開発途上国と先進国の「食の不均衡」を日本発の社会事業で解決する。__「TABLE FOR TWO」を根底で支えるものとは?

執筆者: 小堂敏郎

開発途上国と先進国の「食の不均衡」を日本発の社会事業で解決する。__「TABLE FOR TWO」を根底で支えるものとは?

執筆者: 小堂敏郎

世界で10億人が飢餓・貧困に苛まれている一方で、20億人が飽食のため肥満・生活習慣病に苦しんでいる。開発途上国と先進国の両方の社会的課題を一緒に解決しよう――「TABLE FOR TWO International(TFT)」は、そんな「食の不均衡」の解消をミッションに掲げる日本発のソーシャルビジネスだ。政府も行政も企業も、誰もが手をつけかねている社会的課題を事業で解決しようとするソーシャルビジネスは生き残りが難しいが、2007年10月にNPO法人で創設されたTFTは着実に活動の幅を広げ、グローバルにも展開する。TFTの継続・拡大を支えるものは何か。草創期から携わる安東迪子代表理事にお話をうかがった。

「TABLE FOR TWO」プログラムとは

TABLE FOR TWOとは、“二人のための食卓”という意味。 先進国の私達と開発途上国の子どもたちが食事を分かち合うというコンセプトです。 先進国の社員食堂やレストランなどで、TFTのヘルシーな食事を一食食べると、代金のうち20円が寄付になります。 20円とは、アフリカ・アジアの子どもたちの給食一食分。 先進国でヘルシーな食事を一食食べると、食べられなくて困っている開発途上国の子どもに一食プレゼントできる。開発途上国と先進国双方の人々の健康を同時に改善することを目指しています。
写真中央:安東迪子(あんどう・みちこ)。特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International代表。1982年、東京生まれ。女子学院中学・高校、早稲田大学法学部卒業。金融系のシンクタンク、食材輸入のベンチャー企業を経て、2007年9月、任意団体で活動を始めたTFTに参画。同年10月、NPO法人として発足したTFTの2人目の正職員に。代表理事の小暮真久氏とともに、企業・団体への営業活動、広報・宣伝活動などから支援先の現地視察まで、多様な業務をこなす。18年4月から代表理事(小暮氏と共同代表)。現在はTFTの主に国内事業を統括する。写真左:大宮千絵(おおみやちえ)。TFT国内事業推進・マーケティング担当。2009年からプロボノとして関わり、2015年に大手メーカーより転職。「おにぎりアクション」の旗振りとして活動に従事。写真右:室井あかね(むろいあかね)。2013年より事務業務全般を担当。

わかりやすいコンセプトが社会事業のパワーになる

――NPO法人の数は5万を超えましたが、一方で解散した法人数が1万5000を超えます。そのなかで、TFTは創設から10年以上を経て、着実に取り組みを広げているように見えます。

安東 2007年に私が参画した頃、TFTはまだ誰も知らない任意団体でした。企業を回って「社員食堂でTFTを導入してください」と頼んでも、胡散臭げに見られてしまう。NPO法人化後も1年間は事務所がなく、他のNPO法人さんのオフィスで間借りしていました。そこに机2つ、小暮と2人で「これって、本当のテーブル・フォー・ツーだね」とか言いながら仕事をしていたんです。

それが今、TFTプログラムを導入してくださる企業・団体は日本各地で720を超え、グローバルでは800近くになりました。震災があった2011年と比較しても、2倍近くの増加です。企業の社食、大学の学食といった事業所食堂やレストランをはじめ、自動販売機、小売商品にもTFTの対象メニュー・食品が導入されるようになり、年間で延べ700万人以上の方々が購入してくださっています。そして1食20円から積み上がった寄付金によって、累計で6300万食以上の学校給食をアフリカやアジアの子どもたちに届けることができました。

――給食を届けるだけで、支援先の子どもたちは変わりますか。

安東 戦後の日本が学校給食の導入で国民の栄養状態を改善したように、「果物をかじる程度で一日我慢する」という開発途上国の子どもたちにとっても給食は大きな役割を果たしています。子どもたちは1〜2年で見違えるほど元気になりますし、数字に表れるところでは、学校への就学率や出席率、成績が向上してきます。高等教育機関への進学者も出てくる。ルワンダのバンダ村は、平均世帯収入が1日約1ドルという深刻な貧困状況にありますが、TFTでは2010年から村の幼稚園・小・中学校に通う子どもたちに給食を提供してきました。その結果、今年、村から初めての大学進学者が輩出しました。ルワンダ国内の大学にTFTの給食を食べてきた子が合格したんです。

給食の支援は子どもたちを変えるだけではありません。お母さんたちも元気になります。給食ができて、子どもたちが学校に行って学び始めると、明るい未来を少し描けるようになるのでしょう。この子は自分のような生活ではなく、もしかしたらジャーナリストとか学校の先生とかパイロットとか、現地で人気の職業に将来就けるかもしれないと、そんな期待も芽生えるのではないかと思います。

――TFTプログラムを導入する企業・団体の意識についてはどうでしょうか。TFTの仕組みに参加すれば社会貢献のPRになる、といった意識のほうが強かったりしないでしょうか。

安東 TFTを導入してくださるのは社食がある企業・団体なので、そうなると大企業が多いのですが、「とりあえずTFTに参加すれば社会貢献に取り組んでいると言えるから」というところもあるかもしれません。ただ、TFTの事務局から支援先の様子をお伝えしたり、「皆さんのお陰で、現地ではこんなに大きな変化が起きているんです」などと具体的にお話ししたりするうちに、だんだん変わっていく企業さんもあるんです。「これは本当に良い取り組みだから、ずっとやっていくべきだ」って。年1回、活動報告会を開いていますが、そこで触発される企業さんもあります。食の不均衡の問題や、その解決を目指す取り組みについて知ってもらうためには、具体的に、生身の人が見たり感じたり体験したことを伝える。それが大事だと思うんです。

――2011年の大震災以降、国内では社会貢献や公共性の意識が高まっていると言われますが、TFTの活動を通じてそれを感じることはありますか。

安東 ありますね。自分も社会に貢献したい、少しでも自分にできることが何かないか……と探している人たちが増えているのではないでしょうか。同時に、自分が支援したものが何になるのか、厳しくご覧になる方もすごく増えたなと感じています。TFTにとっては、そうした意識の変化がプラスに働いていて、「日本でヘルシーメニューを1食とると開発途上国の給食1食になる、という仕組みがわかりやすい」と興味を持ってくださる人がすごく増えました。またTFTは、寄付をする自分も健康になるというメリットがあるので、ウィンウィンの仕組みと言えます。TFTのコンセプトがシンプルであるがゆえにパワーもある。創設からここまで継続できた背景には、そんな理由もあるような気がします。

共感を呼び、楽しみながら参加できるキャンペーン

――TFTプログラムのほか、キャンペーンやイベントも定期的に行っています。毎年10〜11月に実施している「おにぎりアクション」のキャンペーンは話題となり、昨年、日本マーケティング大賞奨励賞などを受賞しました。

安東「おにぎりアクション」は、おにぎりを握って、食べて、その写真に「#Onigiri Action」と付けてSNSで投稿すると、5食分の給食がアフリカ・アジアの子どもたちに届けられる、という仕組みです。5食分の費用(100円)は協賛企業が支援してくださいます。今年で4回目になりますが、年々爆発的に広がっていて、昨年は約1カ月半のキャンペーン期間で16万枚以上の写真が投稿されました。その結果、約100万食もの給食を届けられることになったんです。インターネットを通じたキャンペーンにもいろいろありますが、そのなかで「おにぎりアクション」への反響の大きさは突き抜けているらしく、私たちも驚いています。

現在実施中の「おにぎりアクション2018」
※バナーをクリックするとキャンペーンページに移ります

――キャンペーンの効果を試算して実行したわけではないのですか。

安東 試算はできなかったんです。TFTプログラムを始めたときもそうだったのですが、前例がないし、ベンチマークにできる類似のものさえ見当たらないからです。もちろん、スタッフの労力が丸赤字になってはいけないので、そのあたりは計算しつつ実行しましたが、「面白いことを思いついちゃったから、とりあえず、やってみよう!」みたいな感じで動きはじめたんですね。「1枚も写真が投稿されなかったらどうしよう……」と不安半分、期待半分で。

1回目(2015年)は今と比べると投稿数はかなり少なくて、5000枚ぐらいでした。そのときはTFTの特設サイトでしか写真投稿ができなかったのです。それで、もっとキャンペーンを広げるにはどうしたらいいんだろうと、TFTをサポートしてくれる方々に意見を聞いて回りました。なかでも、学生さんのアイデアになるほどと。「僕たちは皆、スマホユーザーなのでウェブ投稿は面倒臭いです」、「インスタとかでできないんですか」、「ハッシュタグつければいいのに」など、いろいろ率直に教えてくれて、それらをすぐ取り入れたんです。実際、SNSからも手軽に写真投稿ができるようになったことで、2回目(2016年)から写真の投稿枚数は爆発的に増えました。

NPOは関わり方の間口が広い組織で、多種多様なステークホルダーがいます。「おにぎりアクション」一つとっても、SNS活用を提案してくれた学生さんたち以外にも、企画を練る際にたくさんの貴重なアドバイスを寄せてくださった方々、企画案ができた際に「面白いですね。これならうちも参加したい」と言ってくださった企業の皆さん、企画の実現のために力を貸してくださったプロボノの方々、楽しみながら参加してこの活動を広めてくださるインスタグラマーさんやメディアの皆さんなど、本当にたくさんのお力添えによって成り立っています。

食料問題のような社会課題を解決していくためには、私たち事務局のスタッフだけが頑張っていてもだめで、いかに多くの方々に力を貸していただけるかが非常に大事だと思っています。TFT の活動に関わってくださっている全ての皆さんには、感謝の気持ちしかありません。

――前例のない社会事業をいかに構築し、浸透させるか。共同代表の小暮さんは以前、TFTプログラムをスタートするとき、マッキンゼーのコンサルタント時代に身につけたフレームワークのスキルを生かして、TFTの展開を整理したと語っていました。しかし、計算通りに行かないことも多く、そのときは「人の感情」という目に見えない場所から助けの手が入ることが何度もあったと。

安東「おにぎりアクション」も多くの人たちが共感してくださったからこそ、予想以上に広がったのだと思います。身近な「おにぎり」と「社会貢献」は、普通ならつながらないキーワードでしょう。でも、意外な組み合わせに興味を持つと、その先に「アフリカの子どもたちの給食になる」というストーリーがあって、そこで皆さん、共感してくださるのではないでしょうか。そのうえ、キャラおにぎりとかを握って、写真をSNSで投稿するのは、単純に楽しめる。「アフリカの子どもたちのために、何かしたい」と思っても、そのために負担を感じたりすると続きません。やっぱり楽しくないと続かないんです。皆さんにいかに楽しんで参加してもらうか、取り組みを進める私たちも楽しみながらできるかどうか。それも社会事業では重要なポイントの一つです。

――TFTの事務局は現在、フルタイム・パートタイム・学生インターン含め10名強のスタッフです。

安東 活動の広がりから、結構大きな組織だと思われることもありますが、実際はこの人数しかいません。それでも事務局は少しずつパワーアップしています。「おにぎりアクション」も、2015年4月に大手企業からTFTのマーケティング担当に転職してくれた女性(大宮千絵さん)が発案してくれたんです。転職サイトに求人を出したら500人以上の応募があったこともあり、そのときも優れた人材がTFTに来てくれました。離職率も低く、1回TFTに入ると辞めません。人数が少ないぶんスタッフどうしの関係はフラットで、自分の提案が反映されやすい環境ですし、大きな企業では難しいけれど、TFTだったら自分が創り出したものをすぐ世に出せることもある。そういうところにやりがいを感じてもらっているのかもしれません。

ただ、私自身はNPOで働いているというよりもベンチャー企業の気持ちで仕事をしていることが結構多いですね。NPOと企業の違いはどこにあるか、と正面切って問われると、あまり変わらないように思うんです。私たちが今、仕事で求めているスピード感とかクオリティは、企業の場合と全く変わりないし、それこそ適用される法律や税制が異なるだけで両者は何が違うのかなあと。企業も、根本的には利益を上げつつ社会に還元していく存在だと思うのです。

――経営戦略の一環として社会貢献活動を打ち出す企業も少なくありません。

安東 みんなできることをやったらいいのではないでしょうか。技術力の高い企業がそれを開発途上国に持って行って支援に活用するとか、そういうことができれば素晴らしいですよね。NPOの場合、中立的な立場と見られるので、いろいろな企業を巻き込んで、企業1社だけでは難しい社会貢献もできることがありますから、そこはNPOと企業の違いと言えるかもしれません。NPOは、いろんな壁も越えて「思い」を共有する仲間を広げていくことができるんです。

TFTも、私を含めて関わっている人たち皆が「TFT大好き!」という気持ちを持っているんじゃないかと思います。「おにぎりアクション」もそうですけど、新しいものが生まれたときに全員がワクワクして、楽しみながらやっていける。それは、TFTに関わる人たち全員に強い「TFT愛」があるからだと、その一言に尽きると思っています。

現地支援を始めたら、途中で絶対にやめてはいけない

――TFTプログラムも「おにぎりアクション」も、開発途上国と先進国の「食の不均衡」を解消するという目的のための手段です。目的の達成度については、どう見ていますか。

安東 先進国の飽食の問題について言うと、日本では2007年以降、肥満率が減ってきています。ただ、海外ではどんどん増えていて、世界全体の肥満人口は私たちが活動を始めた頃に10億人ぐらいだったのが、今20億人弱になっているんです。そこは何とかしなくてはと思っています。

TFTでは現在、ドイツとアメリカに現地法人を設立していますが、ヘルシーな「和食」と、食事や食物に関する知識を身につける「食育」を掛け合わせた「和食育」プログラムという新しい取り組みをアメリカ中心に進めています。スタートして約1年半で、学校を中心に200回ぐらい「和食育」のレッスンを行いました。アメリカの学校は生活の面倒をほとんど見ないんですね。子どもたちが何を食べていても誰も気にしないし、保護者も知識不足だったりします。貧しい家庭の子ほど太っているという現実もあります。

ですから、子どもたちに食の大切さや栄養バランスの知識などを広げていかなければいけません。5色の栄養素を意識して彩り良く食べると栄養バランスが良いとか、日本人だったら誰でも常識のように知っているけれど、アメリカの子どもたちに「この食べ物には5つのうち緑色の栄養が入っているよ」とか話すと、「おおっ!」みたいな驚きの反応が返ってくるんです。

――開発途上国への支援状況についてはどうでしょうか。以前に、安東さんは「その地域で1回支援を始めたら、やめてはいけない」と話していました。

安東 私自身、支援先の現地を初めて訪問するまで、「こちらが寄付を送って、向こうは食べ物がなくて可哀想で」みたいな感覚がどこかに若干あったんです。ところが、現地の子どもたちは貧しいなかですごく楽しそうにしていました。たしかに栄養状態は悪いのですが、主観的な幸福度が低いようには見えなかったんです。案内役の現地スタッフに「食べ物がなくて、みんな辛くないの?」と聞いたら、「生まれてからずっとこの環境で暮らしているから、みんな自分たちは不幸だとか辛いとか、そういう気持ちは全く持っていないんだよ」と。もし、私たちが支援を始めて、途中で打ち切ったりしたら、子どもたちは、それまであったものがなくなってしまうことになる。そうなったら栄養状態が元に戻ってしまうだけでなく、子どもたちが自分は不幸だと感じてしまう。私たちは、さまざまな意味で責任重大で、始めたものは絶対にやめてはいけないと、あのときから肝に命じています。

最終目標は、私たちが引き上げても支援先の地域はもう大丈夫、という状況になることです。現地の人たちが自分たちの力で給食事業を続けていくことを目指しているのです。今のところ、そうなっている地域はまだありませんが、いろいろ試行錯誤もしています。2014年からは、農業指導をする団体の協力も得て、TFTからの寄付金をもとに現地の人たちが自分の手でガーリックやオニオンといった商品作物をつくり、それらをマーケットで販売することで給食事業の材料費などを賄う――という持続可能な仕組みづくりも始めています。

――アメリカでは、大企業並みの規模で活動するNPOも少なくありません。数百億円の支出規模、60カ国以上で活動する1700以上人のスタッフを擁し、開発途上国で医療や母子保健の活動を行うNPOもあります。

安東 アメリカではファンドレイジングやファンドレイザーという職業も確立していて、NPOの資金調達のレベルが日本とは違います。また人材の流動性も高く、企業や行政とNPOを行き来する優秀な人材も多いですが、日本ではそこまで至っていません。TFTのような事業型NPOがようやく社会的に認めていただけるようになってきたとはいえ、それでもNPOに清貧を求める風潮はまだまだあるかなと、そんな気もします。

だけど、TFTの財政状況は、だんだん良くなってきています。ミッションを達成するためには、今はもうちょっと人が欲しいなと。TFTのコンセプトへの「思い」がちゃんと強くて、でも冷静にビジネスとしてTFTを広げていける、バランス感のある仲間に加わって欲しい。そして「おにぎりアクション」のような「新規事業」をもっと生み出して、財政もプラスに拡大していきたいと思っています。

執筆者:小堂敏郎
出版社勤務からフリーランスとなり、週刊誌・月刊誌・ウェブメディアなどに携わる。2006年に編集制作会社「スタンド・アンド・ファイト」創業。著書に『「社会に役立つ」を仕事にする人々』『NPO法人で働く』『銀行で働く人たち』、共著に『起業家という生き方』など。
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