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規模から紐解く、幸せな会社の要素とは/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[1/3]

執筆者:河西遼
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規模から紐解く、幸せな会社の要素とは/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[1/3]

執筆者:河西遼

個人の幸せや楽しみ、やり甲斐とはどういうものか?それは会社の目標と両立できるものなのか?より多くの人々が幸せになる社会設計とはどういうものか?そんなテーマを元にネットプロテクションズの人事として働く河西が、「集団の幸福の最大化」というテーマで様々な方にお話を伺います。

連載の背景はこちら 人事の私が「先駆者」たちに話を聞きに行く理由

連載第1回は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司さんの元に伺いました。前野さんは「人の幸せ」を科学的に研究されています。個人の幸せを実現しながら、事業の成果も出せる会社組織、さらには社会全体の幸せを押し上げるために必要なものについて、お話を伺いました。

前野隆司さんプロフィール

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社勤務、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを経て現職。博士(工学)。ヒューマンインタフェースのデザインから、ロボットのデザイン、教育のデザイン、地域社会のデザイン、ビジネスのデザイン、価値のデザイン、幸福な人生のデザイン、平和な世界のデザインまで、さまざまなシステムデザイン・マネジメント研究を行う。

幸せを体系化した”幸福学”

ーー本日はよろしくお願いします。まずは、前野さんが研究されている「幸せの四つの因子」とは何か教えてください。

まずは「幸福学」の説明から始めましょうか。

私の研究している「幸福学」は、世界中で行われていた幸せ研究を体系化したものです。幸せの研究と聞くと、「幸せなんて人それぞれだ」と思う人がいるかもしれません。確かに、幸せのカタチは個々人によって様々です。しかし、幸せに至るプロセスは共通で、単純な基本メカニズムが存在するのではないか。それが私の基本的な考えです。

まず、幸せには短期的な幸せと長期的な幸せがあることが知られています。短期的な幸せは「地位財」によって、長期的な幸せは「非地位財」によってもたらされます。地位財とは、カネ・モノ・地位など、他人との比較によって満足が得られるものを指します。一方、非地位財は、自由や自主性、愛情などカタチがないもので、他人との比較とは関係なく喜びが得られるものです。

「幸せの四つの因子」とは、長期的な幸せに関係する要因を、過去の幸福研究から徹底的に洗い出し、因子分析して求めたものです。下記の四つになります。

①やってみよう!因子「自己実現と成長」
⇛夢や目標、やりがいを持ち、それを実現させようと自ら成長しようとすること

②ありがとう!因子「つながりと感謝」
⇛他者を喜ばせたり支援したりすることで、人とのつながりを感じること

③なんとかなる!因子「前向きと楽観」

⇛常に楽観的で、自己肯定感が高い状態でいること

④あなたらしく!因子「独立とマイペース」

⇛周りや他人と比べず、自分らしくあるがままでいられること

この四つの因子をバランス良く高めることで、より高い幸せに近づきます。

※詳しくはこちらの動画をご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=VcAGIl3WBK4

「幸せな会社」の傾向と特徴

ーーありがとうございます。四因子を満たしていると幸せを感じるということですね。そう考えると、「幸せな会社」とは、社員それぞれが幸せの四因子をバランス良く満たせている組織と言えそうですね。幸せな会社には何か傾向があるのでしょうか?

いくつかの要素があると思いますが、「組織の規模」の壁は大きいと考えています。私が研究している中では、幸せな会社というのは、大きくても600名くらいまでの組織が多いです。600名でもかなり大きい方で、100名以内の会社が多いですね。

それくらいまでの人数だと、社員全員が一人ひとりの顔と名前を覚えられます。社長の考えも伝わりますし、お互いにどんな人なのか分かった上で仕事ができるんです。人数が増えると、全員のことを認識できなくなります。社長からすると、顔が見えない人がしっかり働いているのか分からずに、不安ですよね。

だから、ある種の統治が必要になります。ちゃんと心がこもった統治で「みんなでやろうぜ!」という空気があればいいのですが、人の感情や温度感が失われて、効率化ばかりが進むと、一気に不幸せな人が出てくる印象があります。

「ありがとう!因子」が薄まっていくからです。人数が増えても、信頼や愛情などをしっかりと伝え、人との繋がりを感じやすい組織を維持することが大切だと思います。

ーー小さい組織の方が繋がりを感じやすいということですね。ただ、大きな会社でも社員がイキイキと幸せそうに働いている会社はたくさんあると思います。そういった会社は何か特徴的な取り組みをされているのでしょうか?

確かに、ある程度幸せな大企業はたくさんあると思います。例えば、googleやマッキンゼー、リクルートなどはある面で幸せな社員が多い大企業だと思います。

大雑把に言えば、幸せな組織は、第一因子型と第二因子型の二つ特化しがちな傾向があると考えています。第一因子型は、仕事に強いやりがいを感じて、成長とかワクワクとか、強いパッションを常に持てるような組織。第二因子型は、特定の仲間のためにとか、社会のためにとか、人との繋がりや信頼関係を色濃く感じられる組織です。

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先程名前が挙がった企業は、第一因子型の組織ではないかなと思います。圧倒的なやりがいを提供して、社員が仕事に熱中する環境を提供しているのではないでしょうか。加えて、社員間の繋がりや、会社への帰属意識を生み出す仕組みみたいなものもあって、そのバランスがある程度いいんじゃないかと思います。

ですから、第一因子型の幸せは、大きな組織でも実現しやすいのかもしれません。ただし、4つの因子が揃うと幸せなのですから、例えば第二因子も高めないと、真に幸せとは言えません。

一方で、一昔前の日本の大企業は、第二因子型の組織だったと考えています。「一生面倒見るぞ、家族の名前まで知ってるぞ」という感じの社員家族主義でしたから、お互いの繋がりを感じやすかったんだと思います。村社会に近い状態ですね。ただし、第一因子は弱かった。

時代とともに、家族主義や公私混同のようなものが会社からなくなるに連れて、社員の幸せも失われていったように思います。背景には、近すぎる人間関係に息苦しさを感じたこともあるでしょうし、外圧もあったのでしょう。

僕が勤めていたメーカーは、かつてはかなり村社会的な組織でした。しかし、高度経済成長が終わり、業績が頭打ちになりかけてから、合理化が進んでいったんです。家族運動会をやめるなど、濃い繋がりを保つ取り組みが減っていきました。「西洋は実力主義らしい」と聞いたからか、年功序列や終身雇用もやめる方向に進みました。

良かれと思って取り組んだことで、良くも悪くも、村社会的な雰囲気は失われたんですね。その結果、会社の株価は何倍にも上がりました。しかし、僕が退職した後、社員の友達と話すと「お前がいた頃はよかったよ」と言われることばかりで、どこか幸せでなさそうな人が増えた気がします。

実力主義にすると、実力がある人は幸せになりますが、競争から取り残された人は不幸になります。負けたと感じてしまうんですね。

最近、外資系の企業で年功序列を始める会社も現れていると聞きます。実力主義をやめるんですよ。学術的に調べてみると、競争させても儲からないらしいということが分かってきたそうです。人の能力なんて測れないから、同じ評価体系にしてしまおうという動きが、外資の大企業で始まったわけです。

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ーー競争をやめて格差を防いだり、村社会的な社員同士の深い関係を保ったりしているんですね。一方で、小さな会社、村社会的な良さがある会社が全て幸せとも限らないと思います。村社会的で幸せな会社とそうではない会社の違いは、どのようなところにあると思いますか?

うまくいっていない会社は、実力主義がうまくいかなかったり、権限委譲ができていないことが多いですね。やっぱり、バランスなんですよね。人との繋がりは感じられるけど、「出る杭は許さんぞ」みたいになってきちゃうと厳しい。第一因子や第四因子不足です。そうなると、いくら第二因子が満たされていても、生き苦しくなってしまいます。

幸せな会社は、村社会的な生きづらさを工夫して乗り越えている印象があります。例えば、「報・連・相」を禁止している会社もあります。「報告はしなくていい、任せきる」というスタンスですね。信頼関係がベースに築かれた上で、のびのびと挑戦できることが大事だと思います。

本物の村でも、すごく幸せな村の隣にすごく不幸な村が存在することもあります。ちょっとした違いなんですよね。嫌な人がいてみんなが疑心暗鬼になって全体が不幸になるか、一人のリーダーの存在で村全体の雰囲気が明るくなるか。そういうものなんです。

会社も同じで、微妙な差が働いているんだと思います。その原理はまだ完全には明らかにされていませんが、解明できればば多くの企業に展開できますよね。企業と一緒にその原理を探している最中ですので、これからもいろんな会社の話を聞いてみたいです。

四つの因子を軸にして個人の幸せを考えると、非常に整理しやすいと感じます。次回は、幸せな会社を作るための、具体的な取り組みなどを聞いてみたいと思います。

次回「個人の特徴を活かした幸せな仕事とは」

に続く

河西遼
執筆者:河西遼
2013年、東大を卒業し新卒でネットプロテクションズに入社。
入社後は新規事業として「NP後払いair」の立ち上げ責任者を経て、自ら異動希望を出し、現職の人事企画に至っている。内に秘めた知的好奇心を追求し、「人の感情のメカニズムや、最大幸福のための社会設計」について日々考えを巡らしている。
今後は会社のミッションと個人の幸せの両立を模索しながら、会社組織の新しい「アタリマエ」を実現していきたいと考えている。
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