食卓を分かち合って、孤独を癒す 「小さな食堂」

食卓を分かち合って、孤独を癒す 「小さな食堂」

料理人なし、定価格なし。フランス第二の都市であり、美食の町として知られるリヨンで生まれた型破りな食堂がいま国内の他都市にも広がっている。この食堂が満たすのは「空腹」と「孤独」。人にとって重要なふたつの原始的な欠乏を見据えて始まった、新しいかたちの外食産業だ。

Words Junko Takasaki Photos Manabu Matsunaga

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日本では「子ども食堂」の輪が広がっているが、孤食は子どもだけの問題ではない。高齢者、独身者、未亡人、家族と同居していても関係のこじれた人々など、食事のたびに孤独感を深める境遇の人は、核家族化の進んだ現代都市で共通の社会問題になっている。

そんな現象に一石を投じるソーシャル・アクションがいまフランスで話題を呼んでいる。舞台は美食の国でもひときわ食文化が栄え、食いしん坊の都として知られるフランス中部の街リヨン。4年前ここで生まれた「レ・プティット・カンティーヌ(小さな食堂)」は、集合住宅の1階やホテルの朝食室を活用しながら、エコ&ヘルシーな温かい食事を近隣の人々に提供する非営利団体だ。

名前は慎ましやかだが、この食堂の取り組みはとても大胆でエキサイティング。まず食事には規定の料金がなく、各人が払えるだけ・払いたいだけの金額を支払う“自由価格制”を採用している。加えてここには固定の調理人やサービスマンがおらず、食後の掃除まですべて日替わりのボランティアが行う。それでしっかりと採算をとりながら、現在フランス全土に5軒を展開しているのだ。

固定観念を打ち破る食堂は、どのようにして機能しているのだろう? ある秋の日、リヨン市内の「小さな食堂」の1軒を訪れた。

「小さな食堂 リヨン・ぺラッシュ」の外観。メニューは日替わりなので、調理中に常勤スタッフが手書きする。

始まりのコーヒータイムが、いちばん大切

この食堂の1日は、朝9時半のコーヒータイムから始まる。事前に申し込みをした調理ボランティアがコーヒーを片手に談笑し、その日の“チーム”を結成する。店主のアナベルさんは、これを「1日でいちばん大切な時間だ」と言う。

大窓から朝日が気持ちよく差し込む食堂は、ターミナル駅そばの2ツ星ホテルの朝食ルーム。朝食サービス以外はデッドスペースになっているため、「小さな食堂」の意義に賛同したオーナーが9時半から21時半までの12時間、無料貸与を申し出た。テーブル上のクロワッサンもホテルの朝食の残り物だ。それを“お礼”として振る舞われるボランティアスタッフが、12時までの2時間半で約20人分の昼食をつくる。

事前に電話予約をすれば基本的に誰でも参加できるが、場合によっては人数制限もある。今日のメンバーは女性4名、男性5名の9名。うち、ひとりが非営利団体の正社員である店主、ふたりは国の社会福祉系雇用補助制度で採用された有期雇用研修生だそうだ。ボランティアたちには常連や顔見知りもおり、近況報告に話の花が咲いている。20代から60代まで幅広い年齢層だ。全員がテーブルにつくと、自己紹介が始まった。

朝のコーヒータイム。間借りしているホテルの朝食で残ったクロワッサンとコーヒーが、調理ボランティアへの“お礼”として提供される

「じゃあ、名前と自分の長所・短所をひとつずつ言ってね」

店主がまず、口火を切る。「長所は善意で行動するところ。短所は注意力が散漫になり、いろんなことを一度にやろうとするところ」。コンパクトにまとめると、発言ターンを隣の人へ回した。店主の話し方を例に、職業や年齢、家族構成などには誰も触れない。「料理と食事をともにするには必要ではない情報だし、その話をしたくない人もいるから」と店主。自己紹介のお題は「誰が来てもいい」という、この食堂の理念を理解させるツールでもあるという。

目論見どおり、全員が話し終わるころには場はすっかり打ち解けている。誰からともなくカップを片付け、厨房に入る様子には、早々とチームのような親密感が生まれていた。

メニューは「おばあちゃんちと同じ」

調理前には、重要な確認事項がふたつ。まずは衛生面の注意、そして献立である。

献立の土台は、その日の朝に店主が考える。近隣の契約農家から届くオーガニック野菜に冷蔵庫の在庫を組み合わせて、ポリシーは“ヘルシーに、エコに、動物性食品は最小限に”。日によっては提携のオーガニック食材店から廃棄前商品を提供されることもあり、献立づくりはパズルのようだ。そのパズルを、ここでは調理スタッフ全員で解いていく。

取材当日のメニューで使用する野菜を、店主が冷蔵庫からピックアップ。無駄も不足も出さず材料・提供量ともに適量を測ることは、店主の重要な職能だ

「ほうれん草がたっぷりあるんだけど、ピュレにしようか?」と店主が言うと、ボランティアから声が上がる。「卵とミルクもあったから、ケーク・サレにしようよ」。「あ、そのほうがボリュームが出るね。レシピあったかな?」。「前につくったブロッコリーのものをアレンジできると思う」。「じゃあ、決まり! ケーク・サレで行こう」。

最終メニューは、その日の調理ボランティアの同意で決める。「そのほうが楽しく、美味しくできる」からだ。この方針を表すのに、予約を受け付ける公式サイトのメニュー紹介ページには「おばあちゃんちと同じ」と書かれている。「何が出るかは分からないけど、美味しいものが食べられる!」という意味を込めて。

<取材日のメニュー>
カリフラワーのクリームスープ
いろいろ野菜の組み合わせサラダ
ほうれん草のケーク・サレ
皮付きポテト
プルーンとりんごのクランブル

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