テクノロジーが変える貨幣と国家。斉藤賢爾と考えるシンギュラリティの先にある社会の姿_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№3

テクノロジーが変える貨幣と国家。斉藤賢爾と考えるシンギュラリティの先にある社会の姿_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№3

30年以内にお金の世界を終わらせたい

そう話すのは、『信用の新世紀 ─ ブロックチェーン後の未来』の著者であり「インターネットと社会」の研究者である斉藤賢爾さんだ。

斉藤さんは、これまでにデジタル通貨や地域通貨などを研究。最近ではブロックチェーンの啓蒙や批判を行っている。様々な研究から「人が本質的に自由に生きるためにはお金の世界を終わらせる必要がある」と考えているそうだ。

2018年10月30日、THINK ABOUTが主催する初のカンファレンス『貨幣の束縛』では“貨幣”を起点に信用や価値、そして未来の社会構造を考える。その中で斉藤さんには「2050年の価値交換」というテーマで登壇頂く。カンファレンスに先立ち、テクノロジーの進歩で人間とお金の関係がどう変わるのか、話を聞いた。

お金が意識から消える日

──テクノロジーの進歩によって、お金と人間の関係はどのように変わっていくと考えていますか。

テクノロジーによるお金と人との関係の変化については、ふたつの時間軸で捉えるべきだと考えています。ひとつは、現在のテクノロジーの延長で考えうるこれから数十年。もうひとつは、シンギュラリティ後の社会です。

現在あるテクノロジーの延長で一番大きなインパクトを持つのは、「キャッシュレス」だと考えています。現金を持ち歩かなくなることは生活への影響が大きいですし、さらにいえば、お金が「意識から消える」ことが重要です。キャッシュレスが進み、決済が自動化することで「お金は存在するのにお金を気にしなくなる」状態になります。

近い例として、太陽光パネルによる自家発電が挙げられます。私の家には15年以上前から太陽光パネルがあり、発電状況はキッチンの横にあるメーターで確認できます。はじめの頃はどれくらい発電しているかじっと見ていましたが、ある時から全く気にしなくなりました。

お金に対しても、それと同じことが起きます。現在でも、たとえば、クレジットカードの明細を細かく見る人はあまりいないと思います。ただ、クレジットカードは使うときはサインを求められることもあり、決済を意識せざるを得ません。交通系ICカードのような決済でも、毎回端末にタッチするので意識からは消えません。

そこで出てくるのが、コンピュータビジョンのテクノロジー。「Amazon GO」のように、レジの行列に並ばず、商品を手に取ってそのままお店から出る体験が実現されたら、決済への意識、つまり「支払っている」という感覚がなくなるでしょう。おそらく、最初は間違っていないか心配で口座を確認すると思いますが、自動で払えているとわかれば気にならなくなると思います。

斉藤賢爾
慶應義塾大学 SFC 研究所 上席所員・環境情報学部 講師(非常勤)。一般社団法人ビヨンドブロックチェーン 代表理事。株式会社ブロックチェーンハブ CSO (Chief Science Officer)。1993年、コーネル大学より工学修士号(計算機科学)を取得。2006年、デジタル通貨の研究で慶應義塾大学より博士号(政策・メディア)を取得。主な著書に「信用の新世紀 ─ ブロックチェーン後の未来」(インプレスR&D)。

人類史上初の物々交換の世界が訪れるかもしれない

──決済を意識しなくなるとわたしたちの生活はどう変わるのでしょうか。

決済の意識が消えると、お金を介さない交換が促進されます。つまり、シェアリングエコノミーがより進むのです。たとえば、いちいちお金を介さずとも「この人は、このお店での皿洗いの蓄積がこのくらいあるから、これくらいのサービスを提供できる」みたいな世界になると思います。

また、シェアリングエコノミーの進歩は、社会学的に捉えると「お金を稼ぐのに専門性が必要なくなる」と言うことができます。たとえば、Uberは、自動車運転免許という凡用な能力でお金を得る環境を提供しました。AirBnBも同じで、余っている部屋をお金に換えられる世界を実現しています。メルカリも、小売業者でなくともモノを売ればお金を得られるようにしました。

つまり、シェアリングエコノミーが進むと、専門性とは関係ないところで経済活動が回るようになるのです。その流れとテクノロジーの相性はすごく良い。たとえば、3DプリンティングやAIなどのテクノロジーを使えば、自分に専門知識がなくても、専門家と同じようなことができます。

専門性がなくなり誰もが万能になることは、貨幣経済の縮小を加速させます。なぜなら、貨幣は専門分化を前提に、自分では生産できない・しない財やサービスを交換するために存在しているからです。全員が万能であれば、他者と交換する必要がないので、貨幣はいらないわけです。

そこにキャッシュレスの流れが加わり、貨幣経済を衰退させます。価値の尺度は、日本の中では日本円が基準となっています。しかし、現金=日本円を意識しなくなると、それぞれの人がそれぞれの尺度で価値を測るようになるのです。

それは、人間にとって自然なことなのかもしれません。日本円は、明治維新後にできた単位であって、それ以前は金や銀や米で価値を測ったり基準がばらばらでした。今の通貨を基準とした経済も、よく考えてみると「同じ価値の物が交換されている」というのは幻想です。

なぜなら、何かの商品を100円で買った人がいたときに、買う人は「100円を手放してでも商品を手にれたい=100円よりも商品の価値が高い」と思っているわけですが、売る人は商品を「手放してでも100円を手に入れたい=商品より100円の価値が高い」と思っているわけです。同じ価値を交換しているわけではありませんし、双方が得をしているのです。

その状況を制度化したのが貨幣経済ですが、本来的には、お互いの判断基準で価値を決め、交渉して取引が成立する世界が自然だと思います。互いが別の軸で価値を測るということは、お金を介さずに物々交換するということです。それは昔に戻るように見えますが、人類史上物々交換が経済の仕組みとして専ら行われていた歴史はないと言われています。需要と供給が完全に一致しないため、物々交換を広く実現するのは難しかったのです。だから、一度「貨幣」というかたちに価値を置き換えて、それを用いて交換を行ってきたわけです。

テクノロジーの進歩によって、様々な人の需要と供給をつなぎやすくなりました。今まさに、人類初の物々交換の世界が実現しようとしているのです。

インターネットは人を国という概念から開放するテクノロジー

さらに、それは「国家」という概念を衰退させることにもつながります。なぜなら、国家は貨幣・税金の仕組みによって支えられているからです。

国ができるとき、大抵は周辺地域を武力で制圧します。生産活動を行わない軍隊を食べさせるために、市民からは食料を租税します。すると、税金として扱われる食料は市場で一般市民にやり取りされるようになり、貨幣が生まれます。そのように、国ができると自然と市場経済ができあがるのです。

さらに、市場ができると専門分化が起きます。人はもともと、狩猟採集社会の中で生き延びるために必要なことをすべて自分たちで行っており、自由に食料を得ていました。それが、市場の中で貨幣を使って食料を得るようになると、貨幣を得るための労働が必要になります。労働とは、人ができないことをして対価を得ること。つまり、人々の専門性が分かれていかざるを得なくなるのです。

それは人が万能性を捨てるとも言い換えられます。万能性を捨てるのは非常に怖いことで、防衛も誰かに任せる必要が出ます。防衛は国に任せ、国への依存がが強まる分、払わなけれならない税金も増える。そうやって、貨幣・専門分化・国家の三角形が強化されているのです。

万能性を失い、限られた自由の中で生きるのは、国家の奴隷になっているようなもの。その構造は、国が民主化されても変わりません。現代は、支配者不在のまま国という枠組みによる支配が続いてるともいえます。

その構造を壊しているのがテクノロジー、もっといえばインターネットなのです。インターネットは「個人ができることを拡大する=個人の万能性を取り戻す」テクノロジー。同じものを自分で作れるなら、買う必要がなくなる。すると、貨幣が弱体化しますし、貨幣がデジタル化することで意識から消えてその力を失わせる。そうやって三角形自体を弱らせていくのです。

ブロックチェーンの立ち位置は支配脱却に対する“反動”

──「テクノロジー×お金」と聞くと、流行りのブロックチェーンが想起されます。ブロックチェーンは社会にどのような影響を与えると考えていますか。

現段階での使われ方、つまりビットコインなどの仮想通貨という分野のみで使われている状況は、貨幣や国家の衰退に対する反動だと考えています。地域通貨研究で有名な森野榮一さんという人から教わった「経済と信用の氷山モデル」で考えると、頂点に立つのがビットコインです。

森野榮一氏の図を参考に斉藤さんが作成した図を元に作成

この図は、水面より上は「お金を信用」する世界で、水面より下は「人を信用する」世界を表しています。人の信用で成り立つクレジットカードは水面すれすれを浮き沈みしています。日本円のような通貨も「日本で暮らす仲間だよね」と人への信用があるからこそ通用するものなので頂点ではありません。それに対して、ビットコインは人や国への信用は関係ありません。仕組みを信用しており、世界のどこでも通用するということを押し出すのであれば、お金を信用する世界の頂点と言わざるをえません。

人ではなくお金を信用する流れはあまり好ましくないと思います。貨幣自体が支配のツールなので、人が「貨幣の奴隷」になっている状態からは逃げられないし、むしろ束縛を強めているとすら感じるからです。

また、わたしが仮想通貨に共感できないもう一つの理由として、貨幣の供給量の問題があります。貨幣の価値を安定させるためには、貨幣の流通量をコントロールする必要があり、価値を保ちつづけるためには、ある程度の市場に流通したら貨幣の発行を止める必要があるという考え方があります。ビットコインなどの仮想通貨では、この考え方にもとづいて、新たな貨幣の供給を制御して最終的には止めようとしています。

貨幣の総量は増えず、ただし、それによって扱われる財やサービスの範囲が拡大するとすれば、仮想通貨の価値は高まりますが、それはいわゆるデフレです。デフレというのはお金の価値が高まることで、同じお金の量で交換できる価値が増えること。本質的には、お金の支配が強力になるということです。

一般的には、デフレよりインフレの方が悪いような印象がありますが、インフレはお金の価値が下がる現象なので、それに伴って給与が上がるとすれば、お金をあまり持っていない人にとってはほとんど影響がありません。むしろ、経済的にはインフレは重要で、「これからお金の価値が下がります」とわかれば「今のうちに使おう」と、消費が伸びて市場経済は維持できるわけです。ただ、資産家は自分が持っているお金の価値が下がると困るので、インフレを防ごうとします。「インフレ=悪い」という世間の印象は、資産家の発言を、資産を持たない人が信じ込まされているという側面もあります。

そういう点で考えても、現在のブロックチェーンの使われ方はインターネットによる「支配からの脱却」と逆行する現象だと感じています。

シンギュラリティまでに貨幣経済を衰退させなければならない

──テクノロジーが進歩し続けてシンギュラリティを越えたとき、お金と人間の関係はどうなっていくのでしょうか。

ここでいうシンギュラリティの定義は「1000ドルで買えるコンピューターで70億人分の脳のニューラルネットワークのシミュレーションができる」という世界観を指します。それが2045年頃に訪れるといわれていますが、人間一人分の脳と同じシミュレーションはもっと前に実現できるようになり、私たちが現在仕事だと思ってることのほとんどが機械でできるようになることが一番インパクトがあると考えています。

つまり、人が働かない世界の到来です。もっといえば、機械が働くほうがコストが低くて、経済合理性で考えると人間に働いてもらう理由がなく、人が働きたくても働けない社会ということです。その時に貨幣経済を続けていると、お金を稼ぐ手段がなくて困る人が出る。だからこそ、30年以内にお金の世界を終わらせることが大事なのです。

よく、国からベーシックインカムを出せばよいという話が出ますが、それは国の支配下に置かれ続けるのと同じで、いわば奴隷です。強制労働はありませんが、政府から支給されたお金の範囲でしか生活できないわけです。

テクノロジーが発展すると、人がやらなければならないことはどんどん減ります。人に言われてやるところは機械の仕事になり「何をつくりたいか」「社会をどう変えたいか」「何を知りたいか」「何ができるようになりたいか」といった部分こそが人間の価値になると思います。そんな時代になったとき、人が自由に生きていくためには、お互いが「やりたいこと」があって、そのために必要な財やサービスが自動的に提供され、人々が協働しやすいような経済が必要なんです。たとえば、「野球やりたい」という人がいれば、同じく野球をやりたい人で集まればいい。テクノロジーの発達によって、ニーズを適切にマッチングできるようになった。だからこそ、お金を考えなくても営みが続くのです。

わたしは、人がやりたくないことから開放される社会を実現したい。そのためには、お金の支配から抜け出す必要があると考えています。今の社会でお金を持つことが解決策かどうかは、よく考える必要があると思います。億万長者にでもなれば自由に生きられると思うかもしれませんが、実際に億万長者になった人は社会への貢献を考えざるを得ませんし、逆に貨幣経済の歪みを一番よく感じている人たちでしょう。貨幣経済で回っている社会自体を変える必要がある。今回のカンファレンスでも、社会を変えるための話ができればと思います。

 

THINK ABOUT CONFERENCE Vol.1『貨幣の束縛』

「貨幣」を起点に信用、価値、そして未来の社会構造を考えるカンファレンス。
斉藤さんをはじめとした有識者の方を招いたパネルディスカッション(インプット)とワークショップ(アウトプット)を通して、参加者と共に未来を考える場にしたいと考えています。

カンファレンスの詳細はこちら

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執筆者:THINK ABOUT 編集部
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