商品づくりを通して貨幣の束縛を超える。タルマーリー店主 渡邉格と考えるお金の未来_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№1

商品づくりを通して貨幣の束縛を超える。タルマーリー店主 渡邉格と考えるお金の未来_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№1

「腐る経済」という言葉をご存知だろうか。

野生の菌(天然酵母)を使ってパンとビールを作る「タルマーリー」の店主でパン職人の渡邉格さんが提唱している言葉だ。

渡邉さんは、日々の発酵や菌と向き合う中で、時間が経っても土へ還らず永遠に「腐らない」お金に違和感を持った。自然の摂理から反した”腐らない経済”が、資本主義のおかしさをつくりだしていると考える。

矛盾した資本主義から脱するため、タルマーリーでは「生産設備を自前で揃える」「利潤をうまない」などを意識して、地域の中で循環するかたちの経営を続ける。

2018年10月30日、THINK ABOUTが主催する初のカンファレンス『貨幣の束縛』
では”貨幣”を起点に信用や価値、そして未来の社会構造を考える。
その中で渡邉さんには「理想のお金とは何か」というテーマで登壇頂く。
カンファレンスに先立ち、登壇者の一人渡邉格さんに今の思考を伺った。

お金を欲しがる=未来のために今を犠牲にする行為

──渡邉さんはお金に対する違和感をいつ頃から持ち始めたのでしょうか?

小さい頃からだと思います。わたしは高度経済成長期に団地で生まれました。あまり裕福ではない人の集まる地域で、お金のために犯罪を犯す人を見て育ちました。先輩の家族が新聞沙汰の事件を起こしていたり、車の改造をするために盗みを働き捕まった後輩がいたり。そういう事実を目の当たりにして「人間お金によって悪くもなるし、良くもなる。お金という存在はなんなんだろう。生きるとはなんだろう」と考えるようになりました。

少なくとも、お金をもらうために時間を売って生きるのは自分には合わない。そう感じて、高校卒業後しばらくは定職につかず、フリーターをしたりパチンコを打ったりする生活を送りました。その後、29歳で大学を卒業。食品会社で働き始めてからも、お金のために産地偽装と思われるようなことが平然と行われていて、資本主義への違和感は募るばかり。極めつけにリーマンショックが起きて、できるかぎりお金のことを考えないようにしていました。

人は何かをするときに「お金が必要だ」といいますが、そこに問題があると思います。お金って、まだ見ぬ未来に幻想を抱かせ、現実を先送りにさせてしまう力があるのです。例えば「今手元にはないけど、大金が手に入ったらフェラーリに乗りたい」という欲望を抱き、そのためにお金を求めますが、その対価として目の前の現実を犠牲にしてるわけです。

時間を削り、節約するために食事も疎かにして。それっていいことがあるのでしょうか。現実を積み重ねていった結果が未来であり、過去になる。そんなふうに考えると、未来のためのお金よりも、今と向き合うことが大切に感じられます。

渡邉格 タルマーリーオーナーシェフ
東京都出身。25歳で千葉大学に入学。29歳で就職するも2年と続かず、31歳から始めたパン職人の道は15年続け、昨年からはビール職人に転向。野生酵母による発酵に取組み、経済合理性により失われてきた古の技術を掘り起こし、「無から有を生む」生産の確立を目指す。昔ながらのモノづくりの環境を追求するために大工も覚え、店や工房の改装もできる限り自力で行う。著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る」経済』(講談社)。

「みんなが一番ほしい商品がお金」という共通の認識

また、「お金が一番欲しいものになってしまっていること」も問題だと感じています。わたしは25歳で大学に入学してから地域通貨の勉強をしていたので、どうやってお金を地域に循環させるかを考えていたのですが、結論として「商品をお金以上の価値に上げるしかない」とわかりました。

言葉にすると陳腐ですが、誰でも何かを買おうとしたときに「これは高いからやめよう」と考えたことがあると思います。その背景には「みんなが一番ほしい商品がお金」という共通の認識があるから。お金以上にほしい商品だと思ったときに、初めて買おうと思えるのです。

均質化した商品は、お金よりも価値が上がらないのでみんな買い控えもします。「いま買う必要がない」と思い、それをどんどん繰り返して一番ほしい「お金という商品」を貯めておこうとするのです。

もちろん、「お金を基準にして交換を行う」という意味ではうまくいっているから資本主義経済がこれだけ発展したのですが、価値をはかる尺度という意味では課題があると思います。お金が一番の商品になっているため、昔からある商品は価格決定権を持てず、価格決定権を持てるのは新しい技術だけです。例えば、Appleが作ったiPhoneはこれまでにないものだったので自ら価格を定義すること大きな富を生めますが、いくらパンをすごい製法で作ったとしても「パン」として価値づけされて、同じようにはいきません。

これから、ブロックチェーンなどの技術によって価値尺度の表現が変わるのは楽しみですよね。価値が精密に測れるようになると、よい商品をつくり、その商品のことを適切に伝えていくことが肝になる面白い時代になると思っています。

常識を疑う商品づくりを通して、世界に選択肢を広げる

──お金に対して違和感を持つ渡邉さんが、タルマーリーを通して伝えたいことはどのようなメッセージなのでしょうか?

自分の時間をどうやって自分に取り戻すか。それが、わたしが一番大事にしてるところだと思いますし、一番伝えたいところかもしれません。未来を語る資格がわたしにあるとは思いませんが、自分の子どもたちが「生きててよかった」と思えるような未来を作ってあげたい。少なくとも、自分が子どもの頃に見ていた、時間を売ってお金を稼ぎお金のために負のサイクルに入ってしまうような世界よりは、良い未来を残したいと思っています。

わたしたちは、幼い頃から「月に20万円は給料がなければ生きていけない」と刷り込まれて生きてきました。しかし、最低限の生命のライフラインを自分たちでつくったら、時間を切り売りする生き方ではない勝負ができるのではないか。そんな思いから、タルマーリーでは「無から有を生む」というコンセプトを掲げました。土から全部自分で作り出す設備を整え、支えてくれる一定のファンを作ろうと。

今では、粉を挽く製粉機もあり、発酵する菌は空気中から取れるようになり、バターや砂糖などの副材料を使わない製法も確立しました。つまり、遠くから材料を仕入れなくても、今ここに土があり小麦畑があればをパンをつくることができるわけです。実際にその状況が完成してわかるのは、心に余裕があるということ。事業や生活がずっと継続する確信を持てますし、新しい改革をどんどん進めていく余裕があります。

この10年やってみて分かるのは、社会に対してわたしができるのは、常識を疑うような商品をつくること。世界が変わっていくためには、ブロックチェーンのような技術を用いてお金のシステム自体を変えることと、もう片輪はお金で買われる「商品」を変えることだと思うのです。コモデティ化された商品以外に、我々のような小商いが作る「良い商品」をもっと増やして、世の中の選択肢を広げることが重要ではないかと。

──どんな商品が「良い商品」なのでしょうか?

それは「持続する商品」だと思います。家であれば長持ちするという意味もありますが、わたしたちが作る食べ物でいえば「食べ続けられる商品」だと考えています。それは、単に「おいしいもの」とは違うんですね。食べ続けられる商品って、あっさりしていて食べ続けても気持ち悪くならないんですよ。

それ以外でも、全ての商品が持続的であるべきだと思っています。こういう言い方をすると、ファストフードなどが駄目と言ってるように思われがちですが、それは少し違います。どちらかを否定するのではなく、都会と田舎があるように、ファストの商品とロングライフの商品があってもいいんじゃないかって。

以前は、「ロングライフの商品以外は認めない」と極端な考え方を持つこともありましたが、日々パン作りをする中で菌と触れ合っているうちに「多様性を認めること」が大事だと感じるようになりました。

ただ、いまはロングライフの商品がほとんどないし、ファストな商品の生産過程で環境破壊が進んでいるという現実があります。なので、まずはパンやビールという食によって社会に風穴を開けていきたい。空間と時間に余裕がある田舎でこそ生産体制を整えられるし、地価の安い田舎で価値ある商品が作れる、それを支持する消費者がいる、という形を残したいと考えています。

──「良い商品」を作ったとして、その価値をどう伝えればいいのでしょうか。

「価値は身体で覚えてもらう」しかないと感じています。例えば、わたしは基本的に化学物質を一切摂らない食生活を送っているのですが、たまに都会に出ると、昔の癖で化学調味料をたっぷり使ったラーメンを食べます。すると、すぐにお腹を壊してしまいます。身体には生物としての生存戦略が叩き込まれているので、身体がぜんぶ教えてくれるんです。

ただ、カップラーメンで育ってきた人に、自然素材の食べ物を無理強いしてもしょうがないと思います。その人の身体は、それで作られてきたので。ようするに、カップラーメンに慣れている身体の“周波数”に、いきなり自然食の“周波数”をチューニングできないから、その人の身体にとっては馴染まない。そういうことを含めて、今あるものを否定するべきものでもないのかなって思うんですよね。

べつに、うちのパンやビールが身体にいいわけではないです。実際、お客さんから「身体にいいんですか?」という質問には、「悪いです」と答えますからね。「食べない方がいいですよ」って(笑)それは冗談ですけど、悪いことはないですけど、誰にでも良いというわけではありません。持続的な商品と周波数が合う人に届け、身体で覚えてもらうのが一番だと思います。

「下からの経済」を話すのが現場を見てきた自分の役割

──最後に、カンファレンスではどのような立ち位置でお話をしたいか教えてください

カンファレンスでわたしが話せるのは、実践者としての3つの「下からの経済」の話かなと思っています。

一つは田舎。登壇者の山口揚平さんが書籍で「5つの階層」と言われていたように、田舎は都市の下層にあると感じます。田舎は本当に疲弊してぼろぼろなんですけど、都市から独立した面白いやり方があると思うんです。わたしがやっているのはまさにそういうことで「田舎という視点から都会を見る」という点を話さなければとは思っています。

もう一つの「下」は、飲食店。飲食業界は、産業界の中でかなりの下層階級です。日本全国で飲食店に勤める人の平均年収が230万とも言われますが、これが飲食店の現状です。そういう状況の中で、実践者としてわたしが言えることって、多分いっぱいあるなと思っています。

最後の「下」は、様々な営みを下支えしている菌の世界の話。みんなが未来思考で考えてる時に、過去に捨てられたものを掘り起こして、必要だったのに経済合理性で失われてしまったものにもう一度焦点を当てているのがわたしのやっていること。それを未来のお金とフィットさせていくと、もっと面白い社会ができるんじゃないかなって思っています。

THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』

「貨幣」を起点に信用、価値、そして未来の社会構造を考えるカンファレンス。
渡邉さんをはじめとした有識者の方を招いたパネルディスカッション(インプット)とワークショップ(アウトプット)を通して、参加者と共に未来を考える場にしたいと考えています。

詳細はこちら

ほかカンファレンス特別企画記事は以下より

ネットプロテクションズ柴田紳が考えるお金と信用の「つぎのアタリマエ」THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№0

貨幣が人間を育ててきた。歴史論者 三石晃生と考えるお金の歴史_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№2

テクノロジーが変える貨幣と国家。斉藤賢爾と考えるシンギュラリティの先にある社会の姿_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№3

信用が可視化される社会の到来。READYFOR 米良はるかと考える個人とお金_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』特別企画№4

お金がなくなる日がやってくる——信用×Techがつくる新しい社会とは(インタビュイー:山口揚平 ※Business Insider Japanより転載)

 

執筆者:THINK ABOUT 編集部
THINK ABOUTを運営するネットプロテクションズの社員によって構成される編集部です。
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