この国の未来は、自分たちでつくる

この国の未来は、自分たちでつくる

若者の“政治的無関心”が叫ばれるなか、市民の声を政治家に届けるしくみづくりに奔走する現役大学生がいる。投票以外での政治参加を促すのは、未来の選択には政治・社会への関心が不可欠だから。アメリカでの市民運動を目の当たりにし、今年『Weの市民革命』(朝日出版社)を上梓したニューヨーク在住の文筆家・佐久間裕美子が、PoliPoli代表の伊藤和真さんにインタビューした。

Words: Yumiko Sakuma Photos: Tohru Yuasa

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新型コロナウイルスの到来から五輪開催までの流れのなかで、日本でもいまだかつてないボリュームで声が上がるようになってきた。パンデミックという危機において政治に民意を伝えることの重要性を痛感するが、SNSやハッシュタグの普及により、民意のうねりを形成することが可能になった一方で、市井の住民と政治家のコミュニケーションといえば、いまだに電話、ファクス、街頭演説が主流で、日本におけるインターネットと政治の関係は、まだまだ未熟といわざるを得ない。そんななか、慶應義塾大学在学中に、市民が政治家に直接意見を届けることのできるプラットフォームを立ち上げた人物がいる。「PoliPoli」の伊藤和真さんだ。

もともと政治への関心は高いほうではなかった、という伊藤さん。コードを勉強してつくった俳句投稿アプリ「俳句てふてふ」を公開し、これがブレイクしたことをきっかけにインターネットのパワーを知った伊藤さんの関心を、最初に政治に惹きつけたのは、アナログな政治の“イケてない”ところだった。

「(2017年の)衆院選前、街頭演説を見て、インターネットがこれだけ普及しているのに(なぜ街頭演説なのか)単純に不思議で、議員さんたちに『なんで街頭演説してるんですか?』って聞いてみたんです。インターネットは、ユーザーが興味をもたないと来ない場所だから、いろんな人にアプローチできるいわばプッシュ型の街頭演説をやっていて、それをやらないと怒られるという説明を受けて。だったら根本的に何か変えられたらなあって思ったんです」

株式会社PoliPoli CEOの伊藤和真さん。 F Venturesの東京インターンとしてスタートアップ投資にかかわった後、2018年春に毎日新聞社に俳句アプリを事業売却。現在、政治プラットフォーム「 PoliPoli」を運営中。 慶應義塾大学4年生。現役学生として初めて九州大学にて非常勤講師を務めた。

自分自身の政治への関心が低かった背景には、1998年に生まれ、SNSとともに育ってきたZ世代に漂っていた空気感があった、と振り返る。

「SNS世代なので、常に周りの目線に晒されたなかで意見を言うという環境下で、協調を重んじる。政治を語り出すとか、何かを変えたいというのはちょっと……という空気感があったと思うんですね。気候変動とか、社会関心は高い世代だとは思うんですけど、政治と結びついていなかったんです」

“政治”を、どこか遠い世界で偉い人たちの間で決められているものだと感じていた伊藤さんだが、政治家と話をし、“何かを変えたい”と思ったことが、政治家が推進する政策を、ユーザーが応援したり、意見を伝えたりすることのできるプラットフォーム、PoliPoliが誕生するきっかけになったという。

かつての自分のように、政治とは関係がないと感じる人が多いのは、自分の意思が反映されることの薄い現行のシステムへの失望感だ、と伊藤さん。

「例えば投票するとします。小選挙区だとしたら、たくさんのイシューがあっても投票できるのはひとり。その時点で反映される自分の意見は限りなく小さくなり、議員には党内や派閥によって揉まれたりするから、有権者の存在は政策決定のなかでもかなり薄くなる。投票率が低いことの原因は、政治の成功体験がないからで、結局変わらないじゃん、汚職ばかりじゃん、となっていく」

インタビューは佐久間さんが帰国中の8月に実施。世代は違えども、偶然にも同じ大学で、愛知県に縁があることもあり、終始和やかなムードでの取材となった。

一方で、インターネットでは、政治の何倍も早い速度でイシューを可視化してきた。伊藤さんが目指すのは、そのギャップを埋めること。選挙で議員を決めて「あとはお任せ」方式の間接民主制と、国民がイシューに投票する直接民主制の間に位置するデジタル民主主義のプラットフォームである。

「これまで可視化されていなかったマイノリティの声がつながって、クラスのひとりが抱えるイシューでも、日本中だったら300万人の声になる、というように、どんどん多様化してきた。多様化した世の中で、イシューがものすごいたくさんあって、多くの人が1票の有効性はないと感じている。とするなら、時代の必然として、投票以外に、ちゃんと意思表示するっていう場をつくることが大切だと感じています」

『Weの市民革命』の執筆のために、自ら意識的に政治・社会とかかわる機会を増やしたという佐久間裕美子さん。市民運動やデモにも積極的に参加し、選挙以外にも政治に声を届けられる方法を模索する一方、Weのための行動に誘うメディア「Sakumag」なども運営する。

21世紀に入っても街頭演説が重んじられてきた日本の選挙では、顔や知名度がものをいってきた。かつての自分のように、政治に関心がない、政治と生活がつながっていない層のエンゲージメントを高めることも課題のひとつだ。

「僕はダンスをやっていたんですが、政治に興味がないという人でも、夜中にダンスの練習をする場所がないという問題があったりして。ストリートカルチャーに対する理解が促進されたらいいよね、っていう話から、『それって実は政治なんだよ』と説明する。政治、関係ない、やばいって思ってる人が大半だと思うんですが、そういう生活の延長上で政治に参加できる道筋をつくりたい」

2018年に立ち上げたPoliPoliは微調整を経ながら、生まれたばかりのスタートアップとしてハンドルできる速度で、与野党ユーザーのバランスを見ながら、じっくり事業を拡大してきたが、現時点でPoliPoliを使っている国会議員は、全体のおよそ5%。網羅率は低いように見えて、現実の政策にインパクトを与える勝利体験を積み重ねている。例えば、そのひとつが“生理の貧困”問題。

「PoliPoliで日本の政策が遅れているという声が盛り上がり、それを議員さんに伝えたことで超党派の議連ができたり、マスコミで話題になって世論も動き、対策予算が閣議決定されるまでになった。ひとつの政策でいろんな人が幸せになれると思ったら、政治ってすごいんだって実感しました。そういう成功体験を社会全体として地道につくっていくことが、政治参加には大切だと思う」

8月27日に参議院議員会館にて行われた伊藤孝恵議員による政策「生理にまつわる政策をみんなで考えてみよう」をテーマにした意見交換会の様子。この政策は、PoliPliユーザーにより「政策リクエスト機能」を使って寄せられた意見が起点となった。

 

 

佐久間裕美子
文筆家1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に『Weの市民革命』(朝日出版社)、『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)、『My Little New York Times』(Numabooks)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)、翻訳書に『テロリストの息子』(朝日出版社)。ニュースレターを軸にメンバーとともに市民活動を展開するSakumagを主宰。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。

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