青くさい理念をもつ会社にこそファンがつく? 3,000人超を取材したブックライター上阪徹さんの会社論

執筆者: 両角晴香
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青くさい理念をもつ会社にこそファンがつく? 3,000人超を取材したブックライター上阪徹さんの会社論

執筆者: 両角晴香

商品やサービスを購入する生活者から、組織に属している社員自身まで「応援したくなる」「ファンができる」会社。それらには、どんな特徴があるのだろうか。今回、その問いに答えてくれるのは、これまで3,000人以上を取材してきたブックライターの上阪徹さんだ。

上阪さんは、1994年にフリーランスとして独立。それから24年間、経営者や起業家、俳優、アスリートなど、数多くの著名人に取材してきた。話を聞き、多忙な彼・彼女らに代わって本を書き上げるブックライターの仕事もしている。また、昨年は経営トップを支えるエース級社員13人のスキルを紹介する『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス)や日本航空のグランドスタッフに焦点を当てた『JALの心づかい』(河出書房新社)を出版するなど、著者としても活躍している。

会社と、そこで働く社員を「外から」俯瞰して見つめてきたからこそ見える答えがあるのではないだろうか。会社の具体的な事例をご紹介いただきながら、上阪さんご自身の考えを伺った。

「青くさい理念」が会社の価値になり、長く続く要素になる

――上阪さんは多くの会社を取材してきて、「応援される会社」にはどんな共通点があると思いますか?

「どうしたら世の中の役に立てるのか」という志を持っている会社です。経営理念はその志を言葉にしたもの。社長が経営理念を明確に語れる会社は、お客さまに愛され、応援されるのではないかと僕は思っています。

正直、志というと「青くさい」と感じるかもしれません。でも、こうした青くさいことや理想がしっかり語られていることで、「誰のために、何のために働いているのか」をしっかり言語化でき、社員もそれを理解できる。そうすれば、全員が同じ方向を向いて仕事に取り組めるし、仲間もたくさん集まると思います。

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――具体的には、どのような会社がその定義に当てはまるのでしょうか?

たとえば、ソフトバンクがどうしてこんなに大きな会社になったのか。会長兼社長の孫正義さんは、ファンにサインを求められると「志高く」という言葉を書くのだそうです。そんな孫さんの師匠とも呼べる人が、元多摩大学の学長の野田一夫さんです。日本で初めてピーター・ドラッガーを紹介した人でもあります。

野田さんは若い頃からベンチャー企業の支援をしていて、孫正義さんのほか、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄さんやパソナグループの南部靖之さんも門下生と呼んでいい存在です。

野田さんは彼らにこう言うわけです。「孫くん、夢と志の違いがわかるか? 夢というのは、『車を買いたい』『家を買いたい』といった個人の未来の願望だ。一方、その個々人の願望をはるかに超えて、多くの人々の夢、多くの人々の願望をかなえてやろうじゃないかという気概を志というんだ。夢は快い願望だが、志は厳しい未来への挑戦だ。だから、志と夢ではまったく次元が違うぞ。夢を追う程度の男になってはいかん。志を高く持て!」と。

その言葉に孫さんは衝撃を受けたのだそうです。だから、高い志で、現在も行動し続けています。億万長者になっても、誰よりもタフに働いていますよね。なぜなら高い志があるからでしょう。そして志があるから、社員みんながついていけるんですよ。誰も、経営者の資産を増やすためだけ、利益を上げるためだけに働きたいとは思わないですから(笑)。

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お客さまを幸せにすることを考えたら、自然とファンは増える

――しかし、どんなに「世の中のために」と願っても、儲けを出さないことには会社はつぶれてしまいませんか?

おっしゃる通り、もちろんお金儲けは大事です。そこで、“何のために”お金儲けをするのかという視点に行きつくわけです。短期的な利益を追求しようとすればするほど、一時的には儲かるかもしれません。けれど、長続きはしないでしょう。

僕が著者として書いた『「胸キュン」で100億円』(KADOKAWA)では、創業15年で、年商100億円企業に成長した「ボルテージ」という恋愛アプリの会社についてご紹介しています。彼らがどのようにしてファンを獲得していったのか。それには理由があったのです。

モバイルゲームの世界は、ユーザーにどんどん使ってもらって、課金ができた方が儲かるんですよね。それこそガチャを回して、まるでギャンブルのように、散財してもらったら一番儲かるでしょう。でも、それをやったらどうなるか。ユーザーはいっぺんに疲弊してしまいます。
恋愛ゲームを始めたばかりの「ボルテージ」は、逆の発想をしたんです。あえて1日15分しか恋愛アプリができないよう制限をかけた。ユーザーに無茶をさせたくないと考えたのでしょう。なぜなら、作り手である彼らの最大のモチベーションは、ユーザーに喜んでもらうことだから。たとえ、儲けが減っても、です。

さて、では制限を設けられたユーザー心理はどう動くか。儲けようとしたゲームと逆のことが起きるわけですね。日々想いが募るんです。「またゲームがしたい」「あ~、早く明日が来てほしい!」と(笑)。その結果、「ボルテージ」は長期でファンを獲得することに成功しました。これは目先の利益よりもユーザーの幸福度を優先したために多くのファンがついた一例です。

――反対に失敗例をご存知であればお聞かせください。

ある企業の社長が40代のころ、オーディオ事業部を率いていたんですが、当時扱っていた商品のなかでどうしても他メーカーに勝てないゾーンがあったそうなんです。調べると、たった1つスペックで負けていることがわかりました。会社はそこには触れずにPRしたそうなのですが、それは消費者にはお見通しだった。結果的に、商品の売り上げは伸びなかったそうです。彼は言っていました。消費者というのは、恐ろしい存在だ、こちらの考えなどお見通しだ、と。

情報を隠そうとしたり、儲けることから発想している商売やビジネスは、消費者にすぐばれてしまうんだと思います。すぐにばれなくても、やがてはばれるんです。

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――利益を優先するなとはいわないけれど、そこを目的にしてしまうと、あらぬ方向にいってしまう可能性があるということですね。

そうですね。それでいうと、「結果にコミットする」CMでおなじみ「ライザップ」は、利益率を高く保ちつつ、しっかりと事業を継続しています。「高い」「儲け過ぎじゃないか」と思っている人もいるようですが、彼らは決してズルをしていません。お客さまを幸せにするだけの価値をきちんと提供しているんです。

実は僕も、『ライザップはなぜ、結果にコミットできるのか』(あさ出版)という本を書かせてもらうまで、ライザップについてよく知りませんでした。当時、周囲の評価は決して良くなくて、「ライザップって痩せるけどすぐにリバウンドしちゃうんでしょう」「短期間であんなに痩せるなんて。過酷なダイエットをさせているんじゃないか」など、いろんなことを言われました。

しかし、本を執筆するにあたり、経営者の瀬戸健さんにお会いし、店舗に足を運んで、僕自身も2カ月間お客さまの立場でライザップを利用することで、企業イメージが180度変わりました。

ギラギラした会社かと思いきや、浮き足立ったところがまるでありませんでした。ガンガン業績が伸びているのに、とにかく謙虚だった。理念の「人は変われる」を証明する、を本気で信じているんです。そして、「痩せたい」「英語を習得したい」といった自己実現を目指す方たちのお手伝いをしている。極めてロジカルなんです。実際、お客さまに喜んでもらっているから、利用者のリピーター率7割という実績がある。紹介も多いんです。不満があったら、誰がリピーターになったり、紹介したりしますか。

――しかし、人気がある一方でアンチも多いような気もします。

いるかもしれませんね。でも、彼らは全方位にウケようとは考えていないような気がします。わかってもらえる人に、わかってもらえばいい、と。CMもいろいろ言われていますが、変えないですしね。インパクトがあって、結果を出しているから。大事なことは、ちゃんと結果が出ることです。結果がきちんと出て、支持してくれる人に支持してもらえているのであれば、それでいいんじゃないでしょうか。もとより日本人全員に支持してもらえるなんて、ありえないですし。

実は、応援される企業には一定数のアンチも多いと思っています。アンチが多いからファンも多い。出版界にも、そういう会社がありますね。アンチも多いけど、それ以上にコアなファンが多いんですよね。自分たちのやりたいことや思いを貫き、時には振り切ることも大切なのかもしれません。 

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会社は「従業員満足度」を追い求め、社員は「顧客満足度」を追い求める

――ファンが多い企業は、経営トップはもちろん、社員一人ひとりの志も高いですよね。社員の情熱が伝わるから、そこからさらにファンが増えていく印象です。そうやって浸透させるコツはあるのでしょうか。

先日取材した会社で、おもしろい話を聞きました。その会社は経営理念の冒頭に「社員を大事にする」と書いていたので「会社にとって一番大事なことは、お客さまじゃないんですか?」とお尋ねしたんです。すると「それは間違っています」と。「会社が一番大事にするべきは社員で、社員が一番大事にすべきはお客さまである」とキッパリおっしゃいました。なるほどと、妙に感心してしまいましたね。

会社がお客さまばかりを大事にしたら、社員はおざなりになってしまいます。だから会社は社員を大事にする。そして、社員はお客さまを大事にするんです。このステップを踏むことが大変重要なのだと思いました。

ほかの例でいえば、国内最大級のECショップ「ZOZOTOWN」を運営する「スタートトゥデイ」。昨年夏に時価総額が1兆円を超えたことで話題になりました。時価総額は企業の将来の期待値ですので、まさしく「応援される会社」なわけです。急成長中ですから、さぞやハードに働かれているのだろうと思いきや、仕事が終われば15時に帰れる※のだそうです。社員が豊かに暮らせるために幕張に本社があって、幕張周辺に家を構えると5万円の家賃補助も出る。職場恋愛大歓迎で同棲すれば2人で10万円です。すべて社員の幸せを思ってのことです。
※2012年から朝9時から午後15時まで働く「6時間労働制」を導入。

シンプルに考えればいいんだと思いますよ。働いているのは社員であり、社員が売り上げをつくり、利益を上げていることを経営者が理解すること。それを理解できている会社は、社員のために何をするかを、まっすぐに考えていますよね。だから、社員も頑張れる。

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――お話を聞いていて、人は与えられると、人に与えたくなるものなのだと思いました。

まさしく、そういうことです。与えられること以上の幸せは、ないんだと思っています。それこそ、なぜ世界で一番お金持ちのビル・ゲイツが、世界最大の慈善基金団体を作っているか。ほかにも、慈善活動に積極的に取り組むお金持ちは多いですよね。それは人に何かを与えられていることが大きな幸せだからではないでしょうか。また、そういうことを社員に教えてあげられる会社は幸せだし、理解できる社員もまた幸せだと思います。

――最後に、上阪さんの志を教えていただけますか。

僕は、人の幸せに関心があるんです。成功じゃなくて、幸せです。そのために知っておいたほうがいいことをいろんな人にお聞きして、書くことによってたくさんの人に提供して、幸せに近づいていってもらえたらと思っています。幸せの基準は人によって違うので、いろんな形の幸せのあり方をご紹介できたらなぁ、と思っています。

……ほら、すごく青くさいでしょう?(笑)。つまるところ凡庸な言葉に落ちていくんですよ。大きな影響範囲を持つ企業のビジョンは「幸せ」や「感謝」なんて言葉が使われていたりします。要は、「何が役に立つんだっけ?」「どうしたら人を幸せにできるんだっけ?」と、シンプルに世の中をよくしていこうと考えているということです。そういう会社は、そういう行動をしていく。そして、おのずとファンがつき、人気が出て、そして長く愛されていくのだと思います。

(文・取材:両角晴香 編集:ノオト 撮影:栃久保誠)

 

上阪徹さん
1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。これまでの取材人数は3000人超。主な著書に『JALの心づかい〜グランドスタッフが実践する究極のサービス』(河出書房新社)、『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか』(東洋経済新報社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)、『書いて生きていくプロ文章論』(ミシマ社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『リブセンス〈生きる意味〉』(日経BP社)など。

執筆者:両角晴香
フリーライター。福岡生まれ広島育ち。広告制作会社を経て2010年に独立。「上阪徹のブックライター塾」2期生。得意分野は働き方、自己啓発、エンタメ系。編集協力に、『成約率98%の秘訣』(かんき出版)、『バカ力』(ポプラ社)など。趣味は旦那さんと過ごすこと。
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