社会に変革を起こすアウトプットはロジカルではなくフィジカルで生む。元最年少市長樋渡啓祐が考える、ものごとの実現のさせ方。

社会に変革を起こすアウトプットはロジカルではなくフィジカルで生む。元最年少市長樋渡啓祐が考える、ものごとの実現のさせ方。

武雄市の市長を務めていた10年の間、TSUTAYA図書館、テレビドラマの誘致など、数々の斬新なアイデアを実行してきた樋渡啓祐さん。現在は、「地域の人の志をかたちに」と掲げ、地方自治体や民間企業と様々なプロジェクトを実行しています。

社会に変化をもたらすアウトプットを生み出すために、どんなマインド・行動が求められるのか。
また、大きな変革を伴うようなアウトプットをすれば必ず出てくる批判とどう向き合うのか。

実行し続ける樋渡さんに、その真髄を伺いました。

ロジカルよりもフィジカル。場数を踏むことが結果を生み出す

──市長時代の様々な政策に始まり、現在も「全国空き家バンク推進機」を立ち上げたりと、大きなアウトプットを生み出し続けている樋渡さんですが、はたから見ていると、思い立ったらすぐに行動に移している印象があります。「すぐにやる」というマインドセットは、昔からお持ちだったのでしょうか。

そんなことはありません。すぐに行動に移せるのは、それだけの場数を踏んだからです。そもそも、36歳で武雄市長になる前は行動するタイプではありませんでした。ただ、市長になって何にもしなかったら「何にもできないやつだ」とレッテルを貼られるじゃないですか。そうはなりたくなかったので、とにかく行動するようになりました。

それに、何かやらなかったら市が破綻するような状況でしたから。当時の武雄市は多額の借金を抱え、街はシャッター通りだらけ。何もしなかったら、財政破綻することは目に見えていました。だから、とにかくやるしかなかった。

しかし、暮らしている人は、武雄市に対する誇りをほとんど持っていなかったんですよね。市長になって、それが一番の問題だと思いました。ただ、武雄市の知名度は相当低くて、「タケオって、カンボジアのタケオですか?」なんて言われる状態だったんです。そんなところに誇りを持てるわけないですよね。

そこで、知名度を上げる方法を色々考えた。物議をかもす発言をしたり、エッジを効かせたことを言ったりしたのも、すべて僕に注目を集めるための計算でした。市長の僕が目立てば、必然的に武雄市の名前も日本に知れ渡りますからね。それで、小泉純一郎さんのやり方を真似したんです。自分よりも強い権力や人に対して立ち上がる「ドン・キホーテ」を演じることが、世の中で一番ウケますからね。

世の中の話題を作りながら、まちの課題解決のための施策もいろいろやりました。テレビドラマ撮影の誘致、CCCと一緒に運営することにしたTSUTAYA図書館、「フェイスブック・シティ課」「イノシシ課」の立ち上げなど、いくつか代表的な例もありますが、全ては一見違和感があるものを組み合わせて価値を作るだけ。イノベーションは組み合わせにしかすぎないと思います。

考えついたものは全部実践していましたね。アイディアはやってみないとうまくいくか分かりませんから。周囲には「考えたら脳に毒が回るから、考え過ぎずにやろう」と言ってました。その経験が、今につながっています。

人間って、ロジカルじゃなくてフィジカルで学ぶ生き物なんですよ。やってみて、その体感値が判断軸を作っていく。大事なのは、自分の体で経験して体感することなんですよね。

樋渡啓祐
前武雄市長。樋渡社中代表、全国空き家バンク推進機構理事長、地域経済活性化支援機構(REVIC)社外取締役、関西学院大学客員教授など、社会問題に取り組む。

七人の侍になる。根回しすることで仲間をつくる

──とにかく場数を踏み、フィジカルで体感値を積んでいくと。自分で経験する一方で、大きなインパクトを生むためには、周りを巻き込むことは不可欠だと思います。周囲とコミュニケーションを取るときは何を意識していたのでしょうか。

根回しです。僕が一番得意なのは根回しで、総務省の時から「根回しけいちゃん」と呼ばれていたほどでです。僕の場合、いろいろな施策を独断でやっているように誤解されますが、そんなことはありません。実際は根回しをすごくしっかりやっています。

根回しにはすごく時間がかかりますが、その分、スタートラインに立った瞬間に全速力で走れます。周りからすると、根回しの段階は見えないので、急にものごとが始まったように見えるかもしれませんが、スタートダッシュを切るために、表での準備を始めながら、根回しをしてウォーミングアップしているんですよね。

CCCとTSUTAYA図書館をやることになったときは、テレビでCCC増田社長を見た瞬間から動き始めています。過去インタビューやリリース記事をくまなく読み、彼の考え方や趣味趣向を調べ上げ、いつ会ってもいいような準備をしながら、関わる人とのコミュニケーションを開始していたのです。
その数日後、出張で東京へ。

その時の場面は、CCCが発行した『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦』という本の中にこんな記載があります。

“羽田からそのまま、書店がある渋谷区に向かった。ひとりの男性が腕組みをしながら舗道に立ち、書店を眺めているのが樋渡の目に留まった。TV番組で紹介されていた、まさにその人物だった。樋渡は近づいた。そして、自己紹介もそこそこ、「うちの図書館の運営をお任せしたい。」(略)打算もない。根回しもない。明快な素直さだけがあった。だから増田も即答した。何の逡巡も感じなかった。「ぜひやらせてください。」”

実質、武雄市図書館構想が動き始めたのはこの瞬間。武雄市の関係者には既にプロジェクトがいつ始まっても良いように極秘で根回ししていたので、すぐにプロジェクトをスタートできました。今でも冬晴れの舗道の上での増田社長との初めての出会いは鮮明に覚えています。でも、今思えば、何の成功の可能性もないのにしっかり根回しだけやっていたのは、我ながら凄いかもしれません(笑)。究極の楽天家なんでしょうね、僕は。

「根回し」と言ってますが、「仲間づくり」「マーケティング」とも言い換えられます。僕の場合、新しいアイディアをいろんな人に相談にいきます。相談される方も嬉しいじゃないですか、わざわざ自分に会いに来てくれるって。そこで共感が生まれると、同志になるわけです。

それに、相談する中で、本当に価値のあるアイディアなのかマーケティング調査できます。相談してやめることはありませんが、修正することはよくありますよ。むしろ、当初の案から比べると相当修正します。自分の意見が取り入れられると、意見を言った人たちにとっても自分のアイディアになり、責任感が生まれます。そのプロセスを丁寧に行っているので、プロジェクトが立ち上がった瞬間にすでに仲間がいる状態、つまり「七人の侍」になってるわけです。

有事のときにこそ問われるリーダーの器。成功の定義付けはリーダーの重要な役割

──しっかりと根回しをしていれば、すぐにスタートできると。走り始めてから、実現するまで困難を感じることはありますか。

ないですね。課題は必ずクリアすればいい。もちろん、やった結果失敗したことはたくさんあります。とはいえ、「何をもって成功と呼ぶか」についての幅、いわばゴールポストは極限まで広く取るように意識しています。チームにとって成功体験は重要です。一度やったことが成功すれば、メンバーは「次もやろう」と思えるじゃないですか。

だから、成功の定義付けはリーダーの重要な役割だと思います。個人として必ずしも大成功と思えなくても、チームとして成功と定義する。武雄市図書館だって、想像していたことが全てうまくいったわけではありませんが、あれも一つの成功。「失敗でないなら、成功と言い切る」のがリーダーの役割だと思います。批判されるかもしれないけど、その責任は全部リーダーが取る。その覚悟が必要なんです。

リーダーの役割はおそらく二つあると思っていて、一つは絶対に部下を守ることですよね。もう一つは、部下ができないことをやること。以前、孫正義さんに、リーダーの役割は何か尋ねたとき、「リーダーは平時の時はいらない、遊んどけ。有事の時だけでいい」と言われました。平時の時は部下が仕事を回せばよくて、有事になった時にトップが必要になる。「物事を変える」というのは有事だから、リーダーにしかできません。改革を推し進めることは、リーダーの大切な役割なんです。

失敗こそ人生の踊り場。マインドセット次第でどんな批判とも向き合える

──インパクトの大きいことをすれば、批判はつきものかと思います。批判とはどのように向き合ってきたのでしょうか。

すべての反対意見と戦わないことが大事ですね。これは官僚時代に教わったことですが、反対意見にも「2-6-2の法則」が当てはまるといわれています。「何がなんでも反対する2割」「どちらかといえば反対の6割」「評論家の2割」がいて、まずは「どちらかといえば反対の6割」「評論家の2割」としっかり対話して反対を無力化する。そのうえで、「何がなんでも反対する2割」とは徹底的にやりあいます。批判者全てを敵にしてしまったら負けますが、分断して対応すれば打ち勝つことができます。

──批判者を冷静に分析してグループごとに対応を変えると。論理としては分かりますが、感情的に傷ついたりしないのでしょうか。

最初はつらかったですよ。批判自体を見たらつらい。ただ、批判する人が増えると、それと同じだけ味方も増えるんですよね。プラスマイナスゼロになればいい。そう思えるようになってからはだいぶ楽になりました。

また、ある時から「批判は注目の証」とか「嫌よ嫌よも好きのうち」とか「アンチ巨人も巨人ファン」とか、批判に対してポジティブに捉えるようにマインドセットしました。つまり、「批判は楽しいものだ」と自分の気持ちを定義付けしたんです。

飛行機に乗ったときに耳抜きするのと一緒です。一度やってしまえば、その状態に慣れてしまう。マインドセットすることが耳抜きなんです。次第に、批判されることが快感になっていきました(笑)。

一方で、そうマインドセットしないと自分が持たなかったという面もあります。批判ばかりされる中、相談する人はあまりいなくて、自分で何とかするしかなかった。どうすれば批判に立ち向かえるかいろいろトライした結果、マインドセットしたら楽になると気づいたんです。

以前は、批判に対してTwitterなどで言い返していましたが、やればやるほど苦しくなって。無視が一番良いとアドバイスを受けてやってみたけど、それでもつらいときがありました。でも、そうやって何年もかけて、自分をバージョンアップするうちに「批判は快感なんだ」と思えるようになったんです。トライ&エラーというよりも、バージョンアップした感じです。いろいろ試してみて、経験値が溜まった。実行力と同じで、頭で考えるのではなく、フィジカルで経験値が溜まった結果です。

時間はかかるかもしれませんが、誰にも同じことができると思います。そのとき、プロセスを楽しむことが大事になってきますね。最近読んだ『広く弱くつながって生きる (幻冬舎新書)』という本の中でも、昔の登山は頂上を目指していたけど、最近は登るプロセスを楽しむと書かれていて。まさにそれだと思います。僕自身、いろいろ試行錯誤するのが楽しかったし、その中で一番良いやり方を見つけたという印象です。

とはいえ、佐賀県知事選に落選したときは、さすがに心が折れましたよね。絶望しかなかった。その時まで、頂上を目指すタイプだったんですよね。

でも、谷底に落ちてみると、はじめて谷底もいいと思えました。谷底って、落ち武者みたいな愉快な仲間が寄ってくるんですよね。逆に、山頂って、風は強いし、寒いし、食べ物もないし、風景も単調で、むしろあんまりおもしろくないような気までしてきて。失敗は人生の踊り場。谷底に落ちたとき、人生の背負い方を考えて、絶望そのものを楽しもうと思えました。どうせ死にはしないしね。

仲間と一緒に新しい景色を見続ける。

──これまで様々な挑戦を続けてきた樋渡さんですが、現在やっていることや、今後の展望をお聞かせください。

僕が好きなのは問題解決。トラブルを解決するのが一番好きなんです。それは、ある意味ではお医者さんと一緒だと思います。理念云々ではなく、目の前で困っている人たちの痛みや苦しみを取り除く。僕も同じで、目の前のいろんなトラブルを解決する。例えば、市民病院が立ちいかなくなったとか、図書館がおもしろくないとか、一つひとつの課題に向き合って解決する。いわば、今は最終的な「駆け込み寺」になっています。

大きな理念を掲げるのではなくて、目の前のことをシンプルに解決する。同じように困っている人が世の中にはいるから、それが広がっていく。コンパクトに行動して、インパクトをつけるのが好きなんです。

自分のために何かをすることは基本的にありません。興味がないんです。それよりもギブ&ギブです。個人的には、ギブ&テイクの考えは自分の心をむしばむと思っています。それは小学生の頃の体験からの学びです。小学生のとき、年賀状を百枚くらい書いたんですが、返事があまり返ってこなかったことがあります。最初はすごく傷ついたんですが、しばらくすると「こんなに努力してるんだから、自分のその努力を認めてあげればいいや」と考えられるようになって、気持ちが楽になったんです。それからは、年賀状を出すだけ出して、返ってきたかどうかは見ないようにしました。

ギブ&テイクを期待すると自分が傷つく。だったら、ひたすらギブするほうがいい。それで、たまに見返りがあるととても嬉しいですからね。小学生の時に体験してから、ギブ&ギブばかりです。

そして、いいと思ったことはとにかくやる。評論なんかいりません。とにかく最初に踏み込むかどうか。いい踏み込みをすれば、人はついてくるものです。よく周りの賛同が得られなかったという人がいますが、それは自分に何かが足りないから。そのプロジェクトが悪いのか、プロセスが悪いのか。その課題をひとつずつクリアして、みんながワクワクする「みんなのやりたいもの」になれば、人は自然とついてきます。

最初の一歩を踏み出すファーストペンギンは一番大変かもしれませんが、一番面白い。ファーストペンギンの良いところは、誰も見たことがない景色を見れることです。その景色を一人で見てもつまらないから、仲間と一緒に見る。これほど豊かなことは、人生でありません。だから、これからも新しい景色を見続けていくのだと思います。

執筆者:THINK ABOUT 編集部
THINK ABOUTを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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