日本のキャリア教育が突きつける、18年間の“思考停止”。学歴が無効化する時代の優秀さを、“非大卒エリート”の可能性から考えた

執筆者: 小池真幸

日本のキャリア教育が突きつける、18年間の“思考停止”。学歴が無効化する時代の優秀さを、“非大卒エリート”の可能性から考えた

執筆者: 小池真幸

「もはや学歴に意味なんてないーー」。そんな言説を目にすることが増えた。大学院卒なのに正規就職ができない“高学歴ワーキングプア”が話題になるなど、学歴さえあれば社会で活躍できる時代ではないことは、明白だ。では本質的に何を身につければ、優秀で社会的影響力の大きい“エリート”になれるのだろうか?

ものごとの本質を考えるとき、極端なケースを例にとって考えると核心に迫れることが往々にしてある。本記事では、いわゆる“東大卒エリート”ではなく、大学を出ずに社会で活躍する“非大卒エリート”の可能性を検討することで、“優秀さ”の本質に迫りたい。

話を伺ったのは、大人向けのプログラミング教育サービス「WEBCAMP」の代表・大島礼頌氏、非大卒向けの就職支援サービス「バズキャリア」を運営する株式会社VAZの代表・森泰輝氏。ある意味において、二人は「非大卒でも活躍できる社会はいかにして可能か」を考え、社会実装し続けている。今回、非大卒人材の持つ可能性について徹底的に議論していただいた。

現代のキャリア教育が生む”思考停止”。身につくのは無価値な“記憶”能力

ーーまずはじめに事業立ち上げの原点でもある、お二人の教育に対する問題意識をお伺いさせてください。

株式会社VAZ代表取締役社長・森泰輝氏

森泰輝さん(以下、森さん):最も問題だと思っているのが、キャリア形成を考える際の「選択肢の幅の狭さ」です。特に新卒の非大卒人材は、基本的にハローワークに行くぐらいしか選択肢がなく、いわゆる知的産業へ就職する道が阻まれています。

また大卒人材も、大学に行かない選択肢を検討する機会がない点において、非常に狭い選択肢を強いられています。生まれてから大学に行くまでの18年間、“受験が最優先事項”状態がずっと続いているので、人生やキャリア設計については思考停止せざるを得ない。若くて吸収力が高いうちに幅広くインプットして試行錯誤した方が効果的なので、非常にもったいない状況です。

ーー選択肢を提供することが、事業立ち上げの背景にあると。

森さん:おっしゃる通りです。非大卒でも大卒と同じように就職できる社会になれば、非大卒のみならず大卒の選択肢も広がるのではないかと考え、バズキャリアを運営しています。大学に進学する以外にも豊かなキャリアの選択肢が与えられれば、必然的にみんなが自分のしたいことに向き合わざるを得なくなる。そうすれば、大学に進学するにしても、キャリア設計に関するあらゆる選択肢を吟味するなど、目的意識を持って行動するようになります。

ーー非大卒人材だけにフォーカスしているわけではないんですね。

森さん:非大卒向けに就職支援サービスを運営してはいますが、本当は大卒か非大卒かなんてどっちでもいいと思っています。大学に行く以外の選択肢を得ることで、若い頃からしっかりと自分の人生設計に向き合える社会をつくりたいんです。

大島礼頌さん(以下、大島さん):僕も同じ認識です。また、受験で求められる能力と社会で求められる能力にズレがある点も問題だと思っています。受験勉強を通して身につく「記憶能力」は、現代では価値がありません。

たしかに、インプットしたものをそのままアウトプットするスキルが重宝されていた高度経済成長期には、人間に求められる能力は「記憶」でした。ところが、テクノロジーが発達した結果、記憶装置的機能は機械が担ってくれるようになりました。そうした現状を受け、人間に求められる能力は、クリエイティビティと思考力、そしてコミュニケーション能力に変わったんです。

しかし現代の受験をゴールとした教育は、高度成長期から変わらず記憶能力を育てるものとなっており、このギャップに根本的な問題があります。

形骸化した大学教育と、選択肢を狭める“正社員信仰”

ーー18年間リソースを割き続けた結果、無価値な能力しか身につかないのは問題ですね。その受験勉強が終わった後の、大学教育については意義があると思われますか?

株式会社インフラトップ代表取締役/CEO・大島礼頌さん

大島さん:非常に形骸化していると思います。学生の学習意欲も、教授の教育意欲も低く、魅力的で有意義な場にはとても感じられません。とはいえ僕自身、これまでの大学以外の経験で、教育が人生を変える力を持つことは体感していました。そこで、「民間から教育を変えよう」と思いWEBCAMPを立ち上げたんです。

森さん:そもそも、大学が果たすべき役割が明確に定義されていないんですよ。先ほどもお話ししたように、現状の教育システムだと、大半の子供は思考停止したまま目的もなく大学に進学することになります。学生側に目的がないので、教授側も何を提供すればいいのか分からない。大学が何を学ぶ場所なのか、定義づけができていないことが問題だと思います。

ーー森さんが指摘する問題は、日本の教育システム特有の問題なのでしょうか?

森さん:海外に目を向けると、日本の大学教育がいかに形骸化しているかが分かります。たとえば大学進学率が日本に比べて低いシンガポールは、それゆえに大学がエリート養成機関としての役割を明確に担っているんです。日本も昔は似た状況だったのですが、“大学全入時代”が到来し、大学の存在意義が曖昧になってしまいました。

大島さん:何のために大学へ行くのか、誰も説明できないですもんね。そうして“フワッとした”4年間を過ごし、やがて就職し社会へ出て行くわけですが、大学と社会の接続についてはどう思っていますか?

森さん:“正社員信仰”に基づいた就職のあり方は良くないですよね。正社員を神聖視することで、「まだ君の能力が分からないからいきなり正社員は難しいけど、とりあえず働いてみる?」といった機会が失われています。特に学歴という明確な評価指数のない非大卒だと尚更です。

新時代の評価指標は、学歴よりも“学習歴”

ーーここまでお話いただいた教育への問題意識を踏まえ、現代においてエリート、すなわち優秀さはどう定義できると思いますか?

森さん:「自分がどうなりたいか」によって変わってくると思います。結局、ある人材が優秀かどうかは雇い主が決める話なので、一概に優秀さやエリートを定義するのは難しいんです。ある環境ではあまり評価されていなかった人が、転職したら高い評価を受けるようになるケースもよくあります。

大島さん:そうですね。プログラマーになりたいのであればプログラミングスキルが求められますし、YouTuberになりたいならコミュニケーションスキルが必要になる。経営者になりたいのであれば、学歴があった方が有利かもしれません。どんな人生が正解で、何を身につければ“勝ち”かということは、一様に定義できなくなっているんです。

森さん:だからこそ、本人に情熱さえあれば、選択肢とやり直しのチャンスに恵まれている社会にしたいんですよね。18歳までは一切キャリアについて考えないのではなく、若いうちから自己分析やトライアンドエラーを繰り返せば、自ずともっと自分に合ったキャリアや生き方が選べるようになると思います。いまはそういった自分と向き合う機会が、基本的には就職活動の時期までないんですよね。

ーーやりたいことによって優秀さの定義が違うとすると、企業は人材のどういった点を採用基準に活かせば良いのでしょうか?

大島さん:ひとつ有効だと思っているのは、学歴ではなく“学習歴”を見ることです。先ほどお話ししたように、学歴や偏差値は基本的に高度経済成長期的な“記憶力”を測るものさしなので、そういったスコアリングの信頼性はどんどん低下していくと思います。

企業によって求めるスキルセットが変わるので、これまで何を学んできたか、学習履歴のポートフォリオを見た方が採用判断もしやすくなっていくでしょう。ここから20年くらいで、学歴ではなく学習歴を見るスタイルが王道になっていくと思います。

森さん:僕もそう思います。結局、企業にとって重要なのは、「どこの大学を出たか」ではなく「何ができるか」です。「何ができるか」を判断するには、学歴よりも“学習歴”の方が絶対に役立つと思います。転職市場で職歴が見られるのと同じことですよね。

大島さん:“学習歴”を見て分かることは、スキル・スペック・パーソナリティの3つ。それぞれのクラスタで細かくスコアリングされるイメージです。

森さん:個人の信用をスコア化している中国の芝麻信用のように、学習歴をもれなく記録してスコア化できるのが理想ですね。

学歴を追いかける時代は終わった。思考の深さとトライアンドエラーの数が、エリートへの道

ーー自社サービスのユーザーを見てきて感じる、非大卒の方ならではの強みはありますか?

森さん:大前提として、思考力、すなわち“アタマの良さ”に学歴との相関性はないです。大島さんもおっしゃられていたように、あくまでも学歴で測れるのは記憶力にすぎません。その前提の上でお話しすると、非大卒の人は選択肢が少ないので、そのぶん仕事を与えられた時のコミット度は高いと思いますね。「こんな綺麗なオフィスで働けるんだ」という感動や、「僕みたいな人を採用してくれたから、絶対頑張ろう」といった飢餓感の強さは感じます。

大島さん:大卒であれ非大卒であれ、きっかけがあれば変われるんですよ。だからこそ、僕らがやっているようなサービスで、変わるきっかけを与えることが大事になってくる。

森さん:結局、何度も行動を積み重ねながらやりきるしかないんです。“数を打てば当たる”戦法で、何度も行動して改善していけば、そのうち成功します。学歴という分かりやすい価値基準が有効性を失いつつあるいま、自分の適性や身につけるべきスキルについて何度も考え抜き、トライアンドエラーを繰り返すしかないんです。

今後、「WEBCAMP」「バズキャリア」のようなサービスが普及していくと、キャリアや人生の選択肢は今までとは比べものにならないほど広がっていくだろう。結果、各々が自身の適性や必要なスキルは何なのか考え、試行錯誤することが求められる。

今までのように、学歴さえ身につければエリートになれる時代は終わっていく。思考停止して「言われたことだけやっていく」スタンスが一番危険だ。自分が何をしたいのか、そのために何をすべきなのか、一通りの正解はないので、自分のアタマで考え続けていかないといけない。

文:小池真幸 取材・編集:オバラミツフミ

タグ : 
執筆者:小池真幸
93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512
この執筆者の記事をもっと見る