全ての人が手触り感を持てる仕事の設計を_SQから考える会社での適切な距離の関わり

執筆者: 河西遼
vol36
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全ての人が手触り感を持てる仕事の設計を_SQから考える会社での適切な距離の関わり

執筆者: 河西遼

個人の幸せや楽しみ、やり甲斐とはどういうものか?それは会社の目標と両立できるものなのか?より多くの人々が幸せになる社会設計とはどういうものか?そんなテーマを元にネットプロテクションズの人事として働く河西が、「集団の幸福の最大化」というテーマで様々な方にお話を伺います。

連載の背景はこちら
人事の私が「先駆者」たちに話を聞きに行く理由

連載第2回は、関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介さんの元に伺いました。鈴木さんは、幸福度を高めるような他者への関わり方として「SQ」という概念を提唱しています。SQを元にして、これからの時代に最適な会社や働き方について、お聞きしました。

幸せを感じるための適切な距離感

ーー本日はよろしくお願いします。まずは、鈴木さんが提唱されている「SQ(ソーシャル・クオティエント、かかわりの知能指数)」という概念について教えてください。

SQとは「幸福度を高めるような他者へのかかわり方」をあらわす指標です。社会学には「自分だけのために生きている人よりも、人に貢献したいという関心がある人や、人のためになることを公表している人の方が幸福度が高い」という研究が以前からありました。それを、東日本大震災が起きて日本人の価値観が見直されている時期にあらためてまとめたのがSQという概念です。

SQを向上させるためには、以下の4つのポイントが重要だと考えています。

献=「他者への貢献」
広=「広範囲で協力」
心=「モノよりも心」
次=「次世代志向」

詳しくは書籍をご覧いただければと思いますが、SQを研究する中で、「世界平和や全人類のため」と壮大なことを考えている人よりも、手の届く範囲で貢献しようと考えている人の方が幸福度が高いことが見えてきました。つまり、SQが高い人には「身近にいる具体的に何かに困っている他者を助けることに幸せを感じる」傾向があります。また、「自分の身を犠牲にしてでも助ける」というよりも「自分も幸せになれるような協力関係を築く」というスタンスの方が、SQは高くなります。

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手触り感のある仕事をつくる

ーー他人のためであれば何でもいいというわけではなく、対象との適切な距離感が存在するということですね。SQの考え方を会社づくりに当てはめると、どんな要素が重要になるとお考えですか?

働く人が「仕事のやりがい」を認識しやすい状態にすることが大切だと思います。企業とは誰かに貢献するために存在し、実際に貢献しているのは間違いありませんが、ビジョンやミッションを掲げるだけでは、一般の社員が貢献の実感を持ちづらいのも事実です。目の前の仕事が誰かに貢献していると頭では理解していても、心の中では疑問に思ってる方も多いのではないでしょうか。

工場で製品を作っていても、お客さんが使っている場面に遭遇することはほとんどありません。お客さんと接していても、「自分がいたから生まれた価値」が分かりづらい仕事もたくさんあります。大きな仕組みの中では、自分の役割や貢献が見えづらいのです。

そもそも、資本主義が発達した社会は、社会での役割や他者への貢献などを考えないですむようにできています。一人ひとりの生活が豊かになることを目標としているため、自分のことだけを考えればいい。社会のことは他の誰かがやってくれる。そう考える社会なんです。

一方で、そういった社会がある程度まで行き着くと、「自分のことだけでいいのか?」という疑問や、社会へ貢献したい気持ちを持つ人が増えるとも言われています。東日本大震災が起こったことにより多くの日本人の価値観が見直されたことをきっかけに、社会への貢献が感じられるようなライフスタイルが注目されています。仕事は自分の生活のためだけのものではなく、他者に貢献するためのものという意識を持つ人も、以前より目立っています。

仕事で他者に貢献したい人が少なかった時代は、貢献実感を持ちやすい「手触り感のある仕事」を働く人が自発的に探していましたが、仕事での他者貢献が重要になってくる時代においては、マネジメント側がそのような仕事を用意する必要があると思います。どんな貢献を目指すかは会社によって変わりますが、ステークホルダーへの貢献を実感する場をどう設計するかが鍵だと思います。

ーー働く意味を個人に委ねるのではなく、会社が分かりやすいカタチとして提供するということですね。そういう会社が増えたらいいと思いますが、実現するにあたって課題はあるのでしょうか。

評価制度は一つの課題だと思います。現在の一般的な評価制度だと、部下に対して仕事のやりがいを提供しても評価にはつながりません。これまで、仕事の大部分が会社の利益を向上させるために設計されてきました。その一部を、やりがいを生むものに変えようとすれば、会社の利益や自分の収入が減る可能性もあります。そう考えると、今やってる仕事は減らせないので、やりがいのある新しいことを増やさなければなりません。しかも、予算もつかないので気合と根性で乗り切るということになってしまう。そんな状況ではうまくいくはずがありません。

特に、生活コストが高い40代以上が多い会社では、既存の仕事を変えるのはかなり難しいと感じます。仕事を変えることによって収入が下がるリスクを取れないからです。従業員の年齢が比較的に若いベンチャー企業の方が、動きやすいかもしれません。新しいことを始めるコストも相対的には低いので。

いずれにせよ、周囲に仕事のやりがいを産むことが評価につながるような仕組みが必要なのではないでしょうか。

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コミュニティに複数参加する相乗効果

ーー働く上では、社外・お客様への貢献だけでなく、社内のメンバー間の貢献も重要なポイントかと思います。適切な距離感を保ちながら仕事の成果を上げるために、どのような働き方や組織設計が考えられると思いますか?

これからの時代は、個人が一つの組織に閉じるのではなく、非対面での関わりも含めた複数の組織に積極的に参加することが、個人の幸せや会社での成果を高めると考えています。

組織内においても、他者への貢献を感じられることはとても大切です。貢献できる人の数が多いほど、より幸せになると考えられます。一方で、組織の規模が大きければいいというわけでもありません。規模が大きすぎるとお互いの顔が見えなくなり、貢献している実感が持ちづらくなります。

他人と心地いい関係性を保てるコミュニティのサイズは20名くらいが限界だと思います。組織を階層化して、20名のチームのリーダーが目標や目的を共有することも可能ですが、それでも対面で気持ちよく働ける人数は、150名程度がひとつの区切りになると感じています。ちょうど、進化心理学者のロビン・ダンバーが言う「ダンバー数」のサイズですね。

ただし、それはあくまでも対面の関係の話。情報技術の発達により、私たちは非対面の関係性をあたりまえに持つようになっています。例えば、会議中でもパソコンにはメールが届き続けていますよね。私たちは会議などで空間を共有して対面で何かをしながら、同時に非対面のコミュニケーションも続けているわけです。

その分、それまで密だったコミュニケーションが散漫になり、他者と過ごす場に「情報の穴」が空くようになりました。それを「多孔化」と呼びます。多孔化によって様々なことに抜け漏れが出ることが懸念されますが、ポジティブな面もあります。

色々な組織・コミュニティに関わり続けているということは、すなわち、関わる人の総和が増えたということ。一昔前は個人が1チームのみに所属していた働き方が、常に複数のチームに足を掛けている状態に変わったのです。

個人にとってみればそれは、自分が貢献できる相手が増えたと言えます。また、やり取りする情報量の総和が増えたことは、より多くの新しい知識やアイディアを交換しているとも言えます。それは、各組織にもプラスになることです。

また、複数の組織に関わることに加えて、対面の場での集中力を向上する仕掛けがあれば、それぞれの組織での生産性は一層高まります。空間的な仕掛や仕組みによって、密度の高い場作りを設計できるチーム。そのような組織の形も理想の1つとして挙げられるのではないでしょうか。

ーー人とのつながりや貢献している実感を持てる範囲の組織に複数所属することが、個人にとっても、会社にとってもプラスになるということですね。最後に、鈴木さんが考える理想の働き方について教えてください。

僕自身は「家族主義型でみんな仲良く一つの会社に所属する組織」というカタチではなく、「それぞれの人が自分の持っているリソースを自分の関わりたい範囲で各組織に提供している社会」が理想だと考えています。

各組織の中で、全ての人が同じ関わり方をしなければならないとは思いません。関わることのできる幅や熱量は、その人自身のパーソナリティや地位によって変わります。一定のキャリアを積んでいる人の方が幅が広がると思いますし、新人だと会社のお客さんとのコミュニケーションが多くなるかもれしれません。ただ、どんな立場の人に対しても、適切なコミュニケーションによって「自分がやった仕事なんだ」という実感を手渡せる人が周囲にいることが鍵になります。

コミュニケーションの中で、仕事の手触り感を得る仕組みがある会社。そんな会社が増えることや、個人が貢献を実感できる複数の組織に属することが大切だと思います。

--鈴木さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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河西コメント

経営が高度化し、社員個々人の職務が細分化されていくと、人事評価においては、より短期的な実績数値が求められやすくなるでしょうが、それが貢献実感を得にくくさせてしまうというお考えにはとても説得力がありました。個々人の目標数値から、それらを追い求める意義が抜け落ちてしまうのでしょう。

評価・報酬による外的動機づけと、貢献実感・やりがいによる内的動機づけのベクトルをなるべく近づけていくことがよりよい会社組織運営に求められるのでしょうが、会社と個人の動機を完全一致させるのには無理があります。そこで、多孔化した社会をうまく活かしつつ、個々人が複数のコミュニティに属することを前提として、組織と個人の関係性を改めて考えていくべきなのだと理解しました。

そう考えると、近年話題に挙がっている、「No Rating」や「働き方自由化」、「ホラクラシー経営」、「Teal型組織」などの考え方が一貫した文脈で捉えられるのではないでしょうか。いろいろと気づきを頂いたインタビューでした。鈴木先生、ありがとうございました!

 

執筆者:河西遼
2013年、東大を卒業し新卒でネットプロテクションズに入社。
入社後は新規事業として「NP後払いair」の立ち上げ責任者を経て、自ら異動希望を出し、現職の人事企画に至っている。内に秘めた知的好奇心を追求し、「人の感情のメカニズムや、最大幸福のための社会設計」について日々考えを巡らしている。
今後は会社のミッションと個人の幸せの両立を模索しながら、会社組織の新しい「アタリマエ」を実現していきたいと考えている。
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