就活で「やりたいこと」ってどうしても必要なの? 常見陽平さんに聞いてきた

執筆者: 玉城麦野

就活で「やりたいこと」ってどうしても必要なの? 常見陽平さんに聞いてきた

執筆者: 玉城麦野

2019年度に卒業予定の大学生の就職活動が本格的にスタートしました。会社説明会が始まり、エントリーシートの締め切りもあと少し。これから面接の準備も必要になるでしょう。

採用担当として、学生の話を聞いていると「やりたいことが見つからなくて困っている」という学生によく出会います。裏を返すと、就活のタイミングで「やりたいことを見つけなきゃ!」と思っている学生が多いのかもしれません。

「広告事業に興味がある」「新規事業を取り組んでみたい」など、具体的に主張する学生もいるものの、深掘りをしていくと、実は本人の想いとはあまり合致していないことも。学生側の問題なのか、企業側の採用手法が問題なのか、社会構造の問題なのか、一体何が原因なのでしょうか。

今回は働き方評論家の常見陽平さんに、新卒採用担当者の玉城がその疑問をぶつけてきました。

「やりたいこと」を見つける必要はない

玉城麦野(以下 玉城):本日はよろしくお願いします。私が採用を担当していて感じるのは、学生が「やりたいこと」を無理につくっているんじゃないかということなんです。面接で質問されるし、とりあえず用意しておくか、と。

常見陽平さん(以下 常見):まだ仕事をしていないから、入社前から企業内での具体的な「やりたいこと」って厳密にはわかんないですよね。いくら調べても。さらに、メンバーシップ型雇用の日本の企業社会においては、配属が約束されるわけではないですし。入社してから、「自分はコレに向いているんだ」というのが、だんだんと見えてくる。

玉城:常見さんは「やりたいこと」に悩む学生と出会うことはありますか?

常見:はい。大学で教員をしていますが、確かに「やりたいことが見つからない」と悩む学生は少なくないです。でも、無理して「やりたいこと」を見つける必要はないですよね。「誰と」「どうやるか」「どこに所属したいか」「どう働きたいか」を考えた方がいいと思う。「こんな生き方はしたくない」「これは嫌だ」など、ネガティブな願望や消去法でも問題ないと思います。

それに、言ってしまえば「やりたいこと」が見つかったところで、それを達成できるのか、自分に適性があるのか、自分が行う意味はあるのか、ということもわからないですから。リアルな現場のことを知らないから、独りよがりな考えになっている可能性もある。となると、結局はやりたいことより、頼まれることのほうが、価値があるのではないかと感じますね。

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玉城:学生さんは「やりたいことを見つけなきゃいけない」という前提で考えていることが多く、私としては「本当にやりたいの?」と、疑問に思うんです。

常見:確かに。やりたいことがないとダメなんじゃないか、かっこ悪いんじゃないか、という風潮がありますよね。私が進路の相談を受けるときに大切にするのは「あんた、本当はやりたいことがないんでしょ」とズバッと言うのではなく、とにかく学生の話をよく聞くこと。自分に素直になることで「本当はやりたいことがないのかも」と気づく学生もいます。玉城さんが言うように、無理に自分をつくる必要はないですよね。あとは、もし「やりたいこと」があっても、新卒で入社した会社ですぐに叶えなくてもいい。「いつやるの? いまじゃないでしょ」と。

玉城:(笑)。受験勉強とは違うんだと。

常見:受験のようにシーズンが過ぎてしまうものは「いまやる」必要があるけど、やりたいことに関しては、いまが適切ではないこともある。むしろ少し年を重ねてからのほうが、力もついているし、自由な時間があって、お金もかけられるかもしれないですよね。いまがそのタイミングなのか、ということを就職の際にも疑う目をもってほしいです。

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玉城:「やりたいことがなかったんだ」と感じたら、その後はどのように進路を選ぶと良いでしょうか?

常見:たとえば、ストレスなく働きたいなら、その人が何を大事にするか、その会社と肌が合うかが大事です。極端にいえばサークルを決めるのと一緒。テニサーといえば、まじめにテニスを頑張るところと、飲み会ばかりでラケットすら持たないところがあるでしょう(笑)。でも、これらは「どこがダメ」というわけじゃないよね。

その会社が目指しているものと現場を見て、「ここだったら自分に合いそうだな」というのを軸にすればいいと思うよ。それでも迷うようなら、入ってからの選択肢が多い企業に行くのがベスト。あとはどんな経験が手に入るのかということ。転職するときに役立ちそうな経験なのかという目線でも構わないと思う。

玉城:なるほど。サークルを選ぶときって自然と「肌が合う」ことを大事にすると思うんです。でも、進路、となった途端に「やりたいこと」が出てくるのかなと。

常見:その通りですね。サークル選びに比べたら、就職活動はより人生に関わること、生活レベルに関わることだから変わってきます。

仕事には「ライフワーク(仕事とプライベートは分けず、自分の使命と思える仕事で働くこと)」「ライスワーク(生活のために、ごはんを食べていくために働くこと)」「ライクワーク(その仕事が好きで働くこと)」の3要素があります。これらのバランスをどう取るのかを考えるとき、何も仕事ですべてを満たす必要はありません。むしろ、仕事ですべてを補おうとすると、逃げ場がなくなることもある。仕事と適度な距離を置き、「所詮仕事」と割り切って働くのも、決して悪くない考え方です。

働き始めてからお金、時間分以上の価値を返そうと思い、すべての仕事に一生懸命になるのって、危険な面もありますから。仕事は集中するところと抜くところがあっていい。

玉城:そのバランス感覚を、就活の際に考えるのは難しいですよね。結局、一度就職をしないとわからないのかなと。「そういう考え方もある」と知っておくことが大事なのでしょうか。

常見:そうですね。働き始めてから「やりたいこと」が具体的にできるかもしれないですし、まずは「やりたいこと」にこだわらず、やれることを増やそうとして、そこから興味関心が広げていけばいいのではないでしょうか 。やりたいことって不確実ですし、変わり得るという前提をもった上で、向き合えるのが大事だと思いますよ。

企業は「やりたいこと」が聞けるくらい情報開示をしてる?

玉城:続いて企業側の目線でお伺いします。就職活動において「やりたいこと」を聞くのって、無意味なのでは、という気もするのですが。

常見:企業側が「なぜそれを聞くのか」と、質問意図を明確にしておけば「やりたいこと」を聞く意味はあると思います。「やりたいこと」というのも、会社のなかで配属を聞いているのか、ビジョンを聞いているのか、価値観を聞いているのか、目標設定能力を聞いているのか、同じことを聞いているようで聞く意図はさまざまですから。

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玉城:どういう文脈で質問するかによる、と。

常見:はい。最近では、恵方巻きやバレンタインで問題提起がありました。同じように面接の質問に限らず「そもそも何のためにその慣習、システムを取り入れているのか」と、採用担当者は常に考えたほうがいい。なかにはグダグダな因習もあるから。

たとえば、エントリーシートのフォーマットはどうしてそれを採用しているのか。「いや、社長がいいって言うから」というのだけど、社長すらその理由を忘れているということもある。面接の回数もそう。採用って学生を引き付ける要素も大事で。ある質問を通じて、「あ、この企業らしいな」と思ったりするでしょ。大学の入試問題と同じです。たとえば、東大では俯瞰した視点、深掘りする視点が求められる。なので、常に考えて、アップデートしていくのが一番ではないでしょうか。

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玉城:確かに形式だけを引き継ぐうちに、そもそもの目的を見失うことは、世の中のあらゆるところで発生していそうですね。常に考えてアップデートしていった結果、どこかのタイミングで「あ、この企業らしいな」と学生に思ってもらえたら、とてもうれしいです。ほかに企業側が学生に対してするべきだと思うことはありますか?

常見:「やりたいこと」を学生が伝えられるほど、企業側が情報を開示しているかどうかも重要です。たとえば、インターンシップが形だけの「仕事ごっこ」の場合もあるし、金融機関のような業界だと法律上仕事を見せられない、ということもある。

そうなると、実情がわからないから「やりたいこと」を学生が語るには限界がありますよね。会社のことを開示した上で、たとえば1年間しっかりと社内インターンをした上で「何をしたい?」と聞くのと、会社の情報を開示しないで「何をしたい?」と聞くのでは意味が全く変わりますから。

玉城:その通りだと思います。一方で、採用市場の構造自体が変わらないと、やっぱり学生さんは「内定」がほしいから企業側に忖度するような形で「やりたいこと」を伝えざるをえないのではないでしょうか。その構造を変えていくために、企業ができることは何でしょうか。

常見:これからは会社がもっともっと情報を開示して、その上で採用する人を選べばいいと思います。以前、ある企業では、面接で落ちたという学生から感謝状が届いたことがあると聞きました。「何度も会社の説明会をしてくれて、丁寧にこちらの質問に答えてもらった。全力で頑張ったが落ちたのは仕方ないので、ありがとうございました。面接を受けることで成長できました」と。素敵な話ですよね。

採用活動は企業が無料でやっているという側面もありますが、人事はそこで逃げずに、学生に誠実に向き合って「社会人もかっこいいんだぞ」というところを魅せてほしいですね。

玉城:企業も学生、お互いが誠実に向き合えるのが大切ですね 。

常見:学生と企業、お互いに化かし合いではなく、オープンに情報を交換できて、上手く向き合えるのが理想だよね 。

玉城:どうして採用するのか、何のために面接をするのか、その質問を投げる意図はあるのかなど、常に理由を考え、アップデートしていくことが求められていると、改めて気が引き締まりました。企業側も学生側もですが、入社後に双方が幸せになるためにも、お互いが誠実に向き合うことが一番ですね。まずは、企業から、オープンかつフラットに情報発信をしていくよう、がんばっていきたいと思います。本日はありがとうございました!

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私自身、大学3年生の当時を振り返ると、「やりたいこと」が具体化されていなかったので、将来的に選択肢が広がるような選択をしようと考えてネットプロテクションズへの就職を決めました。入社してもうすぐ3年が経ちますが、「やりたいことは何ですか?」という問いに対する明確な答えは未だ持っていません。ただ、少なくとも当時の自分よりも、今の自分の方が「やりたいこと」の方向性がぼんやりと見えてきています。この感じだと、直近2年間ぐらいの間に、誰か(もしくは何か)との出会いによって、突然見つかりそうな気がなんとなくしています。あるいは、一生見つからないかもしれませんが(笑)。

 

インタビュアー:玉城麦野(ネットプロテクションズ) 執筆:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:栃久保誠

取材協力:常見陽平さん
千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身
一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)
リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『社畜上等!』(晶文社)『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

執筆者:玉城麦野
2015年 新卒でネットプロテクションズに入社。
セールスとして日々業務に勤しみながらも、マーケティングや新卒採用にも積極的に関わっている。
思考や世界観を伝えたり議論したりすることが好き。
沖縄出身、短期留学、政治学専攻、東南アジア旅行、戦争博物館の比較研究などの出自・経験を持ち、人や世界の本質をとことん追求していきたいと考えている。
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