アンコンシャスバイアスをくずす、優れたやり方

アンコンシャスバイアスをくずす、優れたやり方

いま、日本社会に長く根付いた「無意識の偏見」に、国際社会が「NO」を突きつけている。アンコンシャスバイアスに正しく向き合い、その無意味さを、身をもって知るために具体的に何ができるのか。そのためのひとつのアプローチを、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)が実践している。

Words Sota Toshiyoshi Photos ©JBFA/H.Wanibe

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これはもはや、リスクである

アマゾンや書店の棚に並ぶ雑誌やビジネス書の新刊を見ると、いまだに「組織にはイノベーションが必要だ」という文句が踊り、溢れ返っている。そして、そのためには「オープン」や「フラット」「ダイバーシティ」が欠かせないという話も、語り尽くされてきたはずだ。それなのに、いまこの瞬間も、閉鎖的でヒエラルキー型で偏見に満ちた組織が、日本を代表する負のサンプルとして世界の冷たい目に晒されているのはどうしたことか。

2021年2月上旬、「女性がいる会議は長くなる」と発言した当の本人は、結果的に、世界的なスポーツ大会の日本での開催を見届ける立場から引きずり降ろされることになった。しかし、その退任をもってしても問題は終息しない。後任を選ぶプロセスも「密室」で「一方的なトップダウン人事」だったと報じられ、世論の炎上に油を注ぐことになった。おそらく当の本人もその周囲も、一連の発言・振る舞いがこれほど大きな問題になろうとは想像すらしなかったのではないか。

「いかなる差別をも受けることなく」と定めた憲章をいただき、日ごろ国際的な議論がされているはずの組織にいる彼らが、「ダイバーシティ」「多様性」という言葉を知らなかったはずがない。けれども差別意識はついつい言葉に、態度に出てしまう。これぞまさに「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」であろう。いま社会において取り除かれなければならないものとして、多くの企業が研修などで取り入れ学んでいるアンコンシャスバイアスは、こんなにも根深く身近で、同時に大きな危険をはらんでいるのだ。

これからのビジネスに欠かせないアンコンシャスバイアスに、どう向き合えばいいのか。それを考えるための重要なメッセージを発信している組織としてお話を伺ったのが、NPO法人「日本ブラインドサッカー協会(JBFA)」。JBFA専務理事兼事務局長の松崎英吾さんに、Zoomでの遠隔インタビューを実施したのは先の問題発言の1カ月前のことだった。

2007年にJBFA協会事務局長に就き、現在は専務理事も兼任する松崎さん。大学在学中にブラインドサッカーと出合い、卒業後は出版社に勤務する傍ら、ブラインドサッカーの体験会などを企画してきた。

ふたつのミッション

松崎さんのお話を紹介する前に、そもそも「ブラインドサッカー」とは何なのか。フットサルをもとに考案されたということもあって、ブラインドサッカーではコートの広さもプレイヤーの数もフットサルと同じ。40×20mのピッチ上に、1チームにつき4人のフィールドプレイヤーとゴールキーパー、ガイドが立つ。

フットサルとの大きな違いは、その名の通り、視覚に障がいをもった選手がプレイできるように考案されたという点だ。実際のプレイ動画を観ればわかるとおり、選手たちが追いかけるボールからは中に縫い付けられた金属プレート音がして、転がる方向、スピードを教えてくれる。

4人のフィールドプレイヤーはアイマスクを着用するため、
視覚に障がいをもつ者もそうでない者も、ピッチに立てば視覚的な条件は皆同じ。
競技中はお互いに声を掛け合い、力を合わせて対戦相手に挑む。

 

フィールドプレイヤーにはアイマスクとアイパッチの着用が義務づけられているが、それはプレイヤーによって異なる視覚障がいレベルを揃え、条件を同じにするため。正式競技として認められているパラリンピックでは、フィールドプレイヤーについてはB1クラス(全盲から光覚まで)の選手のみが出場資格を得るが、アイマスクをするのだから、視覚障がいのない者も競技に参加できる。「誰もが参加」でき、「障がい者と景色を共有」できる競技として近年人気が高まっているのも、納得できる。

この競技の振興に努めるJBFAが、本格的に活動をスタートしたのは2002年。「大学3年生のときに友人に誘われて、初めて競技を目にした」という松崎さんは、卒業後も本業のかたわらJBFAの前身団体に参加。2007年、発足間もないJBFAの事務局長に就任した。

JBFAが目指すゴールは、まず日本におけるブラインドサッカーの競技レベルを引き上げることにある。現在、全国にはブラインドサッカーのクラブチームが30、ロービジョンフットサルのクラブチームが3チーム存在するが、ともに選手育成に尽力している。

そして、JBFAのもうひとつの大きなミッションが、ダイバーシティとインクルージョンの思想を日本に定着させることだ。「障がい者に対する眼差しを変えることが非常に重要だ」と言う松崎さんたちは、「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現する」というビジョンを掲げている。

「障がいのある方々の生活には、『社会的な不利』が実際に存在します。それを解消するには、テクノロジーの活用やサービスそのものの改善も必要です。それに加えて、周囲の人々の彼らに対する眼差しを再設計していく必要があります」

JBFAでは、小中学校での体験学習から企業研修に至るまで、地道ながらも数多くの機会をつくってきた。2020年はコロナ禍の影響で減ったものの、これまで年間600回を超える体験学習を実施し、200件前後の企業研修を行ってきたという。

JBFAは、個人向けの体験プログラムをはじめ、小中学校向けの体験授業や企業向け研修を提供してきた。現在は感染症拡大への配慮から、オンライン配信を活用したセミナー形式のイベントを中心に随時開催している。©JBFA

気づきを与える強力なツール

一方で、ブラインドサッカーはビジネス研修の場で、よき「ツール」として受け入れられる可能性が非常に高い。

人は外からの情報の約80%を視覚から得ているともいわれるが、ブラインドサッカーでは、アイマスクを身につけるだけで容易にそれを遮断できる。情報を遮断されたときにコミュニケーションにかかる大きな負荷をいかに補い、心細さを解消するか。チームワークと利他精神の養成が課題として立ち上がることの多い企業研修において、これほど強力なツールはない。

「企業に提供する際には、求められる声も明確です。チームビルティングに活用したいとお声がけいただくこともあれば、半期に一度のキックオフ会でやりたいとおっしゃっていただくことも。コミュニケーションが大事だと頭ではわかっていても実際にはできていない、ということはよくある話ですが、それを『物理的に不可能』な状態にすることで、ようやく実感できるのです」

それはそのまま、組織内のダイバーシティ理解の促進にもつながっていく。キーワードは「内発的動機付け」だ。

「自分とは異なる他者に対するステレオタイプは、避けがたく根付いてしまっているものです。例えば、チームに外国人のスタッフが参加することもあれば、管理職における女性の割合を高める目標を設定することもあるでしょう。いずれの場合も、外から与えられた変化では、無意識のバイアスはなくなりません。では、どうすれば変わるのか。その答えのひとつが、身体的な感覚を伴うかたちで、意識が劇的にひっくり返るような体験をすることです」

見ることを禁じられると、いま自分が向き合っているシチュエーションにフォーカスせざるをえなくなる。プレイ時間の数十分、同じ状況をともに過ごした人とは、普段の職場では感じることのできない人間性やお互いとの関係性を共有できる。

「わたし自身、若いころに在籍した企業で受けた研修では、座学だったら寝てしまうと思ったり、聞き流してしまうこともあった」と笑いながら、松崎さんは「身体感覚を伴うスポーツと、そこで用いられる『目隠しツール』のパワフルさは、間違いなく大きい」と語るのだ。

日本におけるブラインドサッカーの普及と、競技者育成に携わるJBFA。競技を入り口にダイバーシティ推進に寄与する日本での取り組みは、世界でも先進的なものとして注目されている。©JBFA/H.Wanibe

KPIを設ける

2020年、JBFAはひとつの大きな発表を行った。一般向けに公開された「UB-Finder」という名のプログラムは、人が障がい者に対して無意識にもつバイアスを数値化・可視化できるというツールだ。もとになった研究は、ワシントン大学、バージニア大学、ハーバード大学、イェール大学などの基礎研究に基づき開発され、心理学の分野で広く用いられている手法(Implicit Association Test、IAT)だ。

物事を可視化し、数値化することで目標達成までの進捗を測るのは、ビジネスにおいては当たり前のこと。しかし、「神聖なるスポーツ」の世界における功績を数字で語ることを疑問視する声も上がるし、話が「社会福祉」や「障がい者理解」となることで、ともすれば、そのプロセスは曖昧になりがちだ。しかし、JBFAはゴールまでの道のりを不透明にしないことを選んだ。

「スポーツの力は強大です。ただ、スポーツは、暴力を助長したりナショナリティを助長したりする危険もはらんでいます。だからこそ、スポーツ界は社会の何に役立っているのか、そこに関わるわたしたちは常に考え、主体的に走っていかなくてはなりません。そして、それは社会課題の解決も同じ。市場原理では理解されにくい領域を扱っているからこそ、あえてビジネスのロジックに則る必要があると思っています」

取材当日のZoom上には、大学院で統計学を学び、いまJBFAでUB-Finderの開発に携わるスタッフが参加していた。そしてインタビューの最後に明かされたのは、Zoomで上半身だけが映し出された状態でさまざまな説明をしてくれたそのスタッフが、車椅子に座っていたという事実だった。

「UB-Finder」に携わる宮島大輔さんは、大学院生のころからボランティアスタッフとしてJBFAに関わってきた。「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会」を目指すというビジョン同様、多様なスタッフが参加しているのもJBFAの特長。

これぞオンライン取材だからこそ感じることのできた自らの偏見と、「ひっくり返る」ような経験。無意識の偏見に、人は簡単に陥ってしまう。そして無意識の偏見ほど、意味のないものはないと気づいたのだ。

松崎英吾
日本ブラインドサッカー協会 専務理事 兼 事務局長
1979年生まれ。国際基督教大学卒。学生時代に偶然出合ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後、ダイヤモンド社などに勤務。企業での業務の傍らブラインドサッカーの手伝いを続けていたが、「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いで退社。その後、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に不満を抱き、障がい者雇用についても啓発を続ける。事業型で非営利でありながら、持続可能なスポーツ組織を目指す。https://www.b-soccer.jp  ©JBFA

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