高速でアウトプットし続ける秘訣とは。ベンチャー家電メーカーUPQに宿る哲学

高速でアウトプットし続ける秘訣とは。ベンチャー家電メーカーUPQに宿る哲学

企画からわずか2ヶ月で17種類24のオリジナル製品を一度にリリースしたことで話題になったUPQというメーカーをご存知ですか?

設計やデザイン、生産管理は、ハードウェア開発企業Cerevoのサポートを受け、製造は中国などの受託製造企業へ委託。自社では製品の企画と販売のみ行うことで、高い製品力を誇っています。

高速で製品を出し続ける一方で、製品の表示問題やリコールなど、様々な失敗も経験。痛烈な批判を受けることもあります。
困難な状況にある中でも、なぜ前に進み続けるのか?アウトプットを生み出し続ける秘訣とは。お話を伺いました。

中澤優子
株式会社UPQ 代表取締役。2007年、カシオ計算機株式会社に入社。営業職を経て携帯電話の企画開発業務に携わる。その後部署の解体に伴って2012年に退職。翌年カフェを開業し、パンケーキ、オーダーメイドケーキの人気店となる。2015年7月、家電メーカーUPQ(アップ・キュー)を創業。

製品で勝負するメーカーに

──UPQでは、製品開発がとても早いと聞きますが、なぜ高速でアウトプットをし続けようと考えたのでしょうか?

「モノづくりの本来のあり方」で成果を出すことで、製造業全体を活性化させたいと考えているからです。

現在、日本の製造業は非常に厳しい状況に置かれています。私は新卒でカシオに入社して携帯電話の企画開発をしていましたが、数年後に携帯電話市場から撤退することが決まり、携わっていた携帯電話ブランドはなくなりました。

多くのモノが溢れている社会では、新製品を一生懸命考えても、思ったように売れないことばかりです。しかし、問題の本質は、売るための方法を追いかけすぎた結果、本来のモノづくりの大切なことを忘れて、製品のスペックアップばかりを求めたり、価格低減ばかりを追い求めたりしまったことから、手に取る側に届かなくなってしまったことだと思います。このようなモノづくりに対する考え方そのものが間違っていたと気づきました。

それまでは皆、新しい製品を開発すれば自然と売れると思っていました。しかし、いくら新製品でも、お客さまに欲しいと思われなければ売れません。だから、製品を作る上で、買ってくれるお客さまをどう「喜ばせるか」を考え、知恵を絞ることが何よりも大切です。

しかし、残念ながら、大きな企業の中でモノづくりをしていると、作ること自体が目的になってしまい、お客さまに手に取られたイメージを持てないまま開発に関わる人も少なくありません。一生懸命開発してはいるけれども、「今作っている製品をお金を払って買いますか?」と言われると、答えはノー。「自分は買わないけど、こういう人なら買うんじゃない?」と。ぼんやりとしたターゲット設定で作られたモノなんて誰も買わないし、お客さまに対しても、製品に対しても失礼だと思います。

カシオ入社当時、関係者は、自分たちが作った製品をお金を払って買っていました。自分が対価を払ってほしいと思うモノを、心を込めて作る。そうでなければ、誰一人ほしくないモノが生まれてしまいます。

モノが売れなくなり始めた時、メーカーはモノづくりに向き合う必要があったのに、アップルやグーグルを真似て「ソフトウェアやサービスも含めた展開をしなければならない」という意識に狩られました。結果、ほとんどがうまくいきませんでした。サービス展開が得意な企業と組めればよかったかもしれませんが、メーカーの強みはあくまでもハードウェアを作ること。自分たちの強みを活かしたモノづくりを伸ばすことに専念したほうがいいんです。

そんな思いがあり、UPQは、モノ単体の魅力で製品を買ってもらえるメーカーを目指してスタートしました。ゴミ箱に捨てられる最後の瞬間まで、ユーザーに満足して使ってもらえる製品を作る。そのスタンスを持ち、「本来あるべきモノづくりの形」を実現できたら、業界全体が盛り上がり、優秀な人たちが製造業に戻ってくると考えています。メーカーの人は、完成したモノを見れば、どれほどの思いでつくっているのか分かります。私たちがつくる製品を通して、「あいつでもできるんだから、自分たちも・・・」と奮起してもらえるようなモノを、機を逃さないためにスピード感をもって次々とつくりたいと考えています。

早く・多く・頑張る

──ユーザーがほしいモノを作るという意志がベースにあるのですね。その結果、斬新でユニークな製品がたくさん生まれていますが、アイディアはどこから生まれてくるのでしょうか?

ユーザーに満足してもらうためには、自分自身がほしいモノを作ることが大前提です。ただ、それだけでは偏るので、UPQでは「私“でも”買いたい」と思えるモノをつくることを意識しています。そうすれば、求められているモノの姿が自然と見えてきます。

たとえば、今でいうと「写真を撮ってSNSに上げたくなるようなモノ」や、自慢したくなるモノ。最先端の技術が使われていたり、たくさんの機能がついていることが、必ずしもほしいモノの条件とは思いませんし、いくら多機能で洗練されたデザインでも、価格が高ければ気軽に買えません。むしろ、性能はそぎ落として、お客さんが手に取りやすい価格に仕上げるべきだと思います。イメージ的には「スニーカーを買おうかな、それともUPQの家電を買おうかな」と悩めるくらい、身近であることが大事です。

また、製品の見せ方や売る場所を変えることも常々意識しています。例えば、アクションカメラを作った時は、家電量販店ではなく、アパレルショップで販売することをイメージしました。靴やコートと同じ程度の価格に抑え、「今度旅行に行くから、このカメラを身に着けていこう」と思えるように打ち出しました。今や、新しいプロダクトはガジェットが好きな人にだけ届けばいいわけではありません。おじいちゃん、おばあちゃん、子ども、OLなど、家電に興味のない人にだって、置き場所を変えれば届く可能性があります。

それを、多くのメーカーがひしめき合い、新しいことが生まれなさそうな市場でやることにこだわっています。例えば、スマートフォンは「かまぼこ板」と呼ばれるほど、デバイス自体のデザインや企画で差別化するのが難しいと言われています。テレビやカメラも同じです。そういう難しい市場の中で、ベンチャーでもビジネスが回る状態を作り、「大手で出したらどう売れるのか?」と問い直してほしいんですよね。できないと言われていることを、「本当にできないんだっけ?」と考えなおすのが一番大事かなと思います。

──難しい市場にもかかわらず、UPQではすごいスピードで製品を出し続けていますが、何か秘訣があるのでしょうか?

よく、「どんなマジックを使ったんですか?」と聞かれますが、タネを明かせば、誰でも思いつくようなことを、早く、多く、頑張ってこなしただけです。モノづくりって、苦しいんです。楽して良いモノをつくる方法なんてありません。他の人より寝なかっただけ。頑張ったから実現できただけなんです。

苦しいけど、自分たちのつくったモノが世に出たとき、ユーザーに手に取ってもらえたとき、苦しみに勝る大きな喜びが生まれます。そんなモノづくりの醍醐味や私たちの働き方を、UPQの製品に触れた時に少しでも感じてもらい、同じ業界の人たちに「自分も頑張ろう」と思ってもらえれば嬉しいです。

真面目に向き合い続けることで見える世界

──甘えを残さずに徹底的にやりきる、と。ものすごい速度で成長する分、数々の失敗もあるかと思いますが、大変な状況でもやり続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか。

家電メーカーとして、どんなことがあっても続けることが、一番重要だと考えています。

たしかに、これまで歩んできた道のりは、決して順風満帆なわけではありませんでした。創業してすぐに想像をはるかに超えた反響があり、急激な変化についていけなかったり、至らなかった部分もありました。リコールもしましたし、ディスプレイの不当表示に関しては、1年かけて対応してきました。

でも、もしメーカーがなくなってしまったら、次の製品が生まれないだけでなく、すでに販売した製品のサポートも一切できなくなります。製品の最後のひとつがゴミ箱に入っていない状態である限り、会社は存続するべきだと思います。

私にとっては、カシオで携帯電話事業を扱っていた会社がなくなってしまった経験が大きかった。メンバーは散り散りになり、大好きだった製品開発にも関われない。そんな思いは二度としたくない。だから、どんなに大変なことがあっても、一度失ったブランドの信頼をどうしたら回復できるか、もっと期待してもらうにはどうしたらいいか、あきらめるのではなくて前に進むにはどうしたらいいかだけを考えました。

そういう意味では、モノづくりをしているときと似ているかもしれません。モノづくりでは、思ったようにいくことはなくて、理想と現実とのギャップを埋める方法を必死で考えます。諦めずに最後まで考え抜き、できることの中から最善を選択し続けることで、ようやく完成品が出来上がるのです。

そして、作っている間はどんなに苦しくても、製品を出せばユーザーが喜ぶ瞬間に必ず出会えるんです。カシオのチームが解散すると分かった後に、お客さんには最後の携帯と言わずに作った製品があります。正直、作っている時はすごくつらかった。「どうせなくなるんだから、適当に作って製品を出せば終わりでしょ」とマイナスに考えてしまいそうになります。しかも、予算は大幅に削られて、CMもパンフレットもカット。追い打ちをかけるように、東日本大震災が起きて、発売も延期される状況でした。

それでも、「これまで自分たちの携帯を使ってくれたファンに届ける最後の携帯なんだから、いいもの作ろうよ」と奮起して、最後までこだわり続けたら、販売期間も短かったのに、その年のガラケーランキングでユーザー満足度一位に輝いたんです。

私だけではなく、みんなが同じ気持ちで最後まで頑張ったから実現できたこと。そういうことって起きるものだから、不真面目に作っちゃいけないし、誠実に向き合っていればモノを通して人とつながれる。だから、どんな状況でも前を向いて走らないといけないと考えています。

日本のメーカーを元気にしたい

──どんな状況でも、良くすることだけを考えて前に進み続けると。最後に、UPQの今後の展望を教えてください。

会社を立ち上げて2年ほど経ち、徐々にUPQブランドが認知されるようになってからは、技術を持った日本のメーカーから「自分たちの製品をUPQで売ってくれないか」と頼まれることが増えました。最初はお断りしていましたが、一緒にプロダクトを開発することで、日本のメーカーがもっと元気になるのではないかと考え、今は一緒にブランドを立ち上げようとするプロジェクトもすすめています。

UPQでのモノづくりを通して一番伝えたいことは、「私たちは特別なことをしているのではない」ということです。新しい製品を生み出すたびに、前回までの反省を反映させ、さらに良いモノをつくる。モノづくりの基本をやり続けるだけです。

それは、私の人生そのモノのようにも思います。うまくいかない日があっても、それでも前を向いて、明日こそはと歩んでいく。モノづくりをしなくなるということは、私にとっては命を断つのと同じです。

モノづくりに携わる多くの人に、製品、会社、私自身を通して「俺たちにもやればできるんだ」と思ってもらえるよう、これからも作り続けます。

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執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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