
ファッションにおける真のサステナビリティとは?
ファッション業界でも「サステイナビリティ(持続可能性)」という言葉を聞く機会が増えてきた。華やかに見えるファッションの舞台裏で、いま何が起こっているのか? ベルリンで行われた世界最大級のサステイナブル・ファッション専門見本市「NEONYT(ネオニット)」を取材した。
Words: Yumiko Urae Photos: Shinji Minegishi
国連貿易開発会議(UNCTAD)では、ファッション業界を世界ワースト2の汚染産業とみなしている。UNCTADによると、毎年930億立方メートルという、500万人のニーズを満たすのに十分な水を使用し、約50万トンものマイクロファイバー(石油300万バレルに相当)を海洋に投棄。炭素排出量を見ても、国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い量を排出しているという。さらに廃棄問題や化学物質による汚染と健康被害、人権問題など、この業界が与えるあらゆる影響が疑問視されている。
一方、世界経済フォーラムの調査では、ミレニアル世代の約50%が世界規模の問題のなかで気候変動が最も深刻だと考え、さらに彼らより若い1990年代後半から2000年代にかけて生まれた「ジェネレーションZ」の約90%は、企業は環境問題や社会問題に対応する責任があると考えているとの報告もある。つまり、これまで製造と消費の間に分厚いカーテンを引いてきたファッション業界は、もはやこうした問題と無関係でいられない時代になったのだ。
2019年はそんな不都合な事実に、ファッション業界全体がようやく真正面から向き合い始めた年だった。8月にフランスで開催されたG7サミットで3つの野心的なサステイナビリティ目標に取り組む「ファッション協定」が発表され、グッチなどを擁するケリンググループやシャネル、エルメス、ジョルジオ アルマーニなどの32社が著名(後に24社が新たに参加)。業界をあげて、サプライチェーンの見直しやオーガニック素材の使用、アップサイクリングの実験をはじめとするさまざまな対策に乗り出すことになった。
そんななか、ベルリンでスタートしたサステイナブル・ファッション専門見本市「NEONYT」の誕生も、ファッション業界にとって大きな前進となる出来事だった。これは2010年からベルリン・ファッション・ウィーク期間中に開催されていた「Greenshowroom(グリーンショールーム)」と「Ethical Fashion Show Berlin(エシカル・ファッション・ショー・ベルリン)」が統合して生まれたもので、ドイツ国内外のメディアや政財界からも熱い視線が注がれている。
ちなみにNEONYTという名前は、古代ギリシア語の「Neo=新しい、革新的な」とスカンジナビア語の「Nytt=新しい」を掛け合わせた造語。「革新的な新しさ」を意味し、ファッション業界を根本から変革していくという意気込みを表している。

視察に訪れ、出展者の話を熱心に聞く緑の党党首カトリン・ゲーリング=エッカートさん。
ファッションの発表の場としてのベルリンは、伝統的なパリやミラノに比べて歴史が浅く、知名度はそれほど高くない。それでもこの街に大きな期待が寄せられるのは、ベルリンが欧州におけるスタートアップの聖地と呼ばれ、これまでにない新しいものを生み出す活気に満ち溢れ、さらにミレニアル世代の移住者が多いことも影響している。エコ・コンシャスな新しい秩序をもった街というイメージが定着していることに、可能性を見出すファッション関係者が少なくないのだ。
NEONYTを企画するのは、780年の歴史を誇る国際見本市主催会社のメッセ・フランクフルト。彼らがベルリンに進出してきた背景には、フランクフルトで50年間続くホームテキスタイルおよび業務用テキスタイル見本市「Heimtextil(ハイムテキスタイル)」で築いた実績によるところが大きい。この分野で同社は、すでに再生素材の開発や環境負荷の少ないものづくりをする先進的な企業と数多くの取り組みを行っており、そこで得た圧倒的な知見をもとに、ファッションを通してポジティブな社会変革を起こすコミュニティ形成を目指していく方針だ。

メッセ・フランクフルト副社長のオラフ・シュミッド氏。NEONYTは同社の企画するテキスタイル関連4大見本市のひとつと語る。

旧テンペルホーフ空港のチェックインカウンターが受付となり、レストランエリアでは連日、トーク・プログラムを展開。
2020年のNEONYTでは、旧テンペルホーフ空港の一角と仮設テントに22カ国から210ブランドが集結。前回より新たに40ブランドが加わり、約11,000人の来場者数を記録した。数字だけ見ると、急激に勢いを伸ばしているかのように思えるが、出展ブランドに対する審査基準は決して甘くはない。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に向けたサステイナブルな活動を行っていることはあくまでも前提条件。そのうえで独自のガイドラインを設けていることからも、そのこだわりが垣間見える。
「参加資格は、わたしたちが提示する条件を70%クリアしていること。ただし、そこにはデザイン性の高さや品質の項目などもあり、一定の基準に達していないものは、いくら素晴らしい取り組みであっても、審査を通るとは限りません」と言うのは、同展のディレクター、ティモ・シュヴェンツファイヤー氏だ。
ファッションにおいて大切な要素のひとつが、エモーショナルな部分。心を揺さぶる何かが根底になければ、消費者が購買に至らず、結果的に長続きしない。それがこの業界の難しさでもあり、ファッションとサステイナビリティの関係性をどう構築していくのかは、今後も継続的に考えていくべき課題である。

「いまはマイナーなサステナイブル・ファッションをショッピング・ストリートに増やすことが夢」と語るNEONYTのディレクターのティモ・シュヴェンツファイヤー氏。Photo by Messe Frankfurt Exhibition GmbH