スポットライトの当て方次第で無機質な場所は輝き出す-お菓子売り場をワクワクする空間に変えるカルビーの新たな挑戦

スポットライトの当て方次第で無機質な場所は輝き出す-お菓子売り場をワクワクする空間に変えるカルビーの新たな挑戦

 

「これまでにない」じゃなく「ずっとそばにあった」
そんなコンセプトを掲げた、新しいカタチのお菓子ブランドショップがあるのをご存知でしょうか?

2017年10月にルミネエスト新宿にオープンした「Yesterday’s tomorrow」という店舗です。Yesterday’s tomorrowは、日本のお菓子メーカー約120社から、ロングセラー商品、限定品、地元だけにあったお菓子を集結したお店です。

このお店の注目すべき点は、お菓子メーカーであるカルビーが運営していること。自社のアンテナショップも持つカルビーが、なぜ新たなコンセプトを掲げ、他社のお菓子も一緒に販売しているのでしょうか。

 

店舗では様々なメーカーのお菓子がかわいく陳列されています
店舗では様々なメーカーのお菓子がかわいく陳列されています
昔ながらのお菓子もたくさんあります
昔ながらのお菓子もたくさんあります
量り売りもあり、好きなお菓子を好きな分だけ買うことができます
量り売りもあり、好きなお菓子を好きな分だけ買うことができます
お菓子だけでなく、かわいい雑貨も豊富に扱っています
お菓子だけでなく、かわいい雑貨も豊富に扱っています

この店舗を手がけるのは、カルビー上級執行役員の鎌田 由美子さん。

鎌田さんは、JR東日本時代に「エキナカ」や、地域活性化プロジェクトなど、数々の新規事業を手がけてきました。今回の挑戦で、お菓子業界にどのような変革をもたらそうとしているのか。挑戦し続ける根底にある、仕事への思いとは。

お菓子業界で次のアタリマエに挑戦する鎌田さんに迫ります。

 



 
鎌田 由美子(かまだゆみこ)
カルビー上級執行役員
大学卒業後、JR東日本に入社。大手百貨店出向や駅ビル等勤務をへて、2001年よりプロジェクトリーダーとしてエキナカを手掛ける。


「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長を務めた後、JR東日本事業創造本部にて「地域活性化」「子育て支援」を担当。駅型保育の拡大や、シードル工房青森「A-FACTORY」、越後湯沢駅改良、地産品ショップ「のもの」などを手掛ける。JR東日本研究開発センターフロンティアサービス研究所副所長を経て、2015年2月にカルビーに転職。現在はカルビー上級執行役員。

それまでとは違ったアプローチでの新規事業立ち上げ

ーー Yesterday’s tomorrowは他社のお菓子も販売するこれまでにない新しい取り組みですが、カルビーに転職してから事業を立ち上げるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

私がカルビーに転職してきたのは、3年前の2015年。前職のJR時代には、無機質な駅構内を食事や買物ができるワクワクする空間に変える「エキナカビジネス」や、地域活性化事業の立ち上げに関わっていたので、カルビーでも新規事業ということで声をかけてもらいました。

ただ、カルビーではゼロからアイディアを見つける必要があったので、戸惑いました。なぜなら、それまで私が取り組んできたのは、会社としてやらなくてはいけないという方向性が決まっている中での新規事業だったんです。

例えば、エキナカの時は「駅」をどう考えるか、青森でシードルを作った時は「新幹線の開業に合わせて地元が喜ぶものは何か」と。その中から取り組むテーマを決めていました。ところが、カルビーでは何か新規事業を、しいていえば「食」に関わるものかなぁ、という感じでした。

さらに、転職したばかりだったので、社内のことがよくわかりません。イントレプレナーとして新しいビジネスを作るときは社内の人脈や資産を活用しますが、私にはそれができませんでした。誰が何の得意分野を持っているのかも、会社にどんな技術資産があるかもわからなくて。「どこから手をつければいいのだろう?」という感じでした。

どうすればいいかわからないなら、まずはやりたいことをやらせてもらおうと思って、「ベジップス」という素材の味をそのまま引き出した野菜チップスの技術を活用し、国産のこだわり野菜を使った商品を従来とは異なる販路で販売することを試みました。伝統野菜や希少価値のある素材は量も少なく、販路も広くないので、加工までなかなかいきつけない。でも、B級品は出る。お土産にもなり、その地域で暮らす人が喜ぶ商品を地元と大都市マーケットで売れないかと思い、惣菜の有名ブランドとコラボさせていただきました。

ただ、実際にはお互いが思ったほど売れませんでした。売れない商品の製造ラインは、すぐに撤退となってしまいます。継続させるためには、大きなビジネスを作って、少量生産商品も賄えるようにしなければならないということを学びました。

 

スポットライトの当て方を変えることで、魅力を引き出したい

ーーこれまでのキャリアと全く違う環境で、最初からうまくいったわけではないのですね。その後、なぜ新事業体立ち上げに至ったのでしょうか?

入社して半年ほど経つ頃、「Calbee+」というアンテナショップを担当することになりました。Calbee+では、店内で生のじゃがいもから揚げたてのポテトチップスを提供したり、ギフトに使えるこだわった素材・パッケージの商品などを販売したりしていました。メーカーの特徴をいかした面白いお店でしたが、売上は良いのに、利益が出ていませんでした。

現場に入ってみると、小売としてのスキルがもっとあったらと思うことがいくつもありました。例えば、商品プロモーションや陳列の仕方、什器の仕様やゾーニングなど。また、運営オペレーションもあまり効率的ではありませんでした。

ただ、コストダウンのための効率化は、お店を面白くしません。お客さまがワクワクするようなお店にしたい。メーカーなので商品は魅力的だけど、それだけでは店舗は十分でありません。お客さんの「買いたい」というモチベーションを上げるために、空間づくりや人材教育の部分を強化したいと思いました。

 

カルビープラスやYesterday's tomorrowで扱う「エッセンポテト」
カルビープラスやYesterday’s tomorrowで扱う「エッセンポテト」

入社して1年も経つと「魅力があるけど埋もれている商品」の存在が気になるようになり、「うちの会社ってこんなに商品作ってたの?」と驚くような商品とたくさん出会いました。それは、自社のお菓子だけではありません。他のメーカーの方と話していても「え、そんなの作っているんですか」みたいな商品がいっぱいあるんですね。

しかし、世の中の流行り廃りはとても早く、お店の棚は新しい商品で埋め尽くされ、昔ながらの人気商品はわずかしか棚には並びません。また、価格競争にも飲み込まれます。

大手のメーカーでも、一部の商品しかなかなか店頭には並びません。地方メーカーは、有名な商品を持っていても営業をする人がいなくて販路を広げられないという声もよく聞きました。

日本の流通菓子は、品質、パッケージ、こなれた価格など、どれをとっても本当に魅力的です。埋もれている商品も、舞台が変わればホームランを打てるようになるのではないか。お客さまがワクワクする楽しい売り場を作れたら面白いのではないか。そんな「お菓子ワールド」を作るのであれば、メーカーに関係なくみんな一緒にやった方が楽しいのではないか。そんな思いで、Yesterday’s tomorrowが生まれました。

 

Yesterday's tomorrowでは、たくさんの地域のお菓子がかわいくディスプレイされています
Yesterday’s tomorrowでは、たくさんの地域のお菓子がかわいくディスプレイされています

 

部下の成長が楽しみ

ーーそれまで磨いてきた売り場づくりの力をいかしつつ、これまでにない新たなチャレンジをしていることがよくわかります。ずっと新しいことに取り組んでいるのは、やはり新しいことが好きなんでしょうか?

新しいことは好きですね。新しい市場って競合がいないブルーオーシャンじゃないですか。私は競争が苦手なんです。昔から、何かと比較してどっちがいいとか悪いとか比べるのが性に合いません。だから、競わないために新しいことを立ち上げ続けているのかもしれませんね。

もちろん、好きだけではやっていけないこともあります。仕事で何日も眠れなかったり、寝ても覚めてもは日常です。アイディアは浮かんで自己否定しての繰り返し、アウトプットに至らないこともたくさんあります。「こんなの誰かが先にやってつまらない」と、もう一人の自分がシビアに否定します。

でも、新しいものが生まれるかどうかの面白い場に居合わせて、お客様が驚いたり楽しんでいる姿を見て「私でもできた」という感覚が持てると、次にもうちょっと高いハードルに挑もうと思えるんですよね。私自身そういう経験をさせてもらってきましたし、メンバーにもそういう経験をしてほしいという気持ちもあります。だから、部下がやり遂げた瞬間ってすごくうれしいです。新規事業をやる醍醐味は、部下がものすごく苦労しながらも、やり遂げた瞬間を見ることも大きな一つです。本人は本当につらいと思いますが(笑)

 

 ーー苦労することも沢山ある中どんどん新しいことに挑戦されていますが、仕事を通してどんなことを実現したいのでしょうか?

「無機質な場所を楽しくしたい」という思いは、昔から変わっていません。エキナカの時は、駅という無機質な空間を快適で楽しめる場所に。今の事業では、お菓子売り場を商品の陳列ではなく、お菓子を通じてコミュニケーションが生まれる場をつくりたい。

無機質って、何もないということではないんです。機能はあります。あるものに対して、どの切り口で、どう掘り下げるか、スポットの当て方を変えるだけで全く別物になるんです。それでお客さまが喜んでくれたら、最高じゃないですか。

お客さまが楽しそうにしているのを見られるから、私は現場が好きなのかもしれません。どんなに大変でもお店に行ってお客さまを見れば、もう一人の私が「なんだ私、いいことやってるかも!」と励ましてくれて。受動的に自分のテンションを上げられるんです。だから、私が店舗で品出しを手伝ったからといって貢献できているかどうかはさておき、ついつい店に足を運んでしまうんです。

 

ーー最後に、Yesterday’s tomorrowの今後の展望についておきかせください

やっぱり、場の楽しさを追求していきたいですよね。通り過ぎるのではなく、そこにあるものに目が止まってワクワクするような場にしたい。例えば、バラで売られているお菓子を自分が好きなものだけ選んだり、誰かに贈るために選んだり。可愛い雑貨にうきうきしたり。ピローマシーンの機械を見て、工場見学に行った気分になったり。そういう楽しさを体験してほしいです。1000円もあれば相当な量を買えます。忙しい時代だからこそ、思い出や会話と一緒に日常の楽しさを味わえる場があるって、とってもいいことじゃないかなと思います。

ネット通販も日常になり、ネットがリアルの活用も始め一人の人がいろいろなチャネルを使い分ける時代では、個人的にはネットとリアルはシームレスになって共存し続けると思います。

リアルの強みは、未知との出会いだと思います。ネット上でのレコメンドは、あくまで自分の興味関心の範囲でしかありません。それに対して、リアルな店舗では、いいものが目に飛び込んできたら、元々買おうとしていたものを忘れてしまうくらい浮気心が湧いてきます。それで買い物したときって、なんとも言えない充実感があるんですよね。

今後、お菓子メーカーから「当社のお菓子を置いてほしい」と言われたり、「この売場にはこのお菓子がいいんじゃない?」と提案されると同時に、お客様の声も反映できる場にしたいですね。まだ見ぬメーカーの方も、私たちの会社の担当者も、それぞれが能動的に動けるようになると、ますます面白くなると思います。

ただし、お客さまにワクワクしてもらうための空間自体のブランドや感性の管理にはこだわります。憧れの場所あることは必要なんです。ブランドという横軸を一本通した上で、関わる人が自由にできる場にしたいです。例えば、内装や装飾にはプロに入ってもらい、世界観を保っています。

開業して5ヶ月ほどなので、膨大なデータが溜まっているわけではありませんが、すでにホームランが何本も出ています。それに、ヒットからホームランを打つ道が明らかに見えている商品もあるので、そういうメーカーさんには新しい取り組みが出来ないか相談に行こうと考えています。

ただ、データはもちろん大事なんですけど、店舗に行って自分の体を動かしたり、一緒に動いている仲間と話したり、お客様の声を聞いたりすることもとても大切ですね。実際、自分や同僚の感覚、お客様の声と売上って、ほとんどずれてないんですよね。

その感覚を持って、魅力的なお菓子をアニメやマンガや化粧品のように、外国人に向けたコンテンツのひとつとして発信していけたら素敵です。世界でも勝負できる商品はたくさんあるので、その商品の作り手と一緒になって、日本を元気にできればと思います。

 

執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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