ローカルコミュニティの活性化が日本の未来に活力を与える【vol.2】

ローカルコミュニティの活性化が日本の未来に活力を与える【vol.2】

「グローバルな視点でローカルを捉える」という共通項をもつ、ファッションデザイナーの井上聡とソーシャルアントレプレナーの本村拓人。“地域”特有の社会課題をデザインの力で解決すべく、いかなる価値観を下敷きに活動しているのだろうか?

Words Tomonari Cotani Photos Tohru Yuasa

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かたやアンデス山脈で暮らす人々の生活を改善すべく、高品質なアルパカのニットウェアをその品質に見合った高価格で販売しているファッションデザイナー。かたや「クリエイティブ・ワン・ブロック(創造区画)」という概念をもち込み、独自のアプローチから日本の地域創生に挑むソーシャルアントレプレナー。彼らを突き動かすお互いの“行動規範”を知る対談の話題は、“ウェルビーイング”へと移り変わっていく。

クリエイティブ・ワン・ブロックという起爆剤

井上 そもそも本村さんが、クリエイティブとかデザインの力で世の中を変えられると思ったきっかけは何だったんですか?

本村 いちばんの理由は、「ライフストロー」という、ストロー型の携帯用浄水器を知ったことでした。これは下痢などの病気を引き起こすバクテリアや寄生生物を効率的に除去することができるうえ、使用に際して電力や交換部品は不要です。いつでも、どこでも、簡単に安全で清潔な水にアクセスすることができます。使い方はストローを水につけ、マウスピースを使って水を吸うだけ。緊急時対策や発展途上国での使用など、あらゆるアウトドアの場面で利用が可能なんです。

こうした優れたプロダクトデザイン・プロジェクトとの出合いがなければ、僕が「世界を変えるデザイン展」を主催しようとは思わなかったでしょう。この展覧会では、“現地の人々の生活視点や発想”を出発点に、発展途上国に住む人々が直面するさまざまな課題を解決してきたプロダクト約80点を紹介しました。2010年5月に六本木で第1回を開催し、その後各地で巡回展を行ったんです。

スイスに本社を置くベスタガード・フランドセン社が開発。活性炭などを使った濾過装置が川の水や、泥水に含まれるバクテリアやウイルスを除去。1本で約700リットルの泥水を、飲み水へ変えることができる。

井上 僕も、初めてライフストローの存在を知ったときには衝撃を受けました。本村さんは、この展覧会を通じてどんなこと伝えたかったんですか?

本村 先進国におけるデザインは、世界総人口のほんの10%を対象にしているに過ぎません。これからのデザインは、その他90%の人々のニーズに目を向け、彼らの生活水準を向上させ、自尊心に満ちた生活を提供する使命があると考えたんです。1日の平均収入2ドル以下の発展途上国の人々に対して、デザインでできることは何か、どんなデザインが求められているのか。多くの人たちにそのヒントを見つけてほしい、というのがいちばんの願いでした。

井上 まったく同感です。でも、僕がデザイナーになりたかった当初の理由は、そもそもデザインがカッコよかったのと、単にモテたかったのと、有名になりたかったから(笑)。本当にアホみたいなエゴだったわけですが、デザインの世界に入り、デザインの力でソーシャルイシューを解決しようとしてきた先輩たちの考え方や仕事ぶりを見て、「デザインにはこんな考え方があるんだ」ってガツンとやられました。

単にモノをカッコよく見せる表面的なことではなく、大変な人たちの日常生活を根本的に改善するとか、日常生活のなかに足りなかったことを追加したりとか、そういう仕事をしてきた先達からは、多くのインスピレーションをもらいました。実際、僕と弟がThe Inoue Brothers...をやってこられたのは、自分たちより以前に「デザインの力で世界を変える」という活動をしてきた諸先輩たちの存在があったからこそだと思います。

アルパカが生息するのは、南米アンデス地方の標高4,000メートル以上にある高地。ほかの産業がほとんどないこの地域で、苛酷な労働の果てに生産されるアルパカウールだが、長らくその品質と労働に見合った対価は支払われてこなかった。

よく自分に言い聞かせている親父の言葉があるんです。「ひとりが1万歩前に進んでも何も変わらない。でも、1万人が1歩踏み出すとものすごい変化が起きる」。この言葉で僕がよく思うのが、自分たちの前の世代とのつながりです。日本の職人さんたちと話すと、サステイナビリティの考え方を、“サステイナビリティ”ってカタカナのラベルをつける前から“三方良し”みたいな言い方でベースとしてもっていました。ただ、僕たちがそれを忘れてしまっている。もともと日本人がもっていたオリジナルのこうした精神を次の世代とつなげていくためには、僕たちデザイナーがカッコよくアップデートしていく必要があると思っています。ダサかったら、誰もついてきませんからね。発酵にしても、本当にすごいし、僕たちはカッコいいと思っているけれど、まだまだ若い子たちは、「なんかダサい」「泥臭い」って感じているかもしれません。その意識を変えていくのが僕たちの役割かなと。

本村拓人。1984年生まれ。株式会社Granma代表/創造区画家。高校卒業後、2003年愛知県名古屋市にて人材派遣会社の立ち上げに参画。1年間の起業を経験したのち、ニューヨーク州立大学モリスビル校へ進学。留学中、アジア、アフリカを放浪。BOP(ボトム・オブ・ピラミッド=経済ピラミッドの最下層)の生活向上や地域再生を目的にした事業を展開する一方で、独自のアプローチから日本の地域創生に挑んでいる。

本村 ただ、いまの日本のSNSの感じだと、“意識高い人たち”ってことで冷めて見られちゃいがちなんですよね。そこがすごくもどかしいというか。聡さんのお父さんの“1万人の1歩”じゃないですが、そうしたムーブメントを起こしやすくもある一方で、逆に敬遠されることもあるというのが現状ではないかと思います。

井上 最近、自分たちは“日本語がしゃべれるけど中身は外国人”という立場にいることに気がつきました。通常、日本の社会では嫌われるようなルール破りをしても、許されるところがあるなって。だから、いま本村さんが言ったようなところは僕たちが協力できるところだと思います。壁をぶち抜くというか。正直、もし僕らがデンマーク出身ではなく、日本の地方出身だったら、「The Inoue Brothers...? メッチャダサいじゃん」ってなっていたと思う。

本村 それ、わかります。僕も忖度なく言いたいことを言うので、“日本人らしくない”と嫌われるんですよ。理解されないならまだしも、半分以上がアンチ(敵)という状況も地方ではよくあります。でも、それくらいのインパクトでものを言っていかないと、地域はアップデートしようとしません。みんな停滞感があって、あきらめ切っているんです。どうやってバイブスを広げていくのかは、常に課題です。

僕は、大型の都市計画や地方創生ではなく、人々がイマジネーションとクリエイティブを最大限に発揮させて生まれた唯一無二の場所(カフェ、小売店、図書館など)が、そのエリアの美意識や文化を数段上のレベルに引き上げ、周囲に影響を及ぼした結果、地域全体が活性化しようとしている震源地のことを「クリエイティブ・ワン・ブロック」と呼んでいます。

それこそ、海外だとニューヨークのウイリアムズバーグとかロンドンのショーディッジもかつてクリエイティブ・ワン・ブロックが積層されていましたよね。ワン・ブロックをベースにクリエイティブな活動を発信しまくると、必然的に周りが呼応して隣人が集まってくる。強烈なクリエイティブでもってワン・ブロックを変えていくことの可能性は、都市でも地方でも変わらないと実感しています。

それをどんどん続けていくことが、自分の使命だと思っています。僕は建築家でもないし都市開発者でもない。ただ「創造区画」をつくるだけ。そのためにはコンテンツが必要で、コンテンツをつくるためには出会いが必要です。だから、頻繁にその地域に足を運び、声を上げているんです。大切なのは、寛容さとかグレーな部分を残しておくこと。白と黒の2択にしてしまってはいけないんです。

実際、いいクリエイティブ・ワン・ブロックは、白黒はっきりしないグレーのウエイトが高い隠れたスポットから生み出されます。「勝手に穴を掘っちゃいました」くらいの“しでかした感”というか“やってしまったらこっちのもの感”が、結果としてそのエリアに活力を与えるんです。東京だと、イデーの創業者の黒崎輝男さんのチームが表参道や渋谷、日本橋兜町とかで頑張っていますよね。僕は金融マンたちを口説けないので、トランスローカルというか、いろいろな場所を転々としていくことが夢です。

本村は、2017年3月より秋田県湯沢市のヤマモ味噌醤油醸造元/高茂合同合名会社7代目・高橋泰氏らとともに発酵を切り口としたインバウンド(観光ツーリズムの開発)を展開。地域住民とディスカッションを重ねることで、その地域の魅力やアイデンティティを、その地域ならではの手法で浮き彫りにしていくのが自身の役割だと語る。

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