社会の変化を牽引するリ・ジェネラティブな都市の在り方【最終回】―地球の生態系との共生的な未来を人類は歩んでいけるのか?―

社会の変化を牽引するリ・ジェネラティブな都市の在り方【最終回】―地球の生態系との共生的な未来を人類は歩んでいけるのか?―

次世代の思想を探求し、社会に実装するための領域横断型サロン「Ecological Memes(エコロジカル・ミーム)」発起人の小林泰紘氏が見据える、これからの都市の在り方とは? 新型コロナウイルスの世界的流行を受け、人が地球環境と共生するリ・ジェネラティブな都市の姿を考えていく。

Words Yasuhiro Kobayashi @ BIOTOPE Photo Mario Tama/Getty Images

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【vol.1-3】までの記事を執筆したのは2019年10月ごろだったのだが、その後、世界の状況は一変した。

2019年12月に中国の湖北省武漢市で最初の症例が確認された新型コロナウイルス(COVID-19) は、瞬く間に世界中に急拡大し、3月29日現在、世界で3万人以上の死者、70万人以上の感染者が確認されている

何よりもまず、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、こうした状況のなかで今もなお最前線で対応し続けてくださっている医療機関や行政の方々、そして日々の生活インフラを支えていただいているすべての方々に感謝と敬意を表したい。

今回のパンデミックから僕らは何を学べるのか?

ここまで3回にわたり、僕が世界で出合った都市の風景を紐解きながら、これからの都市の在り方・人の群れ方を考えてきたが、今回の新型コロナウイルスの現象は、今後の人間の活動に大きな転換のきっかけを与えてくれているような気がしてならない。

例えば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による経済活動の停滞で、地球環境の改善とも呼べる現象が起こっている。

フィンランドの独立研究機関であるセンター・フォー・リサーチ・オン・エナジー・アンド・クリーンエアー(CREA)の分析によると、経済が減速した影響で中国だけでも2億トン分の二酸化炭素(CO2)が大気中に排出されなくなり、これは中国のCO2排出量は25%にあたるそうだ。

また、CNNによれば、本連載の【vol.2】でとりあげたインドでも、ロックダウン(都市封鎖)の始まった3月25日から、深刻なレベルに達していた大気汚染物質が激減し(微小粒子状物質PM2.5の濃度は、同20日から27日にかけて71%も低下)、青空が戻っているのだという。

イタリアのベネチアでは封鎖措置により、観光客の出すゴミがなくなり、水上交通量もほぼ皆無に。それに伴い、水質改善が観察されているという。Photo by Marco Di Lauro/Getty Images

だが、これは“良かった、良かった”で終えられるような話ではない。その背後で、根本的に突きつけられているものに僕らに目を向けなければならない。金融危機などの経済停滞による環境改善は過去にも起こったが、一時的なものでしかなった。喉元過ぎれば熱さを忘れ、人類は元通りのパラダイムのなかで環境搾取型の経済活動に勤しみ、同じ行動パターンを繰り返してきたからだ。

『21世紀の資本』(みすず書房)の著者トマ・ピケティは『COURRiER』の記事のなかで、これまでどんなに環境問題が指摘されても止めてこなかった経済活動を、世界中で一斉に止めるような決定が下されたことへの驚きとともに、ある意味で「社会が感染症リスクには敏感なのに、環境問題のリスクには鈍感な社会」であることへの危惧を述べている。

しかも、今回のような人獣共通の宿主域をもつ新興感染症の発生は、これまで人類が地球環境の複雑な生態系やほかの生き物の生息地を過剰なまでに侵食・開拓し、持続可能性・生物多様性にかかわる深刻な問題を引き起こしてきたこと無縁ではないだろう。

ソニーCSL(コンピュータサイエンス研究所)の船橋真俊氏も、同研究所が発行しているメールマガジン「T-pop News No.177」に寄稿した記事で、地球の生態系やウイルスの視点から今回の現象を紐解き、「COVID-19は人類が集団的に先送りしてきた課題を、たまたま顕在化してくれる」のだと書かれている。

では、こうした状況を前に、僕らにはどのように世界と向き合い、新たな社会システムづくりに向けて動き出していけるのだろうか? ここでは、本連載でも扱ってきた都市の在り方を、人間だけの世界に閉じない視点、すなわち他の生き物や地球環境をとのつながりに踏み込んだ視点から考えてみたい。

人の世界に閉じない視点で都市を捉える

【vol.1-3】では、「循環社会」「複雑系ネットワーク」「リバブルシティ」「生態系」などをキーワートに都市の在り方や人の群れ方を考察してきたが、その土台にあるのは、経済活動の集積地やテクノロジー起点の都市ではなく、人の暮らしや豊かさ(ウェルネス)と支える舞台として都市を捉えていく、すなわち人間中心の思想をベースとした都市づくりの流れだった。

紹介してきたアムステルダムやプネ、マルメや博多などの事例は、工業時代的な大規模開発や資本主義社会への過度な偏り、あるいはテクノロジーやデータ主導の都市デザインに対してまちに人間性を取り戻していく潮流であり、少し視点を引いてみると、アメリカで1960年代にモータリゼーションに伴う近郊都市開発への反対運動を起こしたジェイン・ジェイコブズが提示したような都市計画の原則の延長上に、社会発展・成熟に伴い回帰や揺り戻しが繰り返し起こっていると考えることもできる。

だが、それらはまだ、連載冒頭で書いたような惑星規模での持続可能性や生物多様性への危惧への応答になっているとは言い難い。もう一歩踏み込んだ、人間だけの世界に閉じないポストヒューマンセンタードな視点、すなわちほかの生き物や地球環境との共生に踏み込んだ視点から都市を捉えることはできないだろうか?

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