リモートワークが不都合に感じるのはなぜ?

リモートワークが不都合に感じるのはなぜ?

コロナウイルス収束の兆しが見えない現在、遅々として進まなかったリモートワークが推奨されて急激に広がる一方で、非対面コミュニケーションに対する違和感や非効率性を唱える人々も出てきた。なぜ、これらの問題が起こるのか。そして、オンライン・コミュニケーションの本質とはどのようなものなのだろうか。

Words Kosei Mitsuishi, Miyako Ebata Photos Tohru Yuasa

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新しいコミュニケーションのあり方

コロナウイルスが世界中で猛威を振るうなか、新たな新常識が誕生した。それがリモートワークや非対面コミュニケーションの推奨である。14世紀に起こったペストの時代と異なって社会機能が麻痺・停止しなかったのは、リモートワークによるところが大きい。しかしその一方で、リモート会議などの非対面コミュニケーションが上手く機能しなかったと振り返る企業も多い。

これらの原因を、画面という上半身に限定された映像のみを目の前にして、相手と対面しているような実感がもてないという“身体性の欠如”にあるのではないかと指摘するのは、音声感情解析AIを開発する株式会社EmpathのCSO・山崎はずむ氏。確かにオンラインでは人はカメラを見ることができても、お互いに目線を合わせて見つめ合うことはできない。こうした実際での対面では起こり得ないさまざまな事象や情報過小によって、人は不気味さや違和感を感じてしまうものなのだ。

「哲学とAIは同じ位相にあって、相反しないもの」であると語る山崎氏は、東京大学大学院で比較文学や哲学を学んだ文系出身。氏の分析では、こうした新しいツールへの適応はやはり若い人のほうが順応しやすく、違和感や不満は管理職相当の年齢層の人々に見出されやすいのだという。

東京都渋谷区にあるEmpathのオフィス。山崎氏は、これまで国際的なピッチ・コンテストで6度優勝。その功績からSlush Tokyo 2019ならびに経済産業省が支援するJ-Startupプログラムやイノベーター養成プログラム「始動」で英語でのピッチ・コーチを担当している。

また、この新しいコミュニケーションの進め方をコロナ以前の旧スタンダードへと引き戻そうとする強い動きも散見されるようになった。フランスの哲学者モーリス=メルロ・ポンティは「世界を見るために、わたしたちは慣れ親しんだ受容を断ち切らなければならない」という言葉を遺しているが、なかなかメルロ・ポンティのように慣れ親しんだ受容を断ち切るとはいかないようだ。

そうした人々は、非対面コミュニケーションはあくまで対面できない緊急事態での代替措置に過ぎず、オンラインでは従来のようなコミュニケーションが実現できないとリモート会議を批判する。

「コロナ以前の旧スタンダードのほうへと引き戻すのではなく、リモート会議という新たな別種のスタンダードが誕生したものと考えて、わたしたちの現実世界の延長としてではなく、柔軟にヴァーチャルは別世界なのだと受け入れる必要があると考えています」

そして、“かつての会議”というものがそもそも良いものであったのかという検討が欠落しているのではないか、と山崎氏は疑問を投げかける。

こうした新たな枠組みづくりをテクノロジーで相補したいというのがEmpath・山崎氏の考えだ。Empathではこうした会議に対して会話という音声を切り口に、ヴァーチャル空間における“手触りのある”ケアを実現する取り組みを行っている。

例えば、会議では必然的に発言に対する積極性の問題が生じやすく、発話量に偏差がでてしまうことが多い。消極的な人のなかには、時として良いアイデアをもっているのに発言できないという事情もあるだろう。しかし、アイデアという組織にとって重要な財産が、密室で人知れず葬られていたのが旧来の会議である。この状況を解決するために山崎氏率いるEmpathは感情解析AIを用いて発言者のケアを促し、こうした会議で発生するパワーバランスの不均衡の調整を目指す。時には、AIによる会議の状態分析をオペレーターに伝えることで環境を整え、全体をサポートする場面も想定し得る。AI音声解析によって会議の質を向上させるファシリテーションが誰でも行い得るようになり、会議がよりクリエイティブなものとして質的に生まれ変わる日もそう遠くないだろう。

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