「会社=不自由」じゃない 『社畜上等!』常見陽平さんに聞く、会社との向き合い方

執筆者: 松尾奈々絵

「会社=不自由」じゃない 『社畜上等!』常見陽平さんに聞く、会社との向き合い方

執筆者: 松尾奈々絵

クラウドソーシング大手のランサーズが発表した「フリーランス実態調査2018年版」によると、フリーランスの人口規模は全国民の17%を超え、その経済規模は20兆円を突破したという。この調査結果では、実際にフリーランスで働く人から「自分の裁量で自由に仕事ができ、うまくいけば大きな収入を得ることができる」「仕事の枠にとらわれず、幅広く仕事ができる」「企業に頼らない生き方。達成感が全然違う」といったコメントも見られた。多様な働き方を歓迎するムードが世の中で少しずつ浸透し始めている。

一方、文部科学省が2月に発表した「大学、短期大学、高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」によると、就職希望率は78.7%。働き方が多様化しつつあるとはいえ、新社会人たちは会社に就職する道を選んでいる人が大多数のようだ。

今年1月に『社畜上等!:会社で楽しく生きるには』(晶文社)を上梓した著者の常見陽平さんは「いくら“働き方改革”が叫ばれたところで、多くの人は会社と向きあい続けなければならない。それなら“社畜”なりに、使い潰されず、楽しく生きる方法を身につけよう」と提案する。

これからの時代、私たちは会社とどうやって向き合っていけばいいのだろうか。個人と会社の付き合い方の変遷から理想の組織論まで、常見さんに話を伺った。

その仕事は独立しないとできないこと?

――常見さんは、新卒でリクルートに入社し、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフを経て、フリーランスになり、現在は大学でキャリアについて講義をされていますよね。ですので、今回の書籍タイトルはとても意外でした。

会社によって人が苦しめられる、倒れる、そして亡くなってしまう悲惨な事件は、あってはならないことです。でも、だからと言って、会社の全部が悪ではありませんよね。すでに死語になってしまった“ノマド“と同じく、いま騒がれているパラレルキャリアも、結局のところ問われているのは会社との関係ではないのかなと考えています。働き方が多様になりつつありますが、会社という存在は個人にとって相変わらず大きいままだな、と。

そのため、今回の書籍では会社を毛嫌いするのではなく、どう上手に向き合っていけばいいのかをテーマにしました。会社を「コミュニティ」「ビジネススクール」「ソーシャルネットワーク」などさまざまな角度から捉え直し、自分自身を見つめ直すことで、会社の中でいかに自分を活かして、どうしたら楽しく働けるのか。いまの時代はこれが問われています。

――会社との付き合い方を考えるとき、会社が個人に対して何を求めているのかを意識することが必要になってくるかと思います。近年変わってきた印象を抱いているのですが、求められる人物像も変わってきたのでしょうか?

実はここ4~5年の話ではないんですよ。「『できる人』という幻想 4つの強迫観念を乗り越える」(NHK出版新書)で記載しましたが、入社式で社長がどんなスピーチをしたのかという変遷をふりかえると、社会でどんな社員像が期待されてきたのかが分かります。転機は1995年です。

1995年はオウム真理教の事件があり、阪神・淡路震災が起こった年ですが、この2つのインパクトが大きすぎて、他の多くの重要な出来事が忘れられています。何かの終わりや始まりの年だと捉えられることが多いですよね。雇用・労働でも大きな出来事がありました。当時の日経連が「新時代の日本的経営」というレポートを公開しました。これは人材をポートフォリオ化するものです。既存の正社員のあり方を再定義するとともに、専門職や、非正規雇者などの雇用柔軟グループに分けて考えよう、と。かつての入社式は長期雇用のスタートを象徴するものでしたが、翌年の1996年の入社式から「会社人間じゃダメだ」と話すスピーチが増えたんです。

――1996年の時点で「自立した個人」が求められる時代になっていったのですね。

その頃から会社に入っても安泰ではないという考えが広まったと私はみています。その後、ブラック企業論が出始めたのが2010年前後。会社の環境は悪化して、競争は激化。そこから「会社=悪」という風潮が流行り始めました。

――会社に対する印象がどんどん悪くなってきた流れで、独立やフリーランスという働き方が脚光を浴び始めました。そういうご時世で、あえて会社に所属する意味は何でしょうか?

若い人を見ていると、「今の会社ではやりたいことができないので辞めます!」という意見は少なくありません。それを聞くと「いやいや、やりたいことって本当にあるの? 社内でそのやりたいことを叶えるために、努力はしたの?」と疑問に思うんです。

実際、独立してやりたいことを事業にした人の話を聞いていると、その人がもともといた会社でもできるサービスだということも往々にしてあります。それならそのまま会社に所属していた方が、すでにある信頼を利用することで営業もしやすいですよね。

それに、フリーランスや個人が経営で大失敗したら命を失いかねませんが、会社で社員として働いていたら、よっぽどの不正を働いたとか致命的な損害を与えない限り、まぁ死なないわけです。そういった意味では、会社を上手に利用して向き合い方を工夫すれば、人生が楽しくなるんじゃないかなと考えています。

――社内起業のように、所属したまま自分がしたい仕事を作る、と。

会社ってガチガチなものではないんです。語弊があるかもしれないけど、いい加減で変動しやすいもの。従業員はあまり意識しないかもしれませんが、経営者って孤独な立場なんですよ。僕の知り合いを見ていると、ずっと悩んでいるし、簡単に誰かに相談もできない。ベンチャー企業や中小企業に限らず、名だたる大企業の経営者も同じです。今の時代、先行きは誰にもわからないですから。僕の所感ですが、社長は社員以上に悩んでいます。

だからこそ、社員はチャンスなんですよ。会社にとって利益になるもの、かつリスクの少ないチャレンジなら、上層部に提案が通る可能性は高いのではないでしょうか。「やりたいことをしたいので、会社を辞めます」と言う前に、社内でなんとか案件を通せられないか、ぜひチャレンジしてほしいですね。

――「提案を通す」のはハードルが高く感じそうです。どのように考えるとよいでしょうか。

「突く隙」があると思えば大丈夫ですよ。例えば、真正面から最初に企画書を提案するのではなく、まずは飲みの席をセッティングして、お酒の場で自分が考えていることや、挑戦したいことを説明する。そして、後日しっかりと作成した企画書をもっていけばいい。「これが通らないなら、会社はやめよう」という心持ちでね。そんな風に作戦を練って、上司を口説いてみてはいかがでしょう。

――個人と会社の関係を考えたとき、その提案が通るかどうかは、きちんと利益を生み出せるかどうかにかかってきますよね。

そう。だから、従業員はどうしたら会社に利益をもたらすことができるのか、若手の頃から意識した方がいい。株式会社なら、株主の期待にどう応えて、利益を得て、会社組織を回しているのか。それがわかると、会社を引いた目で見られるようになります。つまり、冷静に自分が所属している場所を俯瞰できるようになる。

これから求められる組織は脱退・加入が自由な「バンド型」

――会社でやりたいことをしていくには、周囲の理解や協力は欠かせません。経営者と従業員、上司と部下の理想的な人間関係を教えてください。

互いにリスペクトしあって、対話できることですね。今はすこし年齢が離れると、すぐにコミュニケーションができなくなってしまう人が多い。現代は価値観がすぐ変わってしまうから、25歳でももう大学生と話が通じないという話も聞きます。時代の移り変わりが激しく、世代間ギャプが大きいんですよね。

それを前提として、どうしたら話が通じるのかを意識することが求められているのではないでしょうか。「こんな働き方がしたい」「こんなビジネスをやるべきだ」という思いをもっとお互いに伝えるべきですよ。

フォーマルな場はそれとしてコミュニケーションが大事だけれど、カジュアルな場、例えば飲み会に参加した時も、何となく参加するのではなく、相手が何を考えているのか、臆せず話を聞くのが大切です。なんでもリアルな場の方がいいというのは、おっさん臭い考え方かもしれないけれどね。

でも、フリーランスになって特に実感しますが、会社のリアルソーシャルネットワークの機能って本当に大切なんですよ。フリーランスにはそれがありませんから。会社内だからこそ、上司や先輩から直に学ぶこともできるし、ちょっとした雑談相手にもなる。最大限利用するべきです。

――常見さんが考える、これからの理想の会社を教えてください。

これからの組織は「○○型だ」なんてよく言いますが、僕はこれからの時代は「バンド型」が求められていると思います。バンドは音楽のバンド。脱退したり、再結成したり、究極の流動化した世界。雇用の流動化はよく言われるけれど、ポジティブな意味ならいいのでは。

あと、僕がいたころのリクルートで感じたのは、「トップレスカンパニー」が必要ということ。名前はちょっとね、あれだけど(笑)。トップダウンなんていらない。舵取り役は枠組みを決めるだけで、とことんボトムアップに徹するべきです。いや、経営学の教科書から言うとめちゃくちゃな組織のようですけど、でも、顧客との接点がつよくて、そこから新しいものがどんどん生まれる。顧客の課題を解決するために、商品・サービスがどんどん進化していく、と。

僕がリクルートに入社した当時は、リクルート事件による悪しきイメージも強かったですし、借金が1兆円もあったのですけど、みんな自由に働いていました。「トップにビジョンがない」という批判もあったけれど、だからこそ社員それぞれが「俺たちがやってやるぜ」という勢いがあった。まぁ効率は良くないけれど、おもしろい組織だったなと思います。

トップにビジョンがあって、やることが明確に決められている会社が礼賛される今日このごろです。それは否定しませんが、トップ不在のボトムアップ型も、株主や社会の評価はともかく、やりようによっては従業員にとって、楽しいものですよ。

撮影:栃久保誠

取材協力:常見陽平さん
千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身
一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『社畜上等!』(晶文社)『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

執筆者:松尾奈々絵
有限会社ノオトの編集者・ライター。品川圏域のニュースを届ける「品川経済新聞」やビジネスパーソン向けのオウンドメディアを担当。
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