企業にはリセットが必要? 思考の専門家・細谷功さんと考えるこれからの会社論

執筆者: 田中一成

企業にはリセットが必要? 思考の専門家・細谷功さんと考えるこれからの会社論

執筆者: 田中一成

「つぎのアタリマエをつくる」集団であり続けるためには、成長する企業とどう向き合っていけばいいのか。そのヒントを探るため、株式会社ネットプロテクションズ人事部の片桐大輝が、「思考力」の専門家・細谷功さんにインタビューを申し込みました。「会社は人間と同様、生まれた瞬間から老化の一途をたどり、決して若返ることはない」と話す細谷さんの真意は……。

会社の老化は止められない

片桐大輝(以下、片桐):まず「会社が老化する」とはどういうことか、改めて教えてください。

細谷功さん(以下、細谷):会社は人と同じように「老化」する存在です。会社が成長すると、事業が拡大して人材が増加します。それに伴い、ルールの増加や手段の目的化、社内政治家の増殖、人材の均質化などが進みます。これは不可逆プロセスであり、後戻りして「若返る」ことはありえません。

それなのに「会社は一生成長し続けるものだ」と多くの人が幻想を抱きがちです。なぜ会社の老化に気づきにくいのか。それは成長と老化が地続きで、成長の延長線上に老化が存在するからです。ここで「会社の老化」というのは、成長と同様に時間的に後戻りできない劣化現象のことを言っています。

片桐:成長と老化はつながっているんですね。弊社は今期17期目を迎え、正社員は130人を超えました。業績も伸び続け、会社は順調に成長していますが、老化について考えてもいいフェーズなのかもしれません。

会社を大きくせず、小さくする。

片桐:弊社は日本で初めて後払い決済サービスを実現させ、つぎのアタリマエをつくることをミッションとして抱いています。理想はステークホルダー全員がオールウィンになり、社会に高い価値を提供しつづける企業であること。そのために、自社の老化とどう向き合うか、私達なりに取り組みを進めています。

細谷:例えばどんなことに取り組んでいますか?

片桐:マネージャーをなくしました。役職をつくって特定の人に権力を固定化させるより、分権化した自律分散型の組織の方が創造的価値を生みやすいですし、各個人の幸福度を高められると考えています。

細谷:それは良い面も悪い面あるかとは思いますが、面白いですね。マネージャーという「お山の大将」をなくすということを、もう少しスケールを大きくして、会社そのものを「お山」として捉えてもいいかもしれません。会社をなくさないまでも、小さくしていくのです。

片桐:事業も従業員の規模も大きくしていくのが成長企業のはずなのに、それを小さくしていくと。

細谷:事業を大きくするサイクルに入ると、成長と同時に老化も進行します。会社を老化させないためには、そもそも会社を大きくしないことが一つの手段ですね。

そのために疑いたいのは、雇用を増やすのは本当に良いことなのかどうか。雇用が増えれば増えるほど、雇っている人と雇われる人の立場の差が大きくなり、上の言うことを聞くだけの関係になりがちです。そうなると、雇われる側は従順で、言われたことをやるタイプの人が集まりやすくなります。これは良くも悪くも、ですね。1万人の組織で1万人が自由に動かれたら、仕事の連携が取れないですから、ある意味では大組織としては健全な方向性ではあります。

片桐:個人が自由に動くことで組織が機能することもあれば、言われたことを堅実にこなすタイプが企業を支えるケースもありますよね。事業のモデルによるものでしょうか。

細谷:おっしゃる通りで、インフラ事業のような業務では決められたことを正確に行うことが重要です。しかし、これからそういった仕事はどんどんAI等のデジタル技術によって置き換えられていくでしょう。現在の社会の状況を考えれば、会社の老化をゆるやかにし、人間の自由度を高めるべきだと思います。

古いサービスは捨てて、新しいものを生みだす

片桐:事業の仕組み化についてもご意見をいただきたいです。弊社では労働集約型ビジネスにはせず、いかに仕組み化していくかを目指しています。事業規模や売り上げが大きくなっても、正社員のリソースを変えずに運用できる仕組みづくりですね。

細谷:仕組み化するとはすなわち、プラットフォーム型ビジネスになるということですよね。ただ、仕組みが大きくなってしまうと、次はそれを維持するためにサービスの老化が始まります。しかも、軌道に乗ったサービスは手放しにくい。

片桐:人や組織だけではなく、サービスも老化する、と。そのサービスが企業の強みになると捨てづらいですし、そもそも競争戦略を考えると複数のサービスを持っておかないと戦えなくなるのではないでしょうか。

細谷:そこで古いサービスを捨てる選択ができれば、老化と逆の方向性に進むことができます。人も組織も何かを持つと、その途端にそれを守ろうとするもの。特に人材やお金を持つとそうなりがちです。

片桐:何かが増大すれば、その分だけリスクが膨らんでいく、と。まずはそのリスクを認識することが重要なのですね。企業としてはどのような対処法が考えられますか?

細谷:新しいものを生み出すことですね。既存のビシネスをリセットすることで、老化を根本的に弱めていくことができます。もう1つの対処法は、会社を「世代交代」させることです。これは経営陣を入れ替えたり平均年齢を下げたりすることではなく、パラダイムを転換させることを意味します。老化は同じパラダイムの組織が生き続けている場合に起こるので、ものの考え方のリセットは老化現象の一掃につながるのです。

片桐:なるほど。弊社は決済事業がメインですが、社員がやりたい事業を支援する活動を試験的に開始しました。最近は、社員が法人向けフラワーギフト事業を行う会社を立ち上げたので、それを支援するプロジェクトが誕生しました。弊社がコーポレートベンチャーキャピタルとして支援しながら、社員が経営者として独立します。本ケースは完全独立ですが、今後は子会社の設立もありそうです。いずれネットプロテクションズグループを作れればと考えていますが、そうなったときに母体はどうあるべきでしょうか?

細谷:ベンチャーキャピタルのように、新しいところにお金を出しつづけることが理想だと思います。年寄りと若者の関係と一緒ですね。新しく面白いことに挑戦する人は大抵お金を持ってないし、お金を持っている人は面白くないことが多い。それは会社も同じです。資産がない新しい会社へヒト・モノ・カネを回していくことが、母体のミッションだと思います。そして新しい会社は、面白い事業を展開していく。それぞれが足りないものを自覚すれば、補完し合える良好な関係性を築けるでしょう。

ある会社では、老化が望ましい場合もある

片桐:老化している組織の特徴の一つに、社員の愚痴が多くなることがあるかと思います。しかも、皆が不満を思っているのに誰も行動に移さなかったり……。なぜこういった状況に陥るのでしょうか?

細谷:自分でコントロールできない領域が多いと愚痴がでるんです。そういう人は「会社のなかに自分がとりこまれている」と思い込んでいます。そういった人が会社と自分の関係性をどう捉えているか、客観的に知るために効果的なのが「DoubRing(ダブリング)」です。

ダブリングは「生と死」「長所と短所」といった2つの言葉の関係性をどう捉えているか、2つの円で表現する手法です。そしてそれぞれの円の大きさや、重なり関係に応じて9つのパターンに分けます。

引用:https://www.doubring-j.com/

片桐:これを「会社と自分」という関係に置き換えることもできるわけですね。

細谷:そうですね、会社=A、人=Bとしたときに、愚痴を吐きやすいタイプはパターン3だと言えます。逆にパターン4のように会社と自分が重なってない人は、会社からいつでも離れられると思っているから愚痴が少ない。おそらく愚痴を言う前に、別の会社探し始めるでしょう。経営者であればパターン6で、自分と会社が完全一致して、プライベートと仕事の境目がほとんどない状態です。

これを「会社と人」以外にも、「上司と部下」、「仕事ができる人と偉くなる人」の関係で表現してみるのもいいでしょう。「仕事ができる人と偉くなる人」は一致していてほしいところですが、乖離しているケースも少なくありません。

片桐:これを実施すれば、社員それぞれ何を考えているかが可視化できそうです。

細谷:会社のフェーズが変わった時に、今までこうだったけど今後はこうしていこうと違いを共有する場合、その理想と現実のズレを確認することもできます。

片桐:なかなか可視化する機会はないですね。ダブリングは弊社でも試してみようと思います。

細谷:そうですね。違いを共有し、多様性を認識するツールなので、正解はというのはもちろんありません。これを使うことで、会社と社員の価値観を合わせることが重要です。会社によって、どういう傾向の人が必要かというのも異なりますから。A社にとっては老化した人材だと見えても、B社にとっては理想の人材かもしれませんからね。

インタビュアー:片桐大輝(ネットプロテクションズ) 執筆:田中一成 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:‎二條七海

細谷功さん
1964年神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、東芝を経てコンサルティングの世界へ。米仏日系コンサルティング会社で務めたのちに、2009年よりクニエのマネージングディレクターとなる。2012年より同社のコンサルティングフェローに。専門領域は、製品開発、営業、マーケティング領域を中心とした戦略策定や業務・IT改革に関するコンサルティング。あわせて問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や各種団体、国内外の大学などを対象に実施している。

執筆者:田中一成
1994年東京都杉並区生まれ。大学卒業後は新卒のフリーランスライターに。主にビジネス分野や著名人の取材・執筆を行なっている。また、ゴールデン街でバーテンダーとしても活動している。
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