リモートワークで組織は機能するの? 全社員がリモートワークのキャスター×リアルでのコミュニケーション重視のロフトワークの代表同士が対談

執筆者: 友清哲
写真=小野奈那子
写真=小野奈那子

リモートワークで組織は機能するの? 全社員がリモートワークのキャスター×リアルでのコミュニケーション重視のロフトワークの代表同士が対談

執筆者: 友清哲

インターネットを介して、勤務地の制約なく働くリモートワーク。昨今の働き方改革の流れに乗って、日増しに注目度を増しているこの仕事スタイルは、すでにいくつかの企業で導入が進められています。

スタッフ同士が顔を合わせることなく、すべてを遠隔でこなすこのスタイルには、どのようなメリットがあるのか。また逆に、コミュニケーションや実務の面で、何か不都合はないのでしょうか。

そこで、すべての社員がリモートワークで働くキャスターの中川祥太さんと、あえてリモートワークを導入せずリアルでのコミュニティ作りを重視するロフトワークの諏訪光洋さん、2人の経営者にご登場願い、リモートワークの可能性と組織の今後について語り合っていただきました。

 

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中川祥太さん
株式会社キャスター代表取締役。2012年にイー・ガーディアン社の新規事業を担当する中でクラウドソーシングと出合い、その可能性を感じて2014年にキャスター設立。オンラインアシスタントサービス「CasterBiz(キャスタービズ)」のサービス運営などを手掛ける。

 

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諏訪光洋さん
株式会社ロフトワーク共同創業者、代表取締役社長。クリエイティブの新しい形の流通を目指し、2000年に同社を設立。2万5000人が登録するクリエイターネットワークや世界10カ所に展開するFabCafeを核に、新しいクリエイティブサービスを提供。ウェブプラットフォームの有効活用をテーマにしたセミナーや講演、執筆活動も精力的に行う。

バックオフィスの外注は、10年前には考えられなかった

諏訪さん:ロフトワークは「クリエイティブの流通」を目的に立ち上げた会社で、今年で17年目になります。当時まず必要になったのがクリエイターたちのデータベースで、オンラインにコミュニティを作りました。今でいうところのクラウドソーシングで取引を進めたわけです。しかし、当初はその仕組みがまだ受け入れられなかったのか、トラブルが多くありました。システムも未発達でしたしね。

中川さん:弊社はまだ4年目の若い会社なので、設立当初の背景はだいぶ異なりますが、諏訪さんのおっしゃるトラブルというのが興味深いです。どんなことがあったんですか?

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諏訪さん:ちょっとした言い争いや食い違いなどですね。当時はそもそも顔も知らない相手に仕事を発注する文化自体が根付いていなかったので、何かと揉めごとが起こりやすかったんですよ。また、とくにウェブ制作の案件では、クリエイターとクライアントの間に、知識や言語の面で大きな隔たりがありました。

中川さん:確かに共通言語に乏しいと、仕事を進めづらいでしょうね。

諏訪さん:ちなみに現在の社員数は100名ほどですが、この中にクリエイターは1人もいないんです。社員の大半がプロジェクトマネージャーで、クリエイティブについては今もクラウドソーシングに特化しています。ならば社員もリモートで、という発想にならないのは、現状の組織形態ではむしろ非効率だろうとの判断によるものです。

中川さん:こういうのは業態によりますよね。弊社の場合は、僕が1人で起業した頃からリモートワークを取り入れています。

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諏訪さん:今、スタッフの方は何人くらいいらっしゃるんですか?

中川さん:現在は250名ほどですね。まれにオフィスで作業をしたがる人もいますが、基本的には全員リモートワークが前提です。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれるスタイルで、おもにバックオフィス系の業務を受注し、その実務にあたる社員が全国に点在しています。

諏訪さん:それはすごい。250名、すべて正社員ですか?

中川さん:いえ、正社員や契約社員、業務委託など、さまざまな関わり方のスタッフがいます。ただ、業務委託の方が中心にはならないようにしていますね。どうしても定着率が悪くなりますし、何よりこちらとしても人材の能力値が測りにくくなりますから。もちろん、そうなると育成に時間とコストが必要になる側面もありますが。

諏訪さん:極端な話、家のパソコンの前で、3カ月何もやっていなくても固定給が支払われ続けるような人もいるんですか?

中川さん:いえ、それはさすがにないです。BPOの世界では、たとえばものすごく高いスキルを持っている人材に対し、それに見合う案件がないということはまず起こりませんから。だから経営側としては、一定レベル以上の能力を持つ人材をプールすることが重要です。

諏訪さん:時代に合わせて、会社の作り方も随分変わってきましたよね。10年前には、バックオフィスの業務をすべて外注するなんて、とても考えられなかったように思います。

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リモートワークの導入は、組織の業態に左右される

中川さん:こういう業態で会社を運営していると、やはりリモートワークのデメリットについて聞かれることが多いのですが、僕は問題点を問題点として捉えるべきではないと考えているんです。何事も有利不利は付きものですから、業態によって少しでも有利なほうを選べばいいというか。

諏訪さん:中川さんはリモートワークのメリットをどのようなところに感じますか?

中川さん:採用面でしょうね。都内近郊だけでプロジェクトマネージャーを100人採用するのは本来大変なことですし、相当な求人コストもかかります。しかし、リモートワークの場合は居住地を問わないので、全国に求人がかけられるのは大きな利点です。コストもほとんどゼロに等しいですね。

諏訪さん:なるほど、うちもクリエイターに関しては同様なので、頷ける部分はあります。

中川さん:逆にうちの業態だと、ロフトワークさんのような活気のあるコミュニケーションスペースは、取り入れたくても取り入れようがないんですよ(笑)。

ロフトワークのプロジェクトルーム。話し合った内容を付せんではり、プロジェクトが終わるまで残しておく
ロフトワークのプロジェクトルーム。話し合った内容を付せんではり、プロジェクトが終わるまで残しておく

諏訪さん:そうですよね。そもそもの組織とビジネスのデザインの仕方が、まったく異なっていますから。ロフトワークの場合、以前はクリエイターとのトランザクションをどれだけ増やせるかを重視していましたが、10年ほど前から「デザイン思考」の考え方が注目されるようになると、プロジェクトごとにクライアントと一緒に企業の未来を共に考えていこうというスタンスに変化してきました。そうなると必然的に、複数の才能を一箇所に集めなければ、効率的に解を導き出せないことに気付かされたんです。

中川さん:つまり、大勢の人が顔を合わせる場が、有効に機能するわけですよね。僕は対照的に、週に2~3度ほど、気分によってオフィスに顔を出す程度です。もう、経営者が前線で営業すればいいという時代でもないですから、このスタイルで十分に経営が成り立つんです。

諏訪さん:そうですね。経営者というのはやるべきことが膨大にありますが、それをすべて過不足なくこなせるような人はほとんどいません。だから皆さんきっと、それぞれ自分の得意な部分だけをやって、あとは人にお任せしているはず。僕も出張が多いので、あまりオフィスにはいませんから。ただ、経営者があまりぶらぶらしていると、社員の元気がなくなってきてしまうので、気をつけなければいけません(笑)。

中川さん:ああ、それはわかる気がしますね。

諏訪さん:どこで何をやっているかわからないと不審感が募りますし、何より会社としてのビジョンが共有できないですからね。

中川さん:そうなんですよね。うちも最初の頃は、僕の姿が見えないことに、一部の社員に疑心暗鬼が生まれた時期がありました。

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諏訪さん:それは、どうやって解決したんですか?

中川さん:もう開き直って、あえて解決しないことにしました(笑)。僕がどこで何をやっているか細かく共有していない代わりに、皆さんの勤務状態も細かくチェックしてないでしょ、と。リモートワークでやる以上、その状態が肌に合わないのであれば、その人が続かなくても仕方がないですから。

諏訪さん:なるほど(笑)。世間的には、リモートワークのほうが生産性は上がるという意見と、逆に下がるという意見がありますよね。おそらくはどちらも正しいと思うのですが、問題はどちらの意見にも大きなバイアスがかかっていることです。リモートワーク推進派には、この仕事スタイルを推し進める強いモチベーションがあるので、ポジティブな面ばかりを切り取りがちですし、逆もまた然り。結局、組織の作り方に合わせて、選択肢としてどちらも持っていればいいということなんですよね。

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働き方の多様化が組織のあり方にもたらす変化とは

中川さん:キャスターでは今後も引き続き、1000人、2000人と社員数を増やしていくつもりなんです。それが可能な業態だと思っていますし。

諏訪さん:将来、部分的にでもAIなどの導入は考えていますか?

中川さん:はい。RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)と呼ばれる、ロボットによる業務の自動化は、時期が来れば取り入れるつもりです。まだまだAIが完全に人間に取って代わることはないでしょうが、部分的に効率化を図ることは可能だと思います。

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諏訪さん:弊社はもともとコミュニティからスタートした業態なので、これをどう拡大し、いかにつなげていくかが1つの課題。運営している「FabCafe」は今、世界に10店舗あるのですが、今後これをどうやって生かすのかを考えていかなければなりません。

中川さん:そうした強いコミュニティを中心に組織が組み直されるようなことは、今後さまざまな分野で行なわれていくでしょうね。会社というのは、とてもよくできた仕組みだと思うんです。経営と労働の分離が明確で、特殊な法律に則ったコントロールしやすい組織です。その中に存在するコミュニティが経営にどう作用するかという構図は、今後も変わらないでしょう。

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諏訪さん:好む形態というのは人それぞれで、たとえば1人で黙々とやりたい人もいれば、皆で助け合いたい人もいる。今後はそれぞれが望む形態を選択しやすい環境が、いっそう広がっていくのではないかと思います。結局、会社という組織にしても、その経営者がやりたいことを実現するのに、1人ではできないから集められたものですからね。

中川さん:そうですね。これが昭和の高度成長期の時代であれば、1人の突出したカリスマ経営者の理念の下に、賛同する大勢の人々が集まり、全員が同じ方向へ向かっていくような大企業が生まれたわけですけど、今後はもう、そういう企業は現れないと思います。

諏訪さん:働き方の多様化によって、選択の自由が広がりつつありますからね。リモートワークも有効なその1つの形。今後ますます、求める目的に合ったスタイルを、一人ひとりが考えて選べる時代になっていくのでしょうね。

(取材・文:友清哲 編集:南澤悠佳/ノオト)

執筆者:友清哲
1974年、神奈川県出身。フリーライター&編集者。1999年よりフリーランスで活動。雑誌、Webで精力的にインタビュー、執筆を行う。『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)など著作も多数。
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