おいしいトマトより、運命のナス。 ファーストキャリアを選ぶときに考えたいこと

執筆者: 坂根扶美
vol07
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おいしいトマトより、運命のナス。 ファーストキャリアを選ぶときに考えたいこと

執筆者: 坂根扶美

私は2013年の10月から約2年間、新卒採用に携わっていました。
採用にかかわり始めた当時私はまだ新卒1年目で、自分の中に確固たる仕事哲学があるわけでも人に語れるような成功体験があるわけでもなく、むしろ、入社早々あまりの自分のできなさに衝撃を受け、毎日泣きながら会社に来ているような情けない人間でした。

そういうわけで「成長するならベンチャーがいいよ!私はこんな能力がついたもの!」等と、他社の採用担当のように自信満々に語ることも、教え諭すこともできず、恥ずかしさや焦燥感を抱えていた記憶があります。
そんな私が目の前にいる学生さんにできることはたった一つ。目の前にいる学生さんと一緒になって「どの道に進んだらこの人は幸せになれるのか」について一生懸命考えることだけでした。
まるで自分のことのように、もしくはそれ以上の想いをもって考えを巡らせていました。
自分のことは、最悪自分でどうにか帳尻合わせられるけれど、人の人生はずっと関われるわけじゃなく点でしか触れることができないので、他人のことを考えるということは自分のことを考えるよりもずっと怖いことだと思っていたのです。

2年間の新卒採用活動で至った「最初に働く場所の選び方」

就活解禁時期にFacebookやTwitterで拡散されていた「最初に働く場所の選び方」(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20150802)というちきりんさんのブログ記事をご存知でしょうか。
彼女とは全く切り口が違いますが、最初に働く場所の選び方については私にもちょっとした思いがあります。
2年間、来る日も来る日もそのことばかり考えていたからでしょう。
考えつくした結果、一つの答えが自分の中に生まれました。それは、「新卒で入る会社を『やりたいこと』で決めるのは難しいのではないか」というものです。

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今までスーパーで野菜を買って、うまいうまいと食べていた人がいたとしましょう。
ある日突然その人の前に神様が現れて、

「あなたは今までスーパーで野菜を買って食べていましたね。
でもそれは誰かが一生懸命野菜を作ってくれていたからできたことです。
あなたはいい歳になったので、そろそろ野菜を作る側にまわらねばなりません。いいですか?」

って言うんです。

その人は野菜なんか作ったことないけど、聞きかじりの知識で「野菜は農家が作っている」ということを知っていました。
なので、農家に雇ってもらおう!と一念発起して農家巡りを始めます。

「農家さん、ぼくを雇ってくださいな」

そう言うと、農家は

「君はどんな野菜を作れるの?」

と聞いてきます。

はて、どうしよう。
野菜なんて今まで作ったことがないぞ。
こまったその人は無理やり言葉をひねり出します。

「ぼくは、トマトが好きです。おいしいし、赤くてきれいだから。」
「そうじゃなくて、君は、何を『作れる』の?トマト?キャベツ?ナス?」
「うーん、作ったことないからわかんないけど、食べておいしいんだからトマトを作りたいんだと思う。たぶん」
「……ほんとに?」

Diffirent ways of a business man

このちぐはぐさが、いろんなところで起こっているんだろうなぁ、と思います。
作ったことないけど、作れるものは?って問い詰められるから、一生懸命情報を集めて、想像して、自分が作りたいだろう野菜を頭の中で作っていく。

でも、それって難しいと思うんですよ。
だって、作ったことないんだもん。
連想ゲームみたいに作りあげた「やりたいこと」なんて、何の価値があるんだろう。
「真に何かを理解するのはそれを体験した時だけだ。」という強い思い込みを私がもってるからそう思うのかもしれません。

野菜作ったことない人に何作りたい?って聞くのもナンセンスだし、
作ったこともないのに、「トマトが好きだから、トマト業界の発展に携わりたいです!」なんて、したり顔でいうのもなんだかむずがゆい。

じゃあ、何を基準にして農家を選んだらいいんだよ、って話ですよね。
私は、「やりたいこと」とやらはとりあえず置いておいて「のびのび育つことのできる環境か」という観点で選ぶのが良いという結論に至りました。
その環境に必要な要素は次の3つだと考えています。

1. 寛大な地主がいる
2. 土地が肥えている
3. いろんな種類の種を持つことができる

【1.寛大な地主がいる】
失敗を恐れずどんどんチャレンジしろ!どんと行け!と、背中を押してくれる寛大な地主。
恐怖による支配ではなく、自律を求められる厳しさ。
そういう社風だといいね、という話。

【2.土地が肥えている】
どんな種をまいてもいい感じに育つ土地。
何やっても土地が貧弱すぎて枯れる……(涙)。なんて、モチベーションが続きません。
前向きで気持ちいい人たちがいてチーミングがうまくいってそうとか、既存事業が伸びててお金とかナレッジとかが豊富にあり、新しいものを育てていける、みたいなイメージ。

【3.いろんな種類の種を持つことができる】
トマト、キャベツ、ナス、複数種の栽培をすると比較検討ができる。
いろんな作物を育てていく中で、
「トマトはおいしいけど、工程が細かい。細かい割に味に差が生まれなくてつまらん。」
とか、
「ナスはそんなに好きじゃなかったし、温度管理や水の量の調整がめんどくさい。でも、花がすごい綺麗でねぇ。
あの花を見ると、そんな苦労吹き飛ぶんだ!あの感動が忘れられない。」
とか、感想が生まれるわけです。
その時初めてこの人は
「あー。自分はナスを作るために生まれてきたんだな。」
と気づきます。
そうなったときに初めて「やりたいこと」を軸にした選択をすればいいのです。

「ナスで有名な農家が高知県にあるらしいのでそこに移ります!」
って言って転職するのもありだし、
「土作りとか、ビニールハウス作りにも興味があるから、自分の土地買っちゃった♡」
って言って独立するのもいいだろうし、
「いい品種のナスつくるから、この区画貸して!」
って言って社内起業なんていうのも可能かもしれない。

なんとなく選んだトマトより、これが運命だと確信し、思いを込めて作るナスの方がずっとおいしい気がします。
全ての条件を揃えて走り出さなくてもいいというか、そんなのきりがなくて無理だと思うのです。
最低この三つが揃った環境があれば、あとは自分次第。恐れずたゆまず日々邁進していくのみ。

学生の時にこんなことを考えていたわけではないですが、振り返ってみると自分自身この観点で会社選びをしていたなと思います。
この考え方が本当の本当に正解かどうかはわかりません。
もしかしたら、私は壮大な失敗をしたのかもしれない。何者にもなれずに死んでいくのかもしれない。

でも、よくよく考えたら未来は不定形で誰も知らないし、選べるのはいつもこの瞬間だけ。
この世に絶対的な正解など存在せず、私たちはいつだってその時もっとも良いと信じた選択肢に手を伸ばすことしかできません。
その選択が過去のものとなり、眺められるくらいの距離ができて初めて評価ができるのだと思います。
今この瞬間、あのときの選択について思いを巡らせてみると、「ほかのどんな未来が待っていたとしても、今、ここに存在できて良かったな」という思いでいっぱいになる。それだけでもう十分私は幸せ者だなと思うのです。

choosing fresh eggplants

運命の野菜を見つけたあなたが次にすべきこと

この農家探しの話は新卒採用を担当してた時に考えていたことです。採用活動を終えて1年、今になって一つだけ付け加えたいと思うことが出てきました。
それは、運命のナスを見つけたのなら次の決断をしなければならないということです。
先に書いたような基準で選んだ農家はきっととても居心地が良く、毎日が楽しいことでしょう。
人は基本的に怠惰で低きに流れる生き物だと思っています。だから、たとえ運命のナスが見つかったとしても、強い気持ちがなければ「まぁここでナスをゆるゆる作り続ければいいか」とずるずるしてしまう。その瞬間、運命のナスはぶすぶすと腐ってその形を失い、知らない間に自分の手からこぼれ落ちていってしまいます。

この書き方だと「最初に入った農家を捨てて外に出よ!」みたいに聞こえるかもしれないのですが、そういうことが言いたいわけではありません。
会社の中にいる・外にいる、一人でやる・組織でやる、というのは些末な問題であり、
ただただ自らの手でナスに関する決断をせよ、ということが言いたいのです。
学生時代に最初の農家を選んだ時のように。

最後は完全に自分への叱咤激励となってしまいましたが、この話で肩の力が抜けたり、思考の枠が取っ払われたりしたらとっても嬉しいです。
みなさんにとっての良き農家が見つかりますように。

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執筆者:坂根扶美
研究の道を志して大学院に進学するも、学生時代に立ち上げた「新妻カフェ」の企画運営経験から、
自分のアイディアを形にすること、人を熱狂させること、そしてその対価としてお金をいただくことの面白さを感じ、
「これってビジネスというやつでは!?おもしろーい!」と思い、民間就職の道へ。
ビジネスを楽しみつつも、自分らしく、飾らず、真っ直ぐ生きていける場所を探し求めた末、運命的にネットプロテクションズと出会い、2013年に入社。
入社後は法人営業、WEB企画、新卒採用・研修と幅広い業務に従事。
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