「ワクワクする未来を早く実現したい」からモチベーションが湧く 僧侶の手配サービス・よりそう代表が唱える、理想と利益の両立

執筆者: 中森りほ

「ワクワクする未来を早く実現したい」からモチベーションが湧く 僧侶の手配サービス・よりそう代表が唱える、理想と利益の両立

執筆者: 中森りほ

お坊さんの手配サービス「お坊さん便」で話題になった株式会社よりそう。五反田を拠点にする同社は、これまで大きくイノベーションが起こっていなかった葬儀業界において、ユーザー目線のサービスを展開しています。

代表の芦沢雅治さんは、「世の中の格差による問題を解消したい」という思いから事業を立ち上げたといいます。しかし、その理想と会社の利益を両立させるのは一筋縄ではいきません。お坊さん手配サービスを始めたきっかけは何なのか、伝統意識の強い葬儀業界をどう開拓していったのか、芦沢さんは社会をどのように変えたいのか。経営者としての想いをお伺いしました。

気持ちだけでは助けたい人は助けられないし、世の中も変えられない

――改めて、「よりそう」の主力事業について教えてください。

高齢多死社会の進行で注目を集める「終活」「葬儀」領域を、ITやwebの力で透明化していくITベンチャーです。全国一律・定額の葬儀「よりそうのお葬式」、定額のお坊さん手配「お坊さん便」、終活の不安に23サービスの一元提供で対応するブランド「よりそう」を提供しています。

――芦沢さんが会社を立ち上げようと思ったきっかけは?

幼少期の話に遡ってしまいますが、世の中に対して「なぜ生まれる場所によって格差があるのか」という違和感を強く持っていました。高校生になる頃には「自分はこの世の中の貧困や不平等性、不条理を解決するために何かしなくてはいけない」という使命感を持ち始めて。

とは言っても、当時の自分に何ができるのかなんてわからなかったので、大学進学時は専攻を後から選べる海外の大学に留学しました。いろいろと経験していくうちに「自らが財を成さないとやりたいことはできないし、世の中を変えることはできない」と気づいたんです。

そこから、インターネットメディアを複数作り、月商数千万円レベルまで稼げるようになったのが20代前半のこと。ある程度はお金の余裕もできたので、自分がやりたかった世の中を良くする事業として、恵まれない地域の支援をするNPO法人を立ち上げました。

しかし、自分自身がボランティアとして活動すると、関わってくれる人に対しても自分と同じ熱量での関係性を求めてしまって、事業が成り立たなかったんです。「助けたい」という気持ちだけで動いたら、本当に助けたい人の力にすらなれず、逆に迷惑をかけて共倒れしてしまいました。

そんな苦い経験から、事業の足元を固めてからではないと社会貢献に目を向けられないと実感し、会社として利益を出してから新事業を行うよう考えを改めたんです。本当に自分のやりたいことは幸せな世の中を実現すること、社会貢献をすることですが、それを叶えるためには利益を後回しにせず、むしろ利益を出さないとその夢が実現できないと気づきました。事業は、収益が確保できるかというビジネス目線で考えますが、サービスは基本的には困っている人を助けられるようなものにしています。そんな経緯から「新たな価値創造で世の中を幸せに」というステートメントを掲げる当社を立ち上げました。

――当初はレビューサイトや比較サイトの運営を主事業としていましたが、いまのような葬儀サービスに特化したのはなぜですか?

他社にもウェディングや美容、飲食など様々な比較サイトがあったので、まず競合の少ない領域に絞りました。そして、これから伸びるであろう少子高齢化や介護、ヘルスケアといった生活領域に特化しようと、メディアを立ち上げたのです。

ただ、比較サイトを運営していると、特に葬儀社の情報を探すのはわかりにくいなと。葬儀って経験する回数は少ないのに、内容や価格が不透明で、結局のところ何を比較してもどこにどう頼めば良いのかがわからないんですよ。

従来の葬儀予算は150〜300万円くらい。それって参列者が50〜100人くらい集まる葬儀がベースになっているんです。でも今の時代、近所づき合いは希薄になっているし、核家族化やコミュニティ離れ、独居老人なんてことも叫ばれている。みんなが同規模の葬式をするわけではありません。それなのに人数が少ない葬儀の場合でも、みんなが数百万払っていたんです。

「このミスマッチは解決しないといけない」と考え、今の時代にあった葬儀サービスを作ることに決めました。まずは、自分たちで葬儀の内容をプランニングして、価格設定したわかりやすいパッケージ作りから。葬儀社さんに提携をお願いし、そのパッケージを市場に持ち込みました。結果、市場から高評価を受けて、お客様からも「本当に助かったよ」と感謝もされるようになりまして。慈善事業以外で、しかもB to Cでお客様からも市場からもこんなに感謝される事業があるのかと、この領域の将来性の高さに気づかされましたね。

葬儀デモを行ってお客様視点へ、中間層が考えていることをさぐる

――サービス開発で心がけたことはなんでしょうか?

まず決めたのは、従来の考え方はしないということ。「今の時代、みんなが欲している葬儀サービスはどういうものか」というお客様目線を最重要視しました。良いものは残しつつ、変えないといけないものは変えようと。

自分たちで道具を揃えて葬儀のデモを行ったりもしました。まだ狭かった事務所に2メートルくらいの棺を買って、置いて、仏具を並べて……。「今日は葬儀のデモをする。自分が亡くなった人の役をやるから、みんなは参列してくれ」と、社員にいきなり伝えて(笑)。

――ショートコントじゃないですか。社員のみなさんはびっくりされたでしょうけど、デモによって新たな発見があったわけですね。

そうなんです。実際に葬儀デモをすると「棺にはグレードがあるけれど、必要以上に加工する必要ないな」とか「お線香は匂いの部分で参列者の感情に訴えるものがあるから残したほうがいいな」「実際この葬儀にこの仏具はいるだろうか?」「この流れの葬儀は今の時代にあっているだろうか?」など、何が必要で何が必要ないかがわかってくるんです。

そうやって、今の消費者の気持ちを考えて、自分たちで実際に当事者と同じように葬儀を体験し、試行錯誤を重ねることでサービスを作っていきました。例えば口コミって、本当に良いと思った人か悪いと思った人しか書いていないじゃないですか。実はレビューを書かない中間層が考えていることこそ、本当に重要だと思うんですよね。その中間層が何を考えているか、そこにずっと向き合っていました。

革命児ではなく、業界の橋渡し的ポジションとして

――伝統意識が強い葬儀業界でイノベーションを起こしたわけですが、業界からの反発はありませんでしたか?

当初は反発の声もありました。ですが、「一緒にやっていきましょう」と葬儀社の方々などに伝え続けていたら、IT化という時代の流れもあり、今ではサービス拡大に一緒になって取り組めるような関係性を作れた方も少なくありません。葬儀業界のみなさんも、時代にマッチしたサービスが必要だと、どこかで感じていたんだと思います。

「お坊さん便」に関しては、むしろお坊さんの方から要望がありました。檀家離れが進み、お坊さんとの関わりがない家庭が約3割の時代ですから。いざ葬式となった場合、「どこにどう頼めばいいのか、わからない」という方が多くいることを、お坊さん側も危惧していたようです。現在も定期的にお坊さんや葬儀社と情報交換やコミュニケーションをとるようにしています。

もちろん、まだまだ新参者を良く思わない方もいらっしゃいます。そういう場合「我々はこの葬儀業界を壊したいわけではなく、時代に合った新しい形に変わっていくための橋渡しをしたい」ということを伝えていくよう心がけています。

グルメや美容など、昨今はいろんな領域でプラットフォームが盛り上がりを見せていますよね。それはこの業界も同じです。葬儀社やお坊さん自身が、ネットを活用して自分たちで集客をするのはなかなか難しい。この領域にもITを活用したプラットフォームが必要であると、ひたすら説いていきました。

業界の構造的な隙間に着目し、お客様の要望を叶えながら利益を生む 

――利益と理想のバランスはどのようにとっているのでしょうか?

利益の面では、葬儀社やお坊さんの稼働率が非常に低いという業界の構造的な問題があります。具体的には、例えば葬儀社は1カ月のうち約10日しか葬儀関連事業の仕事はしておらず、後の20日間くらいは空いているという状況なんです。だからこそ葬儀代の相場が高く設定されてしまっていました。

そこで、その空いている隙間時間に着目し、その時間をシェアするのがよりそうの各種定額サービスです。葬儀社やお坊さんからすると「定額のパッケージであっても、空いている時間を稼働させたい」、お客様からすると「わかりやすいパッケージがいい」というように、うまくマッチングできたのが三方良しになったポイントだと思っています。このビジネスモデルはもともと狙っていたわけではなく、葬儀社の比較サイト運営を通じて業界の事情を知ることができたから、というのが大きいですね。

――葬儀だけだと一度だけで長期的な売り上げが見込めないように思います。そこからの発展はどのように考えていますか?

お葬式って「式を挙げたら終わりで単発のビジネスじゃない?」と言われることもありますが、葬儀を挙げるときのお坊さん手配、四十九日法要のお坊さん手配、位牌と仏壇の準備、一周忌法要のお坊さん手配、墓決め、亡くなってから10カ月以内に相続の手続きを済ませるなど、葬儀を起点とした多くのビジネスチャンスが広がっています。ここの領域をやりきるだけでも一つの大きなゴールがあり、さらに次のビジネスチャンスにつながるはずです。

創業当初は私も自らコールセンター業務を担当していたのですが、いろいろなお客様とお話をしている中で、困っているのは死別だけではないことを実感しました。親族間のトラブルや宗教離れなど、いろんなものがネックになっている。実際にお客様の声を聞けたことで、レビュー比較サイトではなく、ワンプラットフォームでエンディングサービスを提供する舵取りができたんだと思います。挑戦していくことで世の中に貢献できると感じた瞬間でした。

お坊さんは本来、町の人生相談屋さん的な側面があり、私たちの日常に馴染みの深い存在でした。しかし近年、そういったつながりが薄れてきています。そんなお坊さんとの接点を特別な時間以外にも持ってもらいたいと、最近ではAIスピーカーの機能開発に取り組んでいます。

エンディングを起点に、これからの社会問題を解決する 

――今後は会社として、どのような社会を実現していきたいと考えていますか?

まずは不透明だったエンディングサービスをわかりやすくして、お客様が必要な時に一元でお届けできるサービスを作っていきたいですね。私たちのお客様は亡くなった人ではなく、喪主となる方。大切な人が亡くなってしまった人にとって、第2の人生の始まりでもあります。人間の最大の負を「死」と位置づけると、その次は「孤独」です。死別によって孤独になってしまった喪主やそのご家族をサポートすることも我々の仕事だし、使命だと考えています。

これから社会の課題としては、独居老人や孤独死が増えていくことが予想されます。エンディングを起点に、そういった方々をつなぎとめるような存在になりたいですね。今後は葬儀サービスの提供だけでなく、喪主同士のコミュニティを作るなど、シニア世代に使っていただけるプラットフォームとして、事業を拡大していきたいです。

面白い未来を早く実現させたいから、仕事へのモチベーションが湧き続ける

――お話を伺っていて、芦沢さんのように熱量を衰えさせず、一貫した考えを持って事業を継続させるのは容易ではないと感じました。事業へのモチベーションを保ち続けるコツはありますか?

私の場合は世の中を良くしたいという思想とともに、「ワクワクするような面白い未来を、自分の手で早く実現したい」という気持ちがモチベーションの源泉になっています。自分が作りたい世界は、格差や不平等のないフラットな世界。今後ロボットが仕事や家事を代用してくれるようになれば、人々は趣味に勤しむでしょう。そして、お金や資本という概念がなくなっていくだろうな……みたいな、ずっとそういう妄想をしているんですよね。

そういう世の中を早く自分の手で作りたいので、モチベーションがなくなることはありません。湧き続けています。もちろん、世の中に課題があるからモチベーションが湧き続けるということもあるでしょう。もしかしたら、モチベーションが上がらないという人は、目先の「儲かった」「楽しかった」で満足してしまい、その先にある未来の想像ができていないのかもしれませんね。結局、能動的に動き続けるのに必要なのは、「自分がどういう世界にしたいのか」という志ではないでしょうか。 

(取材・文:中森りほ 編集:松尾奈々絵/ノオト 撮影:二條七海)

取材協力:株式会社よりそう

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執筆者:中森りほ
フリーライター&編集者。『Hanako.tokyo』や『OZmall』、『Dress』『Rettyグルメニュース』などのウェブメディア、『吉祥寺本』『OZmagazine』などの紙媒体にてグルメや観光スポットの取材、識者・芸能人インタビューなどを行い記事を執筆中。Twitter:@nakariho Blog:http://nakariho.com/
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