理想のお金って何だろう?〜実践者が語るお金とその周辺〜_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』アフターレポートNo.1

理想のお金って何だろう?〜実践者が語るお金とその周辺〜_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』アフターレポートNo.1

2018年10月30日、THINK ABOUTが主催する初のカンファレンス『貨幣の束縛』では“貨幣”を起点に信用や価値、そして未来の社会構造を実践者や研究者らと共に考えた。

パネルディスカッション「理想のお金って何だろう?〜実践者が語るお金とその周辺〜」では、お金の本質は何なのか、お金を使うという行為はなんなのか、独自の視点を持ってお金を向き合ってきたスピーカーと共に、お金の本質と理想に迫った。

モデレーター
NTTドコモ イノベーション統括部 グロース・デザイン担当 担当部長
笹原優子
95年NTTドコモ入社。iモードサービスに立ち上げ時より携わり、現在は新事業創出を目的とした「39works」プログラムを運営。 NPO法人 ETIC.で「Social Impact for 2020 and Beyond」プロジェクトにプロボノとして参画。 株式会社ローンディールのパートナーとして社外の人材育成にも貢献。 2013年 MIT Sloan Fellows卒。

スピーカー
歴史学者・歴史論者 / 株式会社goscobe代表取締役
三石晃生
英領香港生まれ。大学在学中に公益社団法人温故學會の研究員に抜擢、現在は同研究所の研究員と監事を兼任。2017年に世界初の歴史コンサルティングファーム・株式会社goscobe(グスコーブ)を設立。歴史分析と歴史的知見に基づいて、さまざまな大手企業、都市プロジェクトのコンセプトデザインやアイディア創発などに関わる。THINK ABOUTでも「組織を破壊するPDCA」など従来の日本型組織に歴史的観点から警鐘を鳴らす衝撃的な記事を寄稿している。

タルマーリー オーナーシェフ
渡邉格
東京都出身。25歳で千葉大学に入学。29歳で就職するも2年と続かず、31歳から始めたパン職人の道は15年続け、昨年からはビール職人に転向。野生酵母による発酵に取組み、経済合理性により失われてきた古の技術を掘り起こし、「無から有を生む」生産の確立を目指す。昔ながらのモノづくりの環境を追求するために大工も覚え、店や工房の改装もできる限り自力で行う。著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る」経済』(講談社)。

お金は時間や経験に交換されるべきもの

笹原:まずお二人にとってお金がどういうものなのかお伺いしたいと思います。

渡邉:私はものすごく貧乏な家で生まれて、お金に巻かれて悪いことをする人をたくさん見て育ちました。だから実は、お金を憎んでいた時期があるんです。「お金は自分の時間を売らないと手に入られないもの」だと考えて、30歳まで無職で生きてました。でも、今の妻に出会って、彼女のお金の使い方を見ているうちに考え方が変わりました。「お金は使い方によって自分の時間を生み出すこともできるもの」だと捉え直して、お金ともっと上手く付き合っていこうと思えるようになりました。だいぶ柔らかい付き合い方ができるようになりましたね。

笹原:なるほど、お金と柔らかいお付き合いができるようになってきた、と。三石さんにとって、お金とは?

三石:僕宵越しのお金は持たない派です。新年を迎えるに当たって、必ず貯金残高を0にしようと決めているんです、ずっと昔から私の場合はお金が貯まっていくと人間としてケチになるタイプいうことがわかったので、それを避けたくてあと、お金は経験に交換されるべきものだと考えているので、お金が残っていることは私にとってそこまでいいことではないんですお金は、経験の交換財だと思ってます。だから1年の終わりに全てのお金を使い切るようにしています。

お金は商品を通し、より多くの人に分配すべき

笹原:じゃあ、皆さんお聞きしたいと思うので、渡邉さんの「腐る経済」の話をお聞かせいただけますか。

渡邉:はい。私はお金がないことで秩序が乱れて、人が悪くなっていくのを見てきた経験から、お金の分配が必要だと考えていました。お金の分配は政治の仕事だと思いましたが、グローバル企業の売上高が国家予算を超えることもある時代、国が分配政策をするには無理がある。ではどうしたらいいか考えた時、商品や消費を通してお金を分配していくべきではないかと考えるようになったんです。

そのために必要なのは、商品や消費のあり方を変えることです。まず、商品の価格のつけ方に問題があります。現状の下層階級の労働者の給与は、毎月の生活に必要な出費を元に定められています。そのうち25%を食費が占めることから、資本家は食費を抑えようとしてきました。出費が増えると給与も上げなければいけなくなりますからね。経済成長と共に食料品の価格が上がり、人件費も上がっていったので、大企業は生活費の安い人件費の安い海外へ流れていき、価格の上昇を抑えてきました。しかし、現在は海外の生活水準も徐々に上がり始め、今後、商品価格に影響を及ぼすのは自明です。そのため日本国内の労賃を下げるために生活費を下げる施策が導入されているわけです。その影響で社会的下層である飲食業界などの商品も給料も下がっていく現状をこの数年肌で感じています。それを解消するため、下層階級の労働者の給料を基盤に商品の価格を設定するべきだと考えています。労働者の最低限の賃金を確保した上で、付加価値を上乗せして商品を価格付けしていきましょう、と。

タルマーリー オーナーシェフ 渡邉格氏

それから、その上で一つのプロダクトを作るのに多くの人の手をかけて、お金の分配を生むことが重要です。手間暇かけて作る分、質を求め、その分の対価を得る。多くの人の手を介することで、より多くの労働者にお金を分配できるようになります。

下層階級の労働者の最低限の給料を確保しながら、生活費をなるべく下げないようにして、社会全体の給料を上げていく。それによって経済の質をゆっくり上げていこうという提案をしています。

2050年の技術の発展を考えると、真っ先に低所得者層の仕事が機械に取って代わられ、働けなくなる可能性があります。その状態を防ぐためにも、人の手をかけて作った商品に、最低限の給料が支払われるという価値観を発信したいと思っています。

笹原:ちょっとフェアトレードっぽい考え方ですね。

渡邉:そうですね、国内のフェアトレードといってもいいんじゃないかと思います。例えば、パンが100円だと皆さん高いなと思うかもしれませんが、100円で売るってことは原価30円くらいで作らないといけないということです。現在、日本国民の90%が毎月使えるお金の量が決まっているサラリーマンなので、できるだけ安く買いたいという気持ちはわかります。でもその90%のサラリーマンたちが、生産者サイドの価値基準を忘れてしまったと思うんですね。まずは商品を変えて、この90%の人たちの消費に対する意識を変えていかないと、資本主義が終わると思います。

笹原:ありがとうございます。参加者の方から質問をいただいたみたいです。「ひとつのプロダクトを作るのに、たくさんの人を巻き込むと価格は上がります。コストが上がることが、社会にとって本当に善なのでしょうか?」

NTTドコモ イノベーション統括部 グロース・デザイン担当 担当部長 笹原優子氏

渡邉:生活費がどんどん下がっていく時代のなかで、誰が得しているのかということを問いたいんですね。生活費が下がると、労働者の給与はさらに下がり、中産階級の人も下層に落ちてくる事態になる。だから私は、社会に多様性を産むためには、個人消費の質を上げながらゆっくり成長させていくことが大事だと思っています。

効率化を図り大量生産した商品を安く大量消費するサイクルの一方で、人の手を入れた持続可能な商品を高く売買する経済圏も必要なのではないでしょうか。

三石:この質問に僕からも答えさせてもらうと、17世紀イギリスの散文家でバーナード・デ・マンデヴィルという人の『蜂の寓話』という本に、「人の悪徳は公共の利益」という一節があります。例えば、パンや肉を死ぬほど食べて酒を浴びるほど飲んで贅沢な生活をしている人がいたとしたら、他人その人を道徳的に堕落していると思うかもしれない。でも、考えてみるとそのパンも肉も酒もパン職人や肉屋や酒屋から買ったもので、それによって経済は潤っている。経済の大功労者なのです。

コストというのはお金を使った本人から見れば支出でも、広い目で見れば天下に財を流してお金を循環させている行為です。お金は循環しないと意味がありませんから。コストはある程度高くなっても構わないと思っています。問題は循環先を見極めることです。コストでも、生きるコストとそうでないコストがあるのだということを認識しておくことは重要だと思います

お金は人との繋がりを生み出す

笹原:三石さんには、記事の中でお話されていた「貨幣は形容詞」という考え方についてお話いただきたいと思います。

三石が貨幣は形容詞だと言った意味は、貨幣も例えば愛みたいに、人によって捉え方が違って、自分のライフスタイルや主義主張を反映したものなんじゃないかということです。十人十色、人によって違うから、こうだと断じて論じることはできない。

歴史学者・歴史論者 / 株式会社goscobe代表取締役 三石晃生氏

例えば私に関していえば私の貨幣はいわゆる手持ちのお金のことだけを指しません。パナソニックの創業者である松下幸之助は、お金がないときに「これは世の中の社会銀行に預けとるんや」と言ったという話があります。それと同じで、私もお金が手持ちにないだけで、人や社会に預けていると考えている。だから、手元にお金がないときは人に貸してと頼みますよ、当然のように

笹原:信用されてるってことですよね。

三石:そういう信用大事ですね。それから、お金は通常何か買うためのものと捉えられていますが、それ以外の使い方もあるんです。古代ローマ時代、ユリウス・カエサルは多くの政治家に借金をしていた。それによって政治家たちは「カエサルが潰れたら借金が返ってこなくなる」と、入れ込まざるをえなくなり、カエサルはそれによって政治的な地位を獲得していきました。ちなみに彼のあだ名は借金王です。

渡邉:なるほど。すごいね。

三石:すごいでしょ?そんな風に、借金はある意味、お金を貸してくれる人から自分への賛成の表明あるいは信用のあらわれ、さらに相手と繋がるためのコミュニケーションツールという効用があります。だからちょっと人から面倒臭い男や女に思われるかもしれませんけど、他人に手をかけてもらって「ここまでやってきたんだからしょうがないな、最後まで面倒みるか」と思ってもらえるくらいにならないと、とダメだと思いますね。現代人は、みんな一人で生きようとしすぎです。お金を儲けて増やしたり、使ったりだけがお金ではないです。お金は人から借りることできる。そしてそれはよくも悪くもコミュニケーションツールとしても機能する。これもお金の重要な本質です

限界コストゼロになっても、価格づけすべきモノがある

笹原:参加者の方から、お二人にベーシックインカムに対する考え方について質問が来ています。今日のテーマ的にも、ベーシックインカムについてご意見いただけますか。

渡邉:そんなに肯定できない部分がありますね。私は、自分の時間を主体的に使えること、それによって友人や取引先などとの関係性を構築できることが幸福だと考えています。個人の幸福を起点に考えると、あらかじめお金をもらってしまったら、それに満足して何もしなくなってしまう個人が生まれる危険性もあるのではないかと思うんです。

個人が幸福に生きるためには、中央政府が間に入るよりも、全ての人が個人事業主的に働く方が良いのではないかと思います。時間を自由に使い、周囲の人を巻き込みながら、自分の責任で稼ぎたい分のお金を調達するような働き方が理想ですね。政府からお金が給付されることで、政府の言いなりにならないといけなくなるかもしれませんし。そういうことを私は危惧しています。

三石:ベーシックインカムは間違いなく起こるんですよね。AIが入って、肉体労働者よりも先にクリエイティブでない単純知的労働者からどんどん失業していくことになります。失業者が増えると国の経済が回らなくなり、経済の死に繋がっていく。その状況を防ぐため、国は失業者が次の労働に移行するまでの「労働移動」している期間は生活費を担保して、消費が可能な状態にしないといけない。福祉とか優しい気持ちからではなく、経済を生かすためにベーシックインカムを導入する必要があるんです。

渡邉さんも仰っていましたが、私もオススメは独立・起業することですね。経済や世の中についても理解できるし、自分の名前で信用と責任を負う世界ですから、非常に次の時代向きの志向だと思います。

笹原:独立のススメですね。もう一つ質問をいただいています。「渡邉さんはちゃんと手を入れたものを高く売るというご意見ですが、ジェレミー・リフキン的な、これからは限界費用ゼロに向かっていき、もののコストが下がっていくといった思想と反しませんか?」

渡邉:私は逆に、ものの裏には人間の労働があるという風に経済を捉えないと、時代にそぐわない人間が大量に廃棄されていくことになると心配しています。ちゃんと人の手をかけた商品は、持続可能なものになります。だから、手で作るものと機械で大量生産するものとをはっきり分けて欲しいと思いますね。

三石:限界費用ゼロと言われる時代は10年以内に間違いなくやってくるだろうと私は思います。ただし、時代がそうなるのと、そういう生活をしたいかとは全く別の話ですよね。パンがほぼタダになったから渡邉さんのパンは要らなくなるのかというと、そういう事態はやってこないでしょう。好き、だから、そこにお金を払う。未来はきっと、物語・ナラティブ性に払われるのだと思います。コストが下がってほぼ無料ものが増えていっても自分が何にお金を払いたいのかという主体的なお金の選択肢を作って行くことが、未来の豊かな自分を作る上での大事なポイントになってくると思います。

数値化されない価値がお金の本質

笹原最後に、お二人の理想のお金とは何か、一言でお答えいただければと思います。

渡邉:私は、理想のお金とは自分の時間を自由に使えるようにするもの、関係性の構築に役立つものだと思います。ほとんど外に出ない私にも、パン屋でのお金のやりとりを通して友達ができています。今の時点でも、お金は関係性の構築に役立っているのではないかと思っていますので、使い手が良い使い方をしていくことが大事だと思います。

三石・私の理想のお金は、一言でいうと「モテ」ですね。男も女も愛されてナンボでしょ。愛されている状態は、信用がストックされている状態です。未来の貨幣は、例えば愛や信用のように、数値化はできないハッシュタグ化できる方向へシフトしていくことが予想されます。お金の本質を理解して、額面だけの消費にとらわれない使い方をしていくことが大切だと思っています。

笹原:ありがとうございます。お二人のお話をもとに、自分にとっての理想のお金やその使い方について、考えていただければと思います。

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執筆者:THINK ABOUT 編集部
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