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個人の特徴を活かした幸せな仕事とは/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[2/3]

執筆者:河西遼
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個人の特徴を活かした幸せな仕事とは/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[2/3]

執筆者:河西遼

ネットプロテクションズの人事として働く河西が「集団の幸福の最大化」をテーマに様々な分野の先駆者に話を伺う企画。今回は「人の幸せ」を科学的に研究する慶應大学前野隆司さんにお話を伺ってきました。

中編では個人の特徴を活かした仕事とそれを実現する会社づくりについて伺います。

慶應大学 前野隆司さんインタビュー[1/3]はこちら
規模から紐解く、幸せな会社の要素とは

因子に合った仕事はより幸せを感じやすい

ーー前回のお話では、組織の規模を切り口に、個人の幸せを実現しやすい環境とそうでない環境についてお伺いしました。もう少し細かいところで、職種や仕事内容も、人の幸せに影響するものでしょうか?

職種と四因子は分かりやすく関係しています。人それぞれ、四つの因子の中でも特定の因子が高いとか、特徴があります。仕事内容がその因子に合っていると、より幸せを感じやすくなるのだと思います。

例えば、コンサルティングやクリエイティブな仕事の方は、第一因子が高い傾向があります。「やってみよう」とか「自分を高めよう」みたいな気持ちが湧きやすい職種です。一方で、病院勤務や客商売など直接人と接する仕事は、第二因子が高い人が多い傾向があります。

誰もが自分の特徴に合った仕事につければいいのですが、例えば第二因子が高いのに、第一因子ばかり満たされる環境に入ってしまうと、大変な思いをするかもしれないですね。ただ、その特徴というのは先天的な資質だけではなく、後天的に磨かれる場合もあります。

例えば、コンサルタントになったから第一因子が高くなり、第一因子が高くなったからいいコンサルタントになる、といった具合です。螺旋的に回りながら成長するんです。向いてる仕事だから頑張る。頑張るから出世する。どんどん幸せになる。そのループに入れたらいいですね。しかし、合わない仕事につくと、不幸せになって辞めてしまうこともありますね。

コミュニケーションが仕事の幸せ度を高める

ーーそれぞれの人に合う仕事、合わない仕事があるのですね。一方で、仕事内容だけでなく、その先にある実現したいことを見つめることも、幸福度に関係するのではないかと感じました。例えば、「数字を扱うのが好きだから経理をやる」といっても、それだけでは幸せにならないこともあると思います。その上段に、より抽象化したやりたいことがあって、その手段のために扱う仕事ならば何でも楽しめるということもあるかと思いますが、その辺りはどう考えていますか?

まだ研究途上なのではっきりしていないんですけど、仮説としては、マズローの欲求段階のように、より高次元な欲を満たす方が幸せ度も高まると考えています。そういう意味では、計算が得意で、得意なものを満たしているという幸せはやっぱり初期段階で、段々抽象度を上げていき、やっぱり、「より良い世界を作る」といった理想に向かうことが一番幸せだと思っています。明確な理念やビジョンがあって、それに進んでいると分かっている人が幸せな人だと思います。

初めは得意なことを活かせてよかった、というところから始まるとは思いますが、行き着く先は、自分が生かされている世界に対して感謝をして、ありがとうって思いながら恩返しをするというか。考えていくと、そこに行き着くしか無いと思いますね。

もちろん、全員がその考えにすぐに行き着けるわけではありませんから、まずは個人が特徴に合った仕事をできる環境が重要かと思います。組織が大きくなると、自分に合う仕事をする人だけでなく、自分に合わない仕事をする不幸な人が大量に生まれがちです。その人たちを幸せの循環に持っていくためには、やっぱりコミュニケーションが大事ですよね。コミュニケーションをしっかりとり、それぞれの資質に応じた仕事をみんなで分担するんです。

組織が大きくなればなるほど、全員を最適な仕事に振り分けづらくなる傾向にあるので、小さい会社の方が幸せ度が高くなりやすいのかもしれませんね。2017年のホワイト企業大賞を取った西精工という会社は、ナットを作っています。仕事内容自体は派手ではありませんが、社内で「月曜日に会社に行きたいですか?」というアンケートを取ったところ、なんと80%以上の人が「行きたくて行きたくて堪らない」と回答しました。

どんな取り組みをしているか聞いたところ、毎日朝礼を1時間やっているそうです。8時間の勤務時間の中で1時間も朝礼に使うのは、一見無駄に見えます。しかし、朝礼の時間に、今どんな仕事をしているのか、何に困っているのか、お互い助け合えることがないのか話すことで、それぞれの状態に即した仕事ができるわけです。

適切なコミュニケーションを取ることで、

①自分の資質に合った仕事ができるので第一因子が満たされる

②繋がりや信頼感を感じられるので第二因子が満たされる

という、二つの効果が得られます。

ーー組織の規模が小さいほうがコミュニケーションは取りやすいと。大きな規模の組織でのコミュニケーションはいかがでしょうか?

大きな会社では、コミュニケーションをシステム化して質を保とうとしがちですが、それだけでは不十分な印象があります。IT技術や新たなガジェットを生かして、大規模な組織になってもきめ細やかなコミュニケーションを実現する方法を作る必要があると考えています。定期的に個人の状態をチェックすることで、社員全体の幸せを適切に管理できるように思います。

一方で、組織の中で全ての人が自分の特徴に合った仕事をしても、「格差」が不幸を生む効果があるとも考えられています。地味でコツコツやるような仕事が好きな人がいれば、派手で目立つ仕事が好きな人もいます。どちらも自分の好きな仕事をしていて、お互いにきちんとコミュニケーションできていれば,双方幸せになるはでずですが、現実、そうはならないんですよね。例えば「やっぱり企画の仕事は目立つし、出世もしていいなぁ」とか、人と比べてしまい、不幸が生まれます。

格差は、人を不幸にするんです。少なくとも、収入格差が大きい国ほど不幸になる確率が高いという研究データがあります。妬んでしまうんです。そのため、どんなにお金を持っている人がいても、資産を見えなくした方が全体の幸せは上がるんです。例えば、「王様はお金を持っているけど、いくらあるかは分かりません。お金ではなく、みんなのために国を治めています」みたいな方が、みんなが幸せになりやすいんです。

 

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ーー格差は不幸を生むということは、派手なプレイヤーや出る杭がいない方が、組織の幸せ度は上がるということでしょうか?

はい。短期的にはその傾向はあると思います。でも、それはそれでちょっと残念ですよね。イノベーションに向かわなさそうです。出る杭も出ない杭もみんなが幸せっていう会社を作れたら一番いいいですよね。つまり、出る杭へのリターンが金銭のみに偏らなければいい。

人がたくさん集まれば「差」というものは生まれてしまうものです。そもそも、人が何千人と一緒に働くこと自体が、人間の心に適していない可能性もありますね。町にしてみても、人間が一定数以上増えると差が生まれてしまいます。人間の歴史とは、狩猟から農耕生活に変わり、富が蓄積して格差ができたことで、不幸になり続けてきた歴史である、と考えることもできそうですね。

理想を求めすぎると自由主義と社会主義に二極化する

ーーますます大きな組織での幸せの実現が難しく思えます。大きな組織で全個人の幸せを追求するためには、どんな方法があると思いますか?

僕の理想的イメージでは、大企業の中でそれぞれが全部ニッチ戦略を取り、いくつもの小組織に分かれているようなイメージです。600人よりも少ない幸せな組織がたくさんあり、それがちゃんとつながって、一つの大組織として成り立っているという状態です。

それを実現する方法論は、まだ見つかっていないと思います。理想としては想像できるんですけど、実現は難しいとも感じます。500人くらいの組織と1万人の組織を比べたら、やっぱり後者の方が安定させやすいですから。

理想を求めすぎると、「格差は自明のものでありつつ、やる気がある人だけが生き残る自由主義」と「全員を平等にする社会主義」に二極化されてしまうんです。どちらの社会でも不幸な人がたくさん生まれてしまうので、その中間をいくような会社をデザインするのが正解だと思っています。

今の日本の会社を見ていると、大きな会社で働き続けることが必ずしも幸せに繋がらないのは、明らかだと感じます。社会の閉塞感を打ち破るためには、大企業の人がみんな飛び出して小さな会社を作ることも一つの手だと思うんですが、現状では小さい会社で成功しているのは一部の実力がある人だけ。

ーー小さな組織がたくさん存在しつつ、大きな会社のような安定感を保つ。それを実現するためには何が重要になってくると思いますか?

僕は、インターネットが鍵だと考えています。昔は情報を誰でも得られるわけではなかったので、情報の統制をするために組織を統治化するのが一番合理的でした。それが、インターネットの登場によって情報は誰でもアクセスできるようになり、統治ではないオープンな繋がりができるようになったんです。

だから、今のSNSみたいなものが、もっと高度化して、複雑な組織の振る舞いをきめ細かくコントロールできるような仕組みを作れたら、社会は大きく変化すると思います。ピラミッドでもなく、ただのネットワークでもなく、まだ見つかっていない新しい繋がり方だと思うんです。高度に階層化制御されているけれども、自由は残されているような。そうすれば、個々が幸せなまま他者と繋がり、全体として統合された社会ができあがる。そんなことを考えています。

幸せな会社を作るためには、コミュニケーションや風通しの良さが大切であるのみならず、新たな組織の形やその統治が大切ということですね。次回は、会社の業績と社員の幸せ度の関係について伺います。

次回「会社の業績と社員の幸福は両立する」

に続く

河西遼
執筆者:河西遼
2013年、東大を卒業し新卒でネットプロテクションズに入社。
入社後は新規事業として「NP後払いair」の立ち上げ責任者を経て、自ら異動希望を出し、現職の人事企画に至っている。内に秘めた知的好奇心を追求し、「人の感情のメカニズムや、最大幸福のための社会設計」について日々考えを巡らしている。
今後は会社のミッションと個人の幸せの両立を模索しながら、会社組織の新しい「アタリマエ」を実現していきたいと考えている。
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