「現代に会社って必要なんですか?」さくらインターネット・田中邦裕さんが考える組織のあり方

執筆者: 佐々木正孝

「現代に会社って必要なんですか?」さくらインターネット・田中邦裕さんが考える組織のあり方

執筆者: 佐々木正孝

18歳で起業し、20歳で社長に就任。さくらインターネット株式会社を一部上場企業に成長させた田中邦裕さん。電子工作に夢中になっていた少年が興した会社は年々拡大を続け、現在は450名を超える社員を擁するまでに成長した。

しかし、もともとエンジニアだった田中さんは、管理業務に気を取られず、業務のみに集中できる一人会社に魅力を感じることもあるという。

場所や時間に縛られないワークスタイルも広がる中、会社組織に縛られない自由な働き方もあるのではないか?組織のあり方を考え続け、積極的に働き方を改革し続ける田中さんに聞いてみた。そもそも、会社って必要なんでしょうか?

クラウド時代の到来で考えた――会社って一人でできるんじゃない?

――20歳で会社を立ち上げてから、社長として会社を率いてきた期間も長いわけですが、会社組織の魅力はどこにあると考えていますか?

ここ5年ほどでしょうか。組織のあり方について考えたり、発信したりすることが多くなってきたんです。そこでの一つの切り口が「そもそも会社って必要なのか」という視点です。

独立してフリーランスになる人が増えていることからもわかるように、一人で会社を設立することが難しくない時代になりました。クラウドやシェアードサービスが普及して、個人でできることの幅が広がったためです。私自身、さくらインターネットとは別に、個人活動をマネジメントするための別会社を経営していますが、メールやメッセンジャー、スケジューラーといったクラウドの活用で自分のマネジメントはできますし、クラウド会計で確定申告までできてしまう。

会社を経営するといろいろな問題に直面します。人間関係のこともあれば、労働量と業務のバランスも考えなければいけない。一人会社は人事労務というヘビーな業務がないので、気楽といえば気楽です。

田中邦裕さん
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長。1978年大阪府生まれ。96年、舞鶴工業高等専門学校在学中に18歳でさくらインターネットを起業。国内では珍しかった共有ホスティングサービスをスタートする。99年にさくらインターネット株式会社を設立し、社長に就任。2000年に退任するが、07年に社長に復帰し、15年には東証一部へ上場を果たす。趣味はプログラミングと旅行、ダイビング。

――起業時は「会社組織」にどんな思い入れがあったんですか?

私が起業したのは、会社を作って社長になりたかったわけじゃないんです。20歳の社長というのも胡散臭く思われそうで、当時の名刺には「エンジニア」という肩書しか書いていませんでしたし(笑)。共用レンタルサーバーを持続可能なサービスとして存続させたい、という思いだけでした。

会社でなければオフィスが借りにくいので法人化し、有限会社ではビジネスを展開しにくいので株式会社にしただけです。私たちにとって法人化は重要な通過点ではなく、あくまで手段でした。組織体にしたのも、自分一人では業務が回らず人手が必要だったから。当時はチーム、組織という意識はあまりなくて、社員は「自分の仕事を分担してくれる人」という感覚のほうが強かったかもしれませんね。「自分がもう一人欲しい」という思いは理解できます。

起業家にはそういうマインドの人も少なくありません。「なんで俺と同じことができないんだ」と、ハードワークを社員に強要する経営者の話を耳にすることがありますが、あれは「自分の分身」で仕事を回したいという感覚が現れたものでしょう。

しかし、そのマインドでは行き詰まりが見えてきます。当社で言うと、「売り上げ100億の壁」を感じた局面でした。組織は大きくなっていっても、売り上げは100億円で収束に向かいつつあった。この壁は社長1人の能力では到底突き抜けられない。そこであらためて、チームや組織のあり方について思いを巡らせたのです。

チームなら複利運用の指数関数で成長できる

――売り上げ100億の壁に直面した際、チームや組織のあり方をどのように考え、ブレイクスルーにつなげたのでしょう。

5年ほど前、業務の効率化を推し進めてアウトソーシングを活用し、コストを徹底削減すれば利益は出ました。しかし、売り上げは一向に上がらない。そこで、様々な人に会って示唆を得る中で、「社員を自分の分身として考えるわけにはいかない」という価値観を学びました。

また、社員の結婚式で挨拶する機会が増えると、いかにその人が家族に大切に育てられ、周囲に愛されてきたかが実感できます。社員一人ひとりに幸せになってほしい。そのためには何が必要なのかを真剣に考えるようにもなりました。

社員を大切にしたい。そして何より……私たちが会社経営でワクワクしたい、という思いも見逃せませんね。

――ワクワク? 個人では得られない高揚感がチームや組織にはある、ということでしょうか。

そうですね。起業したての頃はチャレンジばかりでしたから、すごく刺激も多かった。だけど、会社が大きくなって年率数%成長の数字を追っていると、どうも刺激が弱いんです。「やっぱり2桁以上の成長率がないとワクワクしない。高い成長をしていろんなチャレンジがある環境にしたいよね!」という話をした時にクローズアップしたのが「人」というリソースです。

そこで、さらなる成長を目指して、エンジニアを100人近く採用することにしました。社長の分身として仕事をするのではなく、社長にはできない新たな仕事を社員みんなが作ってくれる。そして、社員のおかげで自分ではできないことがどんどん広がっていく。こんなに興奮する状況が目の前に現れたのです。

一人の成長は一次関数の直線だけど、チームとして仕事をすると複利運用の指数関数で成長できる。そう腹落ちしたんです。

――集団に優る個人なし、組織のメリット、魅力が体感できたということですね。みんなが感じる「ワクワク」と業績が連動するのも、チームで進んでいく醍醐味でしょうか。

経営者だけワクワクしていても意味がないですからね。社員自身がワクワクすることが、結果として会社の成長につながります。私は経営のキーワードとして「3つの成長」をよく挙げます。それは「社員の成長」「会社の成長」「お客様の成長」は不可分だということ。

会社を人材の技術や知見、ノウハウを吸い取るだけの存在ではなく、社員が個人として成長できる場にしたいと私は思っています。その結果として、会社もお客様も成長していければいい。自社のビジネスが成長すると、給与を上げることで社員に還元できるでしょう。この好循環があり、当社もここ数年で15%ほど平均給与をアップできています。そして、それは社会にも還元していくべきだと考えます。

「会社は株主のもの」とする従来型の資本主義に対し、事業家の原丈人【※】さんは、従業員や取引先、地域社会への利益還元を重視する「公益資本主義」を提唱しています。私もその考えに触れ、深く共感するようになりました。古くから「三方良し」と言われるように、株主だけではなく社員であったり社会であったりお客様であったり、ステークホルダーと言われる人たちすべてに還元していく。それこそ、今の会社が取るべき方向性ではないでしょうか。

【※】原丈人(はら・じょうじ)さん……慶應義塾大学法学部卒業後、考古学研究を志して中央アメリカへ。スタンフォード大学経営学大学院、国連フェローを経て同大学工学部大学院を修了。90年代にソフトウェア産業でマイクロソフトと覇を競ったボーランドをはじめ十数社を成功に導き、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストのひとりとなった。新技術を用いた途上国の支援など幅広い分野で積極的な提言と活動を行っている。

会社の意義は「機能性」から「情緒性」へ

――社員の成長と会社の成長がリンクし、結果として公益にもつながっていく。理想的なサイクルが見えました。その組織のあり方を維持するためには、どんな仕組み、施策が求められるのでしょうか。

数年前から趣味でダイビングを始めたのですが、海の中に入ってはっきりと体感できるのが自然の生態系です。温度や環境のちょっとした変化でサンゴに影響が出る状況を目の当たりにしました。生態系を存続させるのは、生物の多様性です。それは特に自然の中に出なくても体感できるでしょう。効率ばかりを求めて杉ばかりを植林したら……。

――毎年、春には花粉症で苦しむ人が増えていますね。ビジネスというエコシステムでも、それは同様だと。

自分たちだけがなりふり構わず成長を目指す会社では存続できない。サステイナブルな存在にはなり得ません。社会にフリーライドするのではなく、社会とつながり、雇用やビジネスを通じて、お客様や社員の成長につなげていく。ビジネスのエコシステムでは、その循環を回すことで、結果として会社を成長させることにつながります。そして、社長である私や経営陣も、ワクワクしながら経営にあたることができるというわけです。

――エコシステムにおける多様性は、昨今のビジネスキーワードの一つ「ダイバーシティ」でもあります。組織を維持していくため、ダイバーシティではどんな施策を考えていますか?

ダイバーシティというと性別にフォーカスされがちですが、国籍や年代など、あらゆる点でダイバーシティを考えていくべきでしょう。すべての人が楽しく働ける。そんな労働環境を目指しています。

そこで考えたいのは、マイノリティが損をしない仕組みです。同時にこれは、マイノリティを優遇もしない仕組みづくりである必要があります。

これまでは出産、子育てをする女性は不利な立場にあり、働きづらい環境に置かれることが多かった。それは解消しなければいけません。ただ、だからといって、出産・子育てをする人だけが得をする仕組みは違うのではないか。出産も、そして結婚も個人の自由が尊重されるべきです。子どもを産んでもいいですし、産まなくてもいい。結婚も同じでしょう。

だから、私たちの会社では「在宅勤務」「フレックスタイム制」といった制度を広く展開し、全社員が利用できるようにしました。時短勤務こそ育児中の社員に限られますが、将来的には全社員が享受できるようにしたいと考えています。マイノリティが損をせず、かといって得もしない。強いて言うなら「全社員が得をする」会社を目指したいですね。

――では、これまでの論を踏まえて結論を伺います。いま、会社って必要なんでしょうか?

業務の機能性だけを考えるのなら一人でも会社はできますよね。クラウドが浸透して、物理的なオフィスも、機能だけで考えると必要がないかもしれません。

しかし、一人会社は何かと不安だし、人間が本来持っている所属の欲求が満たされません。そう考えると、いまの会社の意味は機能性ではなく情緒性に移ってきたと言えるでしょう。

いろんな価値観の社員がいるから、思いもよらないビジネスが生まれる。みんなで考え、創発し合うことは、すごいパワーになります。ハードルの高いプロジェクトを達成できるのは、一緒に楽しく仕事ができる仲間がいてこそ。チームで顔を合わせ、楽しく仕事ができるという情緒面で、会社は必要な存在だと思いますね。

取材・文:佐々木正孝 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:栃久保誠

執筆者:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
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