あなたの会社は生きていますか?いま日本企業だからこそ求められる、世界で注目の「現場力」

あなたの会社は生きていますか?いま日本企業だからこそ求められる、世界で注目の「現場力」

今の日本には、死んでいる会社が増えている。
利益至上主義によって、日本企業の良さが失われてしまった。アメリカ型の経営に流されるのではなく、日本人の特徴をいかした経営に回帰するべきだ。

そう語るのは、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長を務める遠藤功さん。

様々な企業の「現場」を見てきた遠藤さんが感じる、日本企業が抱える課題とは。会社が生き続けるために、いますべきこととは。

利益偏重で失われてしまった日本人の表情

――書籍で書かれていた「生きている会社」とはどのような会社か、あらためて教えてください。

わかりやすくいえば、喜怒哀楽がある会社です。笑う時は笑うし、怒る時は怒るし、泣く時は泣く。経営者だけでなく、社員の感情が豊かにあらわれている会社が、生きている会社だと考えています。

そういう会社は、どんどん少なくなっています。様々な会社の現場を回っていると、業績が良くて給料も上がっているのに、仕事にやりがいを感じられず、無表情に働く人が増えていることを感じます。日本の企業は、大企業を中心に業績は好調ですが、数字と実態が乖離している。そこに大きな問題意識を持っています。

その最たる例が、大企業の不祥事隠蔽です。悪いとわかっていても、表情を隠して「問題ありません」と言わなければならない。隠したり、データをいじったりして、なんとかやりすごそうとするのは、死んでる会社の深刻な兆候です。

そもそも、会社に問題があるのはあたりまえのこと。問題と真正面から向き合って、解決してくのが現場のミッションですよね。うまくいかないときは、みんなで何とかしようと取り組んできたのが日本企業の強みだったのに、「ここにこんな問題があります」と声を上げることができなくなってしまった。

――なぜ問題と向き合わない文化が生まれてしまったのでしょうか。

その原因のひとつは、目先の利益を追うことばかりに過剰になり過ぎたことだと考えています。昔の日本の企業は、短期志向ではなく、中長期志向でした。数字がついてこなくて「なんでこんなに儲からないんだよ」と愚痴りながらも、「業績は浮き沈みがあるから、長期的にイノベーションを起こすんだ」という空気が漂い、イキイキしていました。

しかし、その精神が忘れられ、いつのまにか目先の利益の最大化に走るようになっていました。それは、私たちコンサルタントが「稼ぐ力を高めなければダメだ」と言い続けてきた影響もあります。資本の論理でいえば、株価もROEも利益率も高い方がいい。そういうモノサシだけで見れば、日本企業はグローバルで劣っています。それは企業の一面でしかないにもかかわらず、あたかも全てであるかのようにコンサルタントは語り、効率化の名のもとに過剰なコストカットを推し進めました。私も加害者のひとりですが、それによって現場の活力が奪われてしまったのです。

遠藤功
株式会社ローランド・ベルガー会長 早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)
三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。 経営コンサルティングに従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。
株式会社良品計画社外取締役。SOMPOホールディングス株式会社社外取締役。日新製鋼株式会社社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。
最新著書は『生きている会社、死んでいる会社-「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』(東洋経済新報社)。

GoogleやFacebookも注目する日本の現場力

――「現場の力」とは具体的にはどのような力でしょうか。

現場力とは、自分たちで能動的に考え、知恵を出し、動く力です。日本では「気づいたらやる」という現場の自主性を尊びますが、世界中見渡しても、現場がこれほど自由に動ける組織はありません。海外では、言われたことをやるのがあたりまえで、言われてないことをやるのはダメだったりします。そもそも、現場という概念は、外国人からするとよくわからないそうです。オペレーションでもなく、個人でもなく、場所でもなく、説明が難しい。その難しい概念を「現場」という一つの単位にしていることが重要で、そこに日本の強みがありました。

例えば、日本の新幹線の清掃員の現場力が世界中から注目を集めるなんて、世界から見たら理解できないわけですよ。理解できないということは、真似できないということ。圧倒的な競争力になります。

実際、この現場力は、世界でも通用しうることがわかりはじめています。トヨタが初めてアメリカに工場を建てたとき、最初は「トヨタのやり方なんかアメリカでは通用しない」と言われたそうです。しかし、GMやフォードで働いていた人間を採用してもうまくいかず、未経験者を集めてゼロから育て始めたら成功し、今では世界で一番いい現場になりつつあると聞きます。現場の人たちは「他の自動車工場では上から言われたことだけをやっていたが、ここでは問題に気づいたら自分たちで改善していい。そういう自治権が与えられてるところがいい」と言います。

今では、GoogleやFacebookなど海外の成長企業が、松下幸之助や本田宗一郎について相当勉強していると聞きます。どうしたら現場の力を引き出せるか、日本企業以上に考えて工夫し、うまくやっていますよね。

日本では当たり前のことが、海外からすると当たり前じゃない。現場力は日本の強さの源だったんです。現場が死んでしまうことは日本の企業にとって致命的なダメージで、現場の表情が失われつつあることに私は強烈な危機感を持っています。

こういう話をすると、大抵の経営者は「自分たちは利益ばかり追求しているわけではない。現場の社員を大切にしている」と言うかもしれません。たしかに、利益至上主義を声高に掲げている経営者はほとんどいません。しかし、現場からすれば、経営者の行動が利益だけを追求しているとしか思えない状況なんです。例えば、役員が自社株の価格ばかりを気にして「今日の株価はいくらだった?」と毎日話していたら、現場の人は「利益を出さなきゃまずい」と思うわけです。

社長は利益を出すことができません。利益を出せるのは現場ですから、コストダウンにしたって何にしたって、現場が頑張るしかない。それが行き過ぎると、次第に、利益を上げるためなら嘘をついても平気になっていく。そんな現場の雰囲気が健全なわけありません。だんだん無口になり、表情がなくなっていくのです。

熱伝導の鍵は中間管理職

――死にゆく会社が増えるいま、会社が生き続けるために何をするべきだとお考えですか。

日本企業がこのままでいいとは思いませんが、すべてを否定するつもりもありません。むしろ、日本人の戦い方やスタイルを活かした経営をするべきだと思います。

例えば、日本人の仕事観と照らし合わせると、会社は単なる「経済体」ではないと思うんです。職場の人間関係やチームワークも大切にするという意味で「共同体」でもありますし、各々が自己実現するための場でもあるという意味では「生命体」であると考えています。

この考え方は、日本独特の価値観だと思います。例えば、フランス人だったら、会社を自己実現の場とは思っていませんし、お金さえもらえればそれでいいという割り切った考えです。でも、日本人でそこまで割り切れる人は多くない気がします。仕事観が違うんです。

会社がすべきことは、それぞれの人にモチベーションがあるという前提に立ち、それをどうやって引き出すかに尽きます。モチベーションを眠らせるのでなく、目覚めさせることがマネジメントの最大の仕事です。

会社は「生き物」として捉えられ、「経済体」「共同体」「生命体」の3つの側面があり、それぞれは「熱」「理」「情」の3つの視点と紐付き相互に影響を与えている。
(『生きている会社、死んでいる会社ー「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』より引用)
(図は遠藤氏提供の図版を元に作成)

――それぞれの人が持つモチベーションを引き出すためには、何からすればいいでしょうか。

まず、経営者が理想を語る、つまりビジョンを示すことが重要です。社員がビジョンに共感して、自分の役割を認識して主体的に動けば、表情豊かな会社になります。FecebookもAmazonも、経営者はビジョンを語り続けてきました。いま、ビジョンを語る日本の経営者は非常に少ないと感じます。

この話を経営者にすると、自分はビジョンを語っていると言うんですよね。確かに、語ってるのかもしれませんし、会社のウェブサイトにはそれらしきものが書いてあるのかもしれません。しかし、社員たちには伝わってないんです。伝わってなければ、存在しないのと同じです。

また、経営者がビジョンを語っても伝わっていないとしたら、コミュニケーションの問題もあります。元来、日本の企業において、経営者の熱を伝えるためのコミュニケーションの中核は、中間管理職が担っていました。社長と想いを共有した部長や課長が、同じ熱量で部下に接してたいたので、ヒエラルキー組織でも縦のラインが繋がり、熱が伝導していたのです。この熱伝導率が低くなると、いくら社長が熱い想いを持っていても、下には伝わりにくくなります。そう考えると、トップがビジョンを語ることに加えて、中間層が機能していることも重要です。

「失われた20年」の間、日本企業は守り一辺倒で、今の部長や課長は挑戦した経験が少ない。昔に比べて優秀な人が多いのですが、熱を持って新しいことをやるよりも今まであったものを守る意識が強く、リスクを取らない人が増えている印象です。この中間層が活性化することが、日本企業が生き返る一つのポイントだと思います。

そのための一番の処方箋は、若い世代を抜擢してチャレンジさせることです。昔だったら40歳で課長、50歳で部長だったのを、10年は若返らせていいのではないかと。20代でも30代でもできる人は積極的にチャンスを与えるべきです。横並びの一律人事のままでは、「生きている会社」にはなれません。フランスのマクロン大統領は39歳で大統領になったわけですから、人物本位で見ていけばいい。

子会社の社長にするとか、役員にするとか、大きな役割を与えてどんどん経験させるしかありません。そこで失敗したって、たかが知れてるわけですよ。会社が潰れないことだったら何でもやらせてみる。優秀なマネジメント層として育つように、組織のあり方を抜本的に変えなければならないと思います。

私が社外取締役を務める良品計画では、5、6年前に海外担当の役員を総入れ替えして、41歳、43歳、45歳の3名を抜擢しました。シリコンバレーだったら当たり前かもしれませんが、日本の大企業の感覚でいえば大抜擢です。すると、あっという間に中国で200店舗を超え、海外事業は一気に拡大しました。今の日本企業に足りないのは、このスピード感です。周りの環境が恐ろしいほど変化するこの時代において、「昔の体内時計」のままじゃダメなんですよね。「新しい体内時計」を手に入れないと、生きている会社にはなれません。

「情」で創造し「理」で撤退する

――新しいことを始める一方で、本の中では組織には「代謝」が必要とも言及されていましたよね。しかし、一度挑戦を始めると、撤退にはなかなか踏み切れないものかと思います。一度始めたものをやめるための仕組みはどのように作ればよいでしょうか。

やめる決断を人間にさせるほど難しいことはありません。「頑張ってるからもう少しやらせよう」とか「これは昔いたOBがやった事業だからやめられない」とか、感情が邪魔してやめられなくなります。その結果、老廃物が溜まってしまいます。

だから、合理的・機械的にやめる仕組みを作るべきです。三年連続赤字だったら撤退するとか、あらかじめ基準やルールを決めるのです。

逆に、「創造と代謝」の創造は情でやればいい。未来のことは誰にもわからないのだから、とにかくやろうよと。それが、日本の会社では逆になっていますよね。新しいことを始めるときはビジネスプランを精緻に作って「これは可能性があるでしょうか?」とコンサルタントに聞いたりします。コンサルタントだって未来がわかるわけではないので、ビジネスプランを作り込む時間があるなら、さっさと始めてしまった方がいいのです。

その代わり、3年やって芽が出なかったらやめましょうと。そうやって「理」と「情」を使い分けることが必要ではないかと思います。

良いDNAを引き継ぎ、それを母体に新たな価値を生み出す

――仕組みを作り、創造と代謝を続けることが重要ということですね。一方で、社会全体で見たときに、一つの会社が生き続けることは必要なのでしょうか。代謝という観点で見ると、一つの会社が役割を終えて、他の会社に人材が流れたり、新しいことがゼロから生まれたりする道もあるように感じました。

価値観次第だと思います。良いか悪いかは別にして、会社は利益を創出するためだけの装置ではなく、縁で集まってる社会的な集団であり、そこには何かの意味があるというのが日本的な考え方です。一つの使命が終わったら、そんな会社は売ったり解散すればいいという考え方も否定するものではありませんが、何百年と続く会社には、そこに宿るDNAや目には見えない資産があり、それを母体に新しいことを生み出すというのは悪い考え方ではないと思います。

それに、人は必ず死ぬわけですが、何かを残したい欲もあります。良いものであれば残せばいい、悪いものであれば消えていけばいい。良いDNAがあるのであれば、後世に残していくことに価値もあるのではないかと思います。

個人的には、日本の現場力は後世に残すべきものだと考えています。日本企業が持つこの現場力という底力を再認識し、日本流の経営スタイルを発揮できる会社を増やしたい。そうやって、埋もれてしまっている「今の当たり前」を再発見し、磨き続けることが、「次の当たり前」をつくることに繋がるのではないかと思います。

執筆者:ThinkAbout編集部
ThinkAboutを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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