「価値と協力の新しいかたち」を考えることで見えてきた2050年の世界_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』アフターレポートNo.3

「価値と協力の新しいかたち」を考えることで見えてきた2050年の世界_THINK ABOUT CONFERENCE『貨幣の束縛』アフターレポートNo.3

2018年10月30日に行われた、THINK ABOUTが主催する初のカンファレンス『貨幣の束縛』。「貨幣」をテーマに、価値や信用の本質、そしてこれからの社会構造を考えた1日となった。

登壇者たちによるパネルディスカッションのあとに行われたワークショップ「2050年の価値交換を形にする」では、この日のために特別につくられた価値交換の新しいかたちを考えるためのビジュアルキット「糸吉」を用いて、参加者同士が自らの手と頭を使ってこれからの価値と協力のあり方を考えた。

「32年後の社会で、果たして人は、何を提供・交換するのか?」を突き詰めて考えることで見えてきた、2050年の姿とは。ワークショップの概要と、参加者たちが考えた未来をレポートする。

「協力のかたち」を模索するための3ステップ

まずはワークショップのルールを説明したい。今回のためにデザインされた「糸吉」とは、以下の3つのステップを通して、2050年に人々がどんな価値を交換しながら社会をかたちづくるのかを想像するゲームである。

(1)「2050年の人物」を想像する (2)「価値」を介して人と人をつなぐ (3)対話を通して未来を考察する
の3つのステップを通して、これからの社会に起こりうる価値の変化、人々が直面しうる課題を考察する。

 

アウトプットを見ながらチームメンバーと対話を重ね、「現代の社会と2050年の社会の違いは何だろう?」「価値交換の場で『お金』はどう変化しているだろう?」「チームで考えた『2050年の社会』を実現するための課題は何だろう?」といった論点を考えてみよう。

「貨幣のない社会」はユートピアか、ディストピアか

ここからは、ワークショップに参加したチームが考えたいくつかの「起こりうるかもしれない未来」と、その未来における課題を紹介する。

まず、多くのチームに共通していたのは「貨幣のない社会」を想定して登場人物たちのつながりを考えていたことだ。未来学者ジェレミー・リフキンが言うところのあらゆるモノやサービスのコストが限りなくゼロに近くなる「限界費用ゼロ社会」の到来、あるいは人工知能/ロボティクスの社会への実装とセットで語られるユニバーサル・ベーシック・インカムの導入により、「食べるためにしなければいけない仕事」(=MUST)がなくなる社会がやってくるということだ。

そうした社会において、人々は純粋に自分の「CAN=できること」を用いて互いに貢献し合うことになるだろう。貨幣のない社会では、その対価として貨幣をもらう必要がないので、他者からの「承認」や「感謝」そのものが対価として機能するようになるかもしれない。言い換えれば、価値を「交換=Exchange」することで成り立つ現在の社会から、「贈与=Give」することが中心となる時代へ変わっていくということだ。

 

こうしたユートピア的、あるいはヒッピー的な発想に対して、同じく貨幣が存在しなくなると考えながらも、違ったかたちで「お金(のようなもの)」は残り続けると考えるチームもあった。たとえば人々がスキルを用いて他者に価値を提供したときに、その貢献度に応じて「信頼スコア」のようなポイントがつくというものだ。もしくは仕事に限らず、電車内でお年寄りに席をゆずったときに「徳スコア」がつくようになるかもしれない。

このように信用や徳を可視化することは、真面目な人や正直者が得をするシステムになると同時に、デイヴ・エガーズが『ザ・サークル』で描いたような、常に他者からの評価を気にして生きなければいけないディストピアにもつながりうるだろう。また一度でも悪いことをした人が社会復帰をしづらくなることも考えられる。

 

「小さな共同体」の時代に考えるべき、孤独と分断

人々がスキルを交換し合って生きる時代において、コミュニティの規模は現在よりも小さくなると考えるチームもあった。人間が互いを認知し合い、関係性を維持できる人数は最大で約150人であることが「ダンバー数」として知られているが、オンラインでもオフラインでも、ひとりの人間が直接かかわれる人数には限りがある。「貨幣」という見ず知らずの人とも価値を交換できる世界共通のモノサシがなくなった時代においては、価値観を共有する小さな共同体が無数に生まれ、人々は顔の見える範囲の仲間とだけ付き合うようになるのかもしれない。

そこで考えなければいけないのは、孤独と分断の問題だ。スキルのみでつながり合う社会において、やりたいことがない人、提供できるスキルをもたない人が、社会から孤立してしまうことになるのは想像に難くない。英国では2018年1月に「孤独担当相」が設立されているが、2050年の社会ではすべての国において、「CAN=できること」がない人を包摂するような仕組みやサポートを提供することが必要になるかもしれない、とあるチームは考察している。

また価値観をベースに小さな共同体が生まれるということは、言い換えれば、価値観の合わない人とはかかわらなくていい世界がつくられることにもなる。すでにしてインターネット上ではユーザーの趣味嗜好に合った情報のみに囲まれるフィルターバブル現象が起きているが、「価値観のバブル」はリアルの世界でも分断を助長してしまうことになるだろう。

成長社会から非成長社会へ

いま、貨幣や価値のオルタナティブなあり方を考えるのがおもしろいのは、「社会は成長し続けるもの」という、これまでの社会制度を支えてきた前提が揺らぎつつあるからだろう。

年収、売上、企業評価額、GDP……身の回りには「貨幣」で測られる数字が溢れており、それが増加することこそが豊かさの象徴だとこれまでは信じられてきた。しかし、経済的に成熟し、今後は人口が減少していく日本社会においては、もはや成長することに豊かさは求められない。いずれ絶滅する(かもしれない)貨幣について考えることは、経済成長を前提としない社会のあり方を模索すること、貨幣以外の「新しい豊かさ」を見出すこと、ひいてはこれからの生き方や働き方を考えることにほかならないことを、このワークショップで感じたのだった。

ワークショップから生まれた未来シナリオについて個人的に印象に残ったことは、決して「貨幣の束縛」がなくなったからといってバラ色のユートピアが訪れるわけではないだろう、ということだ。もちろんいつの時代にもそのときどきの課題があるものだが、孤独や分断、信頼の可視化といった「2050年のありえるかもしれない課題」は、現在の社会にもすでに潜んでいる課題が、極端なかたちで表れたものでもあることにも気づく。「2050年の社会」を考えるワークショップは、「現在の社会をどうしていきたいか」を考えるワークショップでもあるのだ。

◉これからの仕事や価値を届けることは、どのように変化していくだろうか?

◉仕事における対価は、どのようなものが理想だろうか?

◉成長のない時代に、人々は何に「豊かさ」を見出すのだろうか?

◉「孤独」や「分断」といった課題を乗り越えるために必要なことは何だろうか?

ワークショップを通して得られたこれらの問いには、もちろん「ひとつの答え」はない。そして答えがないからこそ、自らの手と頭を使って考え、周りの人々と対話をすることが重要になる。そのプロセスを繰り返すことこそが、未来を闇雲に恐れたり、楽観しすぎたりせずに、「自分たちごとの2050年」をつくっていくことにつながるのだろう。

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◉糸吉インフォメーション

価値と協力の新しいかたちを議論するためのビジュアルキット。

オープンソースのプログラムとして誰でも使えるようになる予定。

http://visuallogue.com/itoyoshi/

執筆者:宮本裕人|YUTO MIYAMOTO
1990年生まれ。フリーランスのストーリーテラー。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修了後、『WIRED』日本版エディターを経て2017年より独立。同年よりストーリーテリングプロジェクト『Evertale Magazine』(https://medium.com/evertale)をスタート。
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