2019年8月、NPがリリースした「あと値決め」。顧客がサービスを体験した後に金額を決めて支払うことができるという、いわゆるポストプライシングを実現する仕組みです。「価値と、価格を、ぴったんこ」というコンセプトを掲げ、サービスを作り上げたのは入社4年目の専光建志。どのような想いでローンチまで奔走し、そして今後の展開をどのように考えているのか。「あと値決め」が生み出された裏側をインタビューしました。

専光 建志(せんこう たけし)

2016年新卒でNPに入社。コンシューマーマーケティンググループにてNP後払いの会員向け販促施策の企画・実行を担当。また新卒研修を担当するなど、幅広い領域で活躍。

新たなサービスの価値指標になり得る仕組み

このたびリリースした「あと値決め」は、サービス体験後に顧客が金額を決定し、支払うことができる決済システムです。家事代行やヘアサロンなど事前に質がわからないようなサービスや、エンタメなど人によって感じる価値が異なるようなものに、とてもフィットするシステムだと感じています。
詳しくはこちら:https://pricing.netprotections.com/

単純に値段だけを決めるのではなく、どの部分に満足感を持ち、どの部分に不満があったのかをアンケート的に回答することで値付けをしていく形式を取り入れました。たとえばレストランで食事をした時にも、ただ金額を決めるだけなら「うーん、まあまあ美味しかったから3000円」のような決め方では何も意味はありません。それは適切な価値に基づく価格設定ではない。

企業ごとに項目を指定できるアンケート形式にすることで、「接客はどうだったかな?」「味は?」「清潔感は?」と思い出しながら値付けしていきます。それにより店舗側も、どの部分が評価されているのか明確に理解することができるのです。買い手は価値を評価して売り手に伝える。売り手はその評価を受け止め、サービスとしてより良いものにしていく。このような流れができることからも、個人的にはこのシステムを「売り手と買い手の関係構築ツール」だと捉えています。

また、他の利用者がつけた値段も見ることができます。実際にいくら払ったかというのは、ある意味レビューサイトの口コミよりも高く信頼できる、そのサービスの価値指標となると考えています。

このような設計も「価値と、価格を、ぴったんこ」というコンセプトを最大限体現するために考え抜いて作った仕様です。

何よりも体験設計が肝になってくるため、いくつかのパターン検証を行いました。国内にも海外にもプラットフォームとして展開している事業はほとんど存在せず、転用できる例がない中でテストをしながら全体設計に吸い上げていく行為は、思わず病みつきになってしまうような面白さがありました。

設計する過程で、あるコンサル会社から「ユーザーからの価格申請してもらえる確率が期待できないのでは?入力がない場合は高額で請求が飛ぶようにするべきでは?」という意見もありましたが、その提案は採用しませんでした。

その方法を採用すると売上の向上には繋がるかもしれませんが、そもそものサービスで提供したかった価値を大きく棄損する可能性が高いと感じ、入力がない場合は最低価格での請求とすると意思決定しました。

ネガティブな強制性や恣意性が存在してしまった時点で本音を基づいた回答は得られませんし、感動を与えられるサービスやイベントであれば、伝え方さえ工夫すれば、ユーザーの行動を喚起できる確信もありました。

実際にリリース後の入力完了率は全体平均約90%を達成しており、質の高いサービスはユーザーからの信用や協力が集まると改めて実感しています。こういったような意志と意図を持ってサービスを作っていく体験は事業会社だからこそ味わえる醍醐味だと感じています。

結果を出せない経験から生み出された「あと値決め」

「あと値決め」を立ち上げたきっかけは、「NP後払い」の加盟店様に対して販促の企画を担当していた頃に、一般的なマーケティング行為への違和感と限界を感じたことです。

家事代行などのライフスタイルを変えるようなサービスにおいて、アンケートでは利用してみたいと思っている方が多数いて、実際にwebサイトへ足を運ぶ方も多くいらっしゃいます。しかも利用された方の満足度は非常に高くリピート率も高い。

その一方でサービスサイトへ訪れても99%は使わない。理由は「なんとなく不安」「後悔したくない」というネガティブな気持ちが先行してしまう傾向が存在しています。その不安を1mmでも減らすために言葉を変えたりページデザインを工夫してみたりすることに多くのマーケターが膨大な時間を費やしている事実に、強い違和感を覚えました。

そもそもwebサイトや説明をもってしてサービス価値を信用してもらうという「構造自体に限界がある」と感じると同時に、この入り口のハードルさえ取り除いてしまえれば、双方ともにハッピーになれるんだと理解しました。

入り口がハードルならば、サービス価値とユーザを信じて体験してもらった上での値決めと支払いを可能にできれば、ユーザーは躊躇なく利用できるし、サービス品質が確かな加盟店様にとっても期待した金額を下回らずに受け取れるのではないか。そしてこの仕組みは、これまで20年近く「NP後払い」というサービスを運営してきたNPだからこそできるのではないかと感じ、実現に向けて動き始めました。

フラットに仲間が増えて、背中を押してくれる環境

「あと値決め」の構想開始以降、社内で色々なメンバーに壁打ちをして、アイディアをブラッシュアップしていきました。

一般的な新規事業立ち上げは、まずメンバーを決めて走り出すのだと思いますが、「あと値決め」の場合は少し異なっていました。RPGゲームみたいにいろんな人に話したり相談したりしていくうちに、気づけばPR、営業、運用、CS、開発、デザインの仲間が出来ていきました。

自分自身は色々な業務をかじってきているものの、マーケティングが少しできるくらいだったので、「こんなことをやろうと考えていて…..どうです、面白くないですか?」というのをフランクに話して見て、色んな人の知恵を集めていました。

少しずつビジョンや形をクリアにしながら、社外でも共感してくださる方も増えていき、少しずつお願いを重ねていった結果、リリースにたどり着いたという感覚です。外部パートナーの方々やNP内部で働いている様々な方達からも多くの協力をいただきました。

「やれ」と言われたからではなく、共感をベースとして事業が前に進んでいく感覚があり貴重な体験となりました。振り返ってみるとトップダウンで始まっている動きではなく、ボトムアップから経営戦略自体に組み込みにいく取り組みだからこそこういった流れとなっていたのかなと思います。

「NPってすごいな」と個人的に感じているところは、まだ事業を作った経験もない新卒4年目の社員に、「一番この課題について考えてる専光のアイディアをベースにしていいと思う」と全プロセスの取り仕切りを任せてくれ、そして応援してくれたことです。(自分が社長だったらもうちょっと口出したくなっちゃうだろうな~と思います。笑)

ただ、こういった方針は単純な優しさや人柄のみから生まれているわけではないと考えています。

会社として「NP後払い」の成功体験から、プロダクトアウトのサービスが価値を生む可能性を信じられるんだと思います。NP後払いも、当初は「こんなサービス成功するはずがない」と言われ続けたものを愚直に運営しブラッシュアップし続けた結果、現在では累計1億件を超えるほど利用されるサービスになったので、意義や価値があるのであれば突き詰めるという考えが組織全体へ染み渡っていると感じてます。

会社として「あと値決め」のようなチャレンジは背中を押してくれる風土でもあるので、セクショナリズムを感じることなく、良いものをみんなで作り上げて世に出そう!という想いを共有しながら進められました。アイディアの種を育て市場に向けてトライできるところまで早いスピードでたどり着けたのはこのような環境が大きかったと思います。

実際ローンチ時の記者発表では、きっかけとなった家事代行を提供されているベアーズ様を含め多くのサービスへの導入を発表することができましたし、メディアでも多数掲載いただきました。

世の中に注目される仕組みを作れたのだという感慨深さとともに、どのように使われるのか楽しみな気持ちがあります。

想像していなかった領域の課題すらも解決できる可能性を秘めた仕組み

「あと値決め」は売上拡大の速度にそこまでこだわっていません。売上を急激に一時的に伸ばすことができたとしても、案外残るモノがないと考えています。導入されることや売上が立つことはゴールではないので、根深い課題を抱えている事業者の成長に寄与できるようなサービスとなることを大事にしたいと考えています。

導入いただいた事業者さんを成功に導けるように向き合い、その先にサービスのスケールや拡販という流れがあるのだと考えています。

「あと値決め」は価格を通じた適切な評価という面だけではなく、応援という側面も価格にして乗せられるので、広い意味でのインディーズ、人のクリエイティビティによって作り上げているものがとてもフィットすると考えています。たとえばライブやコンサートにしても「もっと応援したい」という気持ちをグッズ購入などに費やしていたかもしれませんが、純粋にチケット価格という公演そのものの価格に乗せることができるというのは、ファンとしても嬉しいはずです。また、それを見た方が「こんなにも応援されているなんて、どんなものなんだろう」と気になって、新たなファンを呼ぶというサイクルも回ります。

そんなイメージを持ちつつも、一方で自分でもどんなサービスに対して価値を生み出すか未知数な部分もあります。現状導入を検討いただいている事業者様の半分以上は、理念に共感いただいた方からの紹介や直接お問い合わせいただくケースなんです。そのサービスを伺うと自分では想定しきれなかったものも多くあります。

2019年11月に株式会社よりそう様が展開されている、葬儀屋法事にお坊さんを手配する「お坊さん便」に導入いただきました。お坊さんへのお心づけを後から値決めする「おきもち後払い」という形で提供を開始させていただいていますが、そもそも葬儀の流れやお金のやり取りに関しての知見が一切なかったですし、そこに課題があるということすら認識していませんでした。

このような形で、僕自身が認知していないニーズがかなりあるのではないかと思っています。ですので、色々な方を巻き込んで、コアとなる提供価値は保ちつつどんどん形を変えながら、より良い仕組みにしていければと思います。

推進体制はリリース後のリアクションも見えてきたため短期のプロジェクトとしての位置づけから、誰でもリソースの20%を使えるワーキンググループという形態へ変化しました。特に異動とかの必要もなく、興味や関心のあるメンバーが関われる体制なので、これまで以上に柔軟かつ多くのメンバーを巻き込みながら事業を進められるのではないかと思います。

こういった体制への変更をした背景としては、新規事業推進という経験を誰でも手を伸ばせるようにしたいという想いに加え、加盟店さんの業界自体にWILLのあるメンバーが一緒に推進した方がパワーが高まるし楽しいと考えるためです。

エンタメ業界、スポーツ業界、新サービスを生み出すベンチャー企業など様々な領域との接触が始まっていますが、その業界が大好きなメンバーには僕がどれだけ情報を集めても追いつけないですから。

面白いフェーズに突入する事業をともにつくる仲間を

これから予想できない、面白いフェーズに突入すると思います。様々な視点を持った方と一緒に「あと値決め」を育てていきたいです。

あと値決めもNPも「面白くて意義がある」と自信を持って言えるので、興味がある方とはまずはお茶して話してみたいです。お気軽にTwitterでDMください!
https://twitter.com/swenko_

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