提言:いまこそ日本のスポーツに「グローバルスタンダード」を ──フィールドマネージメント代表・並木裕太

提言:いまこそ日本のスポーツに「グローバルスタンダード」を ──フィールドマネージメント代表・並木裕太

東京五輪の開催をめぐって、日本が揺らいでいる。国内の議論は定まらず、世界における日本の地位が脅かされるような事態だと警鐘を鳴らす人も多い。この際、開催をめぐる是非を問うのではなく、(開催されようがされまいが)オリンピックをきっかけに、日本は何を得るのかを考えたい。そんな曖昧なアジェンダをスポーツビジネスに造詣の深いフィールドマネージメント代表の並木裕太氏に投げかけた。

Words: Sota Toshiyoshi Photos: David Mareuil/Anadolu Agency via Getty Images

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すでにお金が動いている

コロナ禍のなか、なぜスポーツをやらなければいけないのかという理由はいくつもありますが、まずひとつ、お金の話があります。

例えば演劇であれば、その費用は、公演をすると決めてから発生します。そうなって初めて会場を借りキャストを集め、稽古をして、いざ本番となり何度も公演を重ねる。つまり、やると思い立たなければ誰も損をしないわけです。それは「ロックバンドのドームツアー」も同じです。

しかし、スポーツの場合は常に「前払い」が発生しています。例えばJリーグであれば、選手たちには年俸というかたちで金銭を支払う約束をしていて、しかもそれは数十チームの連帯責任として約束をしているわけで、やらないとお金だけが出ていってしまうことになります。

オリンピックの場合は、「放映権」という大きなビジネス上の問題が横たわっています。試合をテレビなどで放映するために事業者が運営体に支払う放映権は、日本ではまだそれほど高額ではありませんが、海外では──それこそMLBでもNBAでもNFLでも──無観客であっても試合を実施したほうがいいほどの大規模なビジネスです。そして、オリンピックは国際大会。そこですでにお金のやり取りが生まれていて、しかもそのお金の使い途はスタジアム建造をはじめ決まって動いているわけで、いま、それをどうするのかというリアルな事態に直面しているのでしょう。

並木裕太氏は、プロ野球オーナー会議へ参加、パ・リーグのリーグビジネス、読売巨人軍など多数のチームビジネスをキーマンとともにつくり上げている一方、サッカーでは湘南ベルマーレ、浦和レッズのチーム支援を行うほか、公益社団法人Jリーグの理事としてビジネスの推進に尽力してきた。20年には株式会社Jリーグの取締役に就任。湘南ベルマーレの取締役にも復帰。Photo by Tohru Yuasa

ボールを追いかける放課後のために

ただし、演劇もドームツアーもスポーツも、ファンが待っているという点では同じです。バレエが好きな人もミスチルが好きな人もサッカーが好きな人もいて、ファンたちは皆「やってほしい」と思っていますよね。つまり、ロジカルに考えすぎると話は行き詰まってしまうわけです。

では、いま、オリンピックを──ひいてはスポーツを何のためにやるのかと問い直すなら、それは「文化と経済の両方をうながす」という点に立ち戻るのではないでしょうか。

いまの日本でオリンピックを開催することで、長期的な経済成長がうながされるかというと、そうしたインパクトへの期待は薄いでしょう。それでは、どんな変化が生まれるのか。それは例えば、新しい国立競技場ができて、そこを目指して陸上競技に憧れを抱く少年少女が増えて日本の陸上が強くなるということ。あるいは、年間何万人もの人たちがスタジアムに足を運び、やれ勝った、やれ負けたと言い合いながら、子どもたちがわたしもああなりたいと思うこと。

白血病から復活した池江璃花子は、4月に行われた「第97回日本選手権水泳競技大会」で、女子100mバタフライ、女子100m自由形などを制して4冠を達成。リレーメンバーとして東京オリンピックへの代表内定を獲得した。Photo by Kyodo News via Getty Images

何のために競技大会をやるのかと問われれば、それはサッカーでいうなら、夢中になってボールを追いかけて放課後を楽しむ時間のためにあるのでしょう。そういう子どもたちが増えることで代表チームが強くなり、代表チームが強くなってワールドカップで活躍する。その活躍する様子をまた少年少女たちが見て、喜んで感動する。まさにそうした循環を、つくろうとしているのです。

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