「水曜どうでしょう」嬉野Dから学ぶ、良い仕事を生む人間関係のあり方

「水曜どうでしょう」嬉野Dから学ぶ、良い仕事を生む人間関係のあり方

北海道のローカル番組でありながら、全国で放送され、日本中で知られる「水曜どうでしょう」というテレビ番組があります。おそらく日本人なら一度はなんらかの形で目にしたことがあるのではないでしょうか。出演者も合わせてわずか4名の制作チームが生み出す独特な空気感が視聴者にウケ、初回放送から20年以上経った今も新シリーズが作られるほど人気があります。また、関連する書籍が出版されたり、イベントが開催される伝説的な番組です。

そんな番組のスタッフの一人、「うれしー」こと嬉野さんに、番組作りで工夫していたことや、その背景にある仕事の哲学をお聞きしました。

嬉野 雅道
1959年生まれ。佐賀県出身。『水曜どうでしょう』カメラ担当ディレクター(HTB 北海道テレビ放送)。大泉洋主演ドラマ「歓喜の歌」ではプロデューサーを務める。安田顕主演ドラマ「ミエルヒ」では企画、プロデュースを担当。同ドラマはギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、文化庁芸術祭賞優秀賞など多くの賞を受賞した。愛称は「うれしー」。著書に『ひらあやまり』『ぬかよろこび』(KADOKAWA)、共著に『腹を割って話した』(イースト・プレス)など。

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心から面白い思えるコンテンツを追求

ーーまずは、「水曜どうでしょう」の独特な和気藹々とした雰囲気をどうやって作っていたのか教えて下さい。

そうですねぇ。和気藹々とした雰囲気を「狙って作る」なんてことはなかったかな(笑)
それでも、たしかに過去の番組を見てくれた視聴者から「みなさん本当に楽しそうで、ものすごい幸福感が伝わってきます」と言われることはありました。それを聞いて、あらためて見返してみると、たしかに、あの番組に出てくる4人がすごく楽しそうでね、私自身、画面の中にいるんですけど「あぁこの人たちと友だちになりたいな」と思いましたね(笑)。あれは貴重な体験でした。

だってテレビの向こうで我々4人が醸し出してしまっている楽しげな雰囲気がリアルタイムで見ている私の心を開かせていったんですからね。もしかするとこういうことがテレビでは大事なことなのかもしれないなと私自身が身をもって自覚した得難い瞬間だったと思います。

 

ーー番組内に流れる独特の雰囲気について、意図して作られたわけではないとのことですが、結果的に何が番組の雰囲気作りにつながったと思いますか?

それもいろいろ聞かれることですが、自分たちでは分からないですね。ただ、1つ言えることは、我々は自分たちの気持ちには常に正直に向き合っていたところがあります。

そこには、おそらく我々4人一人一人の根っこに流れている”やっぱり正直に振る舞ってしまう”という本来の性質が大きく貢献していたのかもしれません。

番組内での我々は楽しいと思ったら「楽しいねぇ」と心から言い、楽しいと思わなければ「楽しいよね?」と催促されたところで、頷くでもなく黙っているという正直さでしたから、その頑ななまでの正直さが、ひょっとするとテレビ慣れした視聴者にはかえってテレビ的でなく思えて共感されたのかもしれませんね。

たとえば、「最近料理にハマっている大泉くんに、どこかの家庭菜園で野菜を収穫するところからやらしてみたらどうかな」という企画案があったとするでしょう?

そうすると、
「なるほど、だったらいっそのこと野菜をタネから作りますか」
「開墾か?」
「いいねぇ開墾!響きが荒々しくていい!」
「荒地を耕すシェフ!!!」
「うちの親父がやってる家庭菜園の脇に荒地があるよ」とプロデューサーが思わず発言する、という具合に、面白そうだと思ってしまった方向にどんどん舵が切られていく。これはワクワクしました。

そうやって生まれた企画を実際やる。どうなっていくんだろう。現場で何が起きるんだろう。ロケの日が楽しみになります。もう、楽しいのが顔に出るくらい(笑)

案の定、大泉さんは力仕事にうんざりして汚れ作業にブーたれて、その後ろで鈴井さんと安田さんが石をどけたりして黙々と働いている。我々はそんな彼らを見ているだけで楽しくなってくる。そんな楽しげな現場にいる人間たちの雰囲気というものは、やっぱり見ている人にもちゃんと届いて、おのずと視聴者の共感を生んだとしか、もはや思えませんよね。

計画は立てすぎないから面白い

ーー他にも、番組を作る上で意識していたことはありますか?

一般的なテレビ制作では困難なことなのかもしれませんが、事前に計画を立てても、ロケ現場の成り行きで企画をどんどん変えていくということも、恐れずにやっていました。これはひとえに番組のチーフディレクター・藤村さんの性格ですよね(笑)。

本来、ちゃんとした東京のテレビ局のディレクターだったら、番組の企画を考える時は、プロデューサーなど決定権のある人に対してまずプレゼンをしてね、「面白そうだな、それでいこう」と言わせなければいけないんでしょうけど。でも、その手続きを踏むとね、その企画をやることで承認を得てしまったわけだから、契約上、事前に決めた計画をやらないわけにはいかない。

そうなるとロケに行った先で現地ガイドに「その企画は面白くない」と言われても、 “あらかじめ決めてきた「面白そうだな、それでいこう」”に沿って動かなければならず、「面白くない」と主張してやまない現地ガイドを説得して強引に企画を進めることになり、全員が迷走してしまう。これでは演者もスタッフも心底楽しいなんてことにはならないでしょう、だって、やりたい人が1人もいない状態ですからね。そしたら見てる視聴者もまた楽しくはないという、そういう順番です。そう考えると、基本、人間として、ごく当たり前なことをやってればいいということですよね。

子供の頃、休み時間にみんなでやる遊びって楽しかったじゃないですか。缶けりをやりながら、次は鬼ごっこをしようとか、ドッジボールしようとかね。でもあれが楽しかったのはその場の気分のままに決めていたからですよね。でも、もしあれが先生が後ろで遊びを管理してね、「はい、缶蹴りの時間は終わりましたよ。次は縄跳びに移ってください」とか、指図されて動くという休み時間だったらね、おそらくまったく楽しくない。

決められたことをなぞらなきゃいけない状況が、人間に興奮をもたらすことはないんです。我々4人は、そういった人類の本質に疑いもなく忠実だったんだと思いますよ。

番組を始めて22年。その間、そんな私たちの熱中にずっと付いてきてくれる視聴者がいるんです。彼らがずっといてくれたから、それが我々の自信となって毎回熱中することを繰り返して来たと思います。そういった、後追いしてくれる視聴者との共犯関係があって番組はながらえ、水曜どうでしょうのスタイルは確立されていったと言ってもいいんじゃないでしょうかね。

ーー番組を作っている中で、どうしても面白くならなくて焦るときはなかったのでしょうか?

どうやっても面白くならない時間というものはありますよね。そんなときはロケ現場で個人個人が焦りを感じながら、でも、けして「面白くない」とは言わず頑張ってるんじゃないでしょうか。だってもう「必ずどこかで面白いことが起きる」と信じて粘るしかないですもん。遠大な「待ち」を恐れてはいけないでしょう。人間は早計に人生を諦めてはいけないことと同じです。

道内の温泉地を巡った「激走24時間 闘痔の旅」のときは、温泉が海中に没していたり、清掃中でお湯がなかったりで、温泉に浸かるという目的を見失いそうになる事態が続きました。見方によってはロケは失敗したといえるかもしれない。それでも「大泉くんの痔を治すために温泉をめぐるんだ」という真剣さだけは見失わず、お湯に入れないという状況だって番組の中で視聴者に白状してゆけば、逆に視聴者は「どうやって入るんだろう」と新たな期待を持つわけです。

結局、「失敗」ということは、ないんですかね。どんな状況でも、その場その場で全てを正直に白状しながら、けして諦めず必死で対応している様を見せていけば、そこに人としての自然な流れが現れますから見ている方は意外と面白く見ていられる。

どうしても人間は、ある程度のところまで来て結果が出ないと、その先を予測してさっさと諦めてしまおうとする傾向にあります。それが合理的ということなのでしょうか。要するに人間は頭がいいから、最後までやらなくても結果が予測できてしまう。そうなるとそこからは、「これ以上やっても無理な理由」を並べはじめるのです。やめるために理由を探し始めるわけですね。でも、そんなときであっても、まだやめる理由を探さず、やり続けていると、やり続けるからこそ周りの景色も変わっていくってことを体験するんです。

すると、変わっていく景色につられて自分の中に湧き上がってくる気分もさっきまでとはまた変わっている。そして、ふと、どうすればこの先を面白く展開できるかを思いついたりすることがある。それも経験ですね。いろんな経験をこれまで積んできたから、諦めずに待つということもできるのかもしれませんね。

本音で言い合える関係性を作る

ーー「水曜どうでしょう」に限らず、嬉野さんが仕事をする上で心がけていることはありますか?

やっぱり自分に正直でいることですかね。以前、関西の劇団「ヨーロッパ企画」の面々と札幌でスタジオコントを撮影したことがありました。

私は、プロデューサーなんて面倒な仕事が出来る器量はありませんが、ヨーロッパ企画のコントは見たいから現場には行きたい。そこで「手伝い」という肩書きを主張して現場に行き、モニターの前でずっとゲラッゲラ笑いながら菓子を食っていました。撮影チームのわりと上の方に、分かりやすく仕事しない奴がいるということも、現場にいい雰囲気を生むことがあるみたいで、ヨーロッパ企画や現場を仕切ってくれたディレクターに「緊張がほぐれた」とあとから言われました。でも、そういうことを思いつく人も、実行する人も、私の他にはあまりいないのではないかとは思いますね。カッコよくないから。

50歳を過ぎてからの私は、基本的に、他人がそそのかしたことには乗っかろうと思うようにしています。とはいえ「嬉野さん、こういうことやりませんか、絶対できると思いますよ」と言ってくる人が、本心で言っている場合においてだけですけどね。何をしたいのかを聞いても見えてこず、私が納得できない場合は断ります。そんな人とは、怖くて繋がることはできません。でも「やってみませんか」と本気でそそのかして来る人と繋がることは思いがけず自分にできるとは思ってなかったことが、できるんだという発見に繋がるときがあるんですよ。

私はすでに知り合って関係性を築けている人と何度も仕事をしますし、初めて仕事をする人であっても事前に飲みに行ったりしています。今も佐々木倫子先生の『チャンネルはそのまま!』というコミックを原作に、連続ドラマをつくっているのですが、これまで関係性があった社外の人たちと繋がって、彼らの持っている力をそのまま使わせてもらいながらやっています。

弱みこそ価値を生む

ーー嬉野さんは、本音を出すときに人の目が気になることはないのでしょうか?

他人の目は常に気になりますね。人は常に周りから見られることを意識しながら生きているはずですから。だからこそ人前ではなんとか上手くやりきりたい。そこに緊張感が生まれているんだと思います。

だから自分の目の前でカッコよく取り澄ました紳士が、うっかり道端のバナナの皮に足を滑らせて転んだりすると、とってもおかしいわけです。あぁ、この人も他人の目を気にしてなんとか上手くやろうと取り澄ましていたんだなぁ、オレだけじゃなかったんだ、とホッとして、次の瞬間「オレより先に正体さらけ出しちゃって残念残念」と思うと自分が優位に立ててる分、安全な場所から眺められるから思わず笑っちゃうんじゃないかなって思います。他人の目にさらされているという緊張感を、人類の誰もが日常的に抱え持っているからこそ、笑いというものは生まれるんでしょう。

ただ、他人の目を気にすることも通常のこととはいえ、人からよく見られようと振る舞うことにも限界はあります。緊張ばかりが続くと人前が嫌になりますからね、それで苦しくなりそうだったら、自分が人目にさらさないようにしている弱い部分だって、どんどん表に出していかないと、と考えることも大事です。

私が思うに、人目にさらさないようにしている自分の苦手な部分を、思い切って表に出して、かつ軽快に世間に受け入れてもらうためには、みんなが受け入れやすい形でみんなの前に提示する必要があるんです。

例えば、ディレクターという肩書きで長年仕事をしているこの私がね、「いや、ここだけの話ですけど、何が負担かってね、番組を作れって言われることがいちばん負担ですよねぇ」ってステージの上から大勢の人たちの前で言ってしまうとね、アッサリ皆さん普通に笑ってくれますね(笑)。びっくりするんでしょうね、正直すぎて(笑)。だから大勢の前で、あまりに正直過ぎる発言を堂々とされると、聞いてる人はうっかり笑っちゃって受け入れてくれる。案外そこにはね、聞いていた側のみんなも、言いたくない、知られたくないことを抱えてたりしてるから思わずホッとして、ついつい笑っちゃって、アッサリ受け入れてくれる、持って帰ってくれるということになる。いったんそれに成功するとね、私は私の不得手なことをどこででも堂々と言えるようになって、隠したいこともどんどんなくなっていって、誰の前でも私は私に正直でいられるようになるから普通に堂々としていられるようになる。

カッコよく見せたくて、なるべく人目に触れなくしていたことを、あまりにも大勢の前でペロッと白状してしまうことは、リスクが伴いそうで誰もやらないのかもしれないけど、やったもん勝ちだと思えます。そこで笑ってもらえたら、それはもう世間公認のことになるから、自分に正直な自分で居られるようになるわけで、とても心が軽くなります。

そんな自分のことを周囲の人たちに平気で白状してしまうことって、例えば、市場に商品を出すことと同じだと思います。正直にさらけ出したことをみんなが笑って受け入れてくれたら、それは商品を納得ずくで持ち帰ってくれたのと一緒です、ならばそれは自分の弱みと思えた部分の商品化に成功したことと同じだと思うのです。

今後も、正直な気持ちを人生の羅針盤にして、ワクワクできる方向に舵を切って生きていこうと思っています。もう来年還暦ですけど、まだまだ人生は綱渡りです(笑)。

執筆者:THINK ABOUT 編集部
THINK ABOUTを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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