ゴールなきプロセスはない――小学校教師・沼田晶弘さんはどうやって「自ら成長する力」を子どもたちから引き出しているのか?

執筆者: 黒宮丈治

ゴールなきプロセスはない――小学校教師・沼田晶弘さんはどうやって「自ら成長する力」を子どもたちから引き出しているのか?

執筆者: 黒宮丈治

私たちは、学校教育のなかで「指示された問題を解く力」を身につけてきましたが、社会には「答えのない問題」が数多くあります。

言われたことだけをこなすのではなく、その場に応じて自らの意思で動ける人材が求められる時代。社内でそのような自立した人を増やすにはどうすればいいのでしょう。

東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘先生は、ユニークな方法で「自ら成長する力」を子どもたちから引き出しています。いったいどのような教育が行われているのでしょうか? その現場を訪れてきました。

人は「学べ!」では「学ばない」

――まず、先生ご自身のことについて教えてください。なんでも沼田先生のクラスの卒業遠足では、帝国ホテルでディナーを食べて、リムジン送迎をしてもらったと聞きましたが、これは本当なのでしょうか? 

僕が「5代目・世界一のクラス」と呼ぶ2016年卒業の子どもたちが、実際に行ったものです。子どもたちは、この遠足を目標に、1年かけてさまざまなコンテストに応募し、20万円以上の賞金を獲得しました。

僕は「オレたちのクラスって、こんなに楽しかったんだぜ!」と目を輝かせて語れることを、「世界一のクラス」と定義しています。そのために、大人になっても自慢したくなるような、一生モノのゴールテープを切ってもらいたいんです。それも、大人が用意したものではなく、子どもたちが自ら考えたもの。

達成するために応募したコンテストも僕が先導したのではありません。子どもたちが見つけ、企画し、応募したものばかりです。帝国ホテルでのディナー、リムジン送迎というゴールテープを切ることができたのは、子どもたちが自ら行動し、成長していった結果だからです。

――どうやって子どもたちの「自ら成長する力」を引き出してきたのでしょうか?

子どもたちにいくら「学べ!」と言ったところで、自ら学ぶ姿勢ができていなければ、学ぼうとはしません。結局、先生が何を準備して何を教えようが、最後の最後に学ぶのは子ども自身。大切なのは、そのためのシステムづくりです。

例えば、掃除。子どもたちに「○分で掃除しろ」と言っても、時計を見つつ意識するのは難しい。そこで生まれたのが「ダンシング掃除」です。

――踊りながら掃除するんですか? 詳しく教えてください。

みんなが知っている流行歌をかけて「3曲かけるから、その間に終わるように」と言います。すると、時間を意識できるようになる。さらに「ダンシング掃除」の楽しいポイントは、サビになったらみんなで踊ることです。みんなで踊って、サビが終わったらまた掃除に戻るのを繰り返す。掃除時間が短縮される結果が出れば、昼休みが長くなってそれが生徒にとっての報酬となります。

当たり前にできるようになってきたら、曲を少し短い時間のものに変えます。前より作業を早くしなければいけないので大変になりますが、みんな対応しようとする。なぜなら「火がついた」状態になるから。一度火がついてしまえば、子どもたちは勝手に工夫し、いかに効率的に掃除できるかといったことを研究するようになるんです。

沼田晶弘
小学校教諭。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。著書に『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』などがある。

「ちゃんとする」の「ちゃんと」って?

――そうした意欲を生み出すには、何が重要なのでしょうか?

人は大小あれど、みんな承認欲求を持っています。それをどう満たしてあげるかが重要だと思います。できないことをやらせようとしても、すぐに結果は出ないし、承認欲求も満たされない。だから、明確なゴール設定と、それを達成するための仕組みづくりが肝になります。「ダンシング掃除」においては、○分で終わらせるという“ゴール”と、それを達成するための仕組みである“音楽”です。

――仕組みがしっかりしていれば、子どもたちは「ちゃんと」するようになると。

その通りです。ただ今おっしゃったように、大人は「ちゃんと」という言葉を多く使いますが、これは実に曖昧な言葉なんです。いま1年生を担当していますが「ちゃんときちんと撲滅運動」というものをやっています。

先日実際にあったことですが、どれだけ注意をしても、教室の戸が開けっ放しになることがありました。だけど、全員が「開けたら閉めてる」と言うんです。じゃあなぜ開けっ放しになるのか? その原因を子どもたちに考えさせました。

すると、「自分の後ろに人がいたからそのまま戸を開けていた」という声が上がりました。そして、その開いた戸を通過した次の人は「開いていたから、開けたままにしておいてあげた」と。これも全員が「ちゃんと」気を遣っていた結果なんです。その後、「開けなくても閉める」という具体的な言葉に変えたら、見事に開けっ放しがなくなりました。

これは、単にシステムとルールが合ってなかったから起こったことです。「開けたら閉める」は独身の一人暮らしなら通用するけど、教室では違った。営業マンがスーツを着ていたら「ちゃんとしてる」ですが、体育の先生だと「ちゃんとしてない」になる。つまり、状況によって「ちゃんと」は変わります。だから、その曖昧さをなくすことが重要ですね。さらに言えば、システムが上手く作用するようにアップデートしていく必要があるということです。

目標設定にはワクワクする「アナザーゴール」を

――システムのアップデートは学校教育だけでなく、大人の社会にも当てはまりますよね。そして大人の世界の明確なゴールの設定といえば、ビジネスの世界では売上目標などがあると思います。

自力で稼いでいく必要があるとはいえ、大人の立場でもいきなり売上目標だけ掲げられても楽しくないですよね? 「ダンシング掃除」と同じ。人はワクワクしないとやる気になりません。そのためには、テンションが上がる別の目標「アナザーゴール」用意して、楽しく意欲的に取り組ませることが大切です。

例えば、社会の授業で「都道府県の特性について勉強しましょう」と言っても、楽しいと思える生徒は多くありません。そこで「○分で好きな都道府県を選び、その良さを伝える『勝手に観光大使』になりましょう」と伝える。もちろんそれだけでは、ワクワクしません。

どうすればいいか。その上でパソコン教室に移動し、「パワーポイントでまとめてください」と投げかけてみるんです。ほとんどの子どもたちは、パワポを扱うこと自体が初めて。でも、大人が使っているソフトを自分が使えるということでワクワクします。

これは実際に授業として行ったことです。パワポに関しては「困ったら、騒ぐ前に深呼吸して、戻るボタン押せ」しか教えませんでした。社会の授業だったのが、パワポの授業に変化していますが、これこそがアナザーゴールです。

彼らは、「かっこいいパワポを作る」という別のゴールを目指し、そこに到達するためには自分が選んだ地域について詳しく調べなければいけません。アナザーゴールのテープを切っているようで、結果として「都道府県の特性について勉強しましょう」という最終ゴールに向かって走り出すわけです。

――真のゴールに向かわせるために、パワポを持ち出すとはかなり思い切りましたね。

ネットやパソコンについては、僕より彼らの方が上ですよ。だから、そもそも難しいことだとは思っていませんでした。それともうひとつ、大丈夫だと思った根拠は、人は必要にかられれば自ら学ぶ生き物だからです。

「かっこいい水着を着たいから夏までに痩せる」「結婚が決まったから料理教室に通う」といったことは、必要にかられたからこそ生まれる行動です。食べるのが好きな人にいきなり「痩せなさい」と言っても難しいし、料理が苦手な人に「料理できたほうがいいよ」と言ってもなかなか行動しません。健康診断の結果で悪い数値が出ても「肝機能がやばくてさ」なんて自慢している人もいますよね。でも、病気になって自分で死の危険を認識すると運動し、食事制限をするようになる。

人は必要にかられれば、自ら成長する。だからこそ、そのための仕組みづくりが必要なんです。

金足農業高校にみる「勝ちグセ」、プロセスはゴールじゃない

――必要にかられて努力するのは、無意識に誰もが行っていますね。意識化できると様々なシチュエーションで利用できそうです。

今年の夏の甲子園で快進撃を続けた金足農業高校のケースがわかりやすいかもしれません。優勝した大阪桐蔭は、とてもつらいポジションだったと思います。地区大会で優勝しても、史上初の2度の春夏連覇という目標はまだまだ先にある。だけど、金足農業は一つ勝ち上がるたびに「勝った!次も勝ちたい!」と積み上がってきた。いずれのチームも優勝を目指していいましたが、精神的な負担に大きな違いがあったと思います。

大阪桐蔭がそれでも優勝したのは本当に強かったから。だけど、みんながみんな、そんなにスーパーマンじゃない。だから、いきなり頂上を目指すのではなく、達成できそうなゴールをくぐりながら「勝ちグセ」をつけて、「自分たちはできる」と自己効力感を味わいながら進んでいくのがいい。

そして「こんなに昇ってきたんだ」と、たまに振り向かせることも重要です。ここまでやってきたから、もっと昇れる。これも「自分ならできる!」という自己効力感につながります。金足農業高校は、決勝で負けた時がそのタイミングでした。決して優勝候補ではなかったチームが、気づけば「全国2位」ですよ。「負けてもいい」と思って臨んだわけではない。だからこそ、その結果は肯定すべきものになったんです。

――自ら成長する力を引き出し、ゴールに向かうためには、プロセスも重要ということでしょうか?

ゴールさえ決めておけばプロセスは、勝手に積み上がっていきます。むしろゴールなきプロセスは意味がない。よく「プロセスを大切に」と言う人がいますが、プロセスが目的になっては意味がありません。ゴールを目指している人が工夫して、はじめてプロセスと呼べるようになる。明確なゴールさえあれば、ある段階でしっかりラストスパートできます。最終的に同じ目標に向かって「勝ち」に行くことを意識できるようになれば、自ら成長していくはずです。

「世界一の卒業遠足」が象徴的です。企画した当初は、周りの大人は無謀だと言いました。だから、大人たちは「よく頑張ったね」とプロセスばかり褒めようとする。だけど、子どもたちはあくまでも達成しか考えてなかった。僕も当然そうです。さまざまなアナザーゴールを経験し、勝ちを意識できるようになった。だから、ラストスパートもできたんです。

いつも子どもたちが勝手に頑張ってくれています。僕は気がついたら神輿に乗せられているだけです。僕がすごいんじゃない、子どもたち一人ひとりがすごいだけです。そして誰よりも僕が、子どもたちの成長を楽しんでいます。

取材・文:黒宮丈治 編集:松尾奈々絵(ノオト) 撮影:栃久保誠

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執筆者:黒宮丈治
ライター、編集者。営業マン、探偵、水商売、映像ディレクター、ライブハウスの店長など30種以上の職を経験後、フリーライターとして活動開始。取材記事を中心に幅広く執筆。https://黒宮丈治.com
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