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“いい会社”のみに投資を行う鎌倉投信が考える、これから求められる企業のあり方

執筆者:南澤悠佳
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“いい会社”のみに投資を行う鎌倉投信が考える、これから求められる企業のあり方

執筆者:南澤悠佳

「いい会社」と聞いて思い浮かべるのは一体どんな会社でしょうか? 売り上げや利益が多い、組織規模が大きい、福利厚生が充実している……。ちょっと考えただけでも、さまざまな要素が挙げられます。

そんななか、一定の基準を持って「いい会社」の答えを持つ資産運用会社があります。その会社は、鎌倉の古民家に本社屋を構え、投資信託を運用・販売する「鎌倉投信」です。

販売している投資信託は、「結い2101(ゆい にいいちぜろいち)」のみ。この投資信託は同社が“いい会社”と判断した会社を投資の対象としています。その会社が赤字や非上場、ベンチャーであっても“いい会社”と判断されれば投資を行うため、運用開始前には「人の金で社会実験をするのか」といわれたこともあるそうです。

それでも2014年には「R&Iファンド大賞 2013」で最優秀ファンド賞(投資信託 国内株式部門)を獲得。さらに、純資産額は運用開始時の2010年3月末の約3億円から2016年12月末時点までの間で、248億円超にまでに成長しました。“きれいごとでも投資が成功する”ことを見事に証明したのです。

同社が考えるいい会社はどういったものなのか。そして、これからの社会に求められる会社のあり方とは? 代表取締役社長の鎌田恭幸さんにお聞きしました。

モノやサービスが充足している今、経済成長の駆動力が変わってきた

――単刀直入に、鎌倉投信が考える「いい会社」の定義について教えてください。

シンプルに表現すると、「本業を通じて社会に貢献する会社」です。

会社は当然利益を上げる必要がありますが、その過程で社員がどんどん辞めていく、取引先が苦労している、環境にダメージを与えているなど、何かの犠牲の上にその会社だけが得する仕組みによって成長する時代は終わりを迎えています。本業を通じた社会貢献には、その会社に関わる人たちが喜びや幸せを感じられることが重要なのです。

 ――そうした視点に行き着いたのには、どんな背景があるのでしょうか?

かつてのようにモノやサービスが不足している時代は、モノを作ることやサービスを広めることが求められ、量的拡大、経済的拡大が収益を生む手段でした。それが会社の役割の1つでもあったわけです。

しかし、今はモノとサービスがいきわたった「充足の時代」。モノを作り続けても、かつてのような成長にはつながりません。むしろ、これまでの成長によって生まれたゆがみ、たとえば地域経済の格差や食の安全、環境汚染など、さまざまな社会問題を抱えたまま拡大していくのはもはや限界なのです。

――会社の役割として社会の質を高めることが必要になってきている、と。

はい。株式市場を見ても、それは明らかだと思います。アベノミクス効果などにより、直近は一時期に比べて明るくなってきました。でも、20~30年の長期的な視点で捉えると、株価は高度経済成長期に比べると低迷し、社会全体が発展している感じを受けません。さらには新しいことを生み出すエネルギーの乏しささえも感じます。これまでのやりかたでは世の中を変えられないことの表れではないでしょうか。

つまり、経済的成長の原動力が変わってきていて、社会的な構造転換が求められているのです。これまでは利益追求と社会貢献は対立軸にありましたが、今は親和性が生まれてきています。社会を良くする活動の中に利益を生み出す源泉があり、それを大切にできるかどうかが成長の原動力になっています。

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――経済成長と社会貢献について、貴社は「八方よし」の概念を持っているようですね。これは、近江商人の「三方よし」を発展させた考え方だと『持続可能な資本主義』の中で記されていました。この考えに至った経緯について、詳しく教えていただけますか。

近江商人の「三方よし」は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」と、関わる人(ステイクホルダー)が幸せになることが本質です。その本質を現代社会に置きかえると、現在の経済社会は複雑化しているため「社員とその家族」「取引先・債権者」「株主」「顧客」「地域」「社会」「国」「経営者」の「八方」が幸せになることを実現することが欠かせないと私たちは考えました。

八方よしを実現するには高度なマネジメント能力が必要になります。たとえば、今は働き方の多様性が注目されていますが、その会社ごとに何を求めるか、どのような働き方が適しているかについてはそれぞれ異なります。前提として、全員が満足できる働き方を実現することなんてできませんから。子育てをしているから時短勤務をする人と、子どもがいないからフルタイムで勤務することは、就労条件や評価基準によっては不公平になり得ますよね。

それぞれの働き方に対して不公平さがあっても、それを許容できるルールを作ることが重要です。ルールを作る方法は、その会社の企業風土や理念によって変わります。さらにその上で、社会の質を高める事業も展開するとなると、このマネジメントは相当難しい。だからこそ、そうした能力のある会社は実績を出し、会社自体の成長につながっているともいえます。

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目には見えない「共感資本」がどれだけあるかが、会社を成長に導く

――いい会社に何らかの共通点はありますか?

まず、一般的に運用会社が会社の善し悪しを判断する際、同じ産業分野で横並びにして評価します。「この業界で見たら、A社の方がB社よりも収益率がいい」というように。

でも、私たちの場合はそうした基準ではなく、「人」「共生」「匠」の3つの要素を重視しています。それぞれ、「人」は人財を活かせている会社、「共生」は循環型社会を生み出す会社、「匠」は独自の強みや技術を有し、感動のあるサービスを提供している会社を表します。いい会社の投資判断の評価は40項目ほどありますが、その項目をグループ化するとこの3つに分かれ、こうした特徴を含んでいることが共通点といえます。

ではなぜこうした基準になるかというと、私たちは社会問題を解決することにも重きを置いているので、どういう素養を持っているとその問題を解決できるのかを考えるからです。一例を挙げてみましょう。労働人口を増やすという社会課題にフォーカスした場合、男性や女性の社員比だけでなく、外国人やニート、フリーター、高齢者、障碍者など、その会社は多様な人財を採用できているのかどうか。環境問題でいえば、地下資源だけではなく、地上資源の循環を考慮したビジネスモデルがある企業はどこなのか。そうした考えのもと、私たちは会社を評価しています。

――その基準をクリアした会社が必ず持っている要素はありますか?

3つあります。1つ目は経営理念が明確であること。内容は会社によってそれぞれですが、その理念を社員に浸透させる仕組みをしっかりと持っています。

2つ目は、人財育成に力を入れ、人を大切にしていること。ただし、ここでいう育成は知識やスキルではなく、人間力を磨く研修が多いですね。何のために働くのか、生きる目的は何かを考えています。

3つ目は人間関係。部署や社員、会社と社員の家族、会社に関わる人たちというように、相互の関係性が良好な状態で築かれていることです。

これら3つから培われる資本を私たちは「共感資本」と呼んでいて、この資本を持っている会社は社内だけでなく社外からも応援されます。お客さんがお客さんを呼び、さらに取引先がこの会社のために頑張ろうとしてくれる。信頼のなかで、相互の発展関係が生まれています。

さらにいえば、こうした会社は自分たちの理念を強く発信しているので、その内容に価値を見出す人々が集まる。そのため、モチベーションの高い人が集まりやすいという特徴がありますね。

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いい会社がなかなか世に顕在化しない理由とは

――そうした会社のありかたはとても理想的に思えますが、実現できているのはごく一握りと感じます。

いえ、ふえていると思いますよ。ただ、こうした会社は中小企業が多く、なかなか顕在化しづらい。人々の注目を集めるのは大企業ですよね。基本的に今の日本で大企業とよばれる組織はモノづくりの分野等が中心ですが、これまではずっと量的拡大のなかで成長してきました。なので、急にそうした方向からの構造的転換を求められても、組織が大きければ大きいほど対応が難しいのが現状です。

また、今までの企業のマネジメントは、マニュアルで決められたことにきちっと取り組む統制型でした。だけど、それでは「いい会社」としてのありかたは実現できません。さらに働く人のモチベーションも利益や経済価値を追求するだけではなくなっています。転換が難しいとはいえ、今後は「共感資本」を備えた会社でなくては社会に生き残っていけないので、ふえざるをえないと思います。

いい会社の軸はそれぞれだが、社会に必要とされる会社が生き残る

――今後、会社は社会のなかでどういった存在になっていくと思いますか?

これまで会社は利益を生み出せばよかったのですが、だんだんと人と社会をつなげる存在にもなっています。かつては政府や自治体がインフラや施設を整えていましたが、財源不足などによって対応が難しくなりつつある。そのため、会社は得た利益をどう分配するか、八方よしにつながる分配力が求められています。

たとえば、働き方改革を掲げるサイボウズは、利益が出ても基本的には株主への配当に回さず、そのキャッシュを働き方の多様性に再投資するとしています。それでも株主はその姿勢を否定しない。10年前だったら、考えられないことです。その会社だから応援したいという株主がいる証拠ですよね。

そもそも、100%優秀な会社なんてありません。いい会社の軸は人によっても違いますし、むしろ多様な軸があっていいのです。それが会社の個性であり、新しいモノやサービスを生み出す力にもなります。人の幸せが連鎖する会社として、その会社のありかたが利益を生み出しながらも社会課題を解決することができれば、社会から必要とされる存在であり続けるでしょう。

<取材協力>
鎌田氏

鎌田恭幸さん

鎌倉投信株式会社 代表取締役 社長。25年以上にわたり、日系・外資系信託銀行の資産運用業務に携わる。2008年11月、鎌倉の古民家に鎌倉投信を仲間と創業。社会を豊かにする「いい会社」を応援し、その結果で顧客の資産をふやすことを経営理念とする。

 

南澤悠佳
執筆者:南澤悠佳
有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。ママ向けや不動産、会計など、さまざまな企業のオウンドメディアを担当する。
Twitter ID:@haruharuka__
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