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会社の業績と社員の幸福は両立する/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[3/3]

執筆者:河西遼
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会社の業績と社員の幸福は両立する/慶應大学 前野隆司さんインタビュー[3/3]

執筆者:河西遼

ネットプロテクションズの人事として働く河西が「集団の幸福の最大化」をテーマに様々な分野の先駆者に話を伺う企画。今回は「人の幸せ」を科学的に研究する慶應大学前野隆司さんにお話を伺ってきました。
後編では社員の幸福と会社の業績の両立について伺います。

前回までのインタビュー記事はこちらから↓
[1/3]規模から紐解く、幸せな会社の要素とは
[2/3]個人の特徴を活かした幸せな仕事とは

従業員幸福度と会社の業績は比例する

ーー前回のお話では、内コミュニケーションの重要性や、理想の社会像についてお話を伺いました。前回までのお話で、個人にとって幸せな組織というものはある程度見えてきました。一方で、会社視点に立った場合、事業としての成果や利益を出すことも重要です。個人の幸せと会社の“幸せ”は両立するのでしょうか?

働く個人の幸せが、企業の幸せ(=業績)をもたらすことは明白です。実際、「従業員幸福度と会社の業績は比例する」という研究結果もあります。幸せな人の方が、働く上で重要とされる様々な要素が高いのです。3-1_2

 

 

もちろん、幸せな社員がいること=会社が成り立つ、というわけではありません。会社経営をする上で必要な力、営業力やロジカルシンキング、パッションなど、個々の様々な力は必要です。力を持った人がいる前提で、いわゆるブラック企業のように個人が不幸せな組織と、個人が幸せな組織を比べた場合、幸せな組織のほうが成果を出せると考えています。

ブラック企業は、社長が超賢くて社員をこき使えば一時的には稼げるかもしれないですけど、不況とか、つらいことがあったときに社員は逃げていくじゃないですか。だけど、みんなが幸せな会社だったら、厳しいときでも逃げません。力合わせて生き延びて、成果も挙げられるし、みんなで充実感を感じられます。

景気のいいときはブラック企業のほうが儲かるかもしれないけど、長期的に見たら幸せな会社の方が儲かるのだと思います。だから、僕は「社員の幸せのために力を割いても儲からない」という議論に対しては明確に反対ですね。

「ベンチャー企業を立ち上げた時は社員の幸せなんて考えられない。業績が上がり余裕が出てきたら考えるものでしょ」みたいなことも言われますが、そうではないと思います。僕の研究は、いわゆる福利厚生を整備するとかの話ではなくて、仕事自体でいかに幸せになるかということです。

仕事自体が楽しくて、会社の仲間にも会いたくて堪らない状態って幸せだと思うんですよね。そう考えると、立上げたばかりのベンチャーの人が、やらされ感じゃなくて本当に仕事自体を楽しんでいて、仲間への信頼感を持っている状態っていうのは、すごく幸せな状態だと思うんですよ。その状態をずっと維持しながらうまく経営すれば、幸せと業績は維持できると考えています。

ーーお話を聞いていると、会社として社員の幸せを考えない理由がないですね。そうは言っても、例えば会社の中に相性が悪い人も存在するとコミュニケーション不全になり、幸せ度が下がるのではないかと思います。そういう場合はどうやって解決すればいいと思いますか?

僕は、そもそも「相性が合わない」ということ自体を疑っているんですよね。ちょっと古い学問なのですが、「人間性心理学」っていうのが正しいと思っています。本来人間は万能で、ものすごい適応力がある。どんな状況にも、自分を合わせることができる。そういう考え方です。

つまり「合わない」と言ってるのは、個人の人間的な成長が足りないだけ。理想的に成長すれば、どんな人とも補い合えるんですよね。

合わないと思う人がいる時は、相手のイメージを固定しないことと、ちゃんと傾聴することを勧めています。例えば、すごく嫌な上司がいるとするじゃないですか。その上司に何かを言われた時、多くの人は「嫌だなあ」と心の中で思いながら話しを聞くと思うんですけど、「すごい、本当ですか!」って心から感心したような気持ちで聞いてみてください。そうすると、相手のいいところがちょっとずつ見えてくると思います。

嫌だと思った相手でも、嫌な部分っていうのはその人全体の10%くらいで、90%くらいの部分はいいところなんですよ、きっと。そういう前提を持ってコミュニケーションすれば、世界中全ての人はいい人だらけですから、誰もがすごく幸せになれると思います。理想論に聞こえるかもしれませんが、基本はそうだというところから考えるのが僕のスタンスです。

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ーー個人のスタンスやマインドが幸せを作る、ということだと受け取りました。その場合、究極的に全ての人がマインド次第で幸せになるような気がしますが、そうなるために必要な仕組みや制度って何かあると思いますか?

まず必要なのは、倫理教育でしょうかね。J.Sミルの言葉に「満足した豚よりは、満足しない人間である方がよい。満足した馬鹿より、満足しないソクラテスである方がよい」とあるように、全ての人が「本能ではなく、知性で生きたい」と思えば、全人類幸せになると思っています。個々人がそういうマインドを持つためには、教育は必須だと思います。

ただ、僕としては、教育だけではその状態にはならないと思っているので、ある程度の制度や仕組みが必要だと思います。残念ながら、人間を信用していないんです。放っておくと、戦って格差を作ってしまったり、完全平等で個性をなくそうと言い出してしまったりとか、変な方向に進んでしまうのが人間です。迷走を回避するためには、制度や仕組みが絶対に必要だと思います。そうでなければ、全人類、70億人が幸せってあり得ないと思います。

それから、幸せを多面的に測る仕組みは、世の中に必要だと考えて、いろいろな研究をしています。健康って測れるじゃないですか。何十項目も数値化して、出てきた数字から習慣を改善することで、健康や長生きに繋げているわけですよね。スポーツ選手が世界記録を出せるのも、まずは状態を管理して、その上で適切なトレーニングをするからです。

体と同じように、みんなが違和感を持たない範囲で幸せも多様に数値化して管理できるといいんです。そうすれば、幸せ度をどんどん上げていき、今まで人類が到達したことのない幸せに辿り着けると考えています。指標化されたら、誰だって上を目指すようになるからです。

遺伝子から幸せ度を測るという方法もあります。違和感があるかもしれないですけど、「あなたは遺伝子的には幸せ度はこのくらいです。何をどれくらいがんばると、幸せ度がこれくらい上がります」みたいなことは始まっています。

多分1000年前の人に、健康を測る項目が50もあるって言ったら違和感を持つと思うのと同じように、100年後の人からしたら「あの頃は幸せを測らずによく生きてられたね」みたいになるんじゃないかなと思います。

ーー従業員満足度の調査のように、会社内でも幸せ度を測る取り組みは今後ますます増えていきそうですね。今回お話を伺っていて、幸せな組織を作るためのアクションとして、しっかりとコミュニケーションを取るというごくアタリマエのことが求められながら、できていない人や会社が多いのかなという印象でした。その大切さを世の中に伝えていくためにどんなことができると思いますか?

確かに、多くの企業では「コミュニケーションに1時間使う暇があったら仕事をさせたい」と思うのかもしれません。でも、個人が、一見無駄に見える1時間で心を整えることで、悩みや不安が解消されて、その後の時間効率が上がることが知られています。

その効果を多くの人に伝えていく必要があると考えています。もちろん、分かる人はすでに理解して、どんどん幸せになる循環に入っていると思うんですよね。その価値を体験していない人たちをいかに説得して、仲間に入ってもらうかが課題です。

一番心配していることは、一部の人だけ幸せになり、幸せの格差がどんどん広がってしまうことです。保守派が不幸せで、改革派が幸せになるという構図もありえそうです(笑)。

そうならないために、色々な人との共同研究や対話を通じて、全人類の幸せを一緒に作っていきたいと思っています。

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河西コメント

「集団全体としての幸福のためには、第一因子型でも、第二因子型でもコミュニケーションが重要。」「個人としての幸福のためには、ポジティブに環境適応する姿勢が重要となり、それを培うには、教育・フィードバックが重要。」など、よりよい組織や社会の設計を考えるにあたって、とても学びの多いお話でした。

「大きな政府/小さな政府」の概念のように、自己実現と互助のバランスが自分にとってしっくりとくる集団に身をおくことが、個人の幸せにつながるのでは?そもそも自己実現と互助を高いレベルで両立するためには?などと、インタビューの後も想像が膨んでしまいました。

今後、前野先生も企業の成果と個人の幸福を両立する組織についての研究を進められるご予定とのこと。私たちも、また何か一緒に取り組めるよう、理想の組織像について試行錯誤を続けていきたいと思います。前野先生、今回はご協力いただき、誠にありがとうございました!

河西遼
執筆者:河西遼
2013年、東大を卒業し新卒でネットプロテクションズに入社。
入社後は新規事業として「NP後払いair」の立ち上げ責任者を経て、自ら異動希望を出し、現職の人事企画に至っている。内に秘めた知的好奇心を追求し、「人の感情のメカニズムや、最大幸福のための社会設計」について日々考えを巡らしている。
今後は会社のミッションと個人の幸せの両立を模索しながら、会社組織の新しい「アタリマエ」を実現していきたいと考えている。
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