に共鳴し、新しいマネジメントのスタイルを模索するコミュニティがヨーロッパの企業を中心にできており、今年の4月にギリシャのロードス島で行われていた集まりに行きました。ザッポスのホラクラシーのコンサルタントをしていた人など、各国の実践者が集まっており、その後、一部を自分の会社で実験して来た面もありますので、その視点でお聴きいただけたらと思います。
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フェーズ1: Red:型組織: ジャイアニズム
脅しによるガバナンス。 物事をスピーディーに動かすために脅しと恐怖で動かす。
フェーズ2: Amber型組織:身分制度型ヒエラルキー
身分の上下によるガバナンス。 古くはエジプトでピラミッドを造るために身分制による分業という概念が発明された。
フェーズ3: Orange型組織:アメとムチの能力主義
科学的マネジメント・アメとムチの能力主義によるガバナンス。 企業と雇用関係という契約。
フェーズ4:Green型組織:家族型組織
家族や仲間意識によるガバナンス。話し合いによる合意形成を元に、 関係性、ステークホルダー全体を大事に。
従業員をパートナー・キャストなどと呼ぶのが典型的な組織。合宿、ワークショップなどを頻繁に行っていく。集合知が集まりやすいので、いい商品ができやすい。CSRなどの責任が果たしやすい。
フェーズ5: Teal型組織: 生命体的組織
組織と個人の目的の擦り合わせと内発的動機によるガバナンス?
ボスがいない自律分散型の組織。一応法律上会社の社長は存在するが、意思決定は必要な構成員がその場その場で判断する。
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Teal型組織って「経営のOS」自体がそもそも違うので、とっても説明しづらいんですよね。いわば、WindowsでもMacでもなく、オープンソース型のLinuxを搭載した組織形態ですね。
平たくいうと、20世紀の産業革命によって生まれた「生産設備を所有し規模の経済を回していくビジネスモデル」に対応して作られたヒエラルキー型の組織モデル(上記でいうAmberや、Orange)から、インターネットによってフラットで自律分散型の組織モデルが成り立つようになり、「群れ方」のイノベーションが模索されているのだと思います。
どの組織も、比較的自律分散でフラットな組織を志向しているのですが、キャラクターはずいぶん違います。Green型組織というのは「SNS型家族」のようなもので、価値観の合う仲間と一緒にフラットな関係性でやっていくことを大事にした組織です。それに対して、Teal型組織は、組織のミッションや目的を絶対善とした上で、その目的に合わせてあらゆる意思決定を、自律分散で行っていくような組織です。
こういうチャートでかくと、順番に進化していくように見えるかもしれませんが、経営者の欲望の源泉によって最適な形は変わってくると思います。GreenとTealは、目的に合わせて自律的に生まれる組織という構造は似ていますが、私の解釈では、個人の目的と会社のミッションにズレが生じた時に、人一人ひとりを中心に据えるのがGreenで、会社のミッションを重視するのがTeal。
うちのようなデザインファームだと一人ひとりの個性を大事にしたいし、興味範囲も変わってくる。そういう時に、一つの目的をミッションと据え、Greenに進むかTealに進むかは、進化というよりも、組織のメンバーの志向性によるのではないかと考えています。NPOのような公益性の高い目的ベースで設立された出自を持つ組織は、Teal型が合っていると思います。
経営者が手放すかどうか
NP秋山
メンバーが目的に合わせて自律的に動く組織というのは、弊社がこれまで目指してきたものです。組織の進化フェーズでいうところのGreenに近い組織づくりをしていましたね。ただ、規模拡大に伴い、これから組織のカタチは変化すると考えています。Tealのように権限を個人に分散したいと思っていますが、本当にTealが適しているのでしょうか。会社のミッション、ビジョン、バリューなどを強く打ち出している一方で、個人の意志もかなり重視していて、まさにGreenなのかTealなのか、悩んでいるところです。
佐宗さん
難しいところですよね。ただ、Tealでは、経営者が、目的に対する意思決定権限を完全に手放す必要があると思います。組織をコントロール下から離れることを許すかどうか。一方で、Greenはメンバーが自律しながらも、実質的な権限は経営者が持っている組織です。
NP秋山
確かに、経営者がどのように関わるかは重要ですね。弊社は『奇跡の経営』という本の題材となったブラジルのセムコ社をベンチマークにしていますが、セムコ社は創業者がカリスマ経営者だと言われる一方で、その経営者がかなりの部分を手放している印象です。そのレベルまで経営者が達観すれば、組織がコントロール下から外れても気にならないのかなと。
佐宗さん
「気にならなくなる」というのは、その通りですよね。経営者が事業や会社に思いを持ってしまうと難しいような気がします。逆にいうと、組織のミッションを目の前にし、自分でコントロールしたいというエゴが出てこなくなるフェーズが来て、自然にTeal型に移行していくような気もします。
NP秋山
なるほど。ただ、思いを持たないというのは、難しいですね。弊社の場合、社長は創業者ではありますが、株主ではありません。そういう意味で、最初から権限をある程度は手放しているともいえますが、自分で事業や組織を作ってきた思いは強いですね。別の観点でいえば、資本構成上IPOを目指すことが前提となる場合、Tealでどこまでガバナンスが利くかという悩みもあります。
佐宗さん
基本的に、事業の利益を最大化するIPOの制度と、目的の達成度合いやそれに伴うメンバーの自己実現を最大化させるTeal型組織は思想が若干異なるものなので、合わせるのは簡単ではないとは思いますね。ガバナンスの思想としては、株式会社よりも、利益を全員でシェアするパートナーシップ型や組合モデルの方が合う印象です。実際に、Teal型組織を目指しているEncode.orgという会社は、LLCベースの組織を作る会社登記や就業規則などのガバナンスの仕組みを法的に提唱しています。
実際、NPOが自然と作っている組織がTealだったりもします。NPOのように社会的意義がすごく強く、参加しているメンバーが自律している組織にはマッチしているのかなと。どれだけアレンジされるかは、企業の文化によって変わるのではないかと思います。
矛盾したように見える会社で
NP秋山
まさに、事業体や組織文化によって目指すべき姿も変わりますよね。私たちがどのような組織体を目指すのがよいか悩んでいるひとつに、会社の特殊性もあるような気がします。
弊社の場合、100人強いる正社員のうち7割弱は新卒1~5年目なので、入社初期は自律を求めるという意味ではまだ個人の成熟度が低い。また、扱うメイン事業は決済。事業的には柔軟性を求めるよりも、安定・効率運用が求められ、それは個人の意志を大切にすることと相反するようにも思います。
ただ、実際にはかなりの部分をメンバーに任せています。例えば、新卒2~3年目の社員が自分のチームを持ってマネジメントを行なったり、その年の採用リーダーになったりしています。正社員はミッション実現のためのコア業務である企画とマネジメントをメインで行い、オペレーション系の業務はできる限り外部のパートナーにお任せするという組織の方針があるからこそ実現できること。なので、必ずしも事業によって制限されるわけではないのではと思っています。
そんな背景もあって、これからの組織の拡大に伴い、Greenでいくのか、Tealにするのか、Orange寄りになるのか、何が最適なのか答えが見えていません。
佐宗さん
面白い組織ですね。これから組織を拡大する上で、共通善というか、目的ってどんなものがありますか。Tealを目指すとしたら、世界観やミッションに共感する人を集めていくことになりますが、その時に人を惹きつける目的はどのようなものでしょうか?
NP秋山
それはミッションとビジョンでしょうね。弊社では「つぎのアタリマエをつくる」というミッションを掲げ、その中でのガイドラインみたいなものとして「7つのビジョン」を策定しています。一般的には、ビジョンで事業の定量価値を謳う場合が多いかと思いますが、弊社はもう少し風土寄りなビジョンにしています。
佐宗さん
なるほど、では逆に、このビジョンから外れる概念ってどういうものがありますか。Tealは、目的が明確な組織に向いているので、「これは違う」というものがある方が分かりやすいかなと。
NP秋山
いくつかあるんですけど、ビジョンには明記していない文脈の中で、全体最適・長期最大化を目指すという考えは相当強いと思います。「歪みがない」という言葉とも近いのですが、部分最適の集合が全体最適にはならないと考えているので、セクショナリズムのような考え方は排除しています。
また、多様な視点を統合することを大事にしているので、部署やプロジェクトを兼務する人が多いですね。例えば、私も人事のマネージャーと事業開発のマネージャーを兼務していますし、財務経理のマネージャーをやりながらシステムを担当している人もいます。流動性を持つことで、狭い視野で1つの部署に固定化し「自分の島」を作ってしまう人とか、属人性みたいなものは基本的に取り除いていますね。
一方で、一人ひとりのWillが最大化できている時が、会社としても力が一番出せている時だと考えているので、個の志を尊重することは意識しています。事業を実現するための従属組織ではなくて、事業も所属する個人も全て大事という考え方はかなり重要。つまり、個人の幸せと、組織として力を最大化すること、どちらにも力を入れているんです。
組織の話は、収益をどこに再分配するかの話
佐宗さん
収益基盤が弱いとただの理想論になりがちですが、ネットプロテクションズの場合、決済という収益基盤が安定しているからこそ、株主を満足させながら、同時に個人に寄り添うTeal的な組織を実現できているのかもしれませんね。
そう考えると、組織の話というのは、本質的には稼ぐ仕組みを作った後の収益の再分配先の議論のように思います。利益の使い方って、内部留保か、再投資か、株主に還元するかの3パターンあって、その運用方針が組織づくりと密接な関係にあります。個人のWillを最大化するためには、「従業員の働く意義を最大化すること投資した方が長期的な利益が最大化される」という共通認識を持てる株主や創業者がいることが前提なのかもしれません。
NP秋山
そうですね。弊社も社長が長期的な利益の最大化をかなり重視していますが、株主じゃないからこそ長期で考えられる一面はあるのかなと思います。会社の所有と経営が完全に分離しているので、短期的な株主利益だけを追う構造にはなりづらいというか。
佐宗さん
そう考えると、やっぱり経営者の視座と器が肝だなと思います。余ったリソースを何に再投資するのがいいと考えているのか、経営哲学に左右される気がします。
事業がうまくいっている時は誰からも文句が出ませんが、うまくいかなくなった時には再投資先に対して周りから色々言われると思います。その時に、経営者の本質が現れるんでしょうね。経営者の器によっては、会社の余力がなくなった時に、短期利益を追求するようになる可能性もあります。業績が悪くなっても、長期的な視点で従業員への投資を続けられるかという局面で、本当の意味で何を目指して経営しているかという思想が見えてくるのかもしれないなと思います。
NP秋山
その通りですね。業績を上げ続けるということも、非常に重要なポイントかと思います。また、どこまで従業員に投資をするかという話ですが、弊社では自分で事業をやりたいというメンバーに対しても、できるだけ支援したいと考えています。個人がゼロから事業をスタートするよりも、会社のリソースを使った方が成功確度も実現スピードも上がると思うし、そうすることでチャレンジしたいという人も増やしていけると思うので。まさに再投資の考え方だと思っています。
また、メンバーが会社を離れてからも関わりを持ち続け、近しいミッションを持つ企業や個人によって、企業という既存の組織の枠を超えたゆるいネットワークを作ることが自然だと思っています。
佐宗さん
本質的な話ですね。昔の日本の経営者は、従業員を大事にする人が多かった。それって、村社会的に長続きするエコシステムを作る方が良いという考えがあったと思うんです。短期的な利益を求められる今の時代においても、従業員に再投資することが、従業員満足度やクリエイティビティ、サービスの価値向上につながり、結果としては事業生産性を上げることに、勘がいい人は気づいているのかなと。GreenやTealの組織は、そういう意味では、「三方よし」を代表とする昔の日本の経営の考え方に通じるものがあると思います。
NP秋山
そうなんですよね。また、投資をしたメンバーが会社を離れることを受け入れる覚悟も大事。弊社では、一度辞めて再入社した、いわゆる出戻り社員が3人います。新卒で入社したメンバーは、他の会社の環境の方が良く見えたり、違う環境で力を試したいという気持ちが出てくるものです。そういう時に、外部の情報を制限して会社に留まらせるよりも、外の世界を経験してもらい、その結果、戻りたいと思った人が戻ることができる方が自然な流れだと思います。
個人的には、シリコンバレーのエコシステムが理想に近いです。シリコンバレーでは、お金も、人も、技術もオープンで、企業という枠組みを超えたコミュニティが出来上がっています。そのエコシステムは、日本人の気質にマッチしていると思います。短期的な利益のために閉じたコミュニティを作るのではなく「お互い様の精神」で長期的につながることができるエコシステムって日本人っぽいなと。
エコシステムを俯瞰すると、Teal型組織に近いような気もします。それぞれは別の会社だけど、同じような思想を持ってゆるやかにつながっている。それが一つのコミュニティのあり方かもしれませんし、自分たちが志向しているのはそっちであるような気もします。
経営技術と経営思想は分けて考えるべき
NP秋山
Tealは自律分散型の組織なので、事業規模拡大に向いているかどうかはまだ分かりません。ただ、ブラジルのセムコ社は数千人の社員がいても実施できているので、やり方はあるのではないかとも思っています。
佐宗さん
『Reinventing Organization』では、数万人規模の会社でTeal型経営を実践している会社の例が出てきます。一方で、セムコ社は扱われていないのですが、一つの説としては、セムコ社はTeal企業的な経営手法を使っているのですが、明確な目的に対してそれを活用していないという意味でTeal企業の例として入っていないのではと言われています。
「経営技術」と「経営思想」は違う話なので、分けて考えた方がいいのでしょうね。経営技術でいえば、Tealのような組織デザインをする会社は増えると思います。最近流行りの「ホラクラシー経営」もTealのひとつ。ただ、方法論を導入するだけではなかなかうまくいかないのでは、というのが経営者としての本音ですね。
柔軟なワークスタイルの環境を作るとか、従業員のエンゲージメントを高めるために一人ひとりのモチベーションを最大化するとかって、全て経営技術の話。でも、いくら方法論を導入しても、事業の提供価値に合わせて、思想や組織設計は変わってくるもの。それを考慮しないで、どんな会社でも成立するという技術論自体が、本質的ではない気がします。
それよりも、社会の中で会社がどういう役割を担うべきかとか、長期的に何を生み出すことを大事だと考えているかなど、経営思想から考えることの方が重要です。
NP秋山
私もそう思います。思想を深めきれずに技術だけを使おうとしても、うまくいかないのかなと。やはりその土台となる経営思想が重要で、さっきの話のように、結局は「経営者の器」が大切なのだと改めて感じました。
NP秋山
佐宗さんと話して、自分の中でのTealとGreenのイメージが変わりました。私のイメージだと、Tealは個が主張されて目的が多様にあり、Greenは大家族的に一つの理念やミッションのもとに集まっているイメージを持っていたんですが、ちょっと違うのかもしれないと感じました。
佐宗さん
お話ししたのは、あくまで、私の印象ですけどね。大事なのは、インターネットによって個人が力を持った時代における「ガバナンスのあり方の再発明」の試みが色々なところで行われているという事実だと思います。
インターネットの普及以前は、組織というのは構造が明確で秩序があるのが当たり前でした。それが、インターネットによって個人の自由を追求できる環境が整った。一方で、個人が自由にやるだけだと社会としての価値は抜け落ちる可能性がある。「社会における価値づくりと、個人の自由のバランスを取るための組織のルール」をデザインするための取り組みなのではないかなと思っています。有名なホラクラシーは、これを民主主義のような憲法をベースにした法によって実現している例の一つです。
ただ、このルールデザインのベースは何にするのが良いのか。法律か、お金か、はたまた信用か。この辺りは、今後様々なトライアルがされていき、新しい解が生まれてくるのでしょうね。私自身も、自分の会社なりの組織の目的と個人の自立性の擦り合わせ方を発明していきたいと思っています。今日は本当にありがとうございました。