VUCAワールドに必要なリフレクション_リーダーに求められる「学び」を改めて考える

執筆者: 秋山瞬

VUCAワールドに必要なリフレクション_リーダーに求められる「学び」を改めて考える

執筆者: 秋山瞬

「VUCAワールド」という言葉を聞いたことがありますか?「VUCA」とは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、未来を予測するのが難しい現代社会を表す言葉です。

予測困難な未来が到来し、個人が求められる力も変わる今、「学び」にはどのような変化が求められているのでしょうか。

今回は「教育問題の解決に貢献する」とミッションを掲げ、組織改革や教育改革に取り組む熊平美香さんに、ThinkAboutを運営するネットプロテクションズ人事の秋山がお話を伺いました。

次の時代における「学び」のアタリマエとは。
教育が変わるために一人ひとりができることとは。
熊平さんの考えに迫りました。

熊平美香
株式会社熊平製作所、株式会社藤田商店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社を経て、2004年より組織開発、人材開発コンサルティングおよびリーダーシップ開発プログラムの提供を開始。「学習する組織」のリーダーシップ開発および変革推進プロセスを日本において展開。その後、教育問題の解決に貢献するという新たなミッションを掲げ、2010年に日本教育大学院大学学長に、2011年にNPO法人 Teach For Japanの理事に就任。2013年より、オランダのシチズンシップ教育「ピースフルスクールプログラム」の日本版を開発、展開。2014年「未来教育会議」を立ち上げ、実行委員会代表に就任。昭和女子大学 キャリアカレッジの学院長、アショカジャパンのアドバイザー、HBS Japan Advisor Boardも務める。

課題の直視から全てが始まる

――今日はよろしくお願いします。熊平さんが様々な形で教育改革に取り組まれる中で感じる「今の時代に必要な学び」について伺えますか。

今の時代の学びの核は、「リフレクション(内省)」だと思います。リフレクションとは、言い換えると「課題の直視」です。本当の意味で課題を直視しなければ、学びはないと考えています。

前例を踏襲するだけでなく、経験から学び、批判的なスタンスで考えて動く。自分を見つめるからこそ、教訓や法則が見つかり、進化し続けることができます。

その時、出来事や結果だけではなく、自分の行動や内面を見つめることが重要です。出来事や結果は、自分の中にある感情や価値観がもたらすものだからです。それに対する内省がないと、本質的な行動変容にはつながらないわけです。

(熊平氏提供の図版を元に作成)

ヨーロッパでは、リフレクションの文化が日本よりも進んでいると感じます。例えば、オランダでは、子どもの教育に取り込まれていて、4歳児に対して、過去3カ月をふり返って「何が一番誇りに思いますか?」「どこが誇りに思う理由ですか?」「何に苦労したんですか?」「次にやるとしたらどう変えますか? 」みたいな質問を先生がするんです。自分の学びをふり返り、直視することで次に発展させていくという基本姿勢が育まれているわけです。

その基本姿勢は、大人になっても同じです。ドイツでBDI(日本の経団連に相当)の話を聞いた時、EUがアメリカに惨敗している事実の説明から始まり、山積みの課題を見せられました。懸念点ばかりで、周りにいた日本人のほとんどは「これは無理だな」と言ってるんですが、ヨーロッパの人からすれば、そこがスタート。自らの課題に向き合う意識の違いを感じました。

リフレクションするためには、自分自身の行動を客観的に認知する必要があります。自分が何を考えているのか。何を見ているのか。何を学んでいるか。加えて、自分の認知特性を知ることも重要です。人が自分で認知できる範囲は限られているからです。

自分が認知できない範囲を知るためには、他者と対話するしかありません。それも「気持ち悪い対話」が最も大事です。違和感に直面する対話こそ、自分の境界線を広げてくれます。

対話では、内省や共感という感情のコントロールがポイントになります。自分がどういう経験から何を大事にしているのかを見つめて、相手と意見が異なっても、「きっと相手には相手なりの世界がある」という楽しみの気持ちを持って話を聞く。そうすることで、様々な価値観を受け入れられるようになります。

リフレクションでもう1つ重要なことは、「抽象概念化」です。課題を細分化していくと、やるべきことが際限なく出てきてしまいます。出てきた課題から、その根源がどこにあるのか抽象的に考えることで、具体的な解決策を導き出すことができます。

対話における4点セット(熊平氏提供の図版を元に作成)

意志を持ち、対立を前提とすることがスタート

――自分自身の課題を直視するために、対話による他者からのフィードバックが必要だということですね。「学び」が課題の直視から始まるとした場合、そもそも課題を持つために「目標」が必要ということですよね。

その通りだと思います。人は現状に対するギャップを埋めるために学んで、答えを探すのです。自分の動機、自分が何を望み何を望まないかはっきりしていることが、問題解決に向かうために重要です。

さらに、そこには「与えられたテーマ」なのか「自分ごと」なのかで、大きな分かれ道があります。問題を解決するための発想力は、内発的動機から湧いてくるもの。潜在的な課題意識が身体中に浸透すれば、あらゆるものを見た時に瞬時に課題と結びつきます。そうでない人は、大事なことが目の前に現れても気がつきません。だから、「自分軸づくり」もすごく重要なテーマですね。

自分の軸を持ち、理想を掲げることが学びのスタートだとした場合、それは幼少期からでも成り立つのでしょうか。自分の軸を持つまでには、一定の成熟が必要になるような気もするのですが、自分の軸を持つ前に通る道というか、学びも存在するのでしょうか?

「自分の意見を持つ」ことがスタートになり、それには年齢は関係ないと考えています。

私たちはオランダの「シチズンシップ教育」と呼ばれる、市民としての資質・能力を育成するための教育を幼稚園や小学校で実践していますが、そこにある学びとは「自分というものを明確に持つ」ということと「他人と共生する」ということの二つになります。

共生すると聞いた時、最初は「どうやって仲良くしていくか」を学ぶと思ったんですが、そうではないんですよね。民主主義は「対立」を前提としており、逆に「対立が起きない状況は良くない」という立場を取っているので、まずは自分の意見を持つ練習から始めるんです。そして、対立しているところから、話し合いを通して仲良くすることを学びます。

この教育をやって分かったことは「自分が何を感じるか」からスタートして、問題を発見するというプロセスは、幼稚園児でも変わらないということです。最初は「嬉しかった」としか言えなかった子どもが、「私はこういう理由で嬉しかった」と言えるようになったりして。そこまでくれば、子どもにも自分で問題解決することを教えます。日本だと、子ども同士が喧嘩した時に、「そんなことしたら相手が悲しんじゃうよ」と先生が入ったりもしますが、あえて介入はせず、嫌なら自分で嫌と言う練習をしますし、嫌と言われたら自ら止めるのを待ちます。

単純ですが、自分で課題を発見して、自分で問題を解決する。その小さな経験の拡大版が社会変革なんです。そう考えると、自分のことすら解決できない人が、社会を変えられるわけありませんよね。

また、自分を直視するためには、感情をきちんと扱う訓練も必要です。自分を受け入れるのは、時に苦しいこともあります。感情を扱えなければ、とても耐えられません。「そこまで教えるの?」と言われますが、それが土台にないとダメ。冷静な時はだめだと分かっていることも、感情に支配されて体が勝手に動いてしまうこともあります。道徳感として良し悪しを教えるだけでなく、自分の感情をコントロールする術を身につける必要があるんです。

非認知能力を高める必要がある

――民主主義は「対立」を前提にしているという考え方が腑に落ちました。個人においても、組織においても、国家においても、共生するためにとても大事な考え方ですね。対立を超えるために、自らを直視して、対話をして、多様性を受け入れていくというプロセスが重要なことがすごくしっくりきました。
そして、お話を伺っていて、弊社が掲げる5つの価値観や7つのビジョンとも通じる部分がたくさんあると感じました。「課題の直視」というのが、まさに5つの価値観の一つ「誠実に向き合う」だなと。言葉の解釈はいろいろあると思いますが、弊社の掲げる「誠実に向き合う」というのは、他者からのフィードバックをしっかりと受け止めることだと考えています。
また「本質を考える」という価値観は、抽象化概念に通じます。AとBの対立があった時に、本質的に何をするべきかを考えることが抽象化することと似ているなと改めて思いました。
一方で、7つのビジョンの一つ「違いこそを組織の力に変える」に関しては、違いを前提にする考えがまだまだ足りていないと感じました。言葉としては理解しているのですが、いざ対立が起こった時にウェルカムと思えているかというと、正直そうではありません。その辺りは、今後もっと意識していきたいと思いました。

意見の違いに関しては、「メンタルモデル」という考え方を元に対処します。意見(ものの見方)は、過去の経験、価値観、そこに紐づく感情により形成されるという考え方です。意見の違いはどうでも良くて、その背景にある価値観に焦点を当て、お互いにとって何を優先すべきかを判断していきます。すると、最初に出てきた意見よりも、よい結論になるものです。一度自分の中で考え、何を優先したのかが分かるので、対話なしで決まったこととは納得度が違います。

個人的な経験から言えば、対話さえしていれば、意見が異なることは気にならないことの方が圧倒的に多いです。その醍醐味を味わえると、多少のストレスがあっても、対話を楽しめるようになります。

(熊平氏提供の図版を元に作成)

世界の転換点とは?

――今までとは違った学びが求められる背景には、世界や社会の変化が大きいと思います。熊平さんは、現代の社会をどう捉えているのでしょうか。

現代は、変化・複雑・相互依存のVUCAワールドと呼ばれる時代です。この時代を幸せに生きるために、先例のない複雑な問題に対処する力を誰もが習得するために、教育に変化が求められています。それは同時に、持続可能な成長と民主的な社会を維持するためにも必要なことです。

OECD(経済協力開発機構)では、この社会に合わせた教育改革が2003年から始まっています。日本の教育改革のように曖昧なものではなく、明確な課題からスタートして、目指すべき社会を「持続可能な成長を実現する社会」「多様な人々が安心して共生できる民主的な社会」と具体的に定義しています。

その社会を実現するために、学校教育で社会人基礎力の醸成が必要だと言われていて、個人に必要なキーコンピテンシー(鍵となる能力)を9つ定義しています。従来の学校教育では、その中の1つしか身につけることができません。つまり、社会の変化に合わせて、学校での学びも変わる必要があるのです。

OECDキーコンピテンシー(OECDキーコンピテンシーを翻訳した図版を元に作成)

要するに、これまでのように知識や学力を身につけるだけでなく、それを問題解決に活用する力が求められているんです。そう考えると、学校の中だけでは限界があるとも感じます。学校の外に出て学ぶ必要があると思いつつも、学校教育の世界では折り合いが付いていないのが、私のジレンマでもあります。

大人が率先して学びを楽しむ

――学びに変化が求められる中、今の学校教育とはかけ離れてしまっている部分もあるかと思います。教育を変えるために、私たち、ひいては社会全体で何ができるのでしょうか?

そもそも、教育の問題は、学校の中の話だけではないんです。学校で型にはまった知識を教えるのって、社会がそれを求めているからです。そう考えると、学校を変えるためには、経済界を変えた方が早いのではないかと思っています。経済界が行き詰まったことで働き方改革が盛り上がったように、経済から学校教育に変化を求めるしかないのだと思います。

また、大人が学びを楽しむことも大切ですよね。大人が課題を直視して、ビジョンを共有して問題解決を進める過程で学んでいく。「大人だからいまさらITを学んでもダメ」とか言っている場合じゃないですよ。オランダなどでは、ITが苦手な人も取り込んで行こうという活動があります。できる人とできない人を分断するのではなく、できない人にも「こんなに面白い世界があるんだよ」と言って招いていく。魅せる努力をしているんです。

組織の中で学びを文化にするには、まずはリーダーから始めるのが手っ取り早いですね。リーダー自身が弱いところも含めて開示して、自ら学んでいる様子や学びの喜びをみんなにシェアすればいいんです。他人に求めるよりも自分が実践して、「そっちに行きたいな」って思わせたほうが早いでしょうね。

――大人やリーダーが学びを楽しむこと、本当に大切ですよね。一方で、社会では学びを楽しめる大人とそうでない大人が二極化されているような感覚もあります。楽しく学ぼうとする人もいる一方で、シラケて一歩引いている人たちもいる。そういった人たちを巻き込むためにできること、すべきことはあると思いますか?

目の前の人に学ぶ意欲がないとしたら、それは自分のせいかもしれません。ハーバード大学で、「人間は生まれた時から学ぶ意欲の塊である」という話を聞いたことがあります。人間は、親が教えるわけでもないのにハイハイしたり、立ったり、余計なものを触ったり口に入れたりしながら、試している生き物。つまり、本能的に学ぶ生き物だと。もし、人間の学ぶ意欲が失われているとしたら、それは環境のせいだという話です。

私自身、それを体感したこともあります。Learning for Allという貧困の子どもたちの教育支援団体で、一番最初に支援教室をやった時のことが今でも忘れられません。当初、子どもをケアしているケースワーカの人からは「この子たちは15分座れればそれで十分です」と言われていたのですが、大学生が子どもたちに勉強を教え始めると、3時間近くずっと座って勉強していたんです。中学生で九九が分からないくらいのレベルで、勉強ができるわけではない子どもたちが、真剣に勉強していて。「この子たちは勉強がしたかったんだ」と気づきました。

周りの人が期待していないから、意欲が削がれているだけなんです。やる気がないわけではなく、やり方が分からないし、自信もない。「学んだところでどうするの?」という原体験が積み重なっているだけ。向き合い方や環境を変えたら、意欲は戻ると考えています。

日本にある価値観で世界をリードする

――色々とお話を伺いましたが、最後に、今の活動を通して熊平さんが実現したい未来について教えてください。

世界のことを考えると気が重くなりますが、少なくとも、日本という小さい世界だけで見るなら、今取りかかっている問題は全部片付いているといいなと思います。例えば、教育も今のままじゃ良くないってみんな分かっているから、すごい盛り上がっていますが、本当に良い方向に進んで、子どもが学びながら安心して幸せな気持ちになれる状態にできたらいいと考えています。

さらに、SDGsなどにもっと取り組み、世界と同期する動きが増えたらいいなと。日本の良いところをいかして、世界にもう少し大きな影響力を持てたらと思います。

オランダの教育の中では、対立をする時に、「強く出てる面」と「譲歩する面」と「話し合う面」の3つの側面があって、日本人は譲歩しがちだけど、最終的にまとまろうとする気持ちが強いと言われています。対立しても、まとまった方が良いという概念があるんです。

世界的に見ても、この価値観はもっといかせると思います。同じように、日本の中には世界を動かすような考え方がたくさんある気がしています。だけど、すぐに譲歩してしまって世界に対する影響力がない。そこを変えたい。日本人が、今の世界に求められるリーダーシップを身につけられるような教育を実現したいですね。

インタビュー後記
熊平さんのお話は、歴史的な観点・グローバルな観点で体系的に整理されていて、弊社がおぼろげながら感じていたことや何となく良いと思って実践していたことについて、理論や言葉でシンプルに説明いただき非常に肚落ちできました。
特に、意志を持ち対立を前提とおくこと、学びの本質が課題を直視するリフレクション(内省)にあること は、これから取り組む新しい人事評価制度を運営する上でも重要な要素だと思いました。
今回学んだ内容を踏まえて、「つぎのアタリマエをつくる」組織として、世界をリードする次世代リーダーを育成していこうと決意を新たにすることができた対談でした。

執筆者:秋山瞬
2005年 設立2年目・社員4人の人材系スタートアップ企業に新卒1期生として入社。
ベンチャー企業の経営幹部層に特化したヘッドハンティング・人材紹介に従事。
新規事業立案や関西支社設立にも携わった後、「次世代を担うリーダー創出」を志し、2009年 ネットプロテクションズの人事として参画。
2011年 人事総務グループのゼネラルマネージャーに就任。
新卒・中途採用、人材開発・育成、人事・評価制度構築、理念・ビジョン策定等
幅広い業務に携わり、「つぎのアタリマエ」となるような組織づくりを目指す。
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