企業の悪しき文化や無駄な仕事をなくす方法は? 沢渡あまねさんが説く「古い価値観からの脱却」

執筆者: 松尾奈々絵

企業の悪しき文化や無駄な仕事をなくす方法は? 沢渡あまねさんが説く「古い価値観からの脱却」

執筆者: 松尾奈々絵

「うちの会社はこういう決まりだから」

いつの間にか根付いてしまう会社の悪しき慣習や風土。そのせいで残業が増えたり、無駄な業務を止められなかったりするのは、誰の得にもなっていない。
しかし、それを「変えよう」とするのもまた難しいもの。どうしたら、過去のアタリマエや常識から脱却できるのだろう。『職場の問題地図』や『働き方の問題地図』の著作を持つ、オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさんに話を伺った。

必要なのはコミュニケーションスキルではなく、コミュニケーションデザイン

――沢渡さんはオフィスコミュニケーション改善士として、全国を回り、さまざまな会社の現状を見てきていますよね。よくありがちな会社の問題点として、古い価値観や常識から抜け出せない現状を指摘されています。どういう企業がそれに該当するのでしょうか?

おそらく多くの人は、「大企業がそうだ」とイメージされるかと思います。しかし、実は企業の規模はあまり関係ありません。古くなった常識をいかに上書きできるかによって、これからの企業の差が出てくるのではと考えています。

古い体質や悪しき慣習から脱却できるかどうかは、経営者の度胸が重要です。「新しい技術を取り入れよう」「付き合いが長い会社だけど、利益を見込めないから仕事をお断りしよう」など、利益が見込めない古い方法をやめるかどうか、決断できるかどうか。ベンチャー企業や中小企業の方が、そう言い切れる経営者が多いのかもしれませんね。大企業になるほどしがらみもありますから。

――経営者の覚悟の差が会社の差としてある、と。

そうですね。「社長が変わらなければ、うちの会社はダメなのか」と、現場は諦めモードになりがちですが、必ずしもそうではありません。「不要だからやめましょう」「こういう取り組みをしましょう」と、現場が健全な危機感を持ち、上に考えを伝えられるのかということも求められています。諦める前に対話を試みて、自分たちの意見を受け止めてもらえるのかどうか、まずはチャレンジしなければいけません。

たしかに、提案して経営者や管理職が受け入れないとなると、押し通すのは難しいでしょう。ただ、チャレンジした結果、無駄な残業が減り、モチベーションが上がる会社も出てきています。

例えば関西のとある金融系のIT企業では、社員が自分の仕事をすべて洗い出しました。そして「この仕事には力を入れましょう」「この報告業務はやめましょう」など、仕事の向き合い方を上司と再定義していったのですね。結果、残業が月60時間から10時間まで減ったそうです。

――社員から棚卸の話が出たのがすごいですね。普段の業務に追われていると、なかなか手がつけられづらい印象もあるのですが。

問題提起した社員さんはお子さんがいて、月60時間の残業を何とか減らしたかったんだそうです。ここでのポイントは、時間の流れを一度止めるのをためらわないこと。冷静に仕事を洗い出し、必要かどうかを議論してみること。おっしゃる通り、人は目先の仕事で手一杯になりますから、なんとなく無駄だとは思っていても、いつもと同じ方法で仕事をしたくなりますよね。

「毎日の朝礼が面倒くさいな」と社員が思っている。よくよく事情を確認すると、その朝礼を仕切っている部長すら、前任者がやっていたからとりあえず続けようと、妥協で仕事をしているなんてことはよくある話です。そこで朝礼の目的を見直し、朝礼で共有するべきことは何なのかを確認したら、毎日ではなく2日に1回でも問題がなかったとなれば、無駄な時間が減りますよね。

毎日何気なく続けていることはアタリマエになりすぎてしまって、疑うのが難しい。だからこそ、社内の常識だと思っていることでもいったん書き出してみて、チームで「なくせないか?」「もっとラクにできないか?」を議論してみましょう。

――「議論する」とお話にありましたが、コミュニケーションが肝となるということでしょうか。

「コミュニケーション」という言葉は注意が必要です。職場の問題について、経営者や管理職の方に話を聞きに行くと、「コミュニケーションの問題だ」「情報共有ができていないよね」と言うんです。それならすぐ改善すれば良いのに、翌日になっても何も変わらない。なぜかというと、「コミュニケーションをもっと積極的に」というスローガンは、結局のところ他人依存だから。要はコミュニケーション力が高い人、率先して情報共有をする人を待っている状態なんです。

誰もが目先の仕事で忙しいので、わざわざ人を集めて改善しようとする人はほとんどいません。個人のスキルやメンタリティ、意欲に依存して甘えるのではなく、課長が積極的に話し合いの場を設けるなど、目的を持ったコミュニケーションを意図的に作ること。組織において必要なのは、コミュニケーションスキルではなく、コミュニケーションデザインなんです。

いい会社は、「得することに素直な会社」

――沢渡さんは、いい会社の条件って何だと思いますか?

得することに素直な会社です。社員のモチベーションが上がり、仕事に利益をもたらしてくれる。無駄な仕事、やりたくない仕事を減らして、その分新しい技術にチャレンジする。社外の勉強会に行って視野を広げられる。これらは長期的に見れば、経営者が得をすることなんです。

仕事相手としても、生き生きしていて楽しい会話をしてくれる人の方がいいですよね。そうやって、いい人が集まる職場になってきたら、業界あるいはその職種事態が健全な形で成長していきますから。

例えば、リモートワークテレワークを導入したら、計画的に報連相や打ち合わせをするようになり、かえってコミュニケーションが良くなった例もあります。過去の常識を一度疑い、どうしたら自分たちがラクをできて、得するのかを考える。そうして、いまの世の中や新しい人の価値観に寄り添っていくことが求められています。みんながラクをして得する組織を実現していくのが大事ですね。

――これまでの常識を疑うために必要な考え方はありますか?

常識をアップデートするなら、人材の多様性を採用しましょう。いわゆるダイバーシティです。例えば事務職の職種に技術職の人を採用してみてもいい。従来の日本企業や自治体、官公庁には人事や経理、総務などいわゆるバックオフィス系の事務職の現場に、技術的なバックグラウンドを持っている人がほとんどいません。

いまの日本では、ホワイトカラーの生産性が特に低いと言われています。それは、事務職の現場に技術職の人材がいないことも大きく影響しているのではないでしょうか。技術力を持った人や「こうしたらもっとよくなるのに」と考えられる人たちが事務方にいれば、会社にとって良い作用が働くはずなんです。

ある不動産の会社では、人事異動で情報システム部門のエンジニアを期間限定で事務部門に配属したら、現場の人たちに感謝されたそうです。事務方からすれば、情報システム部門にいる人たちが何をしているかわからなかったのが、お互いの仕事を知ることによってリスペクトが生まれた、と。このように景色を変えて、自分たちと違う特性の人を受け入れる価値を見直すことは、今ある常識をアップデートするために必要です。

――自分の会社で明日から実行するために、具体的にはどう実践していけばいいのでしょうか。

現場は自分たちが得する仕事のやり方を提案しましょう。そのためには外を知ること。ほかの会社がどうなっているのか、世の中にはどういうテクノロジーがあるのか、同業者はいまどんなテーマに取り組んでいるのか。そうしないと、自分自身の常識をアップデートできませんから。

そして管理職は、現場からの提案を否定せずに受け止め、チャレンジする場を設けましょう。「やってみなはれ」の精神です。それに、一度提案を受け止めると、「この職場では、改善のための提案をしていいんだ」と、今度は別の人も話をしやすくなります。組織風土ってそうやって形成されていくものですから。

そして、経営者は「古いやり方を変えていくぞ」「新しいことを良しとする」というメッセージをどんどん発信していただきたいですね。さらに、古い常識にとらわれずに、新しい挑戦をしようとする人をきちんと評価する。それだけで十分です。実際の進め方は、現場に任せたり、提案してもらったりする形がよいでしょう(ただし予算をつけてお金は出してあげてください)。シニアな経営層が「べき論」を述べても、それは時代遅れの可能性も十分もあります。それに経営者が「こうしよう」と発言すると、それは決定事項になってしまうため、現場をわかっている社員であっても反対しづらいんです。

――それぞれの立場で実践できることがあるんですね。

経営者は、「チャレンジしたい。生産性を上げたい。でも、現場の若手はなかなか意見を言ってこない。当社の若手は問題意識が低いんじゃないか」と、思い込んでいることが多々あります。一方、若手社員に話を聞いてみると、「職場を良くしたい」「新しい技術を取り入れたい」「スキルアップしたい」と、会社に対して健全な問題意識を抱いているんです。

ところが、何かを提案してもなかなか通らないし、場合によっては「非常識だ」と却下されてしまう。そうなると、その社員は二度と提案しなくなります。「この人たちに何を言っても無駄なんだな」と。目指す方向を掲げていても、現場が提案してこない、チャレンジしてこないと思ったら、まずは自分たちを疑ってみましょう。

――過去の成功体験があればあるほど、自分の常識を疑うのは難しいですよね。

人は知らない未来に不安を覚えるので、つい否定してしまいがちです。どういう未来が待っているかわからない、不安が増幅して見えない敵が見えてくると変わらない方がいい、見えている現在のままの方がいいとなりがちです。だからこそ、常識のアップデートは難しい。

でも、組織の成長のためには、社員を井の中の蛙にしない優しさが大切です。社員の成長機会を奪ってしまいますし、組織の成長やアップデートを阻害してしまいますから。過去の常識にとらわれて受け入れず、否定ばかりしていないかどうか。まずは個人個人が自分自身を見つめ直すところから始めてみましょう。

 

企画・執筆:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:長野竜成

<取材協力>
沢渡あまねさん
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て2014年秋より現業。企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。著書に『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『仕事の問題地図』(技術評論社)『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)『働く人改革』(インプレス)『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します!』(C&R研究所)などがある。趣味はドライブと里山カフェめぐり、ダムめぐり。
ホームページ:http://amane-career.com/

執筆者:松尾奈々絵
有限会社ノオトの編集者・ライター。品川圏域のニュースを届ける「品川経済新聞」やビジネスパーソン向けのオウンドメディアを担当。
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