会社は「人が幸せに生きるサポート」をする存在。自己実現のための安心安全の場づくりとは。_ピョートル・フェリクス・グジバチさんインタビュー

執筆者: 藤野荘子
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会社は「人が幸せに生きるサポート」をする存在。自己実現のための安心安全の場づくりとは。_ピョートル・フェリクス・グジバチさんインタビュー

執筆者: 藤野荘子

私たちは何のために働くのか
より多くの人々が幸せになる社会とはどのようなものか

私、藤野荘子は企業経営者や研究者の方々にお話をお伺いし、
資本主義の中で幸せに働く方法やその可能性について、
ThinkAboutを通して発信しています。

連載の背景はこちら
“働く”について考える 今の時代における労働の意義とは

連載第2回は『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』の著者であるピョートル・フェリクス・グジバチさんのインタビューをお届けします。前編では、ピョートルさんご自身のミッションや働く意味についてお話を伺いました。

ピョートル・フェリクス・グジバチさんプロフィール
プロノイアグループ 株式会社/モティファイ株式会社 代表取締役ポーランド出身。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。グーグルやモルガン・スタンレーなどで人材開発や組織開発、リーダーシップなどに携わる。現在は、プロノイア・グループ株式会社にて国内外の企業に戦略コンサルやイノベーションを、モティファイ株式会社にて新しい働き方と良い会社作りを支援するソフトの提供を、それぞれ行なっている。著書に『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』『0秒リーダーシップ』がある。

自己表現の先にある自己実現

ーー本日はよろしくお願いします。ピョートルさんは、講演会や著書などで「仕事は他者に何らかの価値を提供するもの。自分なりのミッションを持たなければならない」といったお話をされているかと思いますが、まずはご自身のミッションをお聞かせください。

私のミッションは「誰でも自己実現できる世界を作ること」です。ベンチャー企業の経営や人事コンサルティングなど様々な仕事をしていますが、自分の本質は「自己実現」という言葉に集約すると考えています。
人事コンサルティングの仕事をするときも、クライアント企業のためではなく、「働く個人の自己実現を後押しする」という意識で働いています。個人が活躍できる環境を整えれば、結果として会社の生産性も高まります。そのため、クライアントからの「社員の意識を変えてほしい」という依頼に対しては、会社都合のために個人を変えようとするのでなく、個人が活躍できる環境を作るために会社が変わらなければならないと話すところからスタートします。個人が自己実現するためには、まず「自己表現」が大切だと考えています。表現するためには、「自分にもできるかもしれない」という自身も必要になります。自分なりに表現したことが社会に貢献して、周りの人たちから感謝される。それが自己実現の瞬間だと思います。

 

ーー自己実現と聞くと、一人で完結するようにも感じますが、そうではなく、他者との関係の中で自分を実現していくということなんですね。ピョートルさんが「自己実現」というテーマを掲げる背景には、どのような想いがあるのでしょうか?

私は、人の力やポテンシャルを最大限にいかしたいと思っています。例えば、ものづくりやプログラミング、アートに文章と、誰でも得意なことや自分なりに表現できることがあると思うんですよね。それが表現されないのは、社会としてリソースの無駄遣い。だから、みんなが力を発揮できるような世界にしたい。

それに、これからの時代、仕事で自己実現できる人が「新しいエリート」になると考えています。一昔前の社会においては、偏差値の高い大学に入って、大きな組織に入って出世することがエリートの条件だったと思います。高度成長期、就けるポストが増えていた時代は良かったかもしれませんが、その数は既に頭打ちになっています。これからは肩書や所属よりも、どのような価値観やミッションで動いているかの方が大切になる時代です。依然として世の中に蔓延っている「いい大学に入っていい会社に入ったから自分はエリートだ」という思い込みや、「大企業で出世コースに乗れなかったら人生が終わる」という思い込みを壊すため、様々なカタチで発信したいと考えています。

生きていればいつでもチャンスがある。そのチャンスを掴むためには、やりたいことや自分のパッションを認識して、それに沿ったキャリアを組むことが大切だと思います。そのパッションは10年続くものかもしれませんし、もしかしたら翌年には変わっているものかもしれません。でも仕事にパッションが伴っていなければ、いきいきと働くことはできないと思います。

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会社は人が幸せに生きることをサポートする存在

ーーいきいきと働くためにも、自分のパッションをちゃんと理解することが大切だということですね。そもそもピョートルさんは「働く」ということは、人間の営みとしてどんな意味があると考えているのでしょうか?

その話をするために、まずは私の生い立ちを簡単に説明します。私はポーランド出身です。冷戦の真っ只中、共産主義国家で生まれました。共産主義体制下においては、全ての人が平等に扱われます。仕事でいくら頑張っても給料は変わりませんが、お店に商品が並んでいなくても誰にでも仕事があるような状況でした。しかし、中学生の頃に共産主義体制が終わり、資本主義の考え方が入ってきました。その一つに、コーポレートリストラクチャリング(企業の再構築)というものがありました。地域の会社に側諸国の企業が資本家として入り、企業を再構築する考え方です。

企業の再構築と言えば聞こえはいいのですが、地域社会に深刻な問題をもたらすことも多くあります。例えば、5000人ほどの町で1000人くらいを雇用しているようないわゆる家族経営の地元密着企業は、利益率はそこまで高くないけど、何十年も継続してその町の生活を支えているような会社です。そんな会社に対して、資本家が新しい社長を呼び、経営の立て直しを始めるんです。家族経営なので、経営的に甘い部分はあります。効率化のために人を減らしたり、場合によっては事業売却をして会社を潰してしまうケースもあります。

小さい町で、一定の雇用を支える会社がなくなったら、大変なことになるのは容易に想像できますよね。アメリカのデトロイトなどでそういった事態が進み、今の社会問題を生んでいますが、私が子どもの頃にポーランドでも同じようなことが起きたんです。国の持っていた会社は、再構築という名のもとにどんどん潰されました。

田舎町なので、他に仕事はありません。失業者が町中に溢れ、私の二人の兄も仕事を失いました。その結果、残念ながら一人はアルコール中毒になり亡くなりました。共産主義は意味がないことはわかります。だけど、資本主義もそんなにかっこいいものではないし、全てが正しいとは思えません。会社というものは、第一に人の命をサポートする存在であるべきなのに、資本家や経営者が会社で働く人の人生を考えないのはおかしいじゃないですか。働く人も、自分の夢や家族を犠牲にして、会社の中で奴隷のように時間を費やすのはもったいないことです。

そもそも、会社というのは、人が幸せに生きることをサポートする存在だと思うんです。そういう考え方を、世の中に広めたい。僕の亡くなった兄は、体制が変わり世界が変わってしまったら、人生には意味がないと考えていたんですね。僕は逆に、世界が変わって新しい波が来るなら、その波にうまく乗るためにはどんな立ち方をすれば良いのか考えていました。そういう、少しの違いで人生は大きく変わるもの。だから、多くの人に働く意味や、会社が存在する意義を問いかけ続けているんです。

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部下の背中を押すのが上司の役割

ーー会社は人を幸せに生きることをサポートする存在、言い換えると「個人の自己実現を後押しする場所」だと思いますが、世の中には自分のやりたいことが定まっていない人もたくさんいると思います。ミッションが定まってない個人に対して、会社はどんなサポートをできるのでしょうか?

一番シンプルなのは、マネージャーが引き出してあげることだと思います。マネージャーの役割って、上に立ってあれこれと命令するのではなく、チームメンバーの背中を押すことだと思うんです。だから、育成も大切な仕事。心理的に安心安全な場を作り、褒めたり、コーチングすることが求められます。良い質問をして、メンバーが本当に求めていることを引き出す。世界に何をもたらしたいのか、夢は何か、そういう会話をすることでしか、ミッションは見つけられないと思います。

逆に、ミッションがあっても、社内で話せない会社もたくさんあります。仕事に直結する話ではないからです。残念ながら、個人の夢や目標を語ってはダメだという仕事環境が存在します。だから、まずは心理的安全性を作り、夢やミッションを話せる状況をつくることが重要です。
そして、個人がやりたいことが分かったら、その会社の仕事とつながるような建設的な会話をすることが大切です。目の前の仕事と、個人の価値観やミッションをいかにつなげるかはマネージャーの役割です。本人のやりたいこと、価値観、大切にしていること、正しいと思っている信念などをうまく引き出して、それを日常業務とつなげる編集者みたいなものですね。

心理的安全性があり、自己実現できる場所を

ーー個人の価値観を掘り下げていくことと、会社の仕事と結びつけること。それを社会の価値につなげるというのが、会社やマネージャーに求められることなんですね。何度か「心理的安全性のある場作り」というキーワードが出ていますが、具体的にはどんなことが必要なのでしょうか?

まず、社員同士の感情のレベルの葛藤をなくすというのが大事です。なんでも言っていいという感覚を持ってもらう。失敗しても、笑いながら注意し合える環境が理想です。あとは、プライベートな話をすることも大切だと思います。会社って仕事以外の話をしてはいけないと思われがちですよね。スーツを着て、デスクに向き合って、休まずに働くのが当たり前。隣の人のプライベートの話も聞かないし、自分のプライベートも話さない。趣味や自分の好きなことは職場の誰も知らない。そんな関係だと、いろんなサインを見逃してしまいますし、お互いにどこで悩みや課題があるかを聞き出せません。それって、すごく不自然な環境だと思うんです。

“普通の会社”っていうのはすごく不自然なので、ある意味では真逆すればいい。最初に時間をかけて心理的に安全な場を作れば、そのあとはすごく楽です。仕事を頼むのも、評価を伝えるのも楽。私がGoogleにいた頃の上司との1on1でも、各プロジェクトの進捗だけでなく、プライベートな話もアジェンダに入っていました。

心理的安全性のある場を作っておけば、仕事のパフォーマンスも高まります。結局、働きやすい場にいると、人としても落ち着きますし、人間関係も良くなる。仕事で自己実現しているから、家に戻ってからも家族にポジティブな影響を与えられるようになる。逆に会社が1日中自己実現できない環境であれば気持ちは落ち込んでしまい、家に戻ってもマイナスな感情で悪循環がうまれる。だから、まずは働きやすい職場作りというのは会社の大事な役割だと思います。会社を自己実現する場所にする。そのために、私はこれからも働きます。

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以下藤野コメント

「中動態」という言葉がありますが、人間の意思を自分が真っさらな状態で考えたものとしたときに、そのようなものはこの世に存在せず、必ず他の環境から影響を受けているという考え方です。インタビュー中にもお話がありましたが、社会は人が網の目のようにつながって出来ていて、仕事で疲れていると家族や恋人、友人に八つ当たりをしてしまう等、仕事以外の他のコミュニティにも影響が及ぼします。会社から受ける影響が大きくなっている現代だからこそ、会社で作った幸せを他にも派生させてるような人が増え、活き活きとした社会になって欲しいと思いました。

執筆者:藤野荘子
2016年にネットプロテクションズに入社。
発展途上国の開発について勉強するために立命館アジア太平洋大学に入学。
在学中に1年間バングラデシュのグラミン銀行グループでインターンシップを経験。
現地で「労働のあり方」に疑問を持ち、帰国後、労働社会学を中心に研究。
現在はビジネスとして利益を得ながら幸せに働くためにはどうすればいいか
自分の人生を通して実験中。
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