人間性をつなげ合う、学生と高齢者の同居支援事業

人間性をつなげ合う、学生と高齢者の同居支援事業

独居高齢者と学生の住居シェアを支援する非営利団体「アンサンブル・ドゥー・ジェネラシオン」。2006年から年間650組、総計5千組をマッチングしてきた。住居不足と高齢者の独居不安というふたつの問題を一度に改善する社会事業の成功のカギは、“人間性”への回帰にあった。

Words Junko TAKASAKI Photo Ensemble 2 Générations

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100歳のロレットさんが27歳のマムートゥさんと同居を始めて、1年が経った(冒頭の写真)。かたやフランス生まれフランス育ちのカトリック教徒女性、こなたアフリカ・マリ出身のイスラム教徒で情報工学を専攻する男子学生。属性だけを見ているとおよそ共通点のないふたりだが、週末や夕食後にはテュトワイエ(家族や友人に使う非敬語)で何時間も話し込む。話題は歴史や宗教、時事問題だ。

「マムートゥは故郷のマリのことを聞かせてくれる。わたしは戦争をいかに生き抜いたか、なんて話をするわね。夫の思い出話も、孫たちはあまり興味をもたないけれど、彼は聞いてくれるのよ」。ロレットさんがそう語れば、マムートゥさんは笑顔で頷く。「ぼくはフランスについて知りたいことばかりですから。宗教のこともよく話しますね。マダムとは信仰が異なるけれど、話すほど、価値観は同じなんだとわかるんです」。

「ね、彼って哲学者でしょ?」。そう言い添えるロレットさんは、いかにもうれしそうだ。「歴史や宗教の話をしていると、世代の差なんて感じないの。わたしは100歳、あなたは27歳。で、それがどうかした?ってね」。

出会うべくもない環境にいたふたりを結びつけたのは、「Ensemble 2 Générations(アンサンブル・ドゥー・ジェネラシオン)」。2006年にスタートした、独居高齢者と学生の同居を支援する非営利団体だ。

独り住まいの孤独や不便、不安に苛まれる高齢者に“同居者がいる安心”を与え、学生には学び舎からのロケーションのよい住居を無料もしくは格安で提供する。現代社会の問題を組み合わせて解決する事業は高齢者・学生の両者から高く評価され、パリから発した事業は全国に支部を拡大。現在は国家年金機構の後援のもと、活動の幅を欧州連合まで広げている。

共存がソリューションとなる

「きっかけは、現代社会の3つの問題認識でした。若者の住居問題と、独居高齢者の生活不安。そして近い将来、避け難くやってくる高齢化です。2030年代の初めにはフランスの高齢者は1,000万人を超えるともいわれますが、介護付き高齢者ホームの受け入れ数は100万人分ほどという、深刻な見通しがありました」。アンサンブル・ドゥー・ジェネラシオン パリ事務局のカトリーヌ・ガルニエさんは、団体創設の経緯をそう語る。互いに不足を補い合える両世代の共存は、そのまま社会問題のソリューションとなった。

カトリーヌ・ガルニエさんは1961年パリ郊外生まれ。広報とマーケティングを学んだのち、広告業界でキャリアを積んだ。「アンサンブル・ドゥー・ジェネラシオン』のアソシエーションには2015年に参画し、以来パリ圏を中心にマッチングを手がけている。Photo by Manabu Matsunaga

短期間で事業が拡大したのは、そこに真の社会的な要請があったから。しかしそれだけではないと、カトリーヌさんは熱を込める。「それはこの事業が、“人と人のつながり”を再生するからです。人間はどうしたって、生身の人間とつながることが必要です。何もかもネット注文で配達可能な時代になっても、それは変わりません。わたしたちは間借り部屋の斡旋ではなく、“誰かと共に住む生活”をアレンジしているんです」。

共に暮らすことで、よりよく生きる。その事業哲学は、マッチングの仕組みと手順全体に徹底されている。まず学生側も高齢者側もすべて自主的な希望制で、団体側が“営業”をかけることは双方ともにない。事業哲学に賛同できる人だけを集めるスタイルは、常に利潤と追求せねばならない営利団体にはできないものだ。

学生側のファーストステップは、A4・2枚の願書を提出すること。文面には姓名や生年月日などの基本情報に加え、記載しながらこの事業の意義を理解し、それへの賛同を決意できる内容が盛り込まれている。その好例が、以下の「3つの共同生活コース」の選択だ。学生は自分の学問や経済状況に合わせて、可能な共同生活のあり方を自主的に選ぶ。

コース1:家賃無料+夜間見守り。平日・週末の日中は自由行動。夕食時間(19時もしくは19時半)には帰宅して、夜間は善意をもって高齢者と過ごす。自由時間は、平日は週に1夜、週末は月に4夜、4週間のバカンス(そのうち1週間はクリスマス時期)あり。団体に年間390ユーロ(約5万円)の会費を支払う。

コース2:家賃100ユーロ+相互扶助。同居高齢者の趣味(観劇、読書、ネット通信など)に同行する他、定期的に家で共に過ごす。団体に年間390ユーロの会費を支払う。

コース3:家賃350〜500ユーロ(パリ価格。地方は250〜350ユーロ)+好意的な同居姿勢。高齢者への手助けは「頼まれたら」という受動的なものでよし。共同生活のなかでの必要に応じて相互扶助する。団体に年間300ユーロの会費を支払う。

願書を受け取ったら、事務所で面接を行う。これが最も大切な時間であると、カトリーヌさんは言う。「ひとり当たり1時間ほどかけて、彼らの人間性やこの事業への理解、モチベーションを細やかに見ていきます。繰り返し伝えるのは、金銭面のメリットだけではなく、高齢者を助けながら暮らす生活を重視してほしいということですね」。

82歳のイヴさんと26歳のシャルル・アントワーヌさんの共通点は“政治への興味”と“多趣味で忙しいこと”。互いに干渉せず、一緒に過ごす宵は週1回と決め、政治談義に花を咲かせる。その際の夕食は持ち寄り制だそうだ。Photo by En-semble 2 Générations

一方、高齢者側は本人のほか、彼らの子どもたちが連絡してくることが多い。核家族化の進んだフランスでは世帯間同居は稀で、移動や滞在の自由な欧州内の外国に子が移住していることもある。それでも親にはできるだけ安らかに生きてほしい、彼らの近くに誰かがいてほしい。そんな願いから、団体にコンタクトをとるパターンだ。

「高齢者との面接は、自宅にうかがって行います。住居設備やご本人の生活パターン、性格などを確認しますが、最大の目的はこの同居に、高齢者や家族が何を求めているかを見極めることです」。そうカトリーヌさんが言うだけ、高齢者側の動機はさまざまだ。防犯面や運動能力の低下による独居不安がやはり多いが、そのなかでも、付き添いなど物理的なヘルプを必要とするのか、折々の話し相手がいればいいのかなど、要望にはグラデーションがある。独り住まいに不安や不満はないが、余り部屋を活用して学生を助けたいという声も少なくない。

安価であっても信頼できる相手に有償で提供し、年金生活の足しになればと考える人もいる。団体はそれらの動機に優劣をつけず、丁寧にすくい上げていく。どのケースにも、それぞれに呼応する学生がいるからだ。「お断りしているのは、医療的な介助の必要がある場合。学生はプロの介護者ではないので、わたしたちの団体にはそぐわないケースです。また、これはあくまで善意に基づく同居であること、学生は独立した尊重すべき存在であることも、強調して伝えます」。

学生・高齢者とも適正と判断できた段階で、マッチング作業に入る。学校へのロケーション、希望の同居コースと擦り合わせ、最も重要なのが“人間性のマッチング”だ。「性格面や生活スタイルはもちろん、趣味や興味の対象、生い立ちや家族との来歴、専門の学問分野や職業まで見ます。数値化しにくい繊細な面だからこそ、同居の成功をいちばんに左右するんです」。

アンティーク家具を愛する男性には、伝統家具の職人学校に通う学生を。料理自慢の女性には、お菓子づくりが趣味の学生を。エジプト育ちのマダムに北アフリカ系家庭出身の学生をマッチングさせ、素晴らしいコンビを形成したこともある。おしゃべり好きな人同士、干渉を好まない人同士、という性格的な組み合わせ方もまた、効果的だ。

冒頭で紹介したロレットさんとマムートゥさんを結びつけたのも、この人間性の共通点にほかならない。効率よりも哲学を優先する非営利団体だからこその、細やかな人間観察が可能にしたコンビ例だ。この繊細なマッチング作業が当事業の真骨頂だと、カトリーヌさんは胸を張る。

これぞ、というマッチングが見つかったら、学生と高齢者を引き合わせ、ふたりで数時間過ごしてもらう。その後、双方の合意を確認するが、引き合わせたコンビの98%は合意が成立しているという。

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