食の「もったいない」、本当の理由はどこに?

食の「もったいない」、本当の理由はどこに?

食品ロス削減推進法が2019年に施行され、ますます注目される食品ロス問題。メディアが取り上げる多くの事例はリユース(再利用)かリサイクル(再生利用)だ。だが、世界共通の環境配慮のキーワード「3R」の最優先はリデュース(ごみやロスを出さない)である。日本でリデュース事例を、都心と地方の両面から探ってみた。

Words: Rumi Ide Photos: Boulangerie deRien

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なぜ食品ロスに取り組むことになったのか?

筆者が最初に食品ロス問題に取り組んだのは、グローバル食品企業の広報室長を務めているときだった。米国本社から「日本にもフードバンクがあるから寄付してはどうか」と連絡があった。フードバンクとは、まだ食べられるのに捨てられる運命にある食品(食品ロス)を引き取り、食料を必要とする人へとつなぐ活動、もしくはその活動をする組織を指す。

食品メーカーにとって、廃棄コストは経営コストだ。日本には食品リサイクル法があり、ただ捨てるだけではなく、リサイクル(再生利用)しなければならない。例えば、紙の部分は再生紙に、プラスチックはコンクリートのブロックなどに、食品部分は家畜のえさや植物の堆肥へと加工する。別の資源へと再生されるのはいいけれど、加工食品を紙・プラスチック・食品など、それぞれに分けるだけでも大変な手間とコストがかかる。でも、フードバンクに寄付すれば、リサイクルのコストや廃棄コストを大幅に削減できるし、リサイクルで使うエネルギーなどの資源も節約できるうえ、自社の社会貢献活動にもなる。

食べるためにつくっているのに捨てられるのは社員のやる気を削いでしまうが、誰かのために役に立つのなら、そのほうが社員のモチベーションも上がる。本社の後押しもあり、商品として流通できないものをリサイクルする代わりにフードバンクへ寄付することにした。2008年春のことである。

その後、2011年の誕生日に震災が起こり、自社製品を被災地へと提供するなかで、「同じ食品だけどメーカーが違うから配らない」とか「避難所の人数に少し違うから配らない」など、納得できない理由で放置された食品が無駄になるのを目にした。さまざまな理不尽を見て会社を辞め、3年間フードバンクの広報責任者を務めてから完全に独立し、今に至る。

井出さん(右)の活動は多岐にわたり、企業や大学、自治体での講演も多数。写真は2017年6月20日、農林水産省ASEAN食産業人材育成事業の一環で、カンボジア王立農業大学(Royal University of Agriculture: RUA)の全学部(農業・食品系)に講義した際のひとコマ。

リユースやリサイクル事例に偏るマスメディア

あれから食品ロスがメディアに取り上げられることが格段に増えた。わたしも成立に協力した議員立法「食品ロス削減推進法」も2019年10月に施行した。だが、長年もどかしく思っているのは「余ったら売ったりあげたりすればお互いWIN-WIN」という「余る前提」という考え方から逸脱できない日本の風潮である。その背景には欠品してはならないという食品小売からメーカーへの圧力ともいえる欠品ペナルティという商慣習があるし、ロスを減らそうとすると経済が収縮するといった考え方もある。

ちなみに最近では「フードロス」という呼び方が散見されるが、FAO(国連食糧農業機関)の公式サイト(英語)を見ると、food lossには小売・消費レベルのロスが含まれない。したがって、日本で使っている「食品ロス」とは意味が違うことになってしまう。国際機関や英語圏ではFood Loss and Waste(FLW)という表現をしている。わたしは、外国籍の方にも意図が伝わるよう、日本語では政府や法律名で使われている「食品ロス」を使うよう心がけている。

さて、世界共通の環境配慮のキーワードに3R(スリーアール)というのがある。最優先はReduce(以下、リデュース:廃棄物の発生抑制)。ごみを出さない、ロスを出さない。2番目がReuse(以下、リユース :再利用)。フードバンクへの寄付や余剰食品の販売など。3番目がRecycle(以下、リサイクル:再生利用)。冒頭で申し上げた再生紙やコンクリート、家畜のえさや堆肥などへとリサイクルするのがこれにあたる。

日本の食品リサイクル法でも、食品ロス削減推進法でも、最優先はリデュースである。出しっぱなしの水道の蛇口を締めること。だが、長年、取材を受けてきた経験では、リデュースをとりあげるメディアは、全体の1割いるかいないかだ。テレビでは「絵」(映像)、新聞では「写真」が欲しいから、例えば2月3日の節分前後、大量にリサイクルされる恵方巻の写真や映像が毎年のように特集される。フードバンクにいたときには、「これで助かる人がいる(からロスがあっても構わない)」というお涙頂戴的にとりあげるテレビ番組もあった。

リユースやリサイクルがいけないのではなく、その事例を紹介しつつ、大元の無駄や廃棄を減らすこと(リデュース)が最も資源やコストの削減につながるということを報じてくれればいいのだが、最重要なところがすっぽ抜けていることがほとんどだった。今でもそういうことは多い。

食品ロスに関する井出さんの著書(奈良・啓林堂書店撮影)。

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