
プロデュースや編集、人事・組織のコンサルティング事業、出版事業、幼稚園・保育園の環境支援事業、地域活性事業、アーティストのプロデュース事業……。わずか12人の会社ながら、アソブロックはこれだけ多岐にわたる事業を展開している。
「社員がやりたい事業しかしない」と明言し、「一致団結しない」を合言葉にそれぞれのスキルアップによって人材を育成。中途採用が多いのかと思いきや、新卒社員もしっかりと採用している。さらにその採用方法も特殊だ。二人一組でしか内定を出さない「コンビ採用」など、一風変わった制度を設けている。
このような自由な社風を面白く感じる一方、「会社のビジョンの共有は難しいのでは?」「新入社員をきちんと教育できるのか?」といった疑問も頭をよぎる。はたして、アソブロックはどのような組織づくりを行っているのだろうか。代表の団遊(だん・あそぶ)さんに、その実態についてお話を伺ってきた。
会社、社会、個人のすべてが幸せでないなら、会社が存在する意味はない
――アソブロックさんはものづくり集団として、幅広い事業に取り組まれています。団さんが考える会社の理想の姿について教えてください。
これからの世の中は、誰もが自律的にキャリア形成をしていく必要があり、そのために会社はその支援機関(=学校)であるべきだと思っています。「会社」「社会」「個人」。この3つを良くしていくのが会社の理想の姿ですが、私たちは圧倒的に「個人」にフォーカスしています。
これは「会社」と「社会」を下に見ているのではなく、「個人」が幸せになれば「会社」も良くなり、「社会」も良くなると考えているから。もし「会社」と「社会」が幸せでも、「個人」が幸せじゃければ意味がないのではないでしょうか。
そのため、アソブロックでは「自社社員、外注会社、ビジネスパートナーなどアソブロックに関わる全員の成長支援を第一に考える、育ちの場であること」をビジョンにしています。
――個人に重きを置く会社が、社内でビジョンを共有するのは難しいことではありませんか?
社員が会社のビジョンにメリットを感じれば、自然と共感してくれます。もし「ビジョンがなかなか浸透しない」と悩む会社があるなら、それは個人(社員)にとってメリットがない場合ではないでしょうか。
――あくまで個人を中心に捉え、結果的にうまく回っていくのがアソブロックという組織である、と。
そうですね。誰も必要としない組織はいっそ潰れた方がいいですから、アソブロックも必要なくなればいつなくなっても構いません。「今年も会社を続けますか?」と、毎年社員に聞くようにしています。それでも会社が16年潰れずに残っているのは、社員やお客さまから必要な場所だと思われているからだと思います。もし誰にとっても「必要ないな」という存在になったら、さっぱりと解散したいですね。
会社の使命は倒産しないことではなく、会社がなくなったときに関係するすべての人が路頭に迷わない状況を作っておくことです。だからこそ、アソブロックは社員の自立を大切にしています。
上場目指すも社内は不満だらけ……失敗が組織づくりを考え直すきっかけに
――個人を大切にするという考え方は、創業時から一貫しているのでしょうか?
いや、実はそうじゃなかったんです。創業時は上場を目指して奔走していました。社員数も売り上げも今より多かったのですが、社員は不満だらけで社内は殺伐としていて……。当時は「全員にとって幸せな会社なんて無理だし、この状況もしょうがない」と思っていたんですよ。
けれど、売り上げや利益もだんだんと落ちてしまい、社員も、社長である自分すら、会社に行くのが嫌になるほど、社内の雰囲気がどんどん悪くなっていきました。そこから、組織づくりについて考え直すようになったんです。
――どういうところから手を付けていったのでしょうか?
「個人」に重きをおけば仕事を楽しめるのではないかという考えから、リーマンショックが起こった2008年頃から組織改革を始めました。しかし、当初は今の働き方改革のように、まず働くスタイルを変えることがメインでしたね。
以前は会社の存続を目的に、カンパニーサイトの運用など売り上げを確保する事業を手掛けていました。「これは社会のためになるから」と、社員を説得して仕事をしてもらっていたんです。でも、社員のやる気はどんどん落ちてしまっていましたね(苦笑)。
それで就業体制をフレックスにしてみたりリモートワークにしてみたりと、働き方の柔軟性を担保してみたのですが、これも結局「やりたくないことを我慢してやってもらうためのテコ入れ」に過ぎませんでした。そこで2011年ごろ、働くスタイルにこだわるのではなく、会社のあり方を考え直すことにしたのです。そこから、「社員一人ひとりが自分のやりたい事業をする。それが特にない人は今ある事業の中で、少しでも興味のあることをする。誰もやりたくない事業はやめる」という方向に転換しました。
社員のやりたいことを事業にするのが一番のモチベーションアップになる
――好きなことが仕事になると、社内の志気も上がりますよね。
そうですね。会社側が社員のやる気を引き出してモチベーションをアップさせようとするのは、やりたくないことを無理にやらせようとしているから起こるわけです。社員のやる気や自主性が生まれてこないのは、社員がやりたいことをさせてもらっていないから。やりたいことだけをしていれば、多くの人は自主的に取り組みます。アソブロックでは現在、社員がやりたい事業しかやっていません。
ただ、好きなことだけで食べていくのは簡単ではありません。だからこそアソブロックではそれを学んだ上で、自分のやりたいことで食べていけるサポートを行っています。世の中の一定数の人が、仕事=お金をもらうための我慢料という構造に追いやられているのは、「やりたいことをビジネスにする」力がないから。この力を学ぶのが、アソブロックという場だと考えています。
――具体的に社員が「やってみたい」とチャレンジして始まった新規事業はありますか?
現在、英語×演劇の複合ワークショップ「ぷれいご」や、コミュニケーション力の向上に取り組む「ドラマジック」といった研修プログラムを提供しています。これは、元役者の社員が始めた事業です。実際に「取り入れたい」という会社さんが多くいたため、長く続けている事業の一つですね。
――「好きなことを仕事にする」となると、自らの仕事量や質をコントロールするのが難しいように思います。ほかの会社にはない取り組みがあるのでしょうか?
「兼業推進制度」や「年俸宣言制度」を設けています。そのため、新卒社員以外は全員兼業している状態ですね。なかには月に1回しか来ない社員もいますよ。年俸宣言制度は、その名のとおり「今年はこの額の年収がほしい」と宣言してもらい、自分で年収を設定する制度です。
――社員によっては、働きに見合わない年収を要求したり怠ける人が出てきたりなど、問題は起こらないのでしょうか?
これについてはよく質問されます。ですが、給料の目安となるような売り上げの係数も用意していますし、そもそもアソブロックでは、誰が売り上げをどれくらい立てていて、会社全体の粗利がどれくらいで、誰がどれくらいの給料をもらっているのか、社員全員が把握できるようにしています。そのため、働いた分以上の給料を要求してくる人はまずいません。むしろみんな控えめな申告で驚きます。
また、兼業をしていると給料がそのまま総所得につながらないことも、この制度が成り立つ要因だと思います。社員にはやりたい仕事をしてもらっていて、どれくらい給料をもらっているのか周りのみんなも把握しているというのもあり、怠ける人もいないですね。
社員へは期待しないが、社員には自分自身を期待してほしい
――新卒採用では「コンビ採用」など、一風変わった採用スタイルを取り入れています。その背景や狙いをお伺いできますか?
「コンビ採用」は、人によっては「ふざけてる」と思うような採用方法を面白がれる人が、この会社にフィットすると思ったからですね。あと小さい会社だと同期ってなかなかいないと思うので、ライバルごと入社してもらった方がお互い切磋琢磨してくれると考えたのもあります。
新卒社員の教育は、基本的に私のアシスタントとして編集の技術とビジネスを学び、経験を積みます。その間に「果たして自分は何がしたいのか」「どうなりたいのか」ということに向き合う時間を設けています。会社としては、今ここにいる必要があればぜひ在籍してほしいし、残念ながらいる意味がなければ笑顔で送り出します、というスタンスでいます。
また、教えるべきことは「見て学べ」ではなく言語化して伝え、論理的に理解してもらうことを心がけています。その社員が成長できるよう、意図的にストレスがかかる状況をつくるのがポイントでしょうか。一定のレベルまで来たら、次に「やりたいことをビジネスとして成立させる力」を身につけるためのステップに移行できるよう考えながら教育しています。
――アソブロックの採用には、どのような人が応募してくるのでしょうか。また、どういった採用基準を設定していますか?
今はまだ実力がなくても、「何かに挑戦したい」という意思を持った人が集まってきますね。採用においては、その人を応援したいと思えるかどうかを見ています。
こう説明すると、なれ合った関係のように思われるかもしれませんが、一方で実は「お互いが期待しない」ことを大切にしています。人は他人ではなく、自分自身に期待することが健全な姿ではないでしょうか。会社の役割は、社員が掲げる目標を手助けするような環境づくりにあります。社員は会社のためではなく、自分のために生きてほしいですから。
――自立した関係性ですよね。社員同士のコミュニケーションは活発でしょうか?
全体的にチームでなければできない仕事は少ないかもしれませんね。ただ、社員同士で仕事をする場合は、責任のありかをはっきりさせて、取り組んでいる内容を言語化するように気をつけています。ビジネスにおいて、あうんの呼吸を期待する情緒的マネジメントは個人の怠慢だと思いますし、ダイバーシティの考え方にも反します。そのため、物事をはっきりさせるコミュニケーションを大切にし、社内ではポジティブもネガティブも含めたオープンな情報交換を心がけるようにしています。
――最後に、団さんが考える理想の組織、理想の働き方とはどんな姿でしょうか?
社員も会社もお互い成長実感を持って、より多くのいい影響を人や社会に与えることができるモノやコトを作れる組織でしょうか。もちろん給料がいいというのも大事ですが、この場所(会社)にいることで自分が幸せでお互いを思い合えるような関係が理想ですよね。その状態を目指して、関係者が日々改善していけるような状況が、理想的なものづくりの会社の姿ではないでしょうか。
そもそも、仕事は多くの人が1日の大半の時間を費やすものです。現在は働き方改革が推進されていますが、リモートワークなど働くスタイルの柔軟性を行うだけが改革ではありません。個人がそれぞれ内的な動機づけをもちながら、頑張って仕事できる状況を作ることこそが働き方改革だと思います。
「我慢代が給料」みたいな構造から脱却し、いかに個人が働きやすい環境を作り出すか。これが今後の組織づくりに必要なのではないでしょうか。
取材協力:アソブロック株式会社 団遊
アソブロック代表であり、団チームのチームリーダーを担当。モノやコトをつくるプロセスが、関係する人の「育ちの場」になると考え、「あらゆる人に成長の機会を提供すること」をモットーとしている。名前からも分かるように、人生を「アソブ」ために生まれた男。
▼アソブロック株式会社:http://www.asoblock.net
(取材・文:中森りほ 編集:松尾奈々絵/ノオト 撮影:栃久保誠)