デコボコの「デコ」の部分を伸ばす教育を。異才発掘プロジェクトROCKETが目指すもの

デコボコの「デコ」の部分を伸ばす教育を。異才発掘プロジェクトROCKETが目指すもの

 

ユニークな才能を持つ子どもたちが、自分らしさを存分に発揮するための教育プログラムをご存知ですか?

日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが共同で主催する「異才発掘プロジェクト ROCKET」というプログラムです。ROCKETは、「Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents」の頭文字をとったもの。志とユニークな才能を有する子どもが集まる空間です。

対象は、突出した能力を持ちながら、現状の教育環境に馴染めず不登校傾向にある小・中学生。書類選考と面接で選ばれた「スカラー候補生」には、科学技術や芸術、スポーツ界など様々な分野で活躍するトップランナーによる講義やディスカッション、料理や工作など身近なものを題材にした実践型の教育プログラムを提供しているほか、一人ひとりの興味に応じた個別指導も行っています。

 

スカラー制度

 

異才と聞くと「天才」を育てるプログラムをイメージするかもしれませんが、選抜された子どもが異才であると評価しているわけでもなく、万能な天才に育てるプロジェクトでもないとのことです。

ではなぜ、ROCKETを立ち上げたのか。
現在の教育に対して、どのような課題感があったのか。
才能を伸ばすために、どのように子どもたちとどのように接しているのか。

日本財団でROCKETプロジェクトの担当をする、高島友和さん、吉田ももさんにお話を伺いました。

 

文中1

高島友和
日本財団ソーシャルイノベーション本部公益事業部国内事業開発チームリーダー

 

文中2

吉田もも
日本財団ソーシャルイノベーション本部公益事業部国内事業開発チーム

 

 

デコボコの「デコ」を伸ばす

ーー本日はよろしくお願いします。早速ですが、ROCKETを立ち上げた背景について教えていただけますか。

高島)
日本財団では、様々なパートナーと一緒に事業を展開していますが、内部の職員が事業を発案することもあります。ROCKETはその中の一事業です。その時の課題感というのは、子どもの支援として、デコボコの「デコ」の部分、つまり突出した部分を伸ばす教育があってもいいのではないかということです。落ち着きが無い、人とのコミュニケーションが得てでない、一つのコトに集中しすぎる、そんな子どもがいたとして、へこんでいる部分を平らにすることに着目し過ぎず、尖っている部分を伸ばす教育があっていいんじゃないかと。

そもそも、日本の公教育は、30-40人の子どもを先生1人で見ていますが、そこに無理があるかも知れないと思っています。子どもは一人ひとり違います。これまでの公教育では、良い意味で平準化してみんなで学ぶということをやってきましたが、それに適応できない子どもが増えつつあります。

特に、「発達障害者支援法」が施行された2005年頃から、親や周りが、少し変わった子を「発達障害じゃないか」とラベルを貼るようになったのではないでしょうか。昔だったら、やんちゃとか元気過ぎるとか落ち着きがないと言われていた子が、発達障害と呼ばれる。その結果、個別の対応がより多く求められるようになったのではないかとも思います。

当然、先生方は個々の関心に応じた探求のサポートを考えて、実践していらっしゃると思います。ただ、現実として、現在不登校の子どもは13万人います。さらにいえば、学校には行きながら、授業を聞いていなかったり居場所がなかったりする「仮面登校」の子も少なからずいるのではないかと思います。

そういうお子さんがいるということは、一人ひとりの子どもに対する答えを現在の公教育だけでは完全には提供できていないということ。だから、そこに向けて打ち手を打っていきたいと考えて、ROCKETをスタートしました。ROCKETの「R」はRoomです。公教育の中で居場所を見出だせなかった子たちの第三の学びの場として「大丈夫だよ、ここでやりたいことをやりなよ」と伝えています。

 

ROCKETのプログラムの柱のひとつであるトップランナー講義の例。
海外研修2016 議論の風景。希望者から選ばれた6人がアウシュビッツなどへ。見て学ぶだけでなく、議論をするのがROCKETならではかもしれません。(提供:日本財団)

 

挑発に対して、返答があるか

ーー公教育の枠からずれる子はたくさんいると思いますが、その中でもROCKETの対象となる子はどういう子なんですか?

吉田)
「異才」という言葉を使っているので、「特別な才能がある人」というイメージがあるかもしれませんが、要は、「今の学校で不登校になっている子どもを対象に、自分らしく生きられる子を増やす」ことが目的です。そのため、一つのゴールは、子どもたちが好きなことを仕事にして、食べていける状態にすること。そんな前提があるので、好きなことに対してどれだけ強い意志を持っているかは選考基準の一つです。

その意志を計るキーワードは「挑発」です。例えば、小説を書くのが好きな子がいた時に、褒めたりせず「文学賞に出してみれば?」などといって、一回突き返します。それに対して「なにくそ!」と思ってやりきる子もいれば、その瞬間「自分はまだまだだな」と我に返って、公教育に戻る子もいます。ROCKETに応募する子は、自分に対して万能感を持っている子も多いんですよね。挑発することで、その万能感が「社会に出して恥ずかしくない自信があるものか」、自分に問い直してもらっているんです。その上で、自分の万能感に対して挑戦できる子がスカラー候補生の対象ですね。

PBLで、発酵茶「碁石茶」の作り方を学ぶため、限界集落発祥の地といわれる高知で合宿。
PBLで、発酵茶「碁石茶」の作り方を学ぶため、限界集落発祥の地といわれる高知で合宿。(提供:日本財団)

さらに、面接ではほぼ毎回「自分のパンツを自分で洗っているか」ということを聞きます。これは、ROCKETを一緒にやっている東京大学最先端科学技術研究センターの中邑教授が掲げる「パンツ理論」というものなんですけど、毎日パンツを洗うことから色々学べて、それが自分のやりたいことにつながってくるという話なんです。

この質問に対して、ほとんどの子が自分でパンツを洗っていなくて、お母さんがやっていると答えます。でも、例えば「政治家になりたい」という子なら、自分で毎日パンツを洗っていたら洗剤の値段が上がることに敏感に反応し、主婦の気持ちをわかった上での政治につながります。また、「ロケットを開発して打ち上げたい」という子なら、洗濯をして天気を毎日見ていたら雲行きを見る力がつきます。打ち上げの時に天気の変化を理解できず誰かに委ねていたら、自分でロケットの発射ボタンを押せませんよね。つまり、自分のやろうとしていることに対して、どこまでリアリティを持ち、普段の行動を紐付けているかを問うんです。

挑発は、選考の時だけでなく、スカラー候補生になってからも続きます。そうやって様々な挑戦を繰り返しながら、最終的にはROCKETスカラーを目指します。ただ、スカラーは本当に突き抜けて実践している子どもたちになるので、プログラムを開始して3年経つ現在では、まだスカラーは誕生していません。

スカラー候補生の親としても「この子たちって会社に行けるのかしら」「学校に行ってないのに就職できるのかしら」という不安がある中で、自分の好きなことで生きていける状態なっていない子どもをスカラーにしてしまうと、本人も親も「大丈夫なんだ」と気を抜いてしまう可能性があります。だから、自分の力で生きる力がつくまでは、スカラー候補生として、挑戦を続けてもらいます。

 

徹底的に型にはめない

ーーそれぞれが「やりたいこと」がどこまで本気なのか、常に問い続けているのですね。一方で、ROCKETのプログラムでは、それぞれのやりたいこと・優れている部分の学習に特化するのではなく、その興味に対する探究心を深めたり、領域を横断してプロジェクトを遂行するための力を学んだりする側面が大きいような印象がありますが、どのような意図があるのでしょうか?

吉田)
型にはめたくないという思いが強いですね。優れた部分・得意な部分を伸ばす教育には「ギフテッド教育」がありますが、それは、特定の領域に対して大人がすでに持っている理論や、確立された学びを提供すること教育です。しかし、新しくて、もっとイノベーティブなことをするには、自分たちで学びの方向すら見つける必要があると考えています。

高島)
実際、ギフテッド教育なのかと親御さんから聞かれることは多いのですが、明確に違うと答えています。すでにあるものを伝えるのではなくて、子どもの可能性を伸ばすことが軸です。「こういうことが好きなら、この学びをしなければいけない」と型にはめるのではなくて、色々なことから自分で結びつけていく力をつけてほしい。そういう想いから、今のカタチになったのではないかと思います。

 

ーープログラムは準備しつつも、あくまで子どもの可能性を伸ばすために型にははめないということですね。それだけ多様な子どもがいて、さらに将来「自分の力で生きていけること」を目標にしていることですが、子どもとのコミュニケーションで意識していることや気をつけていることはありますか?

吉田)
私たちとしては、親とは違う「大人」として子ども達と向き合うことは意識しています。例えば、親は子どもの才能を少しでも感じたら「そこを褒めてあげないと」という気持ちになって、ものすごく褒める方もいます。ただ、過度に褒めると、子どもが実際の社会に出た時に、実力が全然足りなかったとショックを受ける場合もあります。そういうことも踏まえて、私たちはある意味では親より厳しく、子どもも大人も関係なくフラットに接します。社会に出たときの体験ができるように、ありのままのことを伝えます。無責任に「いいね」というのではなく、「社会の目」を体験できるように注意しています。

一方で、純粋にすごいと思ったことは、その気持を伝えます。プロジェクトでどう接するかが決められているわけではなく、ある意味では普段人と接しているように、自分の立場で向き合えばいいのかなと。子どもにとっては、いろいろな目線がある方が良いと思います。

 文中5

高島)
また、自分の常識を一方的に強要しないことは大切かもしれません。以前、「子どもたちと旅をする」というプログラムを行った時、子どもたちに「おはよう」と言ったら返事がなかったことがあります。一瞬驚いたのですが、このプロジェクトでは挨拶を強要していないんです。確かに、それがその子の特性と言われたら、そんなものかなとも思いました。子どもに対する許容度は、自分の中でも徐々に広がっています。

吉田)
まさに、挨拶をしなかったら「挨拶をしなさい」というのが今までの教育ですが、そうではなく、その子に対して「どう接すればよいのか?」ということを、一緒に考えていく必要があります。

例えば、暴力を振るってしまう子に対して「暴力はダメ」と言っても、その子は変わりません。「その表現の仕方はダメだよ」とはっきり伝えつつも、なぜそれがダメなのか、どう表現すればいいのかを一つひとつ丁寧に考えるのが、難しさかもしれません。

 

ー「常識」という範囲が広いのだと思いますが、「暴力を振るってはダメ」のように、何かしてはいけないことの基準になるのでしょうか?

高島)
「相手が嫌がることをしない」というのは大切だと思います。子どもたちにとっては、自分のやりたいことを突き詰めて、自立できるようになることがゴールです。そう考えた時、人が嫌がる行動は、自分がやりたいことを実現するための障害になると思うんです。

やりたいことを一人で突き詰めるのもいいかもしれませんが、例えば、自分のやりたいことを周りに翻訳してくれる誰かがいた方が、自分のやりたいことがさらに広がることもあります。そうであれば、そういう人とコミュニケーションするスキルは持っていた方がいいじゃないですか。

スカラー候補生には、一つのことに集中して突き詰める系の子もいれば、いろいろなことに問題意識を持って発信しようとするオールラウンド系の子もいます。真逆ですが、2人が一緒にすることで伸びていく部分や大成することもあるんじゃないかなと思っています。だから、相手の嫌がるようなコミュニケーションをしてしまったときは、どう表現すればいいのかしっかり考えたほうがいいのではないかと思います。

 

ーーあくまで「やりたいことで自立する」という視点に立ち返った時に、障壁になるようなコミュニケーションはやめよう、ということなんですね。最後に、ROCKETの今後の展望を教えてください。

高島)
ROCKETをスタートした当時から、公教育を否定しているのではなく、現在のシステムで解決できていない課題を解決するモデルの実践というスタンスでいます。最近、私たちの間でもよく話すのですが、今は家庭、学校に対する「第三の場」として存在していますが、ROCKETのような場所が、学校の中に包含されていくようなイメージは持っています。包含といっても、ひとつの固定化されたプログラムがあるのではなく、柔らかい感じで教育の中に溶け込んでいるようなイメージです。ただ、40人学級の中で、「何人かがROCKET教室に通う」というものなのか、「40人それぞれにそれぞれのROCKET教室がある」というものなのか、まだ答えは出ていません。

そもそも、学習指導要領が変わるのは10年毎なので、公教育へのアプローチができるのは次の改正のタイミングまで待たなければならないかもしれません。ただ、景色が変わるタイミングを意識しながら、それに向けて打ち手を打つ必要はあります。そう考えて、今後のROCKETの方向性も議論していければと思います。

文中6

 

執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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