政治にわたしたちの声を届けるには

政治にわたしたちの声を届けるには

新型コロナウイルスや気候変動といった山積する社会課題を前に、いまこそ政治や行政に手腕を発揮してほしいところだけれど、世論調査などに示される民意はなかなか政策に反映されない。私たち市民は、選挙という手段を通じて間接民主制に参加する以外、政治にどう働きかければよいのか? 政治と市民の間に存在する距離を縮めることはできるのか? ヒントを求めて寺田静さん(参議院議員/秋田県選出)にインタビューした。

Words: Yumiko Sakuma Photos: Teppei Hoshida

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寺田静さんは、2019年の参議院議員で秋田県選挙区から出馬し、現職の中泉松司自民党議員を破って当選した。しかし、もともと議員になろうと思っていたわけではなかったという。

「政治とかかわるようになったのは、留学していたハワイ大学から一時帰国中に、父親に言われて幼なじみの寺田学(立憲民主党所属の衆議院議員。現在の夫)の最初の選挙を、いやいや手伝ったのがきっかけでした。留学は、日本では女性が仕事と結婚・子育てとかを両立するのが大変だったり、過労死の問題があったりして、『こんな未来のない国からは出ていってやる』という気持ちから。でも学生時代、不登校の経験があり、いまの管理教育をなんとかしたいという思いや、スキューバダイビングが好きで、海洋科学部に所属して環境問題に興味がもっていたこともあり、議員秘書をやらないかと言われたときに、そんなチャンスもなかなかないし、やってみることにしたんです」

その後、しばらくスタッフとして寺田議員のもとで勤務したのち、09年に結婚。19年の選挙の際、野党が擁立したいとしていた県議が立候補しないことになり、別の県議から立候補しないかと声をかけられた。最初は「冗談でしょ」と思ったが、静さんがフリースクールでボランティアなどをしていたことを知っていた県議から「政治家になれば教育そのものを変えることだってできるかもしれない。そうしたらもっと多くの子どもたちを助けられるんじゃないの?」と説得された。

寺田静さん。秋田県立横手城南高校中退後、大検取得。育英会の奨学金を受け早稲田大学入学。卒業後、東京大学生産技術研究所勤務。米国留学後、寺田学や川口博両衆議院議員らの公設秘書、電気自動車普及協会を経て、2019年参議院議員秋田県選挙区初当選。参議院環境委員会委員。児童虐待から子どもを守る議員の会、インクルーシブ雇用議連、LGBT議連などに所属。教育、医療、介護、環境、地方が抱える問題などに取り組む。

自分が政治家として矢面に立つことができるのか、迷ったときに思い出したのは母の言葉だった。11年の福島県で原発事故が起きたときに「日本にたくさん原発ができていたなんて知らなかった。子育てに夢中になっている間にたくさんできていた。自分たちの無関心があんな事故を生んで、ひどい人災。反省している」と言っていた。

「秋田ではちょうどそのころ、イージス・アショア(新型迎撃ミサイルシステム)の問題が争点になっていて、私自身も反対だったし、子育てを理由に自分が候補を引き受けずに野党が不戦敗となったら、自分も母と同じように、あのとき止めるチャンスがあったのにやらなかったと後悔するかもしれないと思ったんです。10年以上、野党の議員の夫の横にいて、そのタイミングでよい候補者が彗星のように現れるわけがないことも身にしみてわかっていましたから」

当選後は、秋田県内の25市町村でひとつずつ集会を開催した。一年に一度それをやろうと考えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、有権者と直接話をすることのハードルが一気に上がった。そこで考えたのは、有権者が電話をかけることのできる場所の確保だった。

2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以前は、地元・秋田の集会に精力的に参加。有権者と対面での接触が難しくなってからは、コミュニケーションの手段を電話に切り替え、民意を汲み上げる場を確保した。

「新聞の折込チラシやポスティングで『電話で語る会をします』と告知したところ、結構な数の電話をいただいて、そこで意見を吸収するようにしています。直接コロナに関する問題もあれば、近隣地域や家族についての悩みだったり。集会で話すのは恥ずかしいけれど、1対1の電話だったら話せるという方もいて。ただ都市部以外の農村部になると、周知の業者さんもいなかったりして、告知のチラシをつくってもなかなか届けにくい事情はありますが」

電話で聞いた「悩み」については内容によって地元の市議会議員につないだり、利用できる制度を案内したり、中長期的な「宿題」として預かったりするのだという。

一方、SNSは、発信のツールとしてだけでなく、より広い民意の吸収に利用している。

「国会議員なので、選挙区にかかわらず、国のことを考えなければならなりません。選挙区では生活の話が優先されてしまうことがあるけれど、SNSを見えていると、国内でも多くの方がアフガニスタンやミャンマー、新疆ウイグル自治区、香港などの人権問題に関心を寄せていることがわかります。環境問題も同様ですが、議員の仕事を、すぐ返事をする必要がある/ない、大事/大事じゃないという軸で考えると「すぐに打ち返せるものではないけれど、非常に大切な問題」もあって、地元だけに目を向けていると、ここが拾いにくい。参議院は議員の任期が6年ですから、長期的な問題に取り組める分、SNSはそうした声を吸い上げるツールとして重宝しています」

議員の任期を考えると、長期的に考えられるべきイシュー、有権者との距離が遠いイシューほど取り組んでもらえる確率は低く、気候変動はその最たるものだ。票につながらないから争点にならないといわれてきたが、これは政治家だけの問題ではない。

「多くの方が環境問題を優先課題だと考えているのであれば、政治家としても自分が興味がなくても無視できない課題になってくるはずなんです。だから、非難の矛先を政治家がそこに関心を払っていないからだとばかりは言い切れなくて。日本ではやっぱり多くの方が、そこまでの関心をまだもっていない、優先課題だと思っていないという現状があります」

となると、気候変動に強い懸念を抱いている市民は何をすればよいのか。

「多くの与党議員は、団体や企業から何らかの支援を受けていて、それが目に見える有権者の姿になっています。一方、SNSなどの意見は、些末な意見というように見えてしまっている。ですから団体を組織して意見を届けるとか、集会に来てもらうとかすると少しずつ気づき始めるのではないかと思います」

ニューヨーク在住の佐久間裕美子さんがビデオ会議システムを通じて、日本の参議院議員会館にいる静さんにインタビュー。13時間の時差や、距離の壁を感じさせない親密な雰囲気での取材となった。

もうひとつ、大きな課題は、政治の現場におけるジェンダー不平等・不均衡の問題だ。政治の世界で、均衡化がなかなか進まないには、すでに現職の男性がいる状態から、彼らを外して女性を増やす、ということが現実的に進みにくいこと、また、国会議員の労働環境が男性向けに設計されていることがある、と静さんは分析する。

「平日は東京で、週末は選挙区で過ごすのが当然で、選挙区には妻と子どもがいて、夫の不在中も地元活動を引き受けるというのが、国会議員のスタンダードな姿だとすると、女性議員の場合、子どもと夫を地元に置いて、自分だけ東京で仕事をしてたら『家族がかわいそう』という話になるのが日本における難しさですね」

いまだに差別や暴力の対象になる女性たちの政治参画が進まなければ社会のジェンダー平等は解消されない。しかし、こうした構造的なハードルがあるから、変革は一朝一夕では変わらないという事情がある。

「子どものころから教育の現場で『あなたたちにはこういう権利がある』と人権のことを教えることをしなければ、根本的な解決にはつながっていかないと思っています。性犯罪の話なども、当事者が誰かに伝えない限り、誰にもわからなくて、小川たまかさんの書籍のタイトルに『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)というのがありましたが、ほとんどないと思われているから無視されて、だから制度が変わらないということがあると思うので、勇気をもって伝える努力をしていただきたいなと」

静さんの弟は、大学での講義中に突然倒れ、そのまま意識が戻らず植物状態を経て亡くなった。悲しみと余裕のなさから家族の気持ちがバラバラになり、その後の1年3カ月は介護に明け暮れた。「個人的なことは政治的なこと」。静さんが政治と向き合うと決めたときに贈られたこの言葉を大事にしているのは、そんな辛い経験があったからだ。

「18~19歳の弟が制度の谷間に落ちてしまったことは、個人的な体験だったけれど、政治でしか解決できないことであって、社会の問題だった。そういうことってたくさんあると思うんです。だから、そういう個人的な声を届けていただきたいなと思っています」

佐久間裕美子
文筆家
1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に『Weの市民革命』(朝日出版社)、『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)、『My Little New York Times』(Numabooks)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『テロリストの息子』(朝日出版社)。ニュースレターを軸にメンバーとともに市民活動を展開するSakumagを主宰。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。

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